『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~   作:久瀬ヤスノリ

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第13話 今度こそ、ダイアウルフを倒す

 気づかれた。

 すぐさま顔を引っ込めるダイアウルフ。

 私の後ろで何かが動いた。

 目の前を何かが横切る。

 後藤の放ったクロスボウの矢だ。

 顔を引っ込めたダイアウルフに向かって一発放ったようだ。

 動かなきゃ。

 私も後藤に続いて正面に立つ。

 しかし、ダイアウルフの方が早かった。

 

「――ォオオオオオオッ!!」

 口を大きく開けて、咆哮する。

 大気が震える。

 体の神経を直接撫でられるような、どうしようもない不快な振動。

 引いていた弓を持つ手が、自分の意思とは関係なく緩む。

 明後日の方向に矢が飛んでいき、壁に当たる。

 前回もやられたやつだ。

 多分こいつのスキルなんだろうが、私には相性が悪い。

 

 矢を外した私に向かって、ダイアウルフが飛びつく。

 その間にカンナが割って入った。

「《防護障壁(ウォード)》!」

 日和の声と同時に、カンナの前に半透明の障壁が現れた。

 ダイアウルフの前脚が障壁に叩きつけられる。

 鈍い音が響き、障壁が大きく揺れて割れる。

 着地した地面に魔法陣が光った。

《スネア》が発動し、触手がダイアウルフの左前足に絡みつく。

 すかさずカンナが間合いを詰める。

 ダイアウルフが後ろに逃げようとするが、スネアの触手が離さない。

 しかし、それは完璧な拘束ではない。

 ダイアウルフの力に負け、触手がプチプチとちぎれていく。

 

 やれる。

 私はそう思った。

 

 その瞬間、ダイアウルフはスネアに捉えられている左前足を軸に身体を回転させ、斬りかかるカンナに自らの身体をぶつけてきた。

 その衝撃で、スネアの触手がすべて引きちぎれる。

 強引に剣を振り抜こうとしたカンナだったが、足を浅く撫でた程度のダメージしか与えられなかった。

 

 カンナがもう一度斬りかかろうとする。

 しかし、ダイアウルフの方が早い。

 バネを作るように、身体を沈めた後、上半身を前に突き出す。

「《防護障壁(ウォード)》!」

 再び日和が障壁を作る。

 しかし、ダイアウルフは飛びかかる仕草だけを見せ、実際には飛ばなかった。

 逆に後ろへ跳ぶ。

 読まれてる。

 うまくいった行動パターンを続けすぎたんだ。

 カンナは自分の勢いを止めきれず、そのまま前へ出る。

 ウォードは強力だが、逆方向からなら通り抜けられる。

 そして持続時間も短い。

 カンナがウォードを通り抜け、前に出てしまった。

 

「カンナ!」

 私でも「やばい」と思ったその隙を、ダイアウルフが見逃すわけがない。

 ダイアウルフが再びカンナに飛びかかる。

「パンッ、パンパンパンッ!!」

 ダイアウルフとカンナの間で何かが破裂した。

 虚を突かれる。

 カンナは後ろに飛びのき、ダイアウルフは何もしないまま地面に着地した。

 そして警戒するように、後ろへ跳ぶ。

 

 私の後ろから何かが飛んだ。

 それがダイアウルフの脇腹に刺さる。

 投げナイフだ。

 ダイアウルフが脇腹に刺さったナイフを見る。

 そして、鼻を近づけてフンフンと匂いを嗅ぐ。

 ゆっくりと顔を上げた。

 私たちを見ていない。

 視線の先にいるのは後藤。

「グルルル……」

 低い唸り声。

 耳を伏せ、身体を低くする。

 そして再びダイアウルフが地面を蹴った。

 後藤に向かってだ。

 

「《防護障壁(ウォード)》!」

 日和が完璧なタイミングで障壁を展開する。

 しかしダイアウルフは器用に空中で身体を回転させ、障壁を足で蹴って進行方向とは逆へ飛んだ。

 そして再び身体の向きを変え、後藤に飛びかかる。

 日和はもう一度ウォードを展開しようとするが、間に合わない。

 牙をむき出しにした大きな口が後藤に襲いかかる。

 しかし、その開かれた口は、後藤に届くより前に閉じられた。

 ダイアウルフの頭が、下から何かが当たったように不自然に二度、大きく揺れる。

 ガチンッ、後藤に届く前に口は閉じられる。

 ダイアウルフをかわすように、後藤が半身になり、横をすり抜ける。

 その瞬間、ダイアウルフの身体に一筋の線が走った。

 後藤の手にはコンバットナイフが握られている。

 だが、浅い。

 ダイアウルフは自分に傷を負わせた後藤を一瞬見る。

 しかし、後藤を追わない。

「日和!」

「《防護障壁(ウォード)》!」

 狙いを日和に定めたダイアウルフが、日和の展開した障壁にぶつかる。

 カンナがその隙に斬りかかるが、横へ跳んでかわされた。

 

「日和、下がって!」

 私が叫ぶと、日和は急いで距離を取る。

「――ォオオオオオオッ!!」

 咆哮が大気を震わせる。

 そして再び、日和に向かって飛びかかる。

「《防護障壁(ウォード)》!」

 幸いにも距離を取っていたおかげで、どうにか間に合った。

 再び障壁に阻まれたダイアウルフは、壁際まで移動して身構える。

 

 ……様子がおかしい。

 急に動きが単調になった気がする。

 執拗に日和を狙っているようにも見えるが、日和を見ていない。

 頭をブンブンと振り、日和とは逆の方向を見る。

 そこにはコンバットナイフを構えた後藤。

 その後ろに私がいる。

「グルルル……」

 低い唸り声を上げて後藤を睨む。

 しかし、また日和の方へ視線を向ける。

 すでに日和の前には、カンナが守るように立ちはだかっている。

 ダイアウルフの口から、涎がボトボトと地面に落ちている。

 それを見た時、私は後藤の言った言葉を思い出した。

『毒を二発入れてきました』

 改めてダイアウルフを見る。

 尻と後ろ足。

 そこに一本ずつ、ボルトが刺さっている。

 そして肩にも、もう一本。

 三か所の銀灰色の毛が、血で赤黒く濡れていた。

 肩の一本は、さっき後藤が追いかけて撃ったものだろう。

 脇腹には投げナイフの傷もある。

 激しい運動で、毒が回ったのではないだろうか。

 

 先ほどから執拗に日和を狙っているように見える。

 でも、違う。

 日和ではない。

 その奥。

 通路の方へ行こうとしている?

 逃げようとしているのではないだろうか。

 

 勝てるかもしれない。

 

「後藤さん、ダイアウルフを何秒か一箇所に留めておくことは可能ですか?」

 私がそう言うと、後藤は少し考えたあと、ギアバッグから先ほどケイプボアの時に使った道具を取り出した。

 三つの黒い球を紐で繋いだものだ。

 その球の一つを、コンバットナイフを持つ手とは反対の手で掴み、回し始める。

 

 ダイアウルフは唸り声を上げたまま身を低くして構えている。

 ちらりと後藤の方を見る。

 そして、カンナの方へゆっくりと歩き出した。

 数歩。

 そこから一気に勢いをつけ、カンナに飛びかかったように見えた。

「《防護障壁(ウォード)》!」

 日和がすぐに対応する。

 しかし、ダイアウルフはカンナには飛びかからなかった。

 身体を大きくひねり、カンナの横へ跳ぶ。

 そしてそのまま横へ走り、日和の方へ向かった。

 カンナがフォローに入る。

 そのカンナに向かって、ダイアウルフの爪が襲いかかった。

 カンナが慌てて剣で受けようとする。

 間に合わない。

 爪がカンナの肩当てにあたり、そのまま上腕を裂いた。

 

「っ!」

 ダイアウルフは怯んだカンナの横を通り過ぎ、日和へ向かう。

「日和!」

 カンナが叫ぶ。

 ウォードが間に合わない。

 そう思った瞬間。

 ダイアウルフが大きくバランスを崩した。

 そのまま巨体が地面へ転がる。

 見ると、後藤が投げた三つの球と紐がダイアウルフの足に絡みついている。

 後藤の武器だ。

 

 ダイアウルフは倒れながらも、すぐに起き上がろうとする。

「今です!」

 状況についていけずにいた私を、後藤の声が我に返らせた。

「大地の理よ、その力を強め、沈めよ――《重圧領域(グラビティ・ゾーン)》!」

 

 ダイアウルフが足から紐を外す。

 今まさに抜け出そうとしたその瞬間。

 足元に魔法陣が出現した。

 巨体が沈む。

 まず尻尾がストンと落ちた。

 続いて全身が下がる。

 四本の足が強く地面を踏みしめて抵抗する。

 それでも、関節が押し曲げられるように身体が沈んでいく。

 

「グルッ……!」

 カンナがすかさず踏み込む。

 ダイアウルフが逃れようと首を動かす。

 だが、身体がついてこない。

 カンナの剣が首筋に食い込んだ。

 銀灰色の毛が裂け、赤い血が一気に噴き出す。

 それでも剣は止まらない。

 深く。

 さらに深く沈んでいく。

 領域に入っているカンナの身体にも、同じ重力がかかっている。

 身体を沈ませながら、それでも踏ん張る。

 振り下ろした剣にも重みが乗る。

 魔法陣の光が薄くなった。

 そして消える。

 

 急に身体を押さえていた力がなくなり、カンナがバランスを崩しかける。

 それでもどうにか踏ん張り、立ち上がった。

 私もすぐにダイアウルフを見る。

 首元が真っ赤に染まっている。

 舌をだらんと垂らしたまま、動かない。

 周りを見る。

 誰もが、突然訪れた決着に戸惑っていた。

 私たちは勝ったんだ。

 

 ダイアウルフを見ていたカンナが顔を上げる。

 少し笑った。

 それにつられて、私も思わず口角が持ち上がる。

 日和も。

 後藤も。

 

「やったー!」

 日和が片手を上げて叫んだ。

 

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