いきなり金持ち人生   作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない

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第4話 12月 家族からの叱責!

 無職生活を満喫し、ダラダラとしていた11月も終わってしまい、年末も間近になった師走。電話がかかってきた。

 

「あんた、最近、大金手にしたの?」

 

 親だ。俺はなぜバレたのだと驚愕しながらうまいことごまかした。

 

「いやぁ? そんなことないけどなぁ~? 心当たりとかマジでこれっぽっちも無いけどぉ、なんでそう思ったのぉ?」

 

「なんか銀行から馬鹿みたいに投資の案内とかあんた宛に来るんだけど。この間は支店長って人がわざわざウチまで営業に来たのよ。

あんた住民票実家から移してないでしょ? 住所が実家の方だと思ったんですって。

それで、心当たり無いの?」

 

 ま、まずい。

 

 懐かしい記憶がよみがえる。

 

 あれはそう。俺が高校二年生の春。どうしても公開当日の朝一に見に行きたい映画があった俺は、学校をずる休みしようと思った。

 

 学校には自分の携帯から電話して、休むことに成功した俺は学生服をカバンに詰め込み、Tシャツに制服のズボンという格好なら学生だとバレないとたかをくくったのだ。

 

 しかし無情にも映画を見終わってゲーセンで時間をつぶしているときに悲劇は起きてしまう。母親の友達に発見されていたのだ。

 

 家に帰り、母親からの真綿で首を締める様な責め苦に俺は逆ギレという手札で返したが待っていたのは小遣い削減という罰金だった。

 

 今そんな、真綿で首を締められつつある、あの感覚があった。

 

 社会人にもなって親に怒られたくない。いや今無職だけど独り立ちしてるし。

 

「あれかなぁー、株でちょっといい感じに儲けたからかなぁー」

 

「へー、株でいくら儲かったの?」

 

「いやさすがにちょっと親とは言え貯金額についてはほら、プライバシーとかあるしぃ」

 

「何十億と眠らせておくのは勿体ないって支店長の人が開口一番に言ってたのよね」

 

 銀行員としてあるまじきセキュリティー意識じゃないそれ?

 

「……いやぁ、何の話か皆目見当もつかない」

 

「最初に言っておくけど、金をくれって話じゃないの。

ウチにめちゃくちゃ来る営業をどうにかしてほしいって話なの。

分かる? 家に帰ると玄関前に知らない人が毎週いるの。

毎回、新しい人を連れてくるの。

その人たちが捨てるのも面倒なくらいのプレゼン資料を置いていくの。

知ったこっちゃないのよ。

あんたの話がこっちに来てるの。

代り映えのしない同じ話を十何分も聞かされるの。

休日にゆっくりしてたら家に来るの。

そのせいで追ってたドラマを見逃したこともあるの。

いい?

あんたが。

ちゃんと。

対応しなさい。

って、言いたいの。

私、何か間違ったこと言ってる?

だいたいあんた、いつもみたいにやらなきゃいけないことを先送りにしてるんじゃないでしょうね。本当にもう子供のころからちっともかわりゃしないんだから。もう二十五歳なんだから身の回りのことくらいちゃんとしなさいよ。っていうかいい加減私の前に彼女の一人もつれてきてほしいわ。顔も悪くないんだし、もうちょっと中身がちゃんとしたらいい人くらいできると思うのよね。無理に結婚しろとかまでは言わないけど、そろそろ将来のこととかちゃんと考えないとだめよ。そうそう、近所の隠岐さん覚えてる? あんたが小学校入るときに登校の引率やってた子。あの子もう娘さんいるんですって。動画見せてもらったんだけど、ちっちゃい足でピコピコ歩いてるのが本当にかわいくて。あんたにもそんな時代があったのにどうして今は寝転がってダラダラするようなのに育っちゃったのか知らねえ。私の甘やかしすぎ?

で、分かった?」

 

「……ハイ。ホントニィ、スイマセン」

 

「やるのね?」

 

「ハイィ、ヤリマァス」

 

 そういうことになった。

 

 

(・ω・)(・ω・)(・ω・)

 

 

 前回は水歩銀行の本店に行ったが、今回は実家の支店の方に来た。とりあえず早急に実家に行くのを辞めさせないといけない。

 

 受付番号を発券して、少し待つと窓口に呼ばれた。

 

「本日は、資産運用のお話ということで。お客様のお名前と口座番号のご入力をお願いいたします」

 

「はい。七福(しちふく)仁(じん)と申します」

 

「ありがとうございます。七福様でございますね。

……ぇ、し、七福様っ!? あ、あのあの、しょしょしょ少々お待ちくださいませぇー!」

 

 窓口の女性は嵐のように去っていった。VIPっぽい対応をしてもらってちょっと嬉しい。こういうの憧れるよな。少し気恥ずかしさもあるけど、いざやってもらうと気持ちいい。多くの人が承認欲求の怪物になってしまうのもわかる。

 

 少し待っていると、どたどたと三人やってきた。高齢の男性が二人と、明確に見た目がきれいな若い女性だ。

 

 俺は心の中のビジネスモードスイッチをオンにした。

 

「七福様、初めまして。私、支店長を務めております、赤井と申します。こちらは専務の青山、営業の灰村です。

申し訳ありませんが、別室に案内させていただいてもよろしいでしょうか」

 

「赤井さん。お気遣いいただきありがとうございます。問題ございません。よろしくお願いいたします」

 

 赤井さんが先行して、銀行の二階に案内された。中には高級な革張りのソファにガラスのテーブルがあり、俺の中の高級感という表現にピッタリな内装だった。

 

 促されて座ると、改めてそれぞれからの挨拶と名刺を受け取る。

 

「本日はお越しいただきありがとうございます。資産運用のご相談と伺っております。

七福様のが来店を従業員一同心よりお待ちしておりました」

 

「ええ、実家の母からよくお話を伺っております」

 

 一拍おいて、立て続けに口を開く。

 

「本日伺わせていただいたのは、私の実家への訪問を辞めていただきたいからです」

 

 赤井さん達には申し訳ないが、嫌な客をやらせてもらおう。

 

「実家の母から相談がありましてね。なんでも、週に何度も訪問いただくとか」

 

「え、ええ。そうですね。七福様のご実家にご説明に伺わせていただくことがございました」

 

 もちろん俺は彼らの都合を理解している。ぶっちゃけ誰が悪いかと言われれば、当選金受け取りの時に銀行側が進めてきた資産運用の話を凍結させて逃げ出した俺だろう。あれから三か月以上経過し、もうそろそろ年末。年度末までには実績を上げないと何かの不都合があるのだろう。社会人は辛いよな。

 

「熱意をもってご説明いただき大変ありがたいお話なのですが、私は実家とは別の場所に住んでおりまして、今後御用のある場合はそちらへの訪問をお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「なるほど、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありません。今後はそのようにいたしますように、指導いたします」

 

 分かる。社会人としてノルマだとか実績だとか、そういうシビアな数字が必要で、そのためには何度断られても営業電話をかけなくてはいけないような気持ちもわかる。大変だよなぁ。俺も業務時間中にかかってきた営業電話を、聞くふりしながら時間潰すのに利用させてもらってたからよく分かる。一所懸命に説明して、なんとか営業成果を勝ち取ろうという姿勢が分かるだけに、つい話を聞いてしまったりもする。

 

 ただそれはそれとして俺は営業電話を無慈悲に断れる人間なのだ。長々聞いて意気投合した後でもバッサリ断れる冷血漢なのだ。

 

「ありがとうございます。

私からの今回の要件は以上です。本日はお時間をいただきありがとうございました」

 

 じゃあ帰ろっか。

 

 俺が腰を上げるそぶりを見せると、青山さんが慌てて止めに入った。

 

「しょ、少々お待ちいただけませんか。七福様の資産運用につきまして当行からのご提案がございまして」

 

「左様でございますか。

ただ、大変申し訳ないのですがこの後に用事がありますので、また後日の機会でもよろしいでしょうか」

 

「十分ほどででよいので、簡単なご説明だけでもお聞きいただけませんか」

 

 母親から怒られたことの八つ当たりはこんなもんでいいか。

 

 母も迷惑かけられたっぽいけど、あっちも俺に八つ当たりしたいだけだった感じあるし、これ以上営業ラッシュが続いたらガチギレしてただろうけど、今の段階だったらそんなに怒ってはいなさそうだった。

 

「承知いたしました。手短に、ご説明をよろしくお願いいたします」

 

 と、なんやかんやで二十分くらいの説明を受けたあと、また後日と言って俺は銀行を後にした。

 

 まあ銀行側の提案は彼らの手の及ぶ範囲の中で資産運用しないかというよくある話だった。不動産投資だとか金の売買とか、投資信託とか。そんな話。

 

 とりあえずは次回訪問時はあらかじめ連絡をして、その時に銀行から税理士の人とかも併せて紹介したいということだった。

 

 次行くなら年明けかな。

 

 銀行から外に出て、タクシーに乗った俺は腹が減っていたので昔からよく行く駅前の中華料理屋に向かってもらった。どうせこの後は電車に乗って帰るだけなので、ダラダラ飯でも食って帰ろう。

 

 そんな感じで今年の年末は過ぎていった。

 

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