サルバトーレ・ドニが来ると聞いて、徹心が思い出していたのは、彼との出会いだった。
あの時は、クー・フーリン戦からそう時間はたっておらず、どうにかこうにか、立って動ける程度にしか回復していなかった。いや、賢人議会が派遣してくれた術士や医師は、その異常な回復速度に目を剥いていたのだから、十分異常だったが。
「やあ、君が七人目だね?ちょっと提案なんだけど、僕と決闘してみない?」
ドニは何でも無いことのように、唐突にそんなことを言った。
不思議なのは、初対面なのに徹心がカンピオーネであると確信していることだろう。まあ、徹心自身、こいつは神殺しだと分かってしまったので、そこは同胞ゆえの理解なのかもしれない。
「嫌です。というか、見て分かりません?決闘できるような状態じゃないですし、決闘する理由もありません」
徹心の肉体は誰が見てもボロボロだ。治癒の術と医療処置で、全身は包帯塗れだし、繋げたばかりの腕は違和感が大きく、未だ満足に動かせない。何より、彼にはドニと決闘する理由がなかった。
「僕たちカンピオーネは、同族と神様以外まともに勝負になる相手がいないんだ。命のやりとりこそが最大の鍛錬だからねえ。剣を磨くにも相手に困ってしまう。というわけで、君と戦いたい」
ドニは君の利益にもなる最高の申し出をしたと言わんばかりだったが、徹心は心底げんなりした。
「いや、俺の肉体は満身創痍でやり合える状態じゃないって言ったよな。そこが何も解決していないんだが」
徹心の言葉に、ドニはとても不思議そうに言う。
「だって君、そのままでも戦えるだろう?むしろ、そのままが一番怖いまであるよね?」
「……」
徹心は答えなかった。ドニの気配に臨戦態勢に入っていた肉体はすでに最高潮だ。彼の決闘の申し出が引き金となって、《死境の獣》が発動し、すぐさま肉体を戦える状態にしているのだ。
「いいね、今の君はまさに手負いの獣というわけだ。その牙がどれ程のものか確かめてみたい」
「ご冗談を……殺すぞ」
挑発するようでそれでいて楽しみだと言わんばかりのドニに、初めて徹心が牙を見せる。瞬間、部屋の中は殺気というのも生温い鬼気に支配され、ドニ以外の人間は全員指一本動かせなくなった。まるで、少しでも動きを見せれば、目の前の獰猛な獣に、喉笛をかみ切られるというように。
「いいね、最高だ!これ程の殺気は僕も覚えがない。なるほど、君の本質はそれかー」
鬼気が支配する空間で、ドニはさらに笑みを深める。まるで思った以上の獲物にありつけたといわんばかりだ。
「もう一度言う。これは警告だ。もしここで決闘を強要するなら、貴様が絶対に望まない形の殺し合いにしてやる」
徹心は絶対零度の視線をぶつけ、ドニが求めるものを何一つ与えるつもりはないと告げた。
「……ハッタリといいたいところだけど、君はそれが出来そうな怖さがあるからなあ。確かに、今の君の状態では本当の意味で僕が望む戦いになりそうにないことは事実か。分かった、今回はひいておくよ」
ドニは少し思案した後、意外なことに諦めた。心底残念そうだったが、その言葉は嘘ではないようだ。
「……」
徹心は何も言わない。余計なことを告げれば、瞬時に前言撤回して剣を抜いてもおかしくない男だと本能的に理解しているからだ。
「残念だ、本当に残念でならない。でも、君という殺意の獣を斬るのを諦めたわけじゃないよ?忘れないでくれ」
「覚えておこう。だが、お前も忘れるな、次はない」
互いに譲れぬものを譲らぬまま、その初めての邂逅は終わったのだった。
「そうかドニ。文字通り殺し合いをお望みのようだな。草薙君で味を占めたか?」
徹心は剣を極めるためなら、手段を選ばないであろう剣の王を思い出し、仕方が無いと溜息をついたのだった。
「まあ、あの方だものね」
呆れたように同調する瑞穂。なにせ、あの邂逅の時居合わせていたのだから、ドニがどういう人物か、彼女も理解しているのだ。
「聞いてはいたけど、本当になんというか……」
千鶴は言ってもいいのか、言ったら不敬になるのではと、自らの感想をそれ以上言葉にしなかった。
「千鶴、遠慮はいらない。はっきり言っていいぞ。剣バカと」
「あははは」
徹心の断定に、千鶴は乾いた笑いを漏らすしかなかった。
「草薙君への連絡は済んでいるんだな?」
「ええ、霊視に優れた媛巫女である万里谷祐理が派遣されているはずよ」
瑞穂の答えに、徹心は決まり悪そうな顔をした。
「あの娘か、確かに優秀だったが、彼女は見え過ぎる……大丈夫か?」
「ああ祐理さん、確かに心配だよね。義兄さんのことを見て、恐怖で気絶しちゃったものね」
徹心の言葉に千鶴も心配そうに言う。祐理と徹心は会ったことがある。というか、委員会の計らいで、四家同席の下、現在媛巫女の地位にいる者全員と顔合わせをしている。その席で、一騒動あったのだが、その原因となってしまったのが、彼女だったのだ。
「いや、あれは本気で驚いた。それでいて、口ではこっちの来歴を語るんだから、シュールにも程があったな」
「あの娘は今いる媛巫女の中でも、霊視ならば抜きん出ているから。徹心君と直接会ったことで、運悪くそれが最大限に働いてしまったんでしょうね」
霊視は、過去に起きた出来事をそのまま映し出すものではない。瑞穂や冬馬にも、祐理が何を見たのか正確には分からなかった。ただ、凄惨な神殺しの一部始終か、あるいは徹心の黒炎の本質に触れたことだけは確かだった。
あまりにもドス黒い殺意にまみれたそれを。
当時、まだ中学生だった彼女を恐怖で気絶させるのは十分過ぎただろう。
「そのせいで、未だに義兄さんは祐理さんに怖がられているものね」
「仕方ないことだ。……いや、頭では分かっているんだがな。つくづく自分が魔王様だと理解させられたよ」
千鶴のおかしそうな様子に、徹心は何とも言えない表情で憮然とする。
「まあまあ、でも徹心君の草薙様への対応は良かったと思うわよ。私や君みたいな呪術に全く関係ない生まれの人間にとっては、平穏で普通の生活こそが幸せでしょうからね」
「自分の意思で神を殺した人間に何を甘いことをと思わないわけでもないが、相手は未成年で学生だ。学生時代の青春は貴重なものだからな」
徹心自身、勉強とバイト尽くしだったとはいえ、高校生活は楽しいものだったからだ。少なくない数の友人もできたし、一部は今でも連絡を取り合っている親友になっている。
「義兄さん、私に口を酸っぱくして学校には行けと言ったものね」
千鶴が口をとがらせて不満げに言うが、徹心はどこ吹く風だ。
「青春は二度と戻らないものだ。そして、学校生活でしか得られないものもある。お前には、そういう楽しさも知ってほしかったんだ」
「うふふふ、こればっかりは徹心君が正しいわ、千鶴ちゃん。実際、楽しかったでしょう?」
「それはそうかもしれないけど……」
徹心と瑞穂の言葉に、千鶴は声を小さくする。
確かに楽しかった。それは認める。同級生と連れ立っての買い物や、下校時の買い食いなど厳しくしつけられてきた彼女には考えられない高校生活だった。この世は呪術だけではないと知れた。千鶴の世界は、確かに広がったのだ。
だが、それでも千鶴の最大の望みは義兄のために、巫女として、術者として大成することなのだ。それを善意とは言え、当の本人に邪魔をされたのは面白くない。
「まあ、俺の意思を押しつけたのは事実だ。そうだな、ドニの一件が終わったら旅行でも行くか?どこか行きたいところがあったら、連れてってやるぞ」
「徹心君、それ死亡フラグじゃない?というか、あなたが旅行に行くって、騒動になる未来しか見えないんだけど」
「考えておくね、約束だよ」
瑞穂の言葉を縁起でもないと思いながらも、千鶴は義兄との約束をしっかり勝ち取るのだった。
◇ ◇ ◇
それは祐理と会った翌日だった。エリカはあまりの非常事態に、結社への連絡を取るため別行動となり、祐理もまた委員会への報告があるとしていなかった。護堂にしては珍しい一人での帰り道。まるでそれを狙っていたかのように、その男は襲来した。
「やあ、護堂。我が友よ、元気にしていたかい?」
「げっ、ドニ。マジで復活しやがったのか!」
その男こそ、剣の王サルバトーレ・ドニであった。彼はまるで十年来の親友に語りかけるように、親しげに護堂に声をかけてきたのだった。護堂は信じたくなかった現実が目の前にあることに、凄まじい虚脱感を覚えた。
「親友たる僕に酷い言いようだな。折角、君のために素敵なプレゼントを持ってきたっていうのに」
「誰が親友だ、誰が。そもそも友人ですら……プレゼント?待て、それ万里谷が言ってた神具じゃないだろうな?」
ドニの言葉に、不穏なものを感じた護堂は、昨日祐理から聞いたばかりの情報を思い出した。
「おっ、流石アンドレア、仕事が早いや。というわけでプレゼントだよ!持っているだけで神が寄ってくるという神殺し垂涎の品だよ」
どうだ、こんなにいいものをプレゼントするなんて、なんて自分は友達想いなんだろうと言わんばかりのドニに、護堂は心底げんなりした。
「ふざけんな、そんな危険物いるかよ!」
「悪いが君に拒否権はない。それに僕としても断腸の思いなんだよ。でも、今回のメインは君でも神様でもないからね。それに僕の勘が言っているんだ。君に渡した方が、最高に面白いことになるってね!」
食ってかかる護堂をスルーして、ドニは彼の手にゴルゴネイオンを握らせて、すかさず逃げを打つ。
「ちょっ、おまっ」
慌てて制止しようとする護堂だったが、ドニの逃げっぷりは権能なしでどうにか出来るものではない。言葉も虚しく、ドニが去って行くのを見送るしかないのだった。
この後、護堂はゴルゴネイオンを追ってきたまつろわぬアテナに、まんまとやられ、ゴルゴネイオンを奪われた挙げ句、権能で蘇生する羽目になるのだから、ドニ恐るべしと言えよう。
◇ ◇ ◇
「やあ徹心、あの時の約束を果たしに来たよ」
ドニの言葉は軽いものだったが、その言葉には凄まじいまでの覇気があった。
「必ず来ると思っていたぞ、ドニ。草薙君に余計なことをしてくれたらしいな。お陰で草薙君は一度死んだそうだぞ」
徹心はドニが来ると確信できた時点で、彼との決闘場を用意して、彼を待ち受けていたのだ。場所は青木ヶ原樹海、誰も来ず、誰にも迷惑をかけずに済むだろう場所だ。念には念を入れて、委員会には人払いもさせている。
「おお、やっぱり神様が来ていたんだね。すぐ来そうな感じはしてたからなあ。でも、なんか滅茶苦茶警戒されてて、僕の時は来てくれなかったんだよね。仕方なく護堂に譲ったんだけど」
「貴様という男は、どこまでも見下げた男だ。いいだろう、そんなに死にたいなら、殺してやる」
徹心が鬼哭を抜き放ち、その全身から黒炎が吹き出す。
「いいね、それでこそだ、殺意の獣!今度は我慢なんてしてやらないよ!」
徹心から放たれる前以上の鬼気に、ドニはさらに笑みを深めて応じるように剣を構えた。
初撃はドニだった。凄まじい速度での踏み込みで、徹心を袈裟斬りにせんと迫る。
しかし、徹心はそれを受けてみせた。徹心が一撃を受け流した直後、ドニの返す刃に再び対応を迫られるが、それもどうにか対応する。さらに剣戟が積み重ねられるが、両者はそこで退いて距離を開けた。
(分かっていたことだが、剣技ではあっちが完全に上だな。それなら……!)
(うーん、一流の域にはあるけど、僕に迫れるほどじゃないな。まさか、これで終わりじゃないだろう?)
今度は徹心が動く。懐が取り出した呪符を飛ばし、自身の黒炎を始点に五行をまわす。サルバトーレ・ドニという神殺しは、非常に分かり易い男だ。神殺しでありながら、宿敵である鋼の英雄と非常に似通った性質を持っている。ならば、彼に刺さるのは金属製を剋する火だ。徹心の権能である黒炎なら、そもそも特攻だろうが、あえて呪符を入れることで、さらに強化する
「火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水は木を生む、木は火を生み、ここに万象を焼き尽くす槍となさん!」
四枚の呪符を介して、五行相生により力を増した黒炎が巨大な槍となって、ドニへと飛ぶ。
「ちょっ、いきなりそう来るの!?」
予想外だったのか、ドニは権能である銀の腕を慌てて使い、黒炎を切り裂かんとする。
銀の剣閃が、黒炎の巨大な槍を切り裂いたかに見えた。
しかし、切り裂かれた黒炎は消えず、それどころかドニの剣と肉体に纏わり付いて燃え上がった。ドニの剣の銀色がいくらかはげて炎は消えたが、肉体の炎は中々に消えない。
が、サルバトーレ・ドニは、この程度で止まるような男では断じてない。
炎に焼かれたまま、距離を詰め凄まじい剣撃を繰り出す。
徹心はそれを寸でのところで止め、ドニの至近に呪符を飛ばして、呪力そのものを爆発させてドニを吹き飛ばした。
しかし、ドニも然る者。やられてばかりではない。瞬時に崩れた体勢のまま、正道とはとてもいえない剣を持って応じる。彼の突きは絶対に当たらぬはずの距離にいる徹心の左肩を確かに貫いた。
「くっ、燃えろ」
受けた傷に不吉なものを感じ取った徹心は瞬時に傷口を黒炎で焼いた。こういう時、自分を決して焼かない黒炎は便利だ。己に対する呪詛などだけを焼ける。そして、明確な傷を負ったことで、《死境の獣》が目覚めの雄叫びを上げる。傷は癒えない。だが、その痛みも損傷も意に介さず、肉体は戦闘を続けるために最適化されていく。
「流石だね、僕の剣で斬られたら、王であっても普通は死ぬんだけど。実際、護堂は死んで蘇ることで対応したし……。だというのに、君の炎は死そのものを焼いた。しかも、君の中の獣は手負いになったことで目を覚ましたみたいだ」
「悪いが、この程度で死んでやれるほどぬるい人生は送っていない。嫌になるほど、勘がいいな」
ドニの感嘆に、徹心は権能を見破られたことに対して吐き捨てる。
「じゃあ、その爪牙を味わわせてもらおうか」
ドニは即座に距離を詰め、再び剣を合わすが、先程とは違う。まるで先読みされているかのように、ドニの剣が防がれている。攻撃に移れるほどではない。防戦一方であるが、明らかに反応速度などが上がり、彼の剣を確実に迎え撃っている。
「水瀑布」
しかも、符術による妨害援護を徹心は巧みに挟む。符術そのものはカンピオーネの体質から殆ど効果が無い。しかし、それで起こる物理現象は別だ。彼自身がカンピオーネであるから、百も承知なのだ。今のように突然の水流で体勢を崩したり、踏み込みを甘くしたりすることで対応する。
「信じられないよ、徹心。僕がこうなってから、神様以外でここまで僕と剣を合わせられたのは、中国の教主様以来だ」
それはドニの純粋な驚きであり、感嘆であった。師を除けば、彼が殺すつもりで剣を振るい、それでもこれほど長く打ち合って生きている者など、まずいないのだから。
「そら光栄なこった。剣の王よ、あんたの剣才は化物だ。天才というのも生温い。納得だよ、あんたなら神をも切り裂くだろうさ」
徹心もまた感嘆する。一廉の剣士になった今だからこそ分かる。目の前の男の異常な剣才が。
「嬉しいね、同格の相手にそんな風に言って貰えるのは。君も凄いよ。少しでも油断すれば、喉笛をかみちぎられそうな怖さがある」
両者は互いを認めた。だが、お互いの目には決して譲らぬ意思が宿っている。
「「勝つの
両者の宣言が、再び戦いの火蓋をきった。
・
・
・
その後の両者の戦いは、一進一退。いや、明らかに劣勢なのは徹心の方だった
ドニも全身に少なからぬ火傷を負っているが、負傷の具合は明らかに徹心の方が上であった。
これはドニが《鋼の加護》を発動して、黒炎を振り払い、以降は黒炎がドニを傷つけられていないことが大きい。才においても技においても劣る鬼哭の剣撃は、言うまでも無く当たらない。しかも、《鋼の加護》によって増した超重量を攻撃にも転嫁してくるため、徹心は剣での防御はほぼ不可能になったのだ。必然、徹心の傷は、さらに深刻なものとなっていった。
「はははっ、本当に凄いね。君、不死身の権能持ってたりしない?」
「お生憎だが、そんなもの持ってないね。ただ、とんでもなく死ににくいだけさ」
吐き捨てるように答える一方で、徹心は冷静に自身の肉体の現状を確かめる。五体は恐ろしいことにまだ動く。斬られていない場所はないというのに、問題なく動かせる。ダメージは深刻だが、致命傷はないと権能が告げてくる。死んでないのだからまだ戦えるだろう、ならば戦えと。
徹心に勝ち筋は無いわけではない。黒炎の通常火力では、《鋼の加護》を焼けないのは理解しているが、今の満身創痍状態、すなわち《死境の獣》による強化状態にある彼の呪力を全力で黒炎に注げば、一時的に《鋼の加護》を焼き尽くし、ドニの呪的防御を完全に消し去ることは出来るだろうという確信がある、その為、あえて黒炎を振り払われた直後から、もう通じないと見て攻撃に使っていないと思わせるように動いているのだから。
しかし、その後が続かない。鬼哭の剣撃はどう足掻いても当たらないことは、徹心は嫌というほど自身の肉体で理解した。ドニが体術にも長けていることは容易に想像できるため、組み打ちなどはもっての外だ。符術もその瞬間ならば効くだろうが、決定打にはならないであろうことは分かりきっていた。
(なら、奴にはなくて、こっちにはある強みを使うしかないよな。なあ、鬼哭)
ドニの剣は、ヌアザの権能で魔剣化してるだけのただの剣だ。妖刀でも、魔剣でも、聖剣でもない。弘法筆を選ばずとは言うが、彼は選ばなすぎだろう。もしかすると、彼は己の剣に、剣の力という不純物が入ることを好まないのかもしれない。そして、そこがつけ込む隙になると徹心は踏んでいた。
「そろそろ決めさせて貰う!僕は……僕に斬れぬものを許さない。君の黒炎を、死にかける程牙を研ぐ殺意の獣を斬ると誓う」
ドニの誓いは言霊となって、今日最高の輝きをその銀の腕に宿らせた。間違いなく次の一刀は、剣の王の必殺にほかならない。
「上等!鬼哭、殺せ、全てを殺せ、生きとし生ける者に滅びを与えろ。鬼哭命絶!」
それに対し、徹心はカンピオーネすらも害することのできる鬼哭の呪いを最大解放し、呪いの刃で迎撃する。
しかし、勝敗は明らかだった。鬼哭によって生み出された漆黒の呪いの刃は、銀の剣閃によってたちまちにかき消されていく。ドニの剣は止まらない。多少なりとも弱まったが、正確に徹心を切り裂かんと迫る。
「おおっ、まだだ!」
徹心は、両腕の骨に《死境の獣》による強化を集中し、剣への盾とする。すでに黒炎の仕込みはされている。真っ二つに両断されない限りは死にはしないと。
果たして剣は止まった。黒炎によって神秘を焼かれた剣は、あと少しのところで権能を失い、ありえざる骨の強度によって、両断を阻まれた。
「なっ!?」
流石に腕で止められるとは夢にも思わなかったのか、流石のドニも驚愕を隠せない。
「ここだー!」
剣をもって繋がったドニへと、全力で黒炎を叩きこむ。但し、ドニを焼くためではない。《鋼の加護》を焼くために特化させた炎だ。
「あれ?熱くない?」
今までとは違い、自分を焼かぬ黒炎に困惑するドニ。だが、その瞬間、彼の本能が最大限の警鐘を鳴らした。
果たしてそれは正しかった。ドニの視界は黒炎で潰されているが、徹心によって投げられ高速で飛来する鬼哭があったからだ。
「……なるほど、目くらましか。よく考えるなあ」
ドニは、徹心の真意をそう理解し、寸でのところでそれを避けた。いや、避けたはずだった。刀が爆散するとは思いもしなかったからだ。
黒炎によって《鋼の加護》もカンピオーネ本来の呪的防御も失ったドニの肉体を、鬼哭の呪詛が侵す。生者必滅の呪いが、彼を侵す。ドニが魔術師としては全く才能がないことも、悪い結果につながった。彼は即座に呪いへ対抗できる方策を見出せなかったのだ。
「あっ、ぐっ。ゴフッ、これは呪いか。嘘だろう、僕達に通じる呪いなんて神様でもそうそう持ってやしないよ」
吐血しながら、信じられないとばかりに呻くドニ。そして、さらに信じられないことに徹心の手には爆散したはずの鬼哭が握られていた。
「ドニ、あんたが剣を選ばない化け物なのは素晴らしい。でも、世の中にはこんな剣もあるんだ。呪いを移されてどうかしてしまった結果、呪いある限り不滅となった剣がなあ」
鬼哭は、もはやただの妖刀ではない。長年の歳月によって完全に呪詛との融合を果たしたそれは、呪詛そのものであり、呪詛がある限り不滅なのだ。
「ああ、妖刀ってやつかあ。これはしてやられたなあ。思うように体が動かないね。回復も遅い。君、本当に質が悪いなあ」
ドニは《鋼の加護》が未だ回復していないことに加え、カンピオーネ本来の呪的防御が復活したにも関わらず、回復を呪詛が阻害し肉体へ多大な影響を与えていることを把握していた。
「どうする?まだやるか?」
「勿論と言いたいところだけど、やめておこう。ここからは完全に君の領分に巻き込まれる。そうなると剣の研鑽どころじゃない。血みどろの殺し合いだ。それも悪くないけど、今回はこれで十分満足できたからね」
ドニは殺し合いを厭う気はない。だが、それは目の前にいる、殺意が人の形を取ったような獣の領分だ。ましてや、手負いの獣を相手にするならば、なおさらだ。自身の不利は否めない。それに彼は、自身の必殺が変則的とはいえ防がれたことで、心中では負けを認めていた。あれで殺せなかったのであれば、それは自分の負けだと。それは剣の王サルバトーレ・ドニの剣士としての矜持であった。
「はあ、本気で疲れたわ。二度と来るなよ、剣バカ」
「酷い言われようだな。君だって僕と同類だろう?僕が剣バカなら、君は術バカだ。僕らみたいな奴が、今更になって魔術を学ぶ奴は少ない。必要ないからね。でも、君はそれを多用する。楽しいんだろう、術を覚えるのが」
「ぬっ、無駄に鋭い奴だな」
誰にも見抜かれていなかった内心を、よりによってドニに言い当てられ、徹心は複雑な気分になる。
そう、彼が魔術や呪術を学ぶのは、戦闘方法を拡張するためだけではない。純粋にそれらを学ぶことが楽しかったからでもあったのだ。
「どうだい、僕の見る目もなかなかだろう?再戦までに、君は術を、僕は剣を研ぎ澄ませよう。次こそが決着の時だ」
「だから、嫌だと言っているだろう」
ドニの言葉に、徹心はにべもなく答えた。この男と殺し合いなど、命がいくつあっても足りないのだから。
「またまたー、君だって楽しみなくせに」
「そんなことは絶対にありえん!」
剣の王と黒炎の魔王の対決は、微妙にかみ合わないままに終わるのだった。
執筆速度は遅くなるが、AI使わない方がいいか?
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いや、読めればいいのでジャンジャン使え
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会話がくどいので、そこは直してほしい
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いや、調べ物&名前候補以外に使うなよ
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甘えるな、全部自筆でいけ