執筆者のソマレルと申します!
突然ですが、プロセカのストーリーをある程度読んでいる方ならご存知だと思いますが、ワンダショの関わるストーリーには時々『着ぐるみさん』というキャラクターが登場しますよね!
メインストーリーから登場していて、その見た目とのギャップの激しいイケボや振る舞いに地味に心惹かれていたんですが…数ヶ月前のワールドリンク3で登場した際のえむちゃんとの対話シーンで、2人とも好きになってしまいました。
そこで、せっかくワンダショで小説を書くなら着ぐるみさんを出したい!と思い、色々案を出してみた結果辿り着いたのは飯テロでした。
飯テロという終わりがないコンセプトなので、無理に続けなくて良いのも書いていて嬉しい所ですね。(勿論書き続けられる努力はします)
長話もそこそこに、本編へどうぞ。お腹が減る内容になっていれば幸いです。
今回の主な登場人物
・着ぐるみさん
・司
・えむ
・寧々
・類
─夏の残滓と紅葉が混ざり合う時期。ここ、フェニックスワンダーランドは多くの来園客が絶えずやって来ていた。
観覧車、ジェットコースターにメリーゴーランド。沢山のアトラクションが園を賑わす中、静かでぽつんとしたその場所…ワンダーステージには、一人の
「本日は久々のお嬢様達の公演練習。一通り清掃は終わりましたが、機材や不備はないか確認を─」
箒とバケツを持ちながらそう呟いた。彼は着ぐるみさん。フェニランの従業員であり、同時に鳳えむのボディガードでもある頼れる着ぐるみなのだ。
「……もう来てしまいましたか。思えば楽之介様も、予定より随分早くに来てしまうような御方でしたね。」
こちらにやってくる4人の影に気づき、動きを止めた。その視線が交わる。
「あーっ!!着ぐるみさんだ、おーーーい!!」
「あっ、ちょっ…もうあんなとこまで…。」
「ううむ…しかし、やはり少し懐かしいな。このステージも、着ぐるみも。」
「あぁ、僕もそう思うよ。ここに来ると、なんだか落ち着く物があるように感じるね。」
「……おかえりなさいませ、皆さん。」
そんな言葉と共に紅葉が一枚、地面に落ちた。
───
ピンク色の髪をした少女が一人、着ぐるみに向かって突っ込んでいった。
「着ぐるみさーん!久しぶりー!!」
「お嬢様、お久しぶりです。」
彼女の名は鳳えむ。ワンダーランズ×ショウタイムの一員で、このフェニランを経営する鳳家の次女。普段から元気いっぱいな彼女だが、今日はいつも以上に笑顔が眩しかった。
「やぁ着ぐるみくん、お久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「ご心配ありがとうございます。神代さんこそ、お元気でしたか?」
「あぁ、楽しくやらせてもらっているよ!」
えむに追いつくように類、寧々、司がやって来た。それぞれ軽い挨拶を交わした後、ふと寧々が箒に目をやった。
「箒とバケツ…掃除してくれてたの?」
「はい。ステージ上の清掃は終わっておりますが、まだ機材の稼働確認はしておりませんのでご注意を。」
「うむ、助かるぞ。機材に関しては用意した物もあるし、もし不備があれば類がどうにかするだろう。そうだろう、類?」
「あぁ、勿論さ。」
「さっすが類くん!頼りになるなぁ〜…。」
「それでは早速、練習を始めようじゃないか!」
司のその一声を皮切りに、ショーの練習が始まった。着ぐるみはその様子を度々眺めながら、掃除道具の片付けを進めていく。
(……以前までのショーとは完成度が違う。細部の動き、表情、演出…どれも格段に上達している。流石、ワンダーランズ×ショウタイム…。)
半ば感心しながら、しかし動きには出さず自分の仕事を熟していた着ぐるみ。……しかし、とある言葉が耳に届いた瞬間、動きがピタリと止まった。
「うーん…ちょっとお腹空いちゃったなぁ。」
「…まぁ、もうすぐ正午だからな。もう少し練習したら休憩を取るか?」
「それがね、あたし今日お弁当忘れて来ちゃってさぁ…」
「───お嬢様が、腹を減らしている?」
着ぐるみが動くには充分すぎる理由。『どこかに皆で食べに行く』だとか、『お弁当分けてやる』だとか聞こえるがそんな物は関係ない。大事なのは今、えむがお腹を鳴らしていることだ。
「…出店用の簡易屋台と、予備の食材。それで良いものが出来ると良いのですが…」
着ぐるみの足は、迷いなく本部へと向かっていた。そう、ボディガードであると同時に、着ぐるみはえむのお世話係でもある。かつて何度か料理を作った事もあるのだ。
「食材倉庫に来ましたが…何か良いものはあるでしょうか。」
あっという間に屋台の一つを借りてきた着ぐるみは、食材倉庫の中へやって来ていた。
(ショーの練習の合間である事から、重たすぎる物は向かない。何か屋外で手軽に食べれて、量産しやすいもの…)
例えば焼きおにぎり。確かに手軽で作りやすいが、それだけでは些か寂しい。
唐揚げ。満足感という意味合いではバッチリだが、油分が濃すぎてあまり宜しくない。
「……そうですね、後はパン類。パンと、後は─……そうですね、コレにしましょう。」
パンと具材をいくつか取り出し、袋に詰める。そしてワンダーステージの舞台裏へ向かう着ぐるみの背中はどこか微笑ましく、頼もしい。
手慣れた手つきで屋台を広げた彼は、パンやバターといった具材をまな板に並べ、食パン2枚にそれぞれ片面に薄くバターを塗っていく。白いパンの表面に艶が生まれ、鼻先へふわりと乳脂の甘い香りが届いた。
「良い香りです。塗り方はこのぐらいで良いでしょう。」
続いてハムを一枚、その上にとろけるチーズを重ねる。そう、今着ぐるみが作っているのはホットサンドだ。
「……ふむ。これを焼くだけでもとても美味しそうですが…。」
ステージ横から、軽く練習の光景を見る。皆これだけ頑張っているのだ、手を抜いたクオリティにはしたくない。
そこで彼は、蜂蜜を少しだけパンに垂らした。僅かではあるが、これだけでしっかりとしたアクセントになるのだ。そして黒胡椒をひと振りし、具材をパン同士でしっかりと挟む。
「今ではホットサンドメーカーを使って作る料理方法もあるようですが…」
そう言いながら、フライパンを火に掛けた。衣装に引火したらどうするつもりだ、と言いたくなるが、生憎この場に止めるものはいない。
残ったバターをフライパンに落とし、溶かす。溶けたバターがフライパンの底へ広がったところで、二枚のパンをそっと滑り込ませると、じゅうう、と音が変わった。
パンの縁から焼けたバターの香りが立ち上ってくると、フライ返しでパンの端を持ち上げた。
「…表面が色づき始めたのがサインです。」
こんがりと色づき始めた表面を確認すると、今度はフライ返しをパンの上に添え、少しだけ押さえる。こうする事でパンが沈み、ハムとチーズが押し合い更に絡み合うのだ。
「あとは、焼き色が深くなるまで─」
その香ばしい香りはステージ上の4人まで届いていた。ふと、匂いに気づいたえむが辺りを嗅ぐ。
「くんくん……。なんだろう、バターのいい匂い〜!」
「おや、これは…着ぐるみくんが料理でもしているのかな?」
「随分と腹が減る香りだな。…よし、一度この辺りで練習は止めにするか!」
「はぁ……。でもこれ、どこから匂うんだろ…?」
そんな会話が聞こえているのかいないのか、着ぐるみさんは両面がきつね色に焼けたのを確認し、火を止めて焼き上がったサンドイッチをまな板に移した。
「切り分けるとしましょう。……お嬢様、少しお待ちを。」
───
太陽が真上に昇る12時頃。練習を中断した司達は、ステージの上に座って食事を取ろうとしていた。
「えむ、良かったらおにぎり食べないか?今日は咲希が作ってくれたんだぞ!」
「えっ、いいの!?でもでも、咲希ちゃんは司くんにおにぎり作ったんだし、それにお昼は後で─」
「皆さん、お待たせしました。」
「え?」
不意に聞こえたその声に、4人の反応が重なった。着ぐるみは台車を押してこちらに近付いてくる。
「こちら、差し入れです。良ければ、少し冷ましてからお食べください。」
そうして台車の皿の上に視線を向けると、そこにはとても美味しそうな色をしたホットサンドが4つ並んでいた。
「サンドイッチ…?美味しそうだけど、作ってくれたの?」
「はい。お嬢様がお弁当を忘れられたと聞こえたので、皆さんが練習をしている裏で作っていましたよ。」
「え!?あたしの為に…?着ぐるみさん、ありがとー!!」
少し息で冷ましてから、ホットサンドを口に運ぶ。表面は薄く焼けていて、噛むたびに小気味よい音がする。けれど、そのすぐ下はふんわりと柔らかい。
「……チーズとハムの相性が抜群でとても美味しいね。流石着ぐるみくんだ。」
「ありがとうございます。」
「あたしもあたしも!頂きまーす♪」
「火傷しないよう、冷ましてからお食べくださいね。」
「はーい!」
「…これは、美味いな。塩気と、バターの後味のまろやかさのバランスが最高だ。着ぐるみ、良ければ後でレシピを教えてくれないか?」
「分かりました、練習が終わった後にお渡ししますね。」
焼きたてだからこその香ばしさ。ハムの塩気。チーズのまろやかさ。それぞれが調和して最高の味わいを生み出していて。
「…………!」えむの頬が、ぱっと緩んだ。もう一口。今度は少しだけ大きく齧る。パンが割れて、その中からチーズがとろりと伸びた。
「おいしい~~~っ!」
着ぐるみはその声に一瞬、面食らったような反応を見せ…次の瞬間には、心なしか雰囲気が和らいだ気がする。
(…喜んでいる声が漏れていたけれど、これは秘密だね。)
「お嬢様のお口に合っていた様で何よりです…。」
「えへへ、とっても美味しいよ!ありがとう、着ぐるみさん♪」
一方、静かに食べ進めていた寧々の舌に、不思議な甘さが残る。
「……これ、何か入ってる?」「おや、お気づきになりましたか。」「やっぱり何かあるんだ。」「少々、蜂蜜を。」
「蜂蜜?」
少し、寧々の目が丸くなった。
「はい。パンにごく少量ですが。」
「へぇ……結構合ってて美味しい。」
そのまま時間は過ぎ、えむが最後の一口を飲み込んだ。皿の上には何もなく、いつの間にか完食していた、といった反応だ。 「……あっ」名残惜しそうにそれを見つめたあと、えむは顔を上げた。「着ぐるみさん!」「はい、お嬢様。」「もう一個ある?」
「ふむ……。また、作ることは出来ますが…」
「ほんと!?」えむの表情が輝く。しかし、と着ぐるみは会話を続ける。
「まだ皆さんはショーの練習中ですので。これ以上の食事を取って練習効率が落ちる様な事は避けたいですね。」「そっかぁ…。」
「まぁしょうがないよ、えむくん。けれど着ぐるみくん、良ければなんだけど…また、こういう時間に料理を作ってくれたりしないかい?」
類の言葉を受けて、着ぐるみは少し悩んだ。自分にもちゃんと従業員としての仕事がある分、流石にそれは─
「えぇ、喜んで。次はまた違う料理を作ろうと思いますよ。」
「えっ、いいの!?着ぐるみさん忙しくない?」
「それは嬉しいが…えむの言うとおりだ、お前にもえむの警護以外の仕事があるんじゃないか?」「問題ありません。私に取って最も大事な事は、お嬢様の笑顔を守る事ですので。」「そ、そうか…。」
司達と話を終えると、着ぐるみは受け取った皿やフライパンを片付け始めた。
「……にしても、あの着ぐるみって料理も出来たんだ…。」「あぁ、僕も驚いたよ、元々とても優秀な人だとは思っていたけれど…」
えむは着ぐるみの背中を見ながら、静かに呟いた。
「着ぐるみさん、カッコいいなぁ…!」
「良かったな、えむ。あんなに心強いボディガードは中々いないぞ!」
「うんっ!流石、あたしの頼れる着ぐるみさんだよね♪」
その言葉に一瞬着ぐるみが固まったような気がしたが、次の瞬間にはすぐに動き始めた。どこか、照れ隠しをするように動きが速い……ような気がした。
「……よしっ、お前たち!練習再開だ、一気に内容を詰めるぞ!」
「うん!もっともっと頑張るぞ~、わんだほーい☆」
再びショーの練習を再開した4人を眺める着ぐるみはフライパンを手に、周りに聞こえない程度の声量でこう言った。
「……これからは沢山、料理を作ることになりそうですね。」
作品の時系列としては、概ねワールドリンク3終了後の認識で大丈夫です。基本はダショの4人で話が進むつもりですが、もしかしたら他ユニットキャラ回やバチャシンの回もあるかも…?