いきなり金持ち人生   作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない

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第5話 1月 ~担当税理士大黒は狸の予感~

 年末は布袋を家に招いた。というか年越しまで飲み歩いていたら帰りの電車がなくなってウチに泊まることになったのだ。終電なくなっちゃったじゃねえんだよ一人でラブホに泊まってろ。

 

 そんな感じで新年から二日酔いに悩まされていると、海老名からあけおめ連絡が来ていることに気が付いた。

 

 海老名は11月から海外に単身赴任して、年末も向こうで過ごしてるっぽい。連絡しようにも時差で都合がつかないこともあるし、そもそも普通に激務っぽくて暇じゃないらしい。俺らとは大違いだ。

 

 海老名、悲しき企業戦士。奴が過労死しないことを初詣で祈ってやってもいいだろう。

 

 朝飯を食べてしばらくして、ようやく二日酔いも収まってきた。

 

 昼になったのにまだゾンビのようにうめいている布袋をさっさと帰宅させて、今日も今日とて自宅ジムで汗を流すことにした。

 

 一年の計は元旦にあり。俺は今年も自分を磨く決心をしてラジオ体操をした後にエアロバイクにまたがった。

 

 スマホをポチポチとしながら漕ぎ続けていると、いつの間にか汗だくだし結構時間がたっている。今までだったら無為に時間を過ごしたと後悔するSNS巡回も、エアロバイクを漕ぎながらやっていれば運動したという言い訳が使える。

 

 神ィ! と心の中で叫んでいると、インターホンが鳴った。

 

 なんだよ今汗すごいから来客対応したくないんだが。

 

 居留守を使ってから十数分。目標分のカロリーを消費したのでシャワーを浴び、サッパリして全裸で部屋を練り歩いていると、またインターホンが鳴った。

 

 三十分くらいたってるけど同じ人? だったら怖いまであるけど。

 

 ドアカメラを見ると、女性の二人組だ。一応スーツを着ているのでちゃんとしてるっぽく見える。

 

 ……対応するか。

 

「はーい」

 

「あ! 七福様ですか? 私、水歩銀行の灰村です。お久しぶりでございます」

 

 久しぶり? うーん? あ、赤井さんの横にいた女性か。あの時は全然会話なくて印象クソ薄かったから覚えてなかったわ。

 

「はい、お久しぶりです。本日はどういったご用件で?」

 

「はい、新年のご挨拶に伺わせていただきました!」

 

 ええ、こわ。元旦から働いてるのこの人たち。

 

 さすがに新年から働いているであろう人を無碍に扱うのも心苦しかったので、着替えてから出ることにした。

 

 外に出るとさすがに冬の寒さを感じたが、風もそんなに吹いておらず、天気も快晴で凍えるほどではなかった。

 

「お待たせしました。あけましておめでとうございます」

 

「はい、あけましておめでとうございます。こちら、つまらないものですが」

 

 灰村さんの横にいた女性が細長い紙袋を渡してくる。紙袋には水歩銀行のロゴがあり、思ったより重量があった。

 

「こちら、弊社で製造しております日本酒でして、お得意様限定でお送りしております」

 

 へー。お得意様限定って言葉大好き。

 

 わざわざ新年に来るという心理的優位性を確保されてしまったので、負けましたという気持ちになり、年明けの三連休後に水歩銀行に行く約束をしてしまった。

 

 初日の出の如く輝く笑顔を浮かべながら帰っていった灰村さんはキビキビと次のお得意様の所に向かうのだろう。社用車のセダンに乗って去っていった。

 

 車あると便利かも。買うかな~。でも今住んでる都内で車持ってても運転面倒なんだよな。道狭いし。

 

 少なくとも軽自動車とかコンパクトカーなら取り回し便利かも。

 

 車買ってどこ行くの? どこにも行かない。じゃあ必要な時はタクシーでいいじゃん。

 

 脳内会議に結論が付き、せっかく外に出たので初詣に行きがてらブラブラと歩き回ることにした。

 

(100億円持ってるなら、もしかして全裸で外歩いてても金で許されたりするのかも)

 

 自宅で全裸で練り歩いていたからか、アホな妄想が頭から離れなかった。

 

 除夜の鐘まであと365日。俺の煩悩は百八を超える。

 

 

(・ω・)(・ω・)(・ω・)

 

 

 実家に顔を出し、両親にお年玉代わりに飯をおごり、いよいよ水歩銀行にやってきた。今日もまた営業トークを受けなきゃいけない。

 

 無職になってから気ままに過ごしていたので、自分の時間が他人の予定でつぶされることにストレスが大きい。仕事してた時は常にそうだったというのに、水は低きに流れるものである。社会性の喪失が起きているかもしれないことに危機感を持ちつつ、俺をビジネスモードに切り替えた。

 

「こちら、大黒税理士事務所所長の大黒(おおぐろ)天(たかし)さんです」

 

「税理士の大黒です。よろしくお願いします」

 

 中にいたのは赤井さん達三人と、穏やかそうな顔をした初老の男性だった。

 

「初めまして。七福仁と申します」

 

「それでは、さっそくではございますが七福様の資産運用についてのご提案を始めさせていただきたく存じます」

 

 青山さんの司会で始まった説明会は、灰村さんがメインスピーカーとしていろいろな提案をしてきた。内容自体は前回と大差ない。どれくらいの金額を運用に回すのか、みたいな部分が一番焦点になっていた気がする。

 

 俺が今25歳で、100歳まで生きていけるかわからないけど生きると仮定して、月200万円生活を続けるなら18億円必要だ。実際に数か月過ごして思ったのは200万円を月に使い切ることなんてそうそうないけど、いざ何があって急な出費が必要になるかわからない。とりあえず多めに見積もっておいていいだろう。

 

 俺の口座には99億何千万円が残っている。このうちの20億円弱を確保し、80億円は運用しても特に問題ないだろう。

 

 実際この額って何ができるんだ? 何でもできる気もするけど、正直規模がデカすぎてよくわからない。

 

「税理士として言わせていただきますと、ここまでの大金は個人で消費するのは難しいと思いますので、資産管理会社を設立し、ご家族への相続に備えた方が良いかと存じます」

 

 大黒さんが言うには、個人で運用するのと会社を建てて運用するのではメリットデメリットがあり、会社なら利益に対する税金は高いが、相続に関する税金が安くなるとのことだった。金額で考えても会社建てた方が節税ができるとかなんとか。

 

 無職よりは社長でいる方が社会的ステータスも高いし、その方が大歓迎かも。

 

「ご説明いただきありがとうございます。ご提案いただいた、会社設立したうえでの資産運用という手順で進めていただきたく存じます」

 

「わかりました。手続き等はお任せください。必要書類の記入については追ってご連絡したします。また何かわからないこと等ございましたらお気軽にご相談ください。

早ければ、3月初頭には会社を立ち上げることができます」

 

「投資判断の際はぜひ当行にご相談くださいませ。必ずやお力になれます」

 

 大黒さんとの握手をしている上から赤井さんと青山さんと灰村さんも手を合わせてきた。円陣みたいだ。

 

 まあ、80億円は最悪目減りしてもいいだろう。損した気持ちになるけど、生きていくには20億円もあれば十分すぎる。

 

 銀行側の熱意はもちろんわかるが、俺はそこまでの熱意を持てないでいた。

 

 一つ不思議なのは、大黒さんもそこまでの熱意を持っているように見えないというところだ。彼も銀行側と同じように、利益のために仕事をしているんじゃないのか?

 

 なんとなく見た大黒さんは、最初にあった時と変わらず穏やかな笑顔でいたが、握る手はとても冷たかった。

 

 

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