「─────」
護庭十三隊十番隊隊長、日番谷冬獅郎は絶句する。
突如として、目の前に現れたその人物に。
見上げたその人物の霊圧は、自身の知るソレとはかけ離れたもので、故にまだ目の前に現れた“ソレ”が彼女であると決定づけることはできなかった。
だが、それを抜きにしても、決定的な証拠が、その人物の右手に握られていた。
「・・・・・・氷輪丸・・・・・・俺と同じ・・・・・・斬魄刀?」
その人物の右手に握られていたのは、自分が背中に背負った斬魄刀とまったく同じモノだった。
通常の刀よりも長めの刀身に、柄頭から伸びた三日月状の刃を持つ鎖鎌。そして4つの花弁を模した黄色い鍔。
これだけでも、決定的な証拠だった。
いや、むしろ動かぬ証拠だと言える。
なぜなら・・・・・・自分以外に、この斬魄刀を持つ者など、彼女以外に、いるわけがないのだから。
「テメエ・・・・・・何者、だ」
相手の手に握られる氷輪丸を警戒しながら、冬獅郎もまた背中から同じ氷輪丸を引き抜いて正眼に構える。
対して相手は、同じ氷輪丸を握る手をダランとぶら下げながら、そんな冬獅朗を見下ろしていた。
相手の容姿は、小柄な死神の女性のように見えた。女性のように見えた、という表現を用いたのは、相手の顔が面に隠されて見えていなかったからだった。
服装は一般的な護庭十三隊の死神隊士が纏う黒い死覇装の上に、緑がかったボロボロのマントを羽織っている。
そしてその素顔を────虚のモノと思しき仮面で隠していたのだ。
口がなく、目の穴らしきものが頬の部位にかけてまで6つもある仮面。そしてその人物からは感じる霊圧は、紛れもなく
だが・・・・・・そんな冬獅朗の問いに答えるかのように、虚の仮面を被った死神の女性は・・・・・・面を半分だけずらし、その裏にある素顔を冬獅朗に分かるように覗かせた。
「噓・・・・・・だろ・・・・・・」
今度こそ、狼狽えを隠せない冬獅郎。
その顔を見違える筈がない。
虚化の影響か、その白目は黒く染まり、黄色い瞳孔を覗かせているといった差異はあったものの、その瞳に理性の色は失われていない。
あの時のままだった。
それでも信じたくない様子で震える冬獅郎の様子に何を感じたのか、その死神の“少女”はずらしたその仮面を消し、虚化を解いたその素顔を完全に顕わにした。
今度こそ、見違える筈がなかった。
逃避のしようもない。
あの日、四十六室の部屋で、冬獅朗自身の手で討った、大切な幼馴染みの少女。
自分の手で殺した。
ただ、同じ斬魄刀を持っているという理由だけで、奴らに、目の前の彼女と殺し合いを強要させられ、そして自分は、彼女を斬った。
そして、後に隠密機動の手によって彼女は完全に屠られたと聞かされ、冬獅朗の心に大きな影を落としたあの出来事を、忘れられる筈がない。
そんな彼女が、今、目の前に立って、冬獅郎を見下ろしている。
「・・・・・・久しぶりだね、“シロちゃん”」
「────ハ」
あの時と、まったく変わらない呼び方。
────もう、シロちゃんじゃねえ。
────日番谷隊長だ。
・・・・・・そう言い返せれば、どれだけ楽だっただろうか。
死んだと思っていた幼馴染みの顔は、あの時と寸分も変わらなかった。強いて違いを挙げるとすれば、右目の目元に火傷の跡があることくらいか。
「なん、で・・・・・・」
言葉が、うまく出ない。
斬魄刀を握る手が、喉が、足が、胴体が、震える。
喜ぶべきはずなのに。
生きていてよかったと、そう叫びたいのに。
押し寄せる罪悪感が、そんな資格などお前にはないと言わんばかりに、その言葉が出るの遮る。
震える手に握った氷輪丸は、目の前の彼女を葬った凶器そのものだ。
────巫山戯るな。
────コイツと斬り合うくらいなら、俺は氷輪丸を捨てる!
かつて、四十六室の理不尽な命令に対し、冬獅郎はそう宣言して異を唱えた。
結局自分は、氷輪丸を捨てることができなかった。いや、絆を育んだ今となって捨てるという選択肢すら頭にない。
だから、同じ氷輪丸を持つ彼女が生きているということは・・・・・・また、彼女と殺し合いをしなければならないのかと、戦々恐々とした感情が冬獅朗の頭を支配する。
「なんで、生きて・・・・・・?」
恐る恐る見上げた彼女の顔からは、冬獅郎を恨むような気配は感じない。
心なしか、泣きそうな顔になりながらも、冬獅郎を憎むような闇は一切感じられなかった。
それが余計に、冬獅郎の胸中を焦燥へと誘った。
最早、この場において、十番隊隊長を名乗れる人物などいない。
彼女の前では、ただの冬獅郎でいることしか、彼にはできなかった。
冬獅朗の疑問に、彼女──雛森桃は困ったように微笑んだ。
気まずそうな笑い。
そこからは邪気は感じられない。
「俺を・・・・・・憎んで、ないのか?」
そんな問い、聞くまでもなかった。
彼女は、どこまで優しく、そして明るい少女だったから。
それでも冬獅朗は聞かずにはいられなかった。
そんな冬獅郎の、絞り出た疑問に、雛森は目を瞑りながら首を横に振って否定する。
その返答はある意味、冬獅朗にとっては残酷だった。
いっその事、一思いに恨んでくれれば、一思いに殺しに来てくれれば、自分は躊躇もなくそれを受け入れられたというのに。
だからこそ、冬獅朗の中に次の疑問が浮かび上がった。
ならば、なぜ今彼女は、斬魄刀を──氷輪丸を抜いて自分の前に立ちはだかっているのだろうと。
自分を恨んでいないというのであれば、また別の理由が。
「ごめんね、シロちゃん」
「ッ!?」
雛森の言葉に思考が遮られ、冬獅朗は思わず氷輪丸を構える。
敵意は感じない。殺意も感じない。
だが、此方を押しつぶすような霊圧を、冬獅朗は明確に感じ取った。
その霊圧は隊長格と遜色ないモノであり、護庭十三隊の死神として構えざるを得なかったのだ。
だが、途端に頭にフラッシュバックしてしまう。
「ッ!!」
四十六室の会議室の真ん中で、彼女と斬り合った光景を。
自分の刃を受け入れた、彼女の悟ったような笑顔を。
忘れられない、その光景を。
トラウマに苛まれる冬獅朗の事などお構いなし、雛森は発した霊圧を冬獅朗に向けたまま、謝罪した。
「今はこうするしか、ないの。だからごめんね“シロ”ちゃん・・・・・・
「ッ、
卍解・・・・・・彼女の言葉に身構えた冬獅朗もまた、オウム返しのように叫んでしまう。
だが、もう止められなかった。
敵意も、恨みもない。
だが、その言葉だけで、彼女は本気で自分の前に立ち塞がっているということだけは、理解してしまった。
そして、2人の姿が変わる。
「
「
同じ斬魄刀が、しかして異なる卍解形態となって、激突した。
◇
・・・・・・どうして、どうしてこうなったんだろう・・・・・・。
・・・・・・シロちゃんとは、もう斬り合いたくないのに。
・・・・・・運良く、劇場版の草冠と同じように王印の力で生き残れたから、後は
・・・・・・あぁ、でも・・・・・・シロちゃんの曇り顔・・・・・・やっぱり素敵だなぁ・・・・・・。
そんな思考をしながら、
Q.なぜ四十六室で冬獅朗の刃を受け入れた時、笑顔になったんですか?
オリ主「シロちゃんの絶望顔があまりにも最高すぎて」
尚、斬り合い自体はしたくなかったし、最初から見たいと思って斬り合いをした訳ではない模様。
ちなみに草冠とは異なり卍解は習得済みで、虚化もできる。仮面の形は映画で草冠が付けてた仮面と同じ。