いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
「PC買い換えた? なんか最近めちゃくちゃ音がクリアな気がするんだけど」
11月も終わろうかという土曜日。俺は友人とゲームをしていた。
こいつの名前は
「気づいた? そうなんだよねぇ。グラボとかCPU最新型のクソつよPC買っちゃったんだよねぇ」
「マジ? いくらよ」
「150万」
「150!? ゲームしかしないのにその値段払ったのかよ! もったいねー!」
ちょっとした優越感と後ろめたさを少しだけ感じた。布袋のいうことはもっともだ。俺だって数か月前にそんな話を聞いたらマジで無駄遣いだと思ったことだろう。実際俺のPCの性能は半分も引き出せていないと思う。
でも考えてみてほしい。俺がやるゲームなんて海外のオープンワールドゲームが一番負荷が高いくらいだが、100億円もってて、PCを注文するところを想像してほしい。
とりあえず全部一番性能が高いパーツ積まないか? BTOの注文画面で、ポチポチと一番高いパーツ選んじゃわない? CPUグリスをよくわからないけど一番高いやつを選ばなかったものだけが私に石を投げてよい。
そんなこんなで積もり積もって150万円のゲーミングPCを買ってしまったのだ。モニターも30万くらいのやつを二つ買ったので合計200万円をこえる。ワハハ。
「急にそんなたけえPC買ったって、お前金どうしたの」
「うんまぁ、持っててェ」
「持っててって、なんか当たったのかよ」
ドキリとした。
「そういや最近やけにオンラインになってるよな。仕事辞めたのか?」
ヒヤリとした。
「……まさか、誕生日の時に言ってたよな。なんかの宝くじ買ったとかなんとか。総額、100億円って言ってたか?」
鋭いなこいつ!
「当たったのか!?」
布袋とは小学校から高校まで一緒で、その後俺は大学へ行き、こいつは夢を追ってフリーターになった。大学時代も特に変わらずに遊び続け、社会人になっても休日に遊ぶ仲だ。
親友と言っていい。
こいつに隠し続けるのは無理だろうし、隠そうとするなら縁切るとかそのレベルでないと無理だろうし、そんなことするつもりもない。
「イェーイ! 100億円当選人生クリア太郎でぇーす! 無職ニートでぇーす!」
「ちょっとよこせ! 3億でいい!」
ギャーギャーと騒いでいるうちに落ち着き、ぽつぽつと近況を話すようになった。
「はー、家賃30万? 100万とかのとこ住めばいいのに」
「俺もそう思ったんだけど、いざ見てみたら広すぎて落ち着かなかったんだよね。30万の家だと実家の一階くらいの広さで落ち着けた。それでも一人には広すぎるけど」
俺たちの実家は関東の田舎のほうだ。放課後はそれぞれの家に行ってゲームやってばっかりだった。
「
「まだ。家族にも言ってない。お前が最初」
「へー、100億円ねえ。そんだけあったら何でもできそうだけど、何するの?」
「何をって、そりゃあ……今はまだ、特に何もって感じ」
「そうか、なんかもったいない気がするな」
俺が今まで考えた100億円の使い道は、死ぬまでに月どれくらい使えるのかってくらいのことだけで、それだって半分以上使い切らない。
とはいえ、金を使おうにも、めちゃくちゃ高い宝石なんて買っても持て余すだけだし、トレーディングカードだって買ったところで飾る趣味はないし、対人でプレイする環境にわざわざ行くのも面倒くさい。
他に金を使う行動ってなんだ?
「布袋! やばいぜぇ! よぉく考えてみたけど、俺の趣味がゲームとか動画見るくらいでインドア過ぎて金が使いきれない!」
「個人消費でどうにかなるレベルの金額じゃないだろ100億円って!」
二人で、金を使うには? という議題で白熱した議論を繰り広げた結果、今日一緒に飲みに行くことになった。
いざキャバクラ。
そんなこんなで新宿歌舞伎町。夜の新宿って治安悪そうで怖い。俺は夜に来たことが無かったからそんなイメージを持っていたが、昼間と大差なかった。キャッチみたいな人はたくさんいたが、警察官もうろうろしているので大きなトラブルはないみたいだ。
「うっす」
「おす」
布袋はチャラついた格好だった。あまりにも気合が入ったおしゃれだった。一方で俺はウニクロのカジュアルスーツっぽい見た目で、おしゃれさよりは無難さを重視した格好。
陰と陽みたいな組み合わせだ。
「……とりあえず行ってみるかぁ。場所どこって言ったっけ」
「ああ、映画館の方の、キャバクラ幕府~刀狩りって店だ」
布袋はよく新宿に弾き語りに来ている。こいつの夢はミュージシャン。高校の時にこいつの演奏を聴いて、本当にすごいと思った。中学とかのころになんか弾いてるなと思ってたけど、学祭で弾いてる姿を見て、俺は音楽に詳しいわけじゃなかったが、目の前の友人が別人に見えたくらいだ。
バイト先も新宿のバーということで、客からいい感じの店の噂とかを聞いているみたいで、初心者でも一番安全そうなキャバクラを選んでもらった。
重厚な扉の前に立ち、ドキドキしながら扉を開けた。
(・ω・)(・ω・)(・ω・)
「二度とキャバクラにはいかねぇ」
「えー、すごい楽しかったじゃん。またいこうぜ」
次の日。布袋と通話していた俺は昨日の苦い思い出を反芻しながら宣言した。
「女の子二人ついて、二人ともお前のほう行ったじゃん。四人の席じゃなくて三人プラス一人の席だったよ。二時間ずぅっとちびちびよくわかんねえ酒飲んでただけ!」
「いや四人でちょっとしたゲームやったじゃん」
「最後の方にちょっとやっただけじゃねえかよぉ! しかもこっちを気遣うような優しさが痛い! もうマジ無理!」
これなら居酒屋で唐揚げとか食べながら一杯やったほうが良かった。
「それで一人何万も支払ってぇ、こんなもん何が楽しい!」
「いや、最初の方に横で見てたけどお前話が盛り上がらなさすぎ。女慣れしてなさすぎる」
彼女いない暦年齢かつ、友人が布袋と海老名しかいない時点で察してほしい。俺は生粋の内弁慶だ。
「なんにせよ、いきなりキャバクラはハードルが高すぎたのかもしれない」
ジムの時もそうだった。ゴールを一直線で目指しても越えられない壁があったらたどり着けない。壁を超えるためのステップアップが必要だ。
「キャバって相手が盛り上げてくれるから一番低いハードルな気がするけど」
「俺の盛り下げ力が勝っちまったようだな」
「敗北者なんだよね」
こいつうるせぇ~。こっちのウィークポイントを的確に攻めてきやがる。
「俺だって一か月ちょっと前は社会人やってたんだ。ビジネス上の対応には大きな問題は発生していなかった。
ということはつまり、プライベートでの人間関係の構築がちょっと力不足なだけで、潜在的コミュニケーション能力は高いと言っても過言じゃあないだろう」
「職場でのお前を知らないけど本当にちゃんとやれてたのかよ」
失礼な。ミーティングの司会だってよくやってたし、客先にも訪問してたんだぞ。
「キャバ嬢にもビジネスライクにいけばよかったじゃん」
「客はこっちなのになんで俺がお客さん相手にするように話す必要があるんだよ」
「0か100しかねえのかよ。生きるの下手そう」
クソわよ。こいつ、見た目が良くてミュージシャンに向いてるからって言っていいことと悪いことがあるだろ。ヒモみたいな見た目しやがってよ。
「もっとキャバクラよりカジュアルでやりやすいところないのかよ」
「あー、それじゃあコンカフェとか行く? 俺行ったことないからおすすめの店とかわからないけど、キャバクラよりカジュアルな感じしない?」
ということで、連日酒を飲むのはなんかなという話になり、布袋のバイトの都合もあって二日後にコンカフェに繰り出すこととなった。
(・ω・)(・ω・)(・ω・)
「まただよ。またお前は俺を一人にして女の子と楽しく会話していたな。許せねえよマジで。っていうかよく考えたらお前の吸引力のせいで俺が孤独になってるんじゃねえのかよこれはよぉ」
「いやー、ごめんね。お前がモテなくてごめんね。本当に俺の力不足でお前がモテなくてごめん」
こいつを土に埋めよう。そう思った。