『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~   作:久瀬ヤスノリ

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第11話 倒すのではなく、倒せる形へ

 3人は一度ダイアウルフに敗北している。

 

 前回は臭気煙幕を使い、かろうじて逃走。

 

 3人とも仲間思いのいい人たちだ。

 

 ちょっと攻撃的に突っかかってくる千紗さんも、いい人なんだと思う。

 

 今回は運が悪かったとしか言いようがない。

 

 前はトロルを一人で倒せた。

 

 トロルは足が遅い。ダイアウルフは足が速い。

 

 一人では無理だ。

 

 でも自分が動くと連携が崩れると言われた。

 

 勝ち筋っていうのは大事だ。自分自身もそれに随分助けられてきた。

 

 あの人たちの勝ち筋を壊さず、自分にできることをとりあえずしておこう。

 

 そう思って朔は動いた。

 

一言言っておけばよかったのだが、多分止められた。

優しい人たちだし、自分の押しに弱さを朔は知っている。

 

それに朔は自分のやろうとしていることを説明するのが苦手だ。

 

 説明しようとすると、因果関係まで全部説明しなければ説明した気になれない。

 

 だから、相手からしたら「何を言っているのかわからない」言葉になってしまう。

 

「要点を言えばいい」とよく言われる。

 

 でも、小さな因果を積み重ねた先に、要点があるんだと思う。

 

 これもダイアウルフを倒す為の小さな因果の一つでしかない。

 

 索敵のお陰で後ろは取れた。

 

 遠目ではあるが、雌ライオンほどの大きさがあるだろうか。

 

 ボルトはすでに装填済み。

 

 朔は音を立てないよう、胸ポケットからペーパーウエスを取り出した。

 

 額を拭う。

 

 それだけでは足りない気がして、首筋と脇にも押し当てる。

 

 湿った紙を丸め、中に小石を包んだ。

 

 それをT字路の奥、ダイアウルフのいる通路とは反対側にある糸引苔めがけて投げる。

 

 それは朔の狙いから少しずれたところに落ち、わずかに音を立てた。

 

 すかさず目を閉じて索敵を行う。

 

 先ほどまでゆっくり動いていたダイアウルフの足音が止まる。

 

 しかしそれもわずかな時間で、足音は再び、ゆっくりと遠ざかっていった。

 

 朔は息を止め、アプネア・ハイドを使い、通路の角から顔を出す。

 

 ダイアウルフは匂いを追うために頭を下げ、ゆっくりと奥へと歩いていっている。

 

 一度顔を引っ込めて、きちんと息を整える。

 

 その尻に照準を合わせて、レバーを引く。

 

 発射の瞬間のブレはなかった。当たっている。

 

 朔はそう確信しながらペーパーウエスを投げた通路の反対側、もと来た道に走り出す。

 

 曲がり角の少し手前で大きく息を吸い、息を止めてアプネア・ハイドを使う。

 

 角を曲がり、死角に入ると、その動きを止めた。

 

 すでに若干の息苦しさを感じている。

 目を閉じ、索敵で音を確認する。

 

 先ほどいた位置にまでダイアウルフが来ている。

 

 足音が途絶え、立ち止まっている。

 

 フンフンという鼻で匂いを嗅ぐ音が聞こえる。

 

 早く動いてくれ、長くは持たない。

 

 足音が聞こえた。わずかだが、音は小さくなっている。

 

 朔はゆっくりと静かに息を吐く。

 呼吸に集中し、息が整うのを待つ。

 

 その間に音を立てないように、慎重にクロスボウにボルトを装填する。

 

 その作業をしながら横目で、通路の奥にある丸められたペーパーウエスを見る。

 

 先ほど投げたものではなく、もともと来る時に仕込んでいたものだ。

 

 足音はまだ動いている。

 

 朔は再び覚悟を決め、大きく息を吐き、そして吸い込む。

 

 通路の角から顔を出し、スコープを覗く。

 

 ダイアウルフは頭を下げ、朔が投げたペーパーウエスの方にゆっくりとだが、まっすぐ向かっている。

 

 ダイアウルフの尻には、先ほどのボルトが刺さっている。

 

 その反対側の足の方に狙いを定め、レバーを引く。

 

 そして、すぐに身体を引っ込める。

「ギャウッ!」

 命中したようだ。目を閉じて音を拾う。

 次第に大きくなる足音は乱れていない。

 今日は索敵の調子がいい。

 

 すごく離れたところにいたダイアウルフの音を拾えた時からそう思っていた。

 

 ダイアウルフの位置が立体的に浮かび上がる。

 

 朔は動かず、目を閉じたまま、じっと距離を測る。

 

 6メートル。

 そう判断した時、朔は息を止める。

 

 すぐにダイアウルフの巨体が目の前に現れる。

 

 顔が、朔の胸元くらいの高さにある。

 押し倒されたら一巻の終わりだろう。

 

 ダイアウルフは朔を通り過ぎ、数歩進んで立ち止まる。

 

 鼻先を少し上げ、スンスンと息を吸い込み、周囲を探る。

 

 前方のペーパーウエスに向かって歩き出す。だが、すぐに立ち止まる。

 

 振り返って先ほど曲がった角を見る。

 しかし、そこには何もいない。

 

 しばらく見ていたが、また前方に歩き始めた。

 

 その様子を朔は音で確認していた。

 

 まだ息を止めているので、朔の匂いも足音も、ダイアウルフには認識されていない。

 

 もう一発行けるかもしれない。

 

 そう思う気持ちはあったが、ここでやめておく。

 

 倒すのが目的ではない。

 倒せる状態まで持っていくのが目的だ。

 

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