『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~ 作:久瀬ヤスノリ
金曜日に行われた最初の実地巡回は、思っていたよりもあっさりと終わった。集合は十九時。第六十三号ダンジョンの一般開放区を、学校から指定されたルートに沿って四人で巡回する。
途中で魔物との戦闘もあったが、特に問題はなかった。樫村さんがダンジョンに潜ること自体が初めてだったようで、かなり緊張していたが、後衛だったので特に影響はなかった。
翌日。
8時42分。集合時間は、9時。
ダンジョンの入り口には、すでに何人か集まっていた。
「おっ、後藤君!」
ベンチに座っていながら、何か食べている堂本から声がかかった。
「おはようございます」
「おはようさん。食う?」
差し出されたのは、コンビニのサンドイッチだった。すでに袋が開いている。
「大丈夫です。食べてきたので」
「そうか」
断っても特に気にした様子はなく、堂本さんは残りを口に入れた。
少し離れたところには樫村さんもいる。
今日はスーツではない。動きやすそうな服の上から装備を着け、足元にギアバッグを置いている。堂本とは挨拶を交わした後で、少し離れていたようだ。
「後は成瀬君やな」
堂本さんが言った直後。
「いますよ」
後ろから声がした。
「いつ来たん?声かけてや」
「今来て、今声かけました」
成瀬はさらりと言って、視線を外してスマホをいじり出したが、すぐに顔を上げて前を見る。視線の先からは話し声にしては大きな声が聞こえてきた。
「本日はいよいよ、実技課題に取り組むことになりました。夜間学校がテーマでしたが、実技課題は土曜日の朝から行うようです」
喋ってるのはB班のメンバーだ。
「なんやあれ、騒がしいの」
「B班には現役の DTuber がいるんですよ。久賀直人と瀬川美月。それなりに人気ですよ」
成瀬が説明してくれた。
「それでは、はりきってやってきます」
スマホを向けられている若い男が久賀なのだろう。万人受けするような癖のない顔立ちと、愛想のいい笑顔をしている。
スマホを持って撮影しているのが瀬川だろう。こちらも容姿がいい。
「よく知ってるんですか?」
なんとなく成瀬に聞いた。
「まあ。それなりに。企画は結構面白いですよ」
企画か……。少しだけ嫌な気持ちになる。柾木の笑顔と久賀の笑顔が重なる。あの手の笑顔は苦手だ。
「なんかイマイチなんだよな。もっと面白くなるかなと思ったんだけど、結構普通だよな」
そう言って、久賀はスマホの画面を見ている。多分、先ほど撮った動画のチェックをしているんだろう。柾木がよくやっていた。
「学校なんてそんなもんでしょ。でも、数字自体はそれなりに伸びてるから、とりあえず様子見ね」
瀬川はそういってスマホをいじくる。
久賀はその発言になぜか不満げな顔を浮かべて、スマホをポケットにしまった。
「課題で何か面白いことあったらいいけど、一般開放区だからないかな」
「そうね、予定通り最速クリアが無難でしょうね。今後のことはその後の反応を見てから決めましょう」
瀬川も言って、スマホをポケットにしまった。
「頼みますよ、三浦さんに竹中さん」
久賀はそう言って、他の2人のパーティーメンバーに笑顔を向けていた。笑顔の切り替えが早い。やっぱり似てるな。
「おい、聞いたか?後藤くん、最速クリア言うてる。えらい気合入ってるな。こっちも気張っていかんとな」
そう言って、堂本は笑顔を向けてきた。
「別に競争しなくても大丈夫ですよ。学校なんて、淡々と課題をこなしたら問題ないんですよ。」
成瀬がスマホから目を離さずに言う。
「なんや、やる前から冷めとんな」
成瀬は面倒くさそうに顔をそむけた。堂本は樫村にも同意を求めるように視線を向けたが、樫村は既に巻き込まれないようにスマホに視線を移していた。
その時、ダンジョンの入口付近から声がする。
「実技参加者、集合してください」
集まっていた生徒たちが、一斉に動き始める。朔たちもその流れに続いた。
前に立った教官が、手元の端末を確認する。
「今日の実技課題を説明します」
周囲の話し声が止まった。
「本日の課題は、一般開放区内で発生した遭難事故を想定した救助活動です。各班には、要救助者の位置と最低限の状況だけを伝えます」
黒瀬は続けた。
「現場へ入り、状況を確認し、安全を確保した上で要救助者を発見してください」
そこまでは普通に聞こえた。
だが。
「なお――」
黒瀬が、皆を見回した。
「要救助者が、最初に聞いた場所にいるとは限りません」
そういった黒瀬の口元が一瞬動いたように見えた。いままで感情が見えない人だと思っていたが、一瞬だけ感情が漏れた。なんだか嫌な予感がする。