いきなり金持ち人生   作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない

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第6話 2月 成金の孤独~暇という遅効性の毒

 定期的に大黒さんや水歩銀行から連絡が来て、そのたびに必要書類を書いたり何のかんのとやる以外はダラダラと日々を過ごしていた。

 

 最近は布袋も忙しいっぽくてあまり遊べていない。

 

 暇だ。暇すぎて自宅ジムに籠る時間が増えている。その結果、俺の腹筋は見事に割れ、脂肪が筋肉に置き換わり、体は絞れたが体重は変わらなかった。筋肉って重いんだな。

 

 ただまあそれでも暇すぎる。この間は暇すぎてパチスロデビューをしてみた。平日の人がまばらな時間帯に行ったので、覚悟していたほどに店内はうるさくなかったので良かったが、結果は散々だった。

 

 一パチという、一玉1円のパチンコで遊んだのだが、二時間ほど滞在し1万円使い、ただただ落ちていく玉と外れるリーチ演出を見て、一度も当たらずに終わった。

 

 何が面白いこんなもの。二度と行かん。

 

 そう決意し、昼飯を食って帰ってきてもやることがない。電子書籍を大人買いしてダラダラ読んで時間をつぶしたりもしてみたが、三シリーズくらい読み切ったあたりでさすがに飽きてしまった。

 

 お、俺は大金を手にして理想の生活を手にしたはずでは……?

 

 仕事を辞めて数か月は天国のように感じていた生活だったが、最初の方にやりたいと思っていたことを一通りやってからは、やりたいことを探すことが苦痛なくらいやりたいことがない。突発的に思い立って何かやることはもちろんあるけど、この先何年もずっとやりたいようなこととかそういうものが何もない。

 

 砂漠を歩いているようだ。俺は自由なはずなのになんでこんなに苦しい。

 

 友人と遊んでいるときはそんな苦痛もない。だが、海老名は今も仕事に邁進しているし、布袋は夢のために走り続けている。俺は?

 

 みんながどこかに進んでいる中、自分一人が迷子になって立ち止まっている。

 

いやちょっと待て。別に友人と比較して自分が立ち止まってるような感覚は昔からあったわ。海老名は東大行ってスゲーって思ってたし、布袋もミュージシャン目指しててスゲーって大学一年の時に考えてた思い出ある。

 

 じゃあ今までと状況はそんなに変わってないってこと? じゃあなんで働いてた三年間はこの焦燥感がなかったわけ?

 

 俺は怖いことに気づこうとしていた。金が無い三年間に理想だと思い描いていた生活はもしかすると、そんなにいい物じゃないんじゃないか?

 

 まてまて、そんなことはないだろう。今住んでいる物件は前のアパートの倍広い。風呂も足を伸ばしてゆっくりできるし、ベッドもキングサイズで寝やすい。家電も最新式ですこぶる調子がいい。ジム部屋もあって筋肉も付いた。飯も値段を気にせずに、一食三千円の外食を何度やっても問題ない。漫画も小説も気になったらすぐに買えるし、服も何年も着たよれたTシャツじゃなくて毎シーズン新品を買うようになった。

 

 これが俺の理想の生活なのか? なんかあんまりキラキラしてないかも。

 

 もっとあるんじゃないのか? 想像してみよう。

 

 クルーザーで沖に出てパーティーだの釣りだのやるとか。でも俺船酔いするんだよな。昔フェリーに乗った時ですら結構ちゃんと酔ったのにそれより小さい船だと結構揺れるだろうしきついんじゃないかな。そんな状態でパーティーなんかやる気も起きないし、釣りはそもそもやったこともない。今度釣り堀に行ってみよう。

 

 遊園地貸し切りとか。貸し切りっていくらかかるんだ? その結果一日、並ばずにアトラクションに乗れるというだけの利点が費用対効果に見合わなすぎるんじゃないのか。だったら高い金払ってファストパスみたいなので遊んだほうがいいんじゃないか? それこそ二泊三日とか三泊四日にしたら十分に遊べるだろ。しかも平日とかに行けばそこまで混んでないんじゃないのか。そもそも誰と遊園地行くのって話。ぶっ飛ばすぞ。

 

 夜景のきれいなレストランでディナー。一人で食えってか。はッ倒すゾ。

 

 うーん、貧弱な発想力。

 

 逆に、なぜ俺の発想力は貧弱なのか考えた方がいいんじゃないか?

 

 まず、俺が理想としていた生活はどんなのかと言えば、ダラダラと仕事もせずに、好きな漫画やゲーム、映画やアニメを存分に堪能できる生活だ。

 

 この時点で世界が狭いよな。自分の部屋の中で完結してるんだよね趣味が。

 

 問題は、俺が外の世界に目を向けていないってことなんじゃないか?

 

 おお、そうと決まれば、外に目を向けよう。

 

 外って何さ。

 

 

(・ω・)(・ω・)(・ω・)

 

 

 動物園に来た。今も目の前でカバが元気にうんこをまき散らしていた。

 

 動物って生きてるだけで偉いよな。野生だとそもそも生きることが仕事みたいなもんだしな。飯は自分で取らなきゃいけないし、群れのために尽くす必要もある。あれこれ普通に社会人のことだな。

 

 人間社会は野生そのものだったのだ。生きてるだけで偉いって誰にもほめてもらえないってだけの野生なのだ。野生で生きててもほめてもらえない気がするけど。

 

 俺は小動物ふれあいコーナーでモルモットを抱えたり、ウサギを抱えて蹴られたりしながら生き物っていいなと思った。飼うのはハードルが高いけど、動物園とかこういうところで触れ合うのはいいかも。

 

 続けて水族館に行った。タコがぬるぬると水底を練り歩いていた。

 

 この知性がありそうなムーブを見れば、そりゃあインクをまき散らす二足歩行の知生体に進化すると考えてもおかしくはない。あるいは深き海に沈んだ邪神の末裔と考えてもいいかもしれない。

 

 魚って何か考えてんのかな。クラゲとかぷかぷかしてて本能以外で動いてない気もするけど、それは人間の尺度でそう思ってるだけなのかもしれない。

 

 魚だったらでっかい水槽とか用意して飼ってもいいかも。

 

 そう思って少し調べたら、なんか水替えだの水槽リセットだの水質変化に伴うにおいだの、虫の発生だのいろいろなデメリットが目白押しで、あきらめた。

 

 水生生物ふれあいコーナーで思いのほか固いヒトデを触ってみたり、つかんだナマコがおそらく口(ナマコの頭と尻がどっちがどっちかなんて判別が付くわけがない。肛門があるかどうかも知らないけど)から発射した何かを観察しながら、たまにはこういうのもいいかもしれないと思った。

 

 その次に行ったのはスキー場だ。実は俺はスキーができるのだ。中級コースくらいを楽しく滑れるというレベルなので本当にそこそこというレベルだが、できるということが大事なのだ。昔教えてくれた父親に感謝。

 

 新幹線で最寄り駅まで行き、そこからレンタカーでスキー場に行った。

 

 午前移動、午後スキー、一泊して、午前滑って午後移動というワンパク旅行だ。やる気に満ち溢れて久々にスキーをして楽しみ、旅館で酒を飲んでさんざんにはしゃいだ。一人で。

 

 次の日、筋肉痛と二日酔いによって俺は午前中ぶっ倒れて、午後に這いつくばりながら移動をして家に帰ってきた。心は十四歳だったが体はアラサーなのだった。

 

 さらには行ったことのない観光スポットに行ってみようと思った俺は温泉街に行ってみることにした。草津だ。電車やバスに揺られながらゆらゆらとたどり着いた。帰りはタクシーにしようかな。

 

 湯揉みを体験し、階段状になっている幻想的な湯畑を見て興奮し、まったりと温泉につかり、そして酒をかっくらい、一人で寝た。

 

 一人だ。全部。

 

 みんな、暇じゃないんだ。

 

 そりゃそうだ。人間社会で生きていくためには金を稼がなきゃいけない。金を稼ぐのは大変だ。俺自身、そうだった。毎日最低八時間は働かなきゃいけない。昼休憩一時間を含めれば九時間拘束される。通勤時間が三十分かかるなら、合計十時間拘束される。朝に身支度を整えなきゃいけないって考えたらさらに拘束される。

 

 それだけじゃない。普通に生きてたら飯の準備もしなきゃいけないし、洗濯に掃除もやらなきゃいけない。睡眠時間も必要だ。じゃあ一日の中でどれくらいの時間を趣味に使える? 暇な時間なんてそうそうないんだ。

 

 そんな生活を続けてたから、俺は暇な時間がたくさんある生活を理想としていたんじゃないのか?

 

 趣味の時間が無限に増えて、俺の趣味はそんなに時間を使うようなもんじゃなくて、その分暇な時間がどんどん大きくなっていったことに気が付けないでいた。

 

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