いきなり金持ち人生   作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない

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第25話 4月 七福グループ危うし! 四面楚歌の包囲網!

「おはようごじゃ、ございみゃ、ございます。……七福ホールディングス社長の七福仁です。えー、本日はお日柄もよく、いや、雨だな……お足元の悪い中お集まりいただき……ありがとうございます? あれこれあってんのか? えー、とにかく、入社、おめでとうございます。

えー、七福グループはですね、七福ホールディングス営業部部長の海老名という男の提案で数年前に設立されまして、最初はね、七福エンターテイメントって会社と、海老名ロボティクス、慈嶋(いつくしま)AIに、喜多方エネルギーシステムの四社から始まりました。それが今やグループ企業も数十社に及び、社員数も二万人ってことで、来年には十万人超えちゃうんじゃないかなとかそんなことも思うわけですけど、そんなたくさんいたらもう町みたいなもんだもんね。さすがにそんな一気に増えることは無いでしょう。

それで、えーっと、新入社員の皆さんね。学生から社会人になったわけですけど、そんな急に社会人って言われたってって感じだと思います。今は社会人の志だけ持っていてくれれば十分です。やってるうちにちゃんと社会人になっていきます。

そのためにも、職場の人が言うことはよくわからなくても、一旦聞いてみてください。非効率だなとか、理不尽に感じることもあるでしょうが、多くの時間をかけて培われてきた経験や、技術が皆さんの今の職場を形作ってます。もちろん改善は大事なので疑問点などあればどんどん言っちゃってオッケーです。ってこれは俺が言っていいのか? 職権乱用になったりしないか? まあ多分大丈夫。

それで、えーっと、後なんか言うことあったかな……。もうないかな。

はい、改めまして、入社おめでとうございます。これからもよろしくお願いします。

……なあ、海老名、これってやっぱり録画でよかったんじゃ」

 

「はい、社長挨拶でした。ありがとうございました」

 

 今年も七福グループ結成日のパーティーをしようかと考えていたのだが、グループ社員がいつの間にか二万人くらいになっているらしく、とてもじゃないが全員集合とかできなかった。二万人て。どっかのスタジアムとか埋まるレベルじゃない?

 

 それとは別に入社式というのを実施することになり、俺は新入社員の前でスピーチをすることになったのだった。

 

 新入社員をどこかに集めるのも大変なので、グループ企業各社で式を行いつつ、グループ代表挨拶みたいなところだけWebをつなげて俺があいさつする。これ別に動画とかでもよかったんじゃない? そう思ったが、これもなんかの醍醐味だろうと気合を入れて挨拶した。

 

 が、失敗。後から思い返すと嚙んでたし、話しっぷりも威厳のある話し方ではなかった。な、なぜだ。結構練習したのに。いざカメラの前に立ったらその奥に何千人も人がいることを意識してしまい、自分でも何を話しているのかわからなくなってしまっていた。

 

 来年からは録画にしてもらおう……。

 

 入社式はその後は各社とも特に問題なく進行し、七福ホールディングスと七福エンターテイメント合同飲み会に参加した。

 

 さすがに新入社員に社長である俺があいさつすると遠慮されちゃったり畏敬の念で見られちゃうかなと緊張して行ったが、そもそも俺は内弁慶。自分から話に行くハードルが高すぎて、頑張ってねと声をかけてジュースを注いだり酒を注いだりして会場を回るだけの機械になっていた。

 

 今までで一番疲れる仕事だったかもしれない。

 

 飲み会なのにたいして酒も飲めなかった新入社員歓迎会が終わり、七福ホールディングス経営会議で海老名がとんでもないことを言い出した。

 

「買収を加速させる」

 

「えぇ? 加速って今までだって結構な規模でやってきたじゃん。これ以上?」

 

 俺がびっくりして聞くと、まあ待てとばかりに手で制して、説明を始めた。

 

「現在海老名ロボティクス新工場が稼働を開始したことにより、生産量は飛躍的に増大した。七福エンターテイメントの四風動画も続々とヒット作を生み出し、慈嶋AIはフィジカルAI市場を席巻しているし、喜多方エネルギーシステムは核融合炉と超高性能太陽光発電機、バッテリーの改良のために人員を広く集め続けている。七福グループ全体が、常に人員募集を続けている状態ということだ」

 

「やっぱりどこも人手不足なんだな」

 

「ああ、だが、七福グループは新しい人がどんどん来るので、短期的な問題ではあっても長期的には解決のめどがあるので問題ない。問題はウチ以外だ」

 

 海老名が画面共有でスクリーンに映し出したのはとある会社のインタビュー記事だった。

 

「ええっと、某新興グループの業界慣習の破壊による人手不足倒産……?」

 

「似たような記事がいくつか出ている。要するに、ウチの就業条件との比較で人材が流出し、かつ集まらないので倒産する会社がいくつか出ているとのことだ」

 

「それは、まあ、あり得ることではあるよね」

 

 じゃあ就業条件良くしたら? とは言えない。倒産するくらいならさっさとそうしてるだろう。

 

「なので、そうして倒産しかけの企業を買収して回収するというのが今回の案です」

 

 福路がそう言って資料を配布する。それによると、数百社を今年度中に買収し、吸収する予定らしい。

 

「なんか放火した後に建物の売り込みに行くような話じゃない?」

 

「勝手に燃えた人たちに救いの手を差し伸べてるようなもんだ」

 

 海老名はそう言うが、あんまり気が進まない。

 

「併せて、業界全体でウチを締め出そうとしている動きがある」

 

 続けて表示された資料には、原材料費の値上げが複数企業からウチに対してされているということが書いてあった。

 

「調査したところ、倉井グループ系列によるものでした。現在は対象商品を別のサプライヤーから手配するように動いています」

 

「倉井って、でかいところだよな。駅前に商業ビルとかフードコートとか持ってる。なんだってそんなところがウチを目の敵にするんだ」

 

 布袋の疑問に誰も見当がつかず、うーんと悩んでいるとため息をついた永石さんが発言をした。

 

「……おそらく、倉井の狙いは二つある」

 

「二つ?」

 

「一つは、出る杭を打つことだ。原材料費により利益を圧迫し、業績を悪化させる狙い。もう一つは、あわよくば業績悪化による技術の流出だ。なんなら、業績悪化したところでウチを買収するということも視野に入れているだろう」

 

 な、なんだって!?

 

「自分の行動で他社の業績を悪化させておきながら、あまつさえその会社を買収しようっていうのかぁ!?」

 

「なんてひどい!」

 

「そんなの普通に生きている人間なら思いつきもしない悪行だ!」

 

 俺と海老名と布袋は口々に倉井の行動を罵った。

 

 自社が原因で業績が悪化した他社を買収しようだなんて、ひどい話だ。

 

「そうですね、まるで放火した後に建物の売り込みに行くような話ですよ」

 

 福路もそう言って援護してくれている。倉井はなんて悪いやつなんだ。

 

「その通りだ七福。そんな悪い倉井グループに対抗するために、七福グループは買収を繰り返し、巨大な企業になる必要があるとは思わないか?」

 

「言われてみるとそうかもしれない……」

 

「そうだ。倉井によって苦しめられている他企業を七福グループの手で守るんだ。正義を執行するんだ……!」

 

 そうか、俺が何となく生み出した会社がいつの間にか正義の味方みたいになったんだな。そう思うと感動もひとしおだ。

 

「よし、布袋! 正義の曲をかけてくれ!」

 

「おう!」

 

 ジャカジャーン! とアップテンポな曲が流れ、俺は宣言する。

 

「七福グループ強靭巨大最強無敵計画を発動する! 正義を実行せよ!」

 

「「「応!」」」

 

 と、男性陣が元気に答える中、俺の母親が言った。

 

「……あんた、三十になってまで最強とか無敵とか、バカなこと言うのはやめなさい」

 

 無慈悲な女怪人の一言で俺たちは崩れ落ちるのだった。

 

 

( ・ω・)( ・ω・)( ・ω・)

 

 

 それから海老名はすごく働いた。月の残業時間が四十時間を超えた。なので休むように言ったが、移動中に寝ているとか言う屁理屈を言って止まらなかった。

 

 いいのかなあと布袋と相談したが、もうなんか目がギラギラを通り越してキラキラし始めていたのでどうしようもないと諦めることにした。

 

 七福ホールディングス営業部は人員をめちゃくちゃに増えたし、その人たちも月二十時間残業もして頑張っているみたいだ。みんなちゃんと休めや。

 

 俺は社長として労働時間を守れと怒りに行ったのだが、営業部の連中はコミュニケーション能力が高く、なんやかんやと絆されて帰ってきてしまった。

 

 このままではいけない。ブラック企業の波動を感じる。

 

 恐ろしい波動を感じた俺は人事部にチクりに行った。すると、悪鬼羅刹の表情で背中に鬼を背負った大黒さんの息子さんが鬼も逃げ出すような様子で、普段から怖いのにこれじゃ鬼に金棒だぜと営業部に向かうのを鬼が出るか蛇が出るかと気になったものの、普段はすぐに追い出されてしまう人事部に興味があったので鬼の居ぬ間に洗濯とばかりに居座ってみることにした。

 

「社長……? 部長はどちらに?」

 

「なんか営業部が超過労働やってるみたいで怒りに行ったみたいです」

 

 困惑の表情で俺を見る人事部の人。うん、ほぼ初対面みたいな人だ。

 

 人事部の人もなぜ社長がここにいるのかと疑問の表情で俺を見つめる。

 

 俺もなぜ自分がここにいるのかわからない。キツネにつままれたような気分だ。いや、鬼に引っ掻き回されたのかもしれない。

 

「それじゃあ、失礼します」

 

「はあ……。お疲れ様です……?」

 

 そそくさと逃げ出した俺は投資部兼社長室で俯いた。

 

 会社にどんどん会ったことも話したことも無い人が増えていく。これが会社が大きくなっていくってことなんだとわかってはいるけど、数年前のアットホームな職場がもはや懐かしい。

 

 七福ビルも上野から移転する計画もあるらしい。なんか新しいビルとか買おうという計画だってあるみたいだ。

 

 ……改めて自分の人生を振り返り、なぜこうなったんだと頭を抱えた。

 

 そして原因について思い当たった。

 

 海老名だ。あいつ、海老名ロボティクスを世界一にするという夢に向かって一直線でやってんだ。

 

 俺が被害者面をしてこの先の人生に不安を感じている間にも、七福グループの買収は続く。

 

 やがて、買収されなかった企業や、買収しようもない大企業がそろって七福グループに対する緊急声明を出すまでに至ったのだった。

 

 

 

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