白川徹心の神殺しの生は、始まって早三年が経とうとしていた。
彼の神殺しは火之迦具土神に始まり、次いでクー・フーリン。そして北欧の狩猟神ウル。
三年の間に白川徹心が殺した神は、三柱であり、決して多くはない。
彼はサルバトーレ・ドニのように、強敵を求めて神を探し歩く男ではないからだ。
だが、人の世に災いをもたらす神が現れたと聞けば――白川徹心は、自ら赴いた。
実際、ウルを殺したのは、賢人議会による依頼があったからだ。
神と戦いたいからではない。神を殺す必要があるからだ。
彼のルールは明確だ。殺すと決めた相手を確実に殺せるのなら、その代価が己の命であろうと躊躇しない。それがかつてクー・フーリンから『獣の理』で生きていると評された、カンピオーネ白川徹心の在り方であった。
だが、それは成長がないということではない
「ふっ!」
徹心の呼気と共に銀光が走る。一振りの刀が、飛来した呪弾を両断した。白川徹心の手にあるのは、かつて火之迦具土神を殺した十握剣ではない。
妖刀――《鬼哭》。三年の研鑽を経て、その刃はすでに徹心の手に馴染んでいる。剣を握ったことすらなかった青年は、今や一流と呼んで差し支えない剣士となっていた。
そして、剣以上に目覚ましい成長を遂げたのが呪術だった。月輪家が徹心を婿として選んだ理由――その潜在的な呪術素養の高さは、皮肉にも正しかったのである。中でも徹心が得意としたのは符術だった。
「義兄さん、素直過ぎる!それじゃあ、何を用意しているか丸わかりだよ。土剋水!」
用意した呪符を媒介に徹心が術を発動させるより早く、土行の呪術が展開される。
五行相剋。土は水を剋する五行の理。義兄の用意した呪符が水行であることを見抜いた千鶴は、その弱点を正確に突いたのだ。術理としては申し分ない。呪術師としての技量ならば、今なお千鶴の方が上なのだから。
「水瀑布」
だが、有り余る呪力を注ぎ込まれた水行の術は、五行相剋の不利すら強引に覆した。突如顕現した大量の水に四方八方から飛ばされた土の槍は、なすすべなく押し流される。術者の技量では千鶴が勝っていた。相剋の理も、千鶴に味方していた。ただ一つ、込められた呪力の量だけが、比較にならなかったのである。
「うーん、理不尽。完全に読んでいた千鶴ちゃんの術を、呪力量の暴力だけで押し通すなんて」
瑞穂はその理不尽な情景を呆れたように解説する。とはいえ、もうすっかり見慣れたものなので、驚きは特にない。
「義兄さん……相剋を力ずくで覆すのは反則だと思う。というか、技量を磨くのが目的なんだから、強引なのは駄目だよ」
「いや、俺が身につけたいのは実戦での使い方だからな。強引でも押し切れると思えたなら、そうしないでどうする」
千鶴は注意するが、徹心からすれば、あそこで呪符を変えるのは不合理そのものなのだから。
「カンピオーネは覇者にして絶対の勝者というけど……それにしたって、徹心君の戦闘適性は異常ね。剣術はたった三年で一流、呪術も才能があったとはいえ、習得速度がおかしすぎるわ」
「本当にそうですよね。私、これでも物心つく前から厳しい薙刀の修練を受けてきたんですけど、今じゃ間合いで劣る剣の義兄さんに互角ですよ。なにかが根本的におかしいです。呪術なんかもっと意味不明だし」
瑞穂の言葉に我が意を得たり大きく頷く千鶴。それほどまでに徹心の成長速度は異常だった。
「全くそのとおりね。心眼なんて簡単に身につけられるものじゃないっていうのに」
「でも心眼といっても、俺の場合は元からあった勘を鍛えただけなので、ちょっと邪道な気がします」
「邪道だろうとなんだろうと身についているなら、それで十分なのよ」
中華の武侠達が心眼之法訣と呼ぶそれは、断じてそんなお手軽に習得していいものではない。これを独学で習得したというサルバトーレ・ドニに負けず劣らず、徹心も大概であった。
「私がようやく今年になって習得できたものを、義兄さんはたった一年で身につけちゃったんだよね……。現実って不公平だと思う」
千鶴の何とも言えない感想に、徹心は慰めに入る。いや、入ったつもりだった。
「でも千鶴は、俺が剣を握るよりずっと前から薙刀を鍛えてきただろ。技の精度なら今でもお前の方が上だと思うし、十分凄いぞ!」
「……義兄さん。それ、慰めのつもり?」
「いや、事実だが」
「そんな私とたった三年で互角に戦えてるから不公平だって言ってるの!」
千鶴は、いまいち分かっていない義兄に対し、吼えるのだった。
「……千鶴ちゃんも大変ね」
瑞穂はそんな兄妹のやりとりを見つめながら、素直な感想を漏らす。
あの後輩は、義妹の怒りの理由も不満も理解しているだろう。ただ、自分の努力より千鶴の積み上げてきた努力の方が凄くて、価値があると純粋に思っているだけなのだ。
◇ ◇ ◇
ところ変わって欧州。六人目の神殺しにして『剣の王』の異名を持つ『サルバトーレ・ドニ』は自身を盟主と仰ぐ魔術結社から託された神具ゴルゴネイオンを見て、ニヤニヤしていた。
「あの時は怪我が酷すぎたし、全力で戦うのは難しそうだったから、僕には珍しく自重したけど、今の徹心は完全に回復して、剣術を習い、一人前の剣士になっているそうじゃないか。この間、こっちで神様殺してたし、どんな権能を手に入れたのか楽しみだなあ!今回は絶対に我慢なんてしないんだ!」
ドニは喜色満面で叫んだ。なんと言っても、彼の親友(一方的にそう思っているだけ)護堂との戦いは、これ以上無く彼の剣を研ぎ澄ませていたからだ。師匠が言っていた通り、同胞やまつろわぬ神との戦いこそが、自分の剣の境地を高めるのだと確信していた。
「おいバカ、何、不穏なことを言っている!こちとら、お前の起こした草薙護堂との戦いでの後始末で手が回らないんだ!絶対に余計なことをするなよ!」
ドニの執事を務める『アンドレア・リベラ』はドニの旧友にして側近の大騎士であり、数少ない、ドニに対して正面から容赦なく説教や痛罵ができる常識人だ。そんな彼は、ドニの悪巧みを敏感に察知し、心底嫌そうな顔で釘を刺す。
「アンドレア、今回ばかりは君の言うことでも聞いてあげられないな。それに君にとっては好都合かもしれないよ。なにせ、これを狙った神様がすぐ近くまで来ているみたいだからね。むしろ、君のためになると僕は確信している」
「なっ、なんだと!?」
すでにまつろわぬ神がゴルゴネイオンを狙って、近隣まで来ているという驚愕と衝撃で、思わずリベラは言葉をなくし、呆然と立ち尽くす。結果、ドニの行動への対処が完全に遅れてしまった。
「フハハハ、さらばだアンドレア。また、会おう!」
徹心と護堂、最近現れた王が二人とも日本人だったので、興味本位で漫画や小説など読んでみたのだ。ド二のそれは元ネタとはまるで似合わぬ口ぶりだったが、その逃げっぷりは、元ネタ以上であった。
◇ ◇ ◇
「なんだか、とてつもなく嫌な予感がする」
ドニがイタリアから日本へ行こうとしていたその頃、日本では一人の少年が言い知れぬ予感を感じて身震いしていた。彼こそは『草薙護堂』。勝利の神ウルスラグラナを殺してその権能を簒奪した八人目のカンピオーネであった。
「なによ、護堂。この状況でそんなことを言うのは、あまりに淑女に失礼ではなくて」
護堂の腕をガッチリと女性らしからぬ力で掴み、強制的に腕組みをさせている金髪の美少女『エリカ・ブランデッリ』はさも心外であるという顔を見せた。
「お前のことじゃない。いや、そんなレベルじゃない」
護堂は認めないだろうが、彼はエリカをそれなりに好ましく思っているのだ。彼女の来訪は、厄介事を持ってくることはあっても、彼にとって嫌なことではない。
今回感じたのは、純然たる嫌な予感、凶兆ともいうべきものだ。
「魔王であるあなたがそんな風に言うってことは、笑い事じゃ済みそうにないわね」
護堂のでたらめっぷりを誰よりもよく知るエリカは、彼の勘の鋭さも良く理解している。その彼がここまで言うのだ。とんでもないことが起きるに違いない。
「まさか、お前に聞いた日本の先輩魔王がドニみたいに突っ込んでくるわけじゃないよな?」
イタリアでのドニとの死闘を思い出し、心底げんなりする護堂。日本初の王、護堂の先輩にあたる人もドニの同類かもしれないのだから、無理もない。
「七人目の魔王白川徹心様ね。彼の御方はそれ程好戦的ではなく、自分から喧嘩を売りに来るような真似をされる御方ではないと聞いているけど、あなたやサルバトーレ卿の同類だものね。……どこまで信用できるかしら」
「嫌なことをいうなよ!日本でまで、ドンパチやりたくないぞ!」
「まあ、大丈夫だと思うわ。彼の御方の傘下である日本の正史編纂委員会はまだあなたに接触してきていないのでしょう?これはあなたを甘くも軽くも見ていないということだろうから」
エリカは、未だに護堂へ正史編纂委員会が接触していない現状から、そう読み解く。
実は彼女からすると拍子抜けである。必ず取り込みにかかると見ていたのだから。ゴルゴネイオンを護堂に渡すプランを早々に諦めて、少々強引に同じ高校に入学したのは、彼の隣を誰にも譲る気がないからだ。
「そうなのか?」
「だって、あなた達カンピオーネって、生きた災害そのものよ。そんなものが自国内で野放しになっているのよ。首輪をつけたくなるのは当然でしょう?」
(まあ、白川卿がすでにいらっしゃるから、殺した神の数や実績でも上だし、恐るるに足らずということなのかしら?もし、そうならそれは大きな勘違いだけれど……。)
「酷い言われようだが、言わんとするところは分かる。そうすると、そのナントカ委員会だったか?それが接触してこないのには何か理由があると」
護堂もエリカの言に一理も二理もあることを認めざるをえない。カンピオーネというのは、それ程のトンデモ存在なのだから。
「それは違います。私達は動かなかったわけではなく、軽々に動くことを禁じられていたからなのです。
お初におめにかかります、草薙護堂様、エリカ・ブランデッリさん――。立ち聞きについてはお詫び申し上げます。声をかけようと待っていたところに聞こえてしまったものですから」
エリカと護堂の疑問に答えたのは、二人を待っていた巫女装束の美少女だった。やや淡い色合いの、栗色の長い髪が美しい。彼が一瞬目を奪われたことに気付いたエリカは、全力で護堂の腕をつねった。
「ようやく来たのね。あなたは正史編纂委員会の巫女ということでいいのかしら?」
「はい、私は武蔵野を守護する巫女の一人で、万里谷祐理と申します。草薙様のご同朋である白川卿の勅命を受け、あなた様の見極めを命じられました」
「見極め?」
「失礼ながら、御身の魔王としての真贋です。今となっては愚かなことですが、お許しを。委員会としても、まさかこうも短期間に連続して王が生まれるとは信じたくなかったものですから」
言葉を慎重に選ぶように話す祐理。
「俺がカンピオーネであると、どうして君は断言できるんだ?」
護堂は純粋な疑問から問う。
「それが私の力ですから。私の目は、この世の神秘を読み解く霊眼なのです。私は白川卿だけでなくヴォバン侯ともお目にかかったことがございます。カンピオーネ――羅刹の君と尊称される方々を見誤ったりはしません」
祐理は静かな自信を持って断言する。
「……なるほど。つまり、白川卿は護堂の存在をご存じでありながら、今まで接触を控えさせていたということね」
祐理の言葉に、エリカは内心で彼の王に対する警戒を二段階ほど上げる。
「はい、ただ平穏に生活しているなら、放っておいてやれと仰っていました」
「えっ!?」「!?」
予想外の答えに、護堂とエリカは揃って驚愕した。
「もしかしていい人なのか!?」
護堂は、初めて理解者が現れたと喜色満面である。
「待ちなさいよ、護堂。それなら、なんで今あなたが接触してきているの?おかしいじゃない?」
エリカは理解し難い白川徹心の命令。委員会がそれに従っているというのなら、いまこうして祐理が来ているのはおかしいのだ。
「いえ、これは私達にとっても、予想外の事態なんです。草薙様は、サルバトーレ卿をご存じですよね?」
祐理は、心苦しそうに答える。
「ドニの奴か、もちろん知ってるけど」
「御身と争われたサルバトーレ卿が、意味ありげな神具を持って、日本へ向かっているとの報告が入ったのです。それも王の執事たるアンドレア卿から直接」
「「……」」
護堂が先ほど感じた嫌な予感を全力で肯定する爆弾情報に、護堂とエリカは揃って言葉を失うのだった。
執筆速度は遅くなるが、AI使わない方がいいか?
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いや、読めればいいのでジャンジャン使え
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会話がくどいので、そこは直してほしい
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いや、調べ物&名前候補以外に使うなよ
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甘えるな、全部自筆でいけ