いきなり金持ち人生 作:草原で昼寝したいけど明るいと寝れない
株主総会の会場は国帝ホテルという格式高いホテルの一室で開催されるとのことだった。
俺もCMを見たことがあるような有名企業の株主総会ということで、服はどんなものがいいのかと調べたら、特に指定はなさそうだった。
もう6月も終わり際で結構気温が高いから、カジュアル目な感じでいいかな。
俺はウニクロで買いそろえた服装でタクシーに飛び乗り、会場まで一直線に向かった。
受付を済ませて会場に向かうと、基本的にはみんなスーツだった。しかし中には自分と同じようなカジュアル族も多くいた。服は特に浮いているようには見えない。一先ず潜入完了といったところか。
着席した俺は一人で手持ち無沙汰になったので、こっそりと周囲の会話を聞いてみることにした。
「――ROEが」「――PBRの」「最近話題の投資家が――」「DOEが――」「フリーキャッシュフローの――」「EBITDA倍率が――」「――来てるとか」「ROICの――」「WACCと比較して――」「アクティビストが――」
?
いやな予感はしていた。
全員、なんか頭が良さそうだったからだ。
パリッとしたスーツを着て、髪もビシッと整髪料で固めて、キラッとした腕時計をして、ギラギラとした目をしていた。
自信に満ち溢れた人たちだった。今までの自分の行動に裏打ちされた自信があった。努力によって多くをつかんできたであろう人たちだった。
そんな人たちの中に、怠け者が一匹。混ざれるわけがなかった。
会話は短縮言語で成されて意味が分からなかった。普通に英語で質問してる人もいて、翻訳もなく英語で返答している。翻訳もあったが、翻訳された内容がそもそも理解できなかった。
すぐ気が付いた。この場所は俺の身の丈に合ってない場所なんだと。
金は持ってる。たくさんある。もしかするとこの場にいる人たちの中でも上澄みかもしれないくらいに持っている。
でもそれは偶然手に入っているというだけで、俺に釣り合う金額かと言われれば全くそんなことはなかった。
努力によって得た力を元に身の丈に合った金額を活用している人たちとは比較にならないくらい、俺は貧弱だった。
ようやく目が覚めたんだ。
俺はダラダラと現状維持をしながら過ごしていたけど、周りの人たちは日々学習して、昨日の自分よりも少しでも進化できるように頑張っていたんだ。
俺が感じていた焦燥感とか、俺だけ遅れてるとか。そういうのは全部その通りだったんだ。
だって俺が立ち止まっている間に他人は進化してるんだから。
なんかやりたい。俺も何か次に進むようなことがしたい。
そうとは思うが、じゃあ何ができるのかというところでやっぱり足が止まってしまう。
うんうんと頭を悩ませていると、ポンと肩をたたかれた。
ビクッと肩を跳ねて振り返ると、そこには懐かしい友人の姿があった。
「え、海老名ァ!? 生きていたのかァ!」
「勝手に殺すんじゃない。お前こそ、なんだってこんな場所に?」
幼馴染(男)の海老名寿男がパリッとしたスーツを着て、髪もビシッと整髪料で固めて、キラッとした腕時計をして、ギラギラとした目をしてそこにいた。
(・ω・)(・ω・)(・ω・)
「は? 宝くじ当てて会社作った!? 知らん知らんなんだそれ」
俺たちは個室がある焼肉で久しぶりの再会を祝った。
「海老名が帰ってきてたのも知らなかったよ。連絡くれればいいのに」
「本当に一時帰国なんだよ。明日明後日も仕事で、その次の日にはもう出国さ」
海老名はやはり企業戦士のままだった。
「いやそんなことよりさ、お前の話聞かせろよ。何いくら当たったの宝くじって」
「いくらだと思う?」
「だるっ。さっさと言え」
「海老名久々すぎるから布袋も呼んでいい?」
「話聞いてる? いいけど俺マジで忙しいからあと一時間くらいで店出ないといけないからな」
布袋に連絡すると、今バイト中とのことだった。都合が合わないなと苦笑し、最近のことを海老名に話し始めた。
「100億円当たった」
「は?」
「100億の内の25億を株で運用していま500億になった」
「は?」
「株の利益ぶっこんだら現時点で1000億円になってる」
「ジョーク?」
「ところがどっこい! この証券口座が目に入らぬかァ!」
俺が証券口座を表示したスマホを見せると口をあけっぱなしの海老名が信じられないものを見るような顔でじっくりと眺め、そのままスマホを胸ポケットにしまった。
「それではこれにて」
「盗人ォ!」
海老名は冗談だと言ってスマホを返してきたが、手がガタガタと震えていた。
「っていうかマジでお前1000億円もってる会社の社長様なの? マジ? さすがにここおごり?」
「おごるのは別にいいけど、海老名に相談したいことあるわそういえば。相談のってくれねぇか」
俺が切り出すと、海老名はふっと笑った。
「いいぜ、だが俺はレアだぜ」
「いま焼いてるの鶏肉だからちゃんと火を通した方がいいと言っておこう。俺のタァーン、カルビを召喚」
肉を食いながら、今この有り余る金の使い道に困っているという話をした。俺は運が良いみたいで、投資の利益がどんどんと積みあがっている。広く浅く投資するにしてももうなんか多すぎて管理が面倒なのだ。
「ハァーッ、贅沢な悩みだねえ、俺も言ってみてぇー。金が余って困るって言ってみてぇー!」
「お前給料めっちゃいいじゃん」
「あって困るって程もらってねえよさすがに」
何かを悩むように唸っていた海老名は、一度箸をおいて水を飲むと、決意したように話し始めた。
「七福お前、会社あるんだよな」
「総勢俺一人の会社があるよ」
「お前、俺を雇わないか?」
ギラリとした目をした海老名がそう言った。
「えぇ? お前今の会社どうすんの」
「そりゃ辞める。今やってる仕事も投資家みたいなもんだし、俺もその道で食ってるプロだ。それに、お前のその金を今みたいに使うのは勿体ない」
「今も活用してるっちゃしてるけど」
「投機的な使い方だ。お前が持ってる金額は、株を買って売るって規模の使い方は勿体ない。会社を買って、それで利益を出せるくらいの規模だ」
「資産運用会社の業務範疇なの?」
「一応資産運用の範疇には入るが、それよりは別の手法を取ったほうがいいかもな」
話していて思うけど、やっぱり海老名は頭がいい。俺と話している最中でも、もう別のことを考えているのだろう。
そうか。じゃあ一回、こいつに金を預けてみようかな。
「なるほどな。分かった。君いい身体してるねぇ! うちで働かないか?」
「ここで働かせてください!」
「贅沢な名だねぇ、お前の名前は今日からビナトシだよ」
ふざけあいながらも、きっちりと一時間で店を出た。
「仕事の引継ぎとかいろいろあるから、9月には正式に合流できると思う。確定したらまた連絡するよ」
「ああ! 気兼ねなく連絡してくれぇ!」
海老名は最後にサムズアップをして、夜の街に消えていった。
これで安心だぜ!