いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
「七福ホールディングス経営会議ぃ~!」
久々に全員集まっての会議となった。なんやかんや最近はみんな忙しくて、別の予定が入っていたりして欠席者が絶えず、全員集合できていなかったのだ。
「えー、エンタメ部から報告です。かねてより進めていた、プロジェクトの第一弾が完成いたしました」
「ああ、一時間ないくらいのアニメ作品って言ってたっけ」
確か桃太郎ベースにするとか言ってたやつ。
「作ってるうちに尺が伸びて二時間弱になった」
「あの神作画が伸びるならそれだけ嬉しいけど、大丈夫だったの?」
「みんな残業したがるのを収める方が大変だったくらい? 夏休み開始時期からネット配信が始まるんで、報告。お盆時期には並行して続けてたプロジェクト第二弾と第三弾を七福エンターテイメントチャンネルで独自配信する予定になっている」
ハイペース過ぎない? アニメってこんな簡単に作れるもんなのか?
俺が疑問に思っていると、布袋が爆弾発言をした。
「あと、マネージャーの氷室が友人と俺と一緒にバンドデビューすることになりました」
「え!? 急に?」
寝耳に水過ぎてクソびっくりした。お前なんかずっとソロだったじゃん。
「いやこの前飲みに行ったときに音楽やってるって話になって、一回合わせてみようかっつってやったら妙にしっくり来たんだよね。なんで今度のMV楽曲は新しいバンドの曲にする」
そ、そうか。ついに布袋にも、仲間ができた……。
「フン! お前が認めたならいいが、新しいバンドをファンが認めるかどうかは別問題だ! ビジュアルじゃなくて曲がいいかどうかで判断させてもらうからな!」
「サンプルはこれだ」
布袋が流した曲は今までの布袋の良さが120%出ていて、それだけじゃなく、ほかのメンバーの演奏や歌が合わさり相乗効果で1000%の魅力があふれ出していた。控えめに言って神だった。
「で、どうだ? 他メンバーもエンターテイメント所属でいいか?」
「か、神ィ」
「可決されたので、エンタメ部からは以上です」
俺は脳内でずっとさっきの曲がリフレインしていた。しゅごしゅぎぃぃぃ! とアヘアヘしているうちに営業部や製造部の報告が終わったみたいで、喜多方エネルギーシステムからすっと手が挙がった。
「喜多方エネルギーシステム研究開発室から報告です」
その言葉を聞いて、永石さんがピクリと嫌な顔をしながら顔を上げた。
永石さんは今、核融合炉関係でクッソ忙しいみたいだ。日々国の偉い人と面談してなんかの話をしているらしい。海老名や福路も一緒に行くことがあるみたいで、この間はクソ高そうな料亭で飯を食ったと言っていた。
料亭で飯食ってるだけでなんか悪いことしてそうってイメージになるのはなんでなんだろうな。食べに行ったことないからかな。今度行ってみようかな。
「超高性能太陽光発電機の開発に成功いたしました」
喜多方さんの説明は相変わらず英単語とか数字とかがたくさん出てきてよくわからない話だったが、従来の太陽光発電装置の二倍の発電効率と三倍の耐用年数とほぼ全面で均一な性能があるということだった。すごそう。
「ちょ、ちょっと待っていただきたい!」
「はい、永石さん」
永石さんが慌てた様子で立ち上がり、静止した。
「法務部は現在、核融合炉の対応で手いっぱいで、新規案件の対応は難しいです」
「4月から入った新しい人達が居てもやっぱりまだ忙しいですか?」
俺がのんきに聞いた言葉に爆速で返答された。
「処理できるキャパシティが増えても焼け石に水です。重要過ぎて対応できるのが私しかいないという案件が多々あります」
うーんそれは困った。永石さんしか対応できないものがあるのは厳しいなあ。
「核融合炉の方はいつ頃落ち着きそうですか?」
「相手次第なのでいつになると断定することはできないが、国同士のやり取りなんかはウチじゃなくて国にやってもらえることになったんで、今後は転送するだけでよくなる。それ以外の問い合わせについても、国の研究所に問い合わせるように言うだけでよくなるはずだ」
海老名の補足に永石さんは少しほっとした表情を浮かべたが、続く言葉でまたげっそりした。
「ただ、その、政治家先生とかの呼び出しなんかは相変わらず永石さんにお願いすることになりますので、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」
「はぁ……はい。承知しました……」
「じゃあ、超高性能太陽光発電機は特許申請の準備などを進めておいて、落ち着いたころに手続きを進めるということで」
溶けたアイスクリームみたいになった永石さんを尻目に、経営会議は終わった。
( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)
「何回目? スーパー! 桃太郎王子!」
「昨日も見た! マジモモちゃんがサイコーだった!」
最近のネット界隈で話題になっているアニメ映画があった。それが「スーパー! 桃太郎王子!」だ。そのクオリティの高さはもちろん、ストーリーや音楽の良さなどが詰め込まれた神作品がネットオンリーで公開されるということで、ネットで話題になってから映画館に逆輸入されるという珍しい広がり方をした作品だ。
製作は四風動画という会社で、少し前にホワイトすぎるアニメ会社として有名になった会社だった。
「映画館は映画館でやっぱり音響すごいし、画面でっかいのがいいよねぇ~」
「制作が四風動画かぁ~、あそこマジ倍率高くてさ~、就職希望なんだけど大変なんだよね~」
二人の女子大生(おそらく)がそんな話をしながら上映を待っていた。
その後ろで一人でポテトを食べながら公開を待っているアラサーがいた。俺である。
こっそり若い女性の話を聞くのがキモイって? 聞こえるもんはしょうがないだろ! しかも自分のグループ会社の話してたら気になるだろ!
俺は内心で言い訳しながら深く椅子に腰かけた。
ネット配信版は一回見た。すごい作品で、こりゃあ話題沸騰になるで! と思った通り、しっかりバズった。その上、映画館で放映することになったのでこりゃあ見に行くしかないなと見に来たのだ。
劇中の作詞作曲を全部布袋がやっているというのも涙腺に来た。布袋、誰より早くスターダムを駆け上がっていけ……!
待っていると、上映が始まった。
スーパー! 桃太郎王子! は桃の国の王子の桃太郎が闘争を求める精神の導きに従って、桃型時空潜航船に乗って旅に出るという話だ。途中で船が故障し、どんぶらこどんぶらこと時代の波に流されていたところ、オーヴァさんに拾われ、時間遡行で赤ん坊になってしまった状態からまた青年まで育てられていく。
月光のオーヴァと呼ばれ、諸国に恐れられている師匠によってすくすくと平和に育っていた桃太郎だが、年を重ねるにつれて身体が闘争を求めてやまなくなっていき、ダーク鬼ヶ島の
というのが序盤の三十分くらいだ。その後の七転八倒なストーリー展開や、最後の大どんでん返しにライブシーンなど、最所が満載過ぎてどこがすごいかと説明するのも大変なくらいだ。
そんなすごい映画を見終えた俺は満足していた。最高の映画だった。
感動しながら家路についている途中で、上映開始前に女子大生(たぶん)が言っていたことを思い出した。
「制作が四風動画かぁ~、あそこマジ倍率高くてさ~、就職希望なんだけど大変なんだよね~」
そうか、うちの会社って今倍率高いんだ……。
日本社会は基本的に人手不足だ。前居た会社も人手不足だといつも言っていた。つまり就職は容易にできるはずなのだ。しかし倍率というワードが出てくる。
大学だって会社だって、選ばなきゃどこにでも入れる。でも人はより良い条件を求めて、そこに集まるんだ。集まった中で、より優秀な人材を獲得する。それが会社がよりよく、大きくなっていくために必要なことなんだ。
それで考えると俺ってそんな優秀な人間が入る会社のトップにふさわしいのか?
頭を悩ませながら考えると、逆にじゃあ人気な会社のトップってどんなんだよと気になってくる。
俺は本屋に向かい、有名経営者の自伝とかを立ち読みしてみることにした。
金持ちなんだから買えばいいじゃんと思った人もいるだろう。だが考えてほしい。こういう意識高い系の本を本棚に飾ることは恥ずかしいと思ってしまうから、そもそも買いたくないのだ。買いたくないのに立ち読みすることに関しては許してほしい。今本屋では読んだことない漫画をまとめ買いすると誓おう。読んで持ってなかった漫画もまとめ買いしよう。
三十分くらい立ち読みして、気が付いたことがある。どの経営者もバイタリティがある。やる気に満ち溢れ、上昇志向がある。そんだけがつがつ頑張ってきたからこうやって成功したんだなあと素直に思う反面、ルサンチマン精神の俺が、生存性バイアスだろこんなもんと冷笑もする。
実際、この精神性だから成功したのか、成功したやつはこの精神性になるのかなんてわかったもんじゃない。
それにこういうのって盛って話すもんじゃない? 俺も自著出すときは生まれながらに頭が良かったとか書きたい。親に取材されたらすぐバレるからもうちょっと違う盛り方するけど、実際に会って話してみないことにはどんな人間かなんてわからんだろう。
初対面の人をちゃんと理解できるほど流暢に話せるかという問題はいったん置いておくとして、こういうビジネス書を読んで改めて思う。俺に正しい経営者の在り方みたいなのは向いてない。
会社の経営者が会社の経営状況をすべてしっかり把握していないのはあり得ないって書いてあるけど、俺マジでよくわかってないし、何もかも他の人に任せてしまっている。
っていうか経営判断とかも海老名に任せてるし、もはや俺って社長とは呼べないんじゃない?
恐ろしいことに気が付き、会社に帰ってから恐る恐る海老名に聞いた。
「お前、社長の座を狙っているのか……?」
「は? 何急に」
「いや、実質お前社長みたいなことやってるなって思って……」
「なんだ社長みたいなことって。社長は最終判断だけして責任取ればそれでいいだろ」
なるほど、社長は最終判断だけして責任取ればそれでいいんだな。
「あれ? それってお前の行動の責任だけ俺がとることになってたりしない? それって他責とか責任転嫁って言うんじゃ……」
「……あ、もしもし、ハイ、ハイ、急ぎの! ハイ、ハイ! 今すぐ行きます!」
海老名は電話を取ってぺこぺこ虚空に頭を下げながらどこかに行ってしまった。
やはりあいつは埋めるべきなのでは。そう思った。