漆黒の王女は故郷を乞う 〜帰る場所を探すTS王女と侍女の冒険譚〜 作:a-ru
翌朝、目を覚ました時には、窓の外から朝の光が差し込んでいた。
昨夜は久しぶりにまともな寝台で眠れたせいか、身体の疲れもかなり抜けている。王都を脱出してからは野宿も多かったし、宿に泊まれた日でも追手のことが頭から離れず、熟睡できたとは言い難かった。
けれど今は、少なくともすぐ後ろからレーヴェンの兵が追ってくる心配はない。
「……よく寝た」
「おはようございます、セラさん」
「おはよう、エルミナ」
隣の寝台はすでに綺麗に整えられており、エルミナは着替えも済ませ、新しく買った冒険者向けの服を身につけていた。昨日までの侍女服でも旅装でもない姿にはまだ少し違和感があるけれど、剣を腰に下げた立ち姿は妙に馴染んでいる。
「何時?」
「朝食が始まって少し経った頃です」
「……つまり、私の方が遅かったんだ」
「よくお休みでしたので、起こしませんでした」
「ありがとう」
身体を起こしながら軽く伸びをする。
今日は、冒険者として初めて仕事を探す日だ。そう考えると、昨日までとは少し違う緊張が胸の奥にあった。
国境を越える時のような命の危険を感じるものではない。学校で初めて知らない教室へ入る時に近いというか、これから自分が何をすることになるのか分からない、そんな落ち着かなさだった。
「じゃあ、朝ご飯食べたらギルドに行こうか」
「はい」
「いい仕事があるといいね」
「昨日も申し上げましたが、六級ですからね」
「分かってるって」
エルミナはどうやら、私が六級冒険者というものに夢を見すぎていると思っているらしい。
私だって黒岩迷宮で何度も実戦経験を積んでいるし、冒険者が格好いい依頼ばかりを受けているとは思っていない。それでも、人生で初めて自分で仕事を選ぶのだから、多少楽しみにするくらいは許してほしい。
◇ ◇ ◇
朝食を済ませて冒険者ギルドへ向かうと、昨日とは比べものにならないほど混雑していた。
依頼を受ける者、迷宮へ向かう前に仲間と話している者、素材らしき袋を背負って受付へ並んでいる者。広い建物の中を大勢の冒険者が行き交っていて、昨日よりもずっと「冒険者ギルドらしい」光景に見える。
「朝はこんなに混むんだ」
「依頼を選ぶなら、この時間帯なのでしょうね」
「そっか。いい依頼から取られていくのかな」
「条件の良いものなら、そうでしょう」
それを聞いて、私は少しだけ歩く速度を速めた。
昨日教えてもらった依頼掲示板は、等級ごとに場所が分かれている。一級や二級の掲示板は奥にあり、私たちが向かうのは入口に近い六級用の区画だった。
「さて、どんな仕事が……」
掲示板の前まで来た私は、途中で言葉を止めた。
「…………」
「どうされました?」
「いや……」
目の前に並んでいる依頼票を、一枚ずつ読んでいく。
街路の清掃、倉庫から商店までの荷物運び、市場の片づけ、外壁修理用の石材運搬。ほかにも商家の家具移動や、迷子になった飼い犬の捜索、近郊での薬草採取、街道沿いに生える雑草の除去などが並んでいる。
「……冒険者?」
「冒険者ですね」
「なんていうか、思ってたよりずっと日雇い労働っぽいね」
改めて掲示板を見れば、もちろん外へ出る仕事もある。街から半日以内の場所で採れる薬草の収集や、畑を荒らす小型動物の駆除、城壁付近で見つかった弱い魔物への対応などだ。
ただ、どれも私が想像していた「魔物討伐」や「迷宮探索」とはかなり距離がある。
「迷宮の依頼は?」
「探してみますか?」
二人で掲示板を眺めてみたものの、それらしいものは見当たらなかった。近くにいた受付の女性を捕まえて尋ねてみる。
「すみません。六級で迷宮に入る依頼ってないんですか?」
「原則として、ほとんどありません」
「やっぱり?」
「迷宮内での仕事は、最低でも五級以上を指定されることが多いですね。採取だけであっても、地上より危険ですから」
「戦えるかどうかは関係ないんですか?」
「もちろん戦闘力も考慮されますが、それだけではありません」
受付の女性は慣れた様子で説明を続ける。
「六級は、ギルドから見れば登録したばかりの方です。依頼をきちんと理解できるか、期限を守れるか、依頼品を勝手に処分しないか、無理な行動をしないか。そういったことも、まだ何も分かりません」
「……ああ」
言われてみれば、その通りだった。
「強いかどうかと、仕事を任せていいかどうかは別?」
「そういうことです」
ものすごく納得した。
私自身、戦場でそれを思い知らされたばかりだ。剣が強いからといって軍を率いられるわけではないし、目の前の敵を倒せるからといって戦争そのものに勝てるわけでもない。
冒険者だって同じなのだろう。どれだけ魔物を倒せても、依頼内容を無視したり、依頼人に迷惑をかけたりする人間へ重要な仕事を任せるわけにはいかない。
「だから、最初は簡単な依頼で信用を積むんですね」
「はい。五級への昇級も、討伐数だけで決まるわけではありません」
「なるほど……」
首から下げた昨日の木札へ目を落とす。
六級というのは、単純に弱いという意味ではないらしい。ギルドから見れば、まだ何者なのか分からない新人という意味でもあるのだ。
「ちなみに、街路清掃でも昇級の評価になるんですか?」
「もちろんです。依頼を問題なく達成すれば、正式な実績として記録されますよ」
「外壁修理の手伝いも?」
「はい」
「冒険者って思ったより何でもするんですね」
何となく冒険者という言葉には、剣を持って魔物を倒す人という印象が強かったけれど、実際には依頼を受けて報酬を得る職業なのだ。
困っている人がいて、金を払って誰かに頼みたい仕事があるのなら、それが依頼になるのは当然なのだろう。
「どうしますか?」
エルミナが尋ねてくる。
「掃除でも別にいいんだけど……せっかくだから外に出たいかな」
「私も、その方がよいと思います」
「じゃあ採取系かな」
二人で再び掲示板を眺め、いくつか候補を確認していく。そのうち、私の目に一枚の依頼票が止まった。
「これとかどう?」
内容は、街の西側にある森の手前で採れる薬草の収集だった。
治療薬の材料として大量に使われる種類らしく、必要数はいくらあっても困らないらしい。指定された種類を一定量以上持ち帰れば達成となり、余分に採取した分についても、状態が良ければ追加で買い取ると書かれている。
「場所も近いですね」
「街から歩いて一時間くらいだって」
「危険度も低いようです」
「じゃあ、これにしようか」
依頼票を外し、受付へ持っていく。
「こちらをお受けになりますか?」
「はい」
受付の女性が依頼票と私たちの冒険者証を確認する。
「お二人とも六級ですね。この依頼でしたら問題ありません」
「薬草を取ってくるだけでいいんですよね?」
「指定された種類を規定量以上お願いします。似た植物もありますので、こちらの見本をよく確認してください」
卓上へ、小さな乾燥薬草と図入りの紙が置かれる。私はそれを見比べながら首を傾げた。
「……これ、見分けるの難しくない?」
「葉の裏をご覧ください。こちらには細い銀色の筋があります」
「あ、本当だ」
「根元にも違いがありますが、初心者の方は葉を確認する方が分かりやすいです」
黒岩迷宮でも薬草を採取したことはあるけれど、その時はリディアが種類を教えてくれていた。
考えてみれば、自分で依頼を受ける以上、こういう知識も必要になる。戦うことだけできても、冒険者として仕事をこなせるわけではないらしい。
「採取場所はこの範囲です」
受付の女性が簡単な地図を示す。
「森の深いところまで入る必要はありません。むしろ、六級の方はこの線より奥へ入らないようにしてください」
「危険なんですか?」
「深部に行けば魔物も増えます。今回の依頼で、そこまで危険を冒す必要はありません」
「もし魔物が出たら?」
「街の近くですので、強いものが出ることは滅多にありません。小型魔物程度でしたら討伐していただいて構いませんが、戦う必要はありません。危険だと思ったら逃げてください」
「逃げてもいいんだ」
「当然です」
受付の女性は、むしろ不思議そうな顔をした。
「依頼内容は薬草の採取ですから。魔物討伐は含まれておりません」
「……なるほど」
実に合理的だった。
魔物がいるからといって、わざわざ戦う必要はない。目的を達成し、無事に帰ってくることの方が重要なのだ。
そこで、ハインリヒが以前教えてくれたことを思い出す。迷宮探索での成功とは、敵をたくさん倒すことではなく、一緒に入った全員が生きて戻ってくることだ。
場所や立場が変わっても、その考え方自体は同じらしい。
「では、行ってきます」
「お気をつけて」
こうして私たちは、六級冒険者として初めての依頼を受けることになった。
◇ ◇ ◇
街の西門を出てしばらく歩く。
昨日までなら、追手を警戒しながら周囲を確認していた道だ。それが今日は、薬草を採りに行くために歩いている。
同じ「街の外へ出る」でも、気分はまるで違った。
「なんか不思議だね」
「何がですか?」
「昨日まで逃げるために歩いてたのに、今日は仕事だから」
「平和なのは良いことではありませんか」
「うん。それは本当にそう思う」
腰には剣があり、周囲に注意を払っているのも変わらない。それでも、誰かに追われているわけではないというだけで、景色まで違って見えた。
街道を離れ、教えてもらった森の手前へ向かう。この辺りは定期的に冒険者や兵士が巡回しているらしく、獣道に近い場所でも、ある程度人が歩いた跡が残っていた。
「この辺かな?」
「地図ではそうですね」
「じゃあ探そうか」
受付でもらった見本を取り出し、周囲の草を確認していく。最初の一株を見つけるまでには、思っていたより時間がかかった。
「あった」
しゃがみ込み、葉を一枚持ち上げる。
「銀色の筋……あるね」
「根元も一致しています」
「じゃあ、これで一株目」
根を傷つけすぎないよう、教えられた通りに採取して用意してきた袋へ入れる。薬草採取なんて地味な仕事だと思っていたけれど、実際にやってみると意外と神経を使う。似た植物も多いし、雑に引き抜けば薬効のある部分を傷めてしまうからだ。
「……これ、結構難しいね」
「戦うより難しいですか?」
「種類によるけど、今のところは魔物を倒す方が簡単かも」
「セラさんの場合、比較対象がおかしいのでは?」
「そうかな」
「そうだと思います」
エルミナはそう言いながら、私より早い速度で薬草を見つけている。
「エルミナ、こういうの得意なの?」
「侍女も植物について最低限は学びますから」
「侍女って本当に何でもするね」
「姫様のお世話をするためです」
「姫様」
「……セラさんのお世話をするためです」
「今、間があったね」
「薬草を探してください」
「はい」
どうやら、それ以上は追及しない方がよさそうだった。
それから一時間ほどかけ、二人で少しずつ薬草を集めていく。規定量にはまだ届いていないものの、この調子なら昼を過ぎる頃には十分な量を確保できそうだった。
「新人向けの依頼っていうのも分かる気がする」
「そうですか?」
「危険は少ないけど、ちゃんと仕事にはなってるから」
採取場所を守り、種類を見分け、状態を傷めずに持ち帰る。戦闘力がなくてもできる一方で、適当にやれば依頼は失敗する。
なるほど、ギルドが新人を見るにはちょうどいい仕事なのかもしれない。
そんなことを考えていた時、少し離れた茂みから草を踏み分ける音が聞こえた。私とエルミナは同時に顔を上げ、そのまま腰の剣へ手を添える。
「……何かいるね」
「ええ」
茂みが揺れ、その奥から姿を現したのは、犬ほどの大きさをした灰色の獣だった。額から短い角が一本伸びており、受付でもらった注意事項の中にあった魔物とよく似ている。
「魔物?」
「おそらく」
群れでなければ危険度は低く、六級冒険者でも十分対処できる種類だったはずだ。向こうもこちらに気づいたらしく、低く唸りながら身体を沈める。
「逃げますか?」
「一匹だけだよね?」
「見える範囲では」
周囲の気配を探ってみるが、他に大きな魔力反応は感じない。それなら、こちらから刺激しない限りは問題なさそうだった。
「こっちに来なければ放っておこうか」
「賛成です」
依頼は薬草採取であり、わざわざ戦う必要はない。そう考えて剣から手を離しかけた瞬間、魔物が地面を蹴って一直線にこちらへ突っ込んできた。
「あ」
考えるより先に身体が動く。
一歩踏み込みながら腰の剣を抜き、身体強化を最低限だけ使って横薙ぎに振るった。次の瞬間には、魔物は私の横を通り過ぎ、そのまま勢いを失って地面へ転がっていた。
「…………」
「…………」
先ほどまでの唸り声が消え、森に静けさが戻る。私は剣についた血を軽く払うと、倒れた魔物へ目を向けた。
「……弱いね」
「六級向けの地域ですから」
「そっか」
分かってはいたけれど、思っていた以上だった。
黒岩迷宮で戦っていた魔物と比べれば、ほとんど脅威を感じない。王都防衛戦で相手にした兵士たちと比べても、動きはずっと遅かった。
「これ、六級冒険者でも倒せるんだよね?」
「そう聞いています」
「私、目立たないようにした方がいいんだよね?」
「そうですね」
そこで、少し嫌なことに気づいた。
今は誰も見ていないから問題ない。けれど、今後は他の冒険者と一緒に仕事をすることもあるだろうし、人前で戦う機会だって出てくるはずだ。
その時に普段通りの動きをしてしまえば、少なくとも六級冒険者には見えない可能性が高い。
「もう少し手加減した方がいいかな」
「戦闘中にわざと弱く動くのはお勧めしません」
「危ないから?」
「はい。それに、身体に染みついた動きを無理に変えれば、いざという時に判断を誤ります」
「それもそうか……」
目立ちたくはないけれど、そのために自分たちの命を危険へ晒すのも馬鹿らしい。どう振る舞えばいいのかは、今後少しずつ考えていくしかなさそうだった。
「まあ、今すぐ考えても仕方ないか」
「そうですね」
「とりあえず薬草集めよう」
「はい」
剣を鞘へ戻しかけたところで、ふと思い出す。
「……これって、素材とか取れるのかな?」
「ギルドへ持ち込めば買い取ってもらえるかもしれませんね」
「じゃあ持って帰る?」
「丸ごとですか?」
「…………」
改めて倒れた魔物を見る。
犬ほどの大きさとはいえ、そこそこの重量はありそうだ。せっかく昨日荷物を減らしたばかりなのに、これを担いで帰るのはあまり気が進まない。
「……角だけでいいかな」
「その方がよろしいかと」
結局、素材として売れそうな角だけを回収し、薬草採取へ戻ることにした。
六級冒険者になって初めて受けた仕事は薬草採取で、途中に現れた魔物も新人向けの地域に出る程度の弱い相手だった。今のところ、冒険者としての初日は驚くほど平和に進んでいる。
けれど、こういう一日も悪くない。
国を取り戻すことも、父上たちを探すことも、地球へ帰る方法を見つけることも、すぐにできることではない。だったら今は、こうして一つずつ自分にできることを増やしていけばいい。
「エルミナ、そっちにあった?」
「三株ほど」
「こっちも二株見つけたよ」
「では、あと少しですね」
「うん」
私は再びしゃがみ込み、薬草の葉を一枚ずつ確認していく。
それからさらにしばらく二人で探し続けると、昼を少し過ぎた頃には規定量を十分に超える薬草が集まっていた。余分に採れた分も状態が良ければ買い取ってもらえるので、傷まないよう袋へ収めてから街へ戻ることにする。
◇ ◇ ◇
西門をくぐり、冒険者ギルドへ戻った頃には、朝の混雑もかなり落ち着いていた。
受付で依頼票と冒険者証を出し、採取してきた薬草の袋を差し出す。
「依頼の薬草を持ってきました」
「お疲れさまでした。確認しますね」
受付の女性が袋の中身を取り出し、一株ずつ種類と状態を確認していく。
採取している時にはそれなりに自信があったのに、こうして目の前で確認されると少し落ち着かない。
「……間違ってないよね?」
「確認して採ったはずですが」
「そうなんだけど」
「試験結果を待つ学生のようですね」
「似たような気分かも」
しばらくして、受付の女性が最後の一株を置いた。
「はい。問題ありません」
「本当?」
「指定された薬草だけですし、状態も良好です。規定量を超えた分についても買い取りできますよ」
「よかった……」
思っていた以上に安心した。
魔物を倒すより、薬草の種類を間違えていなかったことの方が嬉しい気がする。
「こちらで依頼達成となります」
そう告げられ、私たちの記録へ初めて一件の実績が加えられる。
六級冒険者として受けた、最初の依頼。
街から一時間ほどの森へ行って、薬草を採って帰ってきただけだ。それでも、正式に一つの仕事を終えたのだと思うと、少しだけ胸がくすぐったかった。
「あ、それと」
持ってきた荷物を見て、私は思い出した。
「途中で魔物に襲われたんですけど、この角って買い取ってもらえますか?」
「拝見します」
布で包んでいた角を渡すと、受付の女性は慣れた手つきで確認した。
「この辺りに生息している小型魔物のものですね。品質も問題ありませんので、素材として買い取れますよ」
「よかった。捨てなくて」
「丸ごと持って帰らなくて正解でしたね」
「私も途中でそう思った」
犬くらいの大きさとはいえ、薬草と一緒に担いで帰るのは大変だっただろう。薬草の追加分と角の買い取り額が計算され、最後に依頼そのものの報酬が加えられる。
「では、こちらが今回のお支払いです」
受付の女性が硬貨をまとめて差し出した。私はそれを両手で受け取り、しばらく手のひらの上に載せたまま眺める。
「……どうされました?」
「いや……」
銀貨や銅貨そのものが珍しいわけではない。
王女だった頃には、もっと大きな金額が動く場面をいくらでも見てきた。王宮の予算や物資の話を聞けば、この程度の金額など端数にもならないだろう。
けれど、今手の中にある硬貨は、それまでのお金とは少し違って見えた。
「これ、私たちが稼いだお金なんだね」
「そうですね」
エルミナが隣から覗き込む。
「薬草を採った報酬ですが」
「それでもだよ」
地球では十六歳まで学生で、この世界では十八年間王女として生きてきた。
三十四年分の記憶があるのに、自分で仕事を選び、その仕事を終えて、生活するためのお金を受け取ったのはこれが初めてだった。
「……なんか嬉しいね」
「それは何よりです」
「これで今日の宿代くらいにはなる?」
「二人分となると、少し足りないかもしれません」
「そっかー」
初仕事一回で暮らしていけるほど甘くはないらしい。
それでも構わなかった。
今日は自分たちで働いて、昨日までよりほんの少しだけ手持ちの金を増やした。依頼を一つ終え、ギルドにも実績が一件残った。
昨日までの私は、王都から逃げ延びることだけで精一杯だった。
けれど今日からは、少しずつでも前へ進んでいける。国を取り戻したわけでも、父上たちを見つけたわけでも、地球へ帰る方法へ近づいたわけでもない。
六級冒険者セラとしての最初の仕事は、森で薬草を集めるという、ひどく地味な依頼だった。
それでも、自分たちの力で今日を生きるためのお金を稼いだ。今の私には、そんな一歩から始めるくらいがちょうどよかった。