MARVEL世界でバットマンやってます。なお転生先はフラッシュ・トンプソン 作:スローダンサー
ニューヨーク ライフ財団 昼
「…………なるほど」
「何かわかったか?」
僕はシシドに聞いた。シシドは首を振って僕の質問に答える。
「電撃を受けたせいかわかりませんが、詳しい解析はできませんでした。申し訳ない。」
「そうか………」
シシドの色が薄いサングラスを見て僕はがっくしと肩を落とす。
今、何をしているのかといえば、ライフ財団の最新機器を使い、僕のマスクがとらえた昨日の惨状を分析していた。
最後に捉えた赤い装束の人物があのような………ひどい出来事を引き起こしたのだ、多分。見つかった死体の中に奴の姿はなかったし。
「とはいえです、フラッシュおぼっちゃま。この少ない秒数の映像でも少しばかりわかりましたよ。」
「そうか………!」
シシドは映像をコマ送りに進める。僕が振り返り、赤い装束を目に合わせ、そいつの頭に何かが飛んでいく。
「これは?」
「ガラス瓶ですな。現場の工場で作られてたものですね。」
「横殴りに飛んでるな。」
「フラッシュ様が気絶する際に回転したでしょ?おそらくその際にぶつかってたまたま吹っ飛んだじゃないでしょうか?」
「そんなコミックみたいなことが………」
「あくまで私の推測ですから。それはともかくここをご覧ください。」
シシドは赤い装束を着た人物の腰をどんどん拡大した。そいつの腰ベルトに何かの装飾がついている。右手の形だ。血のような赤錆色に塗られている。手………まさかこのマークは!
「『ハンド』なのか?」
「左様です。」
シシドは僕の疑問を肯定した。
『ハンド』。『ヤミノテ』とも言われる日本の闇忍者組織だ。『ビースト』なる悪魔を信仰しており、忍術と武術の使い手として一流のメンツが揃う強力な暗殺者集団。危険な連中だ………
「しかしなぜニューヨークに………」
「さあ………しかし昨日の惨状を引き起こしたのにも原因はあるでしょう。カルトというのは意味のない儀式は行わないものですから。」
側から見ておかしくてもと付け加えつつシシドは、さらにしゃべる。
「おそらくこの一回で終わる………なんてことはありますまい。動きには気をつけなければならないでしょう。」
「そうか。監視を増やしておかなくてはな………」
「懸命ですな。」
「それでシシド!犯人は推測できた。だが………なぜ殺し合いが起きたのか、それは掴めたか?」
シシドはこの疑問にも首を振った。
「もし何かしら回収して………それが分析できてきたのなら別ですが。何もないところから魔法のように結果を生み出すことはできません。」
「………僕のせいか。」
「言葉を選ばないならそうですね。」
シシドは手を振った。僕も手を振った。
シシドから放たれた手裏剣を僕は手に持っている。
「フラッシュおぼっちゃま。貴方が私に言ったんですよ?【バットマンになりたい】と。そのために柔術、剣術、忍術、人身掌握術などなど時間をかけて教え込みました。なぜあのように醜態を晒しているのです?」
「………」
シシドに返す言葉がない。僕は【バットマンになりたかった】。そのためにあらゆる努力をしてきた。
「いいですか?貴方は操られ、無闇矢鱈と敵と戦い、とどめを差すことを躊躇い。そしてそのまま逃げ出しました。」
「ああ………」
僕は………あの時僕が思うバットマンじゃなかった。焦りのあまり、あいつを殺そうとした。監獄に入る犯罪者のように。
シシドは僕を見た。彼は僕が初めてみるサングラスをつけている。いつもよりも色味が薄く、見たことのなかった彼の目が僕を石のように固めさせた。
「まず冷静さです。どんなに心が乱れようと感情を前にしてはなりません。貴方は天才的な頭脳と格闘センスはありますが、スペックは常人の上澄みにすぎません。思考を捨ててはなりません。情報を集めなさい。場を整えなさい。そして勝ちなさい。【ヒーローは最後に勝つ】、そのために。」
僕は………
「うん………勝つよ。バットマンとして」
◇◇◇◇◇
ニューヨーク クイーンズ 夜
今日はミッドタウン高校劇団の開演日だ。演目は『アベンジャーズ・アッセンブル!』。僕はキャプテン・アメリカとしてこの劇に出る。もともとバットマンとばれないように演技力を鍛えようと画策して入ったが、まわりまわって、いなくなったら不自然になるほどの重要な役回りを手にしてしまったのは誤算であった。
キャプテン・アメリカ。この名前を知らないアメリカ人はこの地球においてはいない。第二次世界大戦期、ナチスと戦った伝説の兵士だ。
彼のトレードマークである盾。アメリカの信念が込められたそれはダンボールでできたレプリカであっても妙に重く感じる。………今これを僕が持つのか。
衣装をつけた後、僕はしばらく隠れていた。ピーターに会うのが嫌だったのである。嫌だった………自分のせいなのになんで勝手なんだ。こんなに僕は自分勝手だったのか………
いつまでも引きこもるわけにもいかず、扉から外へ出る。道なりに廊下を歩いていたら、目の前にMJと………ピーターがいた。2人ともなんかこう………仲が良さそうで、嫉妬と安堵の気持ちが混ざる。
いかんいかん。平常心だ。心を落ち着かせ冷静さを保て。
「よう、お二人さん!調子はどうだい?」
いつもの声
いつもの笑顔
いつものポーズ
うまく誤魔化せた………と信じたい。
「やあ!フラッシュ!まあぼちぼち?」
「はーい、フラッシュ。ぼちぼちどころじゃないよピーターは。」
えっ。喉が渇いた。さっきまであったはずの唾液がスポンジに吸われたように消える。手の震えを誤魔化すように衣装にべったり手のひらをつけた。馬乗りにしたことで彼は………やばいのか?
「何があったんだい?」
「車に轢かれたんだって」
「………おいピーター病院行かなくて良いのか?」
「幸い無傷だ!骨も折れてないし内臓も無事だ!」
手の震えは小さくなった。それが僕は嫌だった。自分の性根を殺したくなる。
「そうか………今日は頑張ろうな」
なんとか一言、喉の底から取り出せた。声だけは震えなかった。足早にステージへ。ピーターたちから逃げた。僕は………くそっ。
バットマンは、こんな時どうするんだろう。
◇◇◇◇◇
ニューヨーク クイーンズ 現在
赤い装束。客席の客がいつの間に着替えていた。その手には赤い何かしらが入ったカプセル。複数個ばら撒かれる。煙は客席全体に広がり、座っている観客を包んだ。
「なにがおきてるの?!」
らしからぬ声で悲鳴を上げたMJ。彼女の疑問はすぐにわかった。
観客一人一人が隣の観客と乱闘したのだ。老若男女問わず。幼稚園児がバックで成人男性を殴り、女子大生が手に持ったネックレスで中学生の首を絞め、老人が入れ歯で隣の成人女性を殴る。
血は流れるが悲鳴は聞こえない。なぜなら彼らは怒声の見上げるからだ。
一部の観客がステージに登ってくる。僕は盾を投げた。段ボール製の盾はその材質らしからぬ反射性を持って登ってきた観客を吹き飛ばし僕の手に戻る。
他のみんなも観客をなんとか抑えステージの上から落としていた。だが、ただの衣装である。戦うための鎧ではない。
「フラッシュ!」
ピーターの声。………僕ができることはなんだ?考えろ。僕が今すべきこと。冷静になれ。
今必要なのは………ヒーロー!
「皆っ!きけい!」
僕は大声を上げた。観客もピーターたちも僕を見た。
「アベンジャーズ………アッセンブル!」
僕はステージを蹴って観客席へ飛んだ!
◇◇◇◇◇
僕はフラッシュの凶行に、目が飛び出す。一体何故!?
観客はフラッシュに殺到していく。だが彼はその2m近い身長筋力で彼らを引き付け、気絶させ、その数を少しずつだが………減らしていた。
観客がフラッシュ1人を見ている。………そうか彼は囮!僕は唖然としていたステージ上の仲間を逃す。そして最後の1人MJが出口に入れた後、僕は内側から鍵を閉めた。
「今のうちに警察へ!」
「ピーター!?」
「僕はフラッシュの様子を見てくる!」
僕はウェブシューターを手につける。そして音声コマンドを入れた。
「スパイダープロテクターっ!」
飛び出すスパイダーマンのスーツ。とあるヒーローが使っていたスーツ携帯装置をパクったのだ。内側に着る機会がない場合に最適である。その分、防御性を捨てたが、そこまで気にするものでもない。
僕は飛び上がる。観客の手が届かないからだ。そしてウェブシューターから爆弾を打ち出した。
「ウェブクラスター!」
1つが別れ、10、20、30と観客の上にばら撒かれる爆弾。それが破裂すると、蜘蛛の糸が同時多発的に広がり、観客を拘束した。
「はーい、スパイダー急便の到着です!お届け物は蜘蛛の糸になるのでサインどーぞ!」
ウェブクラスターをどんどんばら撒き、暴れる観客を床へどんどん拘束する。だが………数が足りない!一度のクラスターで30人程度。10個しかないのだ。400人以上いる観客には足りない。
生体ウェブは威力が高い、そのためウェブシューターから打ち出さなければならない。この数は計算外である。
「今度はもっと多く持ってこよう。」
泣き言を吐いて解決したら世話ない。だからやるしかないのだ!フラッシュも観客も助けるために。
ウェブを次々打つ。その度に拘束される。クラスターは尽きた。後100人??多すぎる。そしてフラッシュが、1人の観客に足を掴まれ、体勢を崩し、床へ倒れる。その上に観客が乗り始めたのだ。
「あーまずいまずいまずい!!」
僕がフラッシュの方へ行こうとした。
すると………凄まじい衝撃音が響く。会場の一部に穴が。その穴から何かが飛び出した。
それは黒い翼を持った人型の何かだ。高速で射出されたそれは、フラッシュの山へ突っ込んでいく。
ぶつかる寸前、それは煙幕玉(ニンジャマンガで見たことあるやつ)投げることで煙を上げ、周りを隠した。
観客が次々と吹っ飛んでいく。そして煙が晴れるとそこには
バットマンがいた。
キャプテンアメリカの格好をしたフラッシュを抱き抱えている。
その姿は僕の心が震えるほどにかっこよかった。
フラッシュサイドの話です。シシドはバットマンの師匠として彼を導こうとしています。フラッシュはその好意と薫陶を受けバットマンになろうともがいています。彼はまだヒーローじゃありません。
次回は10/15更新予定
タイトルは『ハンド・ハント』
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