着ぐるみさん、料理をする。   作:ソマレル

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飯テロ回を書こうとしたら感動寄りのお話になってしまった。



えむちゃんが笑顔だからいっか!ヨシッ!

今回の主な登場人物
・着ぐるみさん
・えむ



第二食-鮭のバター醤油焼き

「…よし。では、今日の練習はここまでとしよう!」

「みんな、おつかれー!」

 

時刻を知らせる花火が上がり、閉園の近づくフェニックスワンダーランド。練習を終えた4人はそれぞれの帰路に着いていた。

 

「お嬢様、お疲れ様です。何かお身体に妙な所などは…」

「ぜ〜んぜん大丈夫だよっ☆ 着ぐるみさんが作ってくれたホットサンドのおかげで、午後の練習もするする〜って出来たんだ!ありがとう、着ぐるみさん!」

「…そうですか。私の方こそ、お褒めに預かり光栄です。」

 

そう言いながらニコニコッとするえむの姿を見て、着ぐるみは一安心した。…この方は予定が悪ければ一食程度簡単に抜いてしまう。それは、彼のポリシーに反する考えであり、行動であるのだ。

 

「お嬢様、この後はどうされるおつもりでしょうか?シェフは既に配置に着いているので、すぐにでも夕食はご用意出来ますが…。」

「夜ごはんかぁ…。おいしそうだけど今日ね、お父さんから貰った資料でお勉強したいかも…」

「お勉強……経営の、ですか?」

「うんっ!だから…シェフの人達には、今日は食べるの遅れちゃうかも〜って伝えてほしいな、お願い〜!」

「─!……わ、分かりました。すぐにでもお伝え致します!」

 

えむのお願いには弱いのが着ぐるみさんである。それは、彼女が小さい頃から変わっていない。

しかし、と付け加えた。

 

「しかし、お嬢様。その場合ですと、お嬢様に対して冷めてしまったお食事を出す事になってしまいますかと…。シェフにも勤務時間がございますので。」

「あ、そっかぁ。あたしは、冷めてても全然大丈夫だけど…はっ!あたし思いついちゃった!」

 

曇りなき眼で着ぐるみを見つめるえむ。そんな彼女の口から飛び出た言葉は─

 

「せっかくだしせっかくだし、着ぐるみさんに夜ごはん作ってほしいな~♪」

「…私が、ですか?」

「うんっ!だってだって、お昼に作ってくれたホットサンド、とってもおいしかったもん!また着ぐるみさんの料理、食べたいな!」

 

着ぐるみは一瞬驚いたような反応を見せた後、満更でもなさそうに喋りだした。

 

「…分かりました、そういう事であれば喜んでやらせていただきます。」

「ほんと?やったー!」

「お嬢様、何かご希望はありますか?」

「え、あたしが決めていいの?うーん…。ハンバーグもじゅわじゅわでおいしそうだし…シチューもほわほわで暖かそうだし…オムライスもいいなぁ…。」

 

そうして一通り考え出して迷った後、えむが出した結論は。

 

「決まったよ!」

「何でしょうか?」

「フッフッフ!ズバリ、"着ぐるみさんのスペシャルメニュー"なのだー!」

「…つまり私のお任せ、と言う事で間違いないですか?」

「うん!そういう事!」

「なるほど……。了解しました、夕食に関しては私にお任せください。それでは、行きましょうか。」

「うんっ!よろしくね、着ぐるみさん!」

 

───

 

鳳邸のキッチンに、普段は見慣れぬ大きな影が一つ。本日2度目の料理である。

 

(さて、何を作ろうか…。確かにお嬢様が挙げた物も良いが…)

 

食べ盛りの年頃とはいえ、夜遅くの食事は気をつける必要がある。確かにハンバーグやオムライスは美味いがお腹に重い。と、なればシチューが候補になるが…

 

「……これは、生鮭ですか。」

 

冷蔵庫を開けると、鮭の切り身が二つ。夜のメインディッシュには良いかもしれない。

 

「そうと決まれば、作り始めましょう。」

 

まずは用意した米を研ぐ所から始まる。鮭や鯖と言った魚類がメインならば、それと抜群に相性が良い白米を炊くのはごく普通。

 

「シンプルだからこそ、和食はおいしいですがね。」

 

果たして着ぐるみの姿でどうやって米を研いでいるのかは分からない物の、しっかり綺麗に研げている。後は炊飯器に入れて炊くだけだ。

 

続いて味噌汁。食事に汁物は言わずとしれた鉄板品。この先寒くなった後に飲む汁は、何物にも代え難い絶品とも言える。

 

「出汁は…鰹節で良いでしょう。煮干し出汁も良いのですが…。」

 

鰹や昆布の出汁はコクがあり、癖が少なく万人受けしやすい。煮干しは魚の栄養が取れるが、今回は鮭を使った料理があるので鰹で大丈夫だろう。

 

「豆腐のサイズはこの程度で良さそうです。具材はわかめやネギと……隠し味に針生姜を使いましょう。」

 

味噌汁は美味いものの、作り手の加減次第では少々味が濃くなることもある。そんな時、針生姜を薬味として添えてやれば、味噌の濃さを残しながらも、後味にさっぱりとした風味を加えることが出来る…と、教わった時は感心した物だ。

 

「………さて。久々に作りますが…上手くいくのやら。」

 

キッチンペーパーを用意し、生鮭の水気を丁寧に飛ばす。その後、それぞれの生鮭の両面に軽く塩と胡椒を振ってやれば下地は完成だ。

 

フライパンをコンロに置き、温まるのを待つ。

「………この光景、懐かしいですね。」

 

─彼の脳裏に過ったのは、えむの祖父こと…楽之介との記憶。生きる手段を持たなかった彼を雇った楽之介に、料理のやり方を教えてもらったのは鮮明に覚えている。生憎、最初の一回以降はシェフ達による指導だった為に、二人一緒に、えむの為に調理をする事は叶わなかったが…

 

「……楽之介様の分も、別に作るとしましょう。」

 

そう言いながら、気づけば既に鮭に焼き色が付く所まで作業は進んでいた。

 

「ただの焼き鮭も勿論おいしいですが……やはり、決めはこれです。」

 

昼の時と似たように、フライパンにバターを投下。溶けたバターのまろやかな香り、そこに醤油を加えれば旨味は数段階昇華されるのだ。えむがこの場にいれば『うわわ〜っ!じゅわじゅわしてていい匂い〜♪』とでも言っているのが見える見える。

 

香ばしい濃厚な香りがキッチンに広がる中、溶けたバター醤油をスプーンでゆっくりと掬う。火傷しないようの手袋…になっているのかは微妙だが、着ぐるみは動じていない。

 

「バター醤油も充分に絡みましたし…上出来ですね。」

 

火を止め、鮭を皿に移した。後は緑を添えれば完璧だろう。

 

「……お嬢様の分が冷めないうちに、楽之介様の分を作りましょう。」

 

───

 

時刻は22時。フェニランはとうに閉園し、夜が深まって星々が硝子越しに美しく輝いていた。

 

「着ぐるみさーん!お勉強、一段落した……あれ?」

 

えむの視界に映ったのは、テーブルに並ぶ焼き鮭に白米と味噌汁が2セット。着ぐるみさんも食べたくなったのかな?とでも思いながら、まだ静かに湯気の立つそれを眺めていた。

 

「わぁ…おいしそ〜…」

「…お嬢様、お部屋から出られていたのですね。」

「あっ、着ぐるみさん!入れ違いになっちゃったみたいだね。」

「お嬢様の分の夕食は出来ていますので、どうぞお召し上がり下さい。」

「うん、ありがとー!……所で、着ぐるみさん。二つあるけど…」

「あぁ、そちらは…楽之介様の分です。」

「ほぇ?おじいちゃんの?」

 

流石にえむもその返答は想定していなかったようで、頭の上にハテナマークが浮かんでいる。

 

「…私が楽之介様に拾われた事は、お嬢様もご存知だと思いますが…。」

「うん。おじいちゃんが、大変な状態だった着ぐるみさんを助けたんだよね?」

「えぇ。」

 

そして着ぐるみは一瞬目を伏せたような仕草をしてから、再び語り出した。

 

「…私を拾われてから少し経った頃。側仕えとしても人間としても、料理のスキルを磨く為に何度か研修を受けていた時期がありました。その中で一度、楽之介様と料理をした事があったのですよ。」

「えっ、おじいちゃんと!?いぃなぁ〜、楽しそう!!」

「はい。業務で忙しい筈なのに、『孫の側仕えの為だ』と言って無理をしてまで…。そこで作った内の一品が、この焼き鮭だったのです。」

「……そうなんだ…。」

 

嬉しさと、祖父を懐かしむ気持ちが共存したような笑みを浮かべるえむ。自分のすぐそばに、祖父の記憶を共有出来る人がいる。それは、ある意味で家族以外には滅多にない、貴重な関係性であり時間だった。

 

「ですので、尊敬の意も込めて楽之介様の分も用意させて頂きました。」

「そっかぁ……。あれ?じゃあ、着ぐるみさんの分は?」

「私の分、ですか?お気になさらず。後で別に米でも炊いて─」

「ねぇねぇ、せっかくだしさ!一緒に食べようよ!」

「一緒に…?…しかし、これは楽之介様の─」

「うん、そうかもだけど…昔ね、おじいちゃんが言ってたんだ。『誰かと食べるご飯が一番おいしい』って!」

「─!」

 

えむのお願いには弱いのが着ぐるみさんである。そして同時に、楽之介の言葉に弱いのも着ぐるみさんなのだ。

 

「それにさそれにさ!あたしがおじいちゃんなら、『冷めちゃうのを待つより今、えむと食べて欲しいのぅ〜』って思うよ?」

 

それが最後の一押しとなったのか、着ぐるみは観念したようにえむの隣の椅子に座った。

 

「…そうですね。私も、楽之介様ならそう仰ると思います。」

「ぁ、じゃあ!?」

「はい。私も一緒に、頂こうと思います。」

「やっっったぁーーー!!!着ぐるみさんと一緒にご飯♪ご飯♪」

 

そう言いながら喜ぶえむの横顔が、一瞬『あの人』と重なって。

 

「…ふふっ。」

「あっ、今着ぐるみさん笑った!?笑ったよね!?」

「笑っていませんよ。」

「うーそーだー!!」

 

今夜はいつもより、騒がしくて楽しい時間になりそうだ。

 

 




ちなみに着ぐるみさんが食事する時用に口元に小さなジッパーが付いてるとか、付いてないとか…
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