いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
「ウ、ウウウ、ウワアアアァァァァ!!!」
「フ、フヒィィィィィ!」
「グワーッ!」
俺と海老名と布袋は打ちのめされて床に転がっていた。
七福ホールディングス経営会議の新年一発目に大黒さんからぶち込まれたのだ。
「いやー、七福さん達も今年で三十路ですか。もう我々の仲間入りですよ。ねえ、永石さん」
「ああ、その通り。もう若い人からすればおっさん枠ですよ」
その言葉で背骨をまっすぐにしていられなくなり、俺達は地に沈んだ。このまま溶けて肥料になる。そうすれば新生し、赤ん坊としてまた若い時代を楽しめるだろう。
バブバブ言いながらハイハイしようとしたが、よく考えるとこの会議には俺の親も出席していることを思い出した。いつの間にか総務部で主任とか言う肩書を得ている。そんな親の前で三十年前にやったであろうオギャりを見せるのは恥ずかしすぎた。
震える膝に手をつき、這う這うの体で椅子に座ると、同じく息も絶え絶えな海老名が報告を始めた。
「え、営業部からの報告だ……、製造部はついに、黒字化した」
お、おお、めでたい。
俺たちは力ない拍手しかできなかったが、他の参加者は大きな拍手と歓声でこの報告を迎えた。
最初は人件費とかで揉めてたけど、ようやく黒字化か……。なんか日々が過ぎ去るのが早すぎて気づいたらすぐって感じだったな。
「まだ黒字幅は小さいが、今後はどんどん拡大していく見通しだ。ただ一方で、困ったことが起きている」
「そこから先はこちらで説明します」
喜多方さんが海老名から引き継いだ。
「現在、各国から弊社の従業員並びに、研究員相手に引き抜き交渉がされている状態です。すでに数名、退職を検討してる社員が出ております」
「海老名ロボティクスも同様だ。製造ラインに携わっている人員に引き抜きされている奴が居る」
「……弊社は、今のところそういう話は聞いてないわ」
「そうですか……。その人たちの転職先はウチより条件いいってことなんですよね? それじゃあ、しかたないです」
「……良いのか?」
海老名が聞いてくるが、そんなもん良いに決まってるだろう。
「良いも悪いも、転職を決めるのはその人自身だ。より良い条件の方に転職するのを会社が止められないよ」
人は働くために生きているわけじゃない。生きるために働いている。コスパの良い労働を常に求めていると言っていい。より良い条件に人が集まるのは自然なことだ。
「転職されるのが嫌なら、七福グループをより良くしていくしかない。人が離れたくないような、良い会社にしていく。それでもゼロにはできないと思うから、常に改善していくしかないと思う」
「言われなくても、そうするよ」
とりあえず転職する人には秘密保持契約書などを書いてもらい、そのまま円満に退職することが決まったのだった。
その後3月になり、海外の会社から核融合炉製造成功のニュースが出た。
その会社は元七福グループの社員の転職先だったのだ。
「乗り込んでぶっ飛ばしてやろうか」
「ステイステイ」
海老名が怒りで赤いオーラを纏い、身長が二倍くらいになったような雰囲気で怒り狂っていた。海老名の血筋のなせる業よ。
「普通に契約書違反だし、特許とかも違反なんじゃないのかこれって」
「それが、設計図とか盗み出されたわけでもありませんし、前職のノウハウを生かして現職に活かしただけって言われたらどうしようもないんですよね」
福路が別作業をしながら状況を説明してくれる。
「どちらかというと、特許侵害の方が割と問題で、このままいくと国際裁判所で争うことになるかもしれません」
「国際って聞くだけでめんどくさそうだ」
「それに、技術流出ってことで国から様々な調査が入るかもしれん」
聞けば聞くほどめんどくさい! なんでそんなことをしたんだ!
「喜多方さんに話聞いてみない? 実際にその核融合炉がウチとまるっきり一緒って決まったわけでもないんでしょ?」
ということで、喜多方さんにWeb通話を繋げると、向こうも今回の件について調査をしていたみたいで、朱鷺さんと一緒に参加した。
「まぁ、十中八九、ウチのパクリでしょうね」
「ほぼ確定?」
「ええ、喜多方エネルギーシステムから転職した職員、
「それ完全にアウト行動じゃない?」
「そうですね。現在、裁判の準備を進めてもらっています」
にっこりと穏やかに笑って言う朱鷺さんを恐ろしく思い、喜多方さんに話を振る。
「となると、国際裁判とか本当にしないといけない感じになるんでしょうか」
「ああ、いえ、多分その必要はないと思いますよ」
「え?」
どんでん返し?
「ちゃんとした設計図は残してないんで。全部僕の頭の中にしかないです。製造工程もロボットアームが最後に仕上げてるんで、核融合炉の核心部分は僕以外誰もどう作ってるかわかってないんですよ」
ニヤリと笑った喜多方さんは悪い声で言った。
「だから多分、出来上がった核融合炉は何の役にも立たない。核融合すら起こらない、無駄にエネルギー消費するだけの粗大ごみですよ」
「じゃあなんで成功とか言ったの?」
「見栄とかなんかなんじゃないですか? ま、これも僕のおかげってことで……」
「ちゃんとした設計図を残さないでいいわけないでしょうが!」
「うわあ! 暴力反対!」
朱鷺さんに怒鳴られて多聞さんがフェードアウトしたところで通話は終わった。
俺たちは顔を見合わせ、肩をすくめながら夜の街に消えていったのだった……。
( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)
そんな会話から数週間。例の海外企業は核融合炉の製造が結局できなかったらしい。成功だ何だと騒ぎ立てていたが、実際に出てきたのはウチの製品と形状がほとんど一緒の、役に立たない粗大ごみだった。
発表会で赤っ恥を書いた後、何がどうなったのか試験中に大爆発を起こしたらしく、その負債によって倒産となったみたいだ。
七福グループの元社員は、営業秘密侵害で告訴され、間もなく有罪判決を受けるとのことだった。
今回は喜多方さんが頭良かったから何とかなったけど、他の製品とかは普通にパクられそうだよな。ロボットアームとか、アシストスーツとか。
なんか対策は無いもんかと考えているが、守らせるために法律があるんだから、それを破るようなやつを想定したって意味が無いことに気が付いた。
だから採用とかって大事なんだろうな。
改めて人事部を手厚くしよう、と、大黒さんの息子さんに話を持って行った。
「なんで新年度直前にそんな意味分かんねえこと言い出すんだこの三十路ィー!」
「スィマセン!」
普通に新入社員の教育の準備とかで大忙しのところにそんな話をしたもんだから人事部から蹴りだされてしまった。大黒さんの息子さんも最初はなんかへなへなしてたのに、最近はすこぶる元気だし、社長に対して全くおもねることも無い。
社長って普通、もっとなんか敬意とか、腫れ物触るような、アンタッチャブル感があるもんなんじゃないのか……?
布袋に相談したところ、クソみたいな回答があった。
「そりゃお前威厳とかないし、会議でもいつもフワフワしてるからじゃない?」
「じゃあどうしたらいいってんだよ」
「俺が知るかよ」
俺が分からないことを知能が同レベルの人間に聞いても、分かるはずもなかった。なので賢い人間に話を聞きに行くことにした。そう、IQ200という噂の福路だ。
「……七福さんは、このままでいいと思います」
「えぇー? でも世間の経営者とかはもっとカリスマって感じブイブイ出してるじゃん」
「よくいる経営者みたいになりたいんですか?」
そう聞かれると悩む。よくいる経営者のイメージだが、トップダウンというか上位闊達というか、自分であれもこれも決めて会社を推し進めていくような存在をイメージしているが、自分がそういう気質かと言われれば、全くそんなことは無い。
「そういわれるとそうじゃないかも……」
「そうでしょう。隣の芝は青く見えると言いますし、己は己の欠点をよく知るからこそ、良く知らない他者の美点ばかりが目に付くものです。七福グループの美点を考えれば、社長は今のままの方がいいですよ」
「そういわれるとそうかも……! そうか、俺は俺のままでいいんだな! ありがとう福路!」
俺は悩みが晴れたので意気揚々と人事部に向かった。
「やっぱり人事部の人員増員を……」
「今忙しいから後にしろやっつてんだろこのバカタレぇー!」
「ヘナップごめんなさい!」
やっぱりちょっとくらいは威厳欲しいかも。