『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~   作:久瀬ヤスノリ

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第22話 付与された力

 アーマービートルがさらに三匹追加された。

 前の索敵の時、飛んでいなかったので、音を拾えていなかったのだろう。

 

「すみません。アーマービートル、追加で三匹です」

 

 先ほど逃げた一匹と合わせて、アーマービートルは四匹。

 ゴブリンの方は、盾持ちの武器がショートソード。もう一匹は槍を持っている。

 悪い組み合わせだ。

 

 持っている盾は木の盾だが、朔の攻撃は弾かれてしまうだろう。

 

「成瀬君。盾ごとやれるスキル持ってますか」

「ありますが、詠唱に時間がかかります。他を全部引き止めておけますか」

 

 難しい。

 返事ができずに視線を地面に落とす朔。

 

 朔は状況によっては前衛もできる。

 しかし、それはディフェンスとしてではなく、オフェンスとしての前衛だ。

 堂本をきちんと引き止めておけば良かった。

 

「ゆっくり後退して堂本さんと合流しますか」

 樫村が言ってきた。頬がこわばり、目元がかたい。

 樫村の意見に賛成して、少しでも安心させてあげたい気持ちはあったが、答えはNOだった。

 

「ゴブリンに背中を見せるな」

 成瀬が誰に言うわけでもなくつぶやいた。

 

 探索者の間で使われる業界用語だ。

 ゴブリンは、基本的には卑怯で臆病な魔物だが、弱者に対しては非常に好戦的になる魔物だ。

 樫村もその言葉を知っているようで、何も言わずに頷いた。

 

「数を削ってみます。サポートお願いします」

 できればゴブリンを削りたい。

 どちらか一体削れば勝機が明確に見える。

 

 簡単に削れるのはアーマービートルだが、逃げた一匹は天井に取りつき距離を詰められない。

 羽を小刻みに震わせ威嚇行動を取っているので、何らかの刺激で攻撃してくる可能性は高い。

 

 後の2匹もゴブリンより前には出てこない。

 槍持ちも、盾持ちの後ろをついて来る形で近づいてくる。

 間合いは10mを切った。

 

 数は向こうの方が上だから、先手を取らなければならない。

 後手の対応だと手数が減る。だが、どうしても盾持ちが邪魔だった。

 

 朔はポケットから爆竹を取り出し、着火具を引き抜き、それを盾持ちの上にめがけて投げてから間合いを詰める。

「爆竹です!」

 仲間の二人を驚かせないようにするために、先に朔は言った。

 

 パパパンッ! パンッ、パパパパパンッ!

 けたたましい音を立てて炸裂する爆竹。

 盾持ちは状況を掴めず、破裂する上方に盾を構える。

 

 朔は盾持ちの横に入り、盾を掲げる手に内側からナイフを振り下ろす。

 決まった。

 

 朔がそう思った瞬間、羽音の音量が一気に上がり横から風を感じた。

 朔はナイフの軌道をとっさに変えて、そちらに向かって横なぎの一閃をする。

 腕にガツンという大きな衝撃とともに、痛みを感じた。

 かろうじて取り憑かれることは免れたが、薙ぎ払う時、足の鉤爪に引っかかり、腕の肉が裂かれた。

 

 朔の一撃によって地面に落ちたアーマービートルには、成瀬の放つマジックボルトが直撃する。

 それを横目で確認した朔は、再び盾持ちの方を向くが、すでに盾を前にして、正気を取り戻していた。

 せっかくのチャンスを逃した。

 

 悔しがる間もなく、槍の一突きが朔を襲う。

 咄嗟に斜め横から槍の穂先へフォースタップを放ち、軌道を逸らしてから、朔は斜め後ろに飛んだ。

 

 今度は盾持ちが間合いを詰めてくる。

 しかし、朔と盾持ちとの間にマジックボルトが割り込み、盾持ちの盾に直撃して後ろに押し返す。

 そこにダメ押しで朔が盾にコンバットナイフを振り下ろす。

 当然盾に弾かれる。

 その隙にすかさず距離を取り、成瀬達の方に移動する朔。

 

「すみません、うまくいきませんでした」

「いえいえ、十分ですよ。今回は運が悪すぎるだけで」

 成瀬がそう言うと、隣にいた樫村もうんうんと頭を縦に振って同意した。

 

 運が悪いと言えば運が悪い。あのアーマービートルの突進さえなければ、全ては決まっていた。

 でも実際は運の問題ではない。爆竹の音が昆虫系には効かないことを、きちんと考慮すべきだった。

 同じ手はもう通用しない。次の手を用意する必要があるが時間がない。

 

「もしかしたらさっきの音で、堂本さんがこっちに帰ってくるかもしれませんね」

 樫村が言った。

 そういった期待を込めて使った一手ではあった。可能性は十分ある。

 

 しかし……。

「かもしれませんね」

 朔は短く答えて、コンバットナイフを握り直す。

 

 期待を元に計画を立ててはいけない。

 堂本はいないし、この戦闘が終わるまでは帰ってこない。

 そう状況設定をして前を向く。

 取り敢えず一匹削れた。それと、実際に戦ってみて改めてわかった事がある。

 

「樫村さん。俺と成瀬君に同時に付与魔法かけてくれますか」

「何がいいですか、3つまで大丈夫です」

「まず、成瀬君の魔力と、俺の攻撃力と防御力を上げてくれますか。成瀬君は、盾持ちにマジックボルトを5秒間隔で撃ち続けてください。アーマービートルが来たら、牽制もお願いします」

 朔がそう言うと、二人はうなずき、樫村が早速、付与魔法をかける。

 

《魔導付与(アーケイン)》

《剛力付与(マイト)》

《防護付与(プロテクト)》

 樫村がすらすらと続けて魔法をかけた。

 成瀬の体がわずかに青白く光る。その後、朔の体が赤く光り、続いて黄色に光る。

 

「もう打っていいんですか」

 成瀬が聞いてきた。先ほどの爆竹が効いたのか、ゴブリンたちは一定の距離のままこちらに近づいて来てない。

「やってください。俺も後に続くので」

 朔が言うと、成瀬は早速、盾持ちのゴブリンに手のひらを向け、マジックボルトを放つ。

 

 バンッ!

 先ほどより大きな音を立てて、盾持ちが後ろにのけぞる。

 バンッ!

 続けてマジックボルトが盾に当たる。今度も衝撃で盾持ちが後ろにのけぞる。

 

 朔は成瀬に盾持ちを任せ、槍持ちの方に向かう。

 ゴブリンは槍の間合いに入る直前で一歩踏み込んで、朔に向かって槍を突き出した。

 それを見切り、踏み込みながら槍の穂先にフォースタップを打つ。

 穂先がぶれ、ゴブリンが体勢を崩す。その胴に、朔はコンバットナイフで横薙ぎの一閃を加える。

 骨の当たる感触はなかった。深く入った。すかさず、追い打ちをかけるように首に後ろからナイフを入れる。

 

 羽音が近づいてきたので、そちらに向き直り、狙いを定めてナイフを振り下ろす。ガキッ――ギチッ。

 前にアーマービートルを切りつけた感触と違った。

 前は強い反動があり、ナイフがすべて弾かれた感触だった。だが、今度は弾かれきらず、切っ先がわずかにめり込む感触があった。

 朔はそのままナイフを振り抜き、アーマービートルを地面に勢いのまま叩き付けた。

 

 別の方から羽音が近づいてきたので、朔は方向を変えて近づいてきたアーマービートルにまっすぐナイフを突き立てる。

 ガツッ、と切っ先から硬い抵抗が伝わってくる。

 だが、その抵抗の後、プツッ、と外殻が破れ、ナイフが中へ突き刺さった。

 朔は深く食い込んで抜けなくなる前に急いでナイフを抜いた。

 

 そして、地面に叩きつけたアーマービートルを見る。

 仰向けになって、足をバタつかせている。しかも、バタつかせてる足の一本は切り落とされていた。

 念の為にナイフを突き立ててトドメを刺す。

 

 全てではないが、攻撃が弾かれずに通った。いままで感じたことのない感覚だった。

 

 これが付与魔法の効果なのだろうか。

 朔は今までにない感覚に戸惑いながらも、胸の高鳴りを感じていた。

 

「……いい……」

 朔の口からそんな言葉が漏れた。

 漏れた言葉を自分の耳で聞いて少し正気に戻る。

 

「後藤さん。いつまで続ければいいんですか!」

 成瀬が大きな声をあげる。

 盾持ちの方を見ると、可哀想だと思うくらいに縮こまって、しゃがみ込んで、盾の中に隠れているゴブリンがいた。

 その表情は、今にも泣き出しそうだった。

 

 実際に朔が盾持ちと戦ってみて分かったことがこれだ。

 ゴブリンはフィジカルが弱い。

 盾を持っていても、盾が100%衝撃を無効にしてくれるわけではない。

 盾越しに伝わる衝撃をゴブリンは受け続けられない。

 

 このことは実際、ゴブリンの盾にコンバットナイフで切りつけた時に感じた。

 弾かれたり、いなされたりするような感覚はなかった。重さをまともに受けて、ゴブリンの表情が歪んでいたのだ。

 槍持ちの攻撃にしてもそうだ。コボルトの突きに比べて、明らかに遅かった。

 

「もう大丈夫です」

 そう言って、盾持ちに近寄り、盾を斬りつける。

 さすがに盾を真っ二つにするような力はないが、ナイフは盾を吹き飛ばした。

 

 呆然とするゴブリン。盾をもつ手が少し腫れ上がって痙攣している。

 パニックになってショートソードで切りつけてきたゴブリンの大振りを軽々と避け、その首にナイフを刺した。

「ギィッ……ガ、ァ……ッ!」

 大きな断末魔を上げることさえ許されず、言葉にならないままの音が、ゴブリンの喉から漏れた。

 

 そこにまた大きな羽音が近寄る。

 もう周りを気にする必要もない。

 朔はその音源に向かって地面を蹴り、アーマービートルに斬りかかる。

 ガギンッ!

 今度は外殻に阻まれた。

 もう一度切りつけて地面に落としてから、外殻の隙間にナイフを差し込みトドメをさす。

 

「すみません。付与が切れてたみたいです。時間には個人差があるので、こんなに早く切れるとは思っていませんでした」

 樫村が近寄り、そう言って頭を下げた。

 

 やはり樫村のスキルのおかげだったのか……。

 朔は納得すると同時に、少しがっかりした。

 

「凄いですね。付与魔法って」

 本当に素直な感想。

 たった少しの時間でも、フィジカルが強い自分を経験できた。

 

「そうなんですか、私自身がイマイチわかってなくて」

 そう言って、樫村はもう一度頭を下げた後、メモ帳を取り出してブツブツと言いながら記帳をし始めた。

 朔は気になって樫村の方に近寄っていこうとすると。

 

 ピコン、ピコン、ピコン。

 3人のスマホが同時に鳴った。

 

「堂本さんからのメッセージみたいです」

 成瀬が通知を見てそう言った。朔と樫村も同じようにスマホを取り出す。

「救助用の人形おらんで」

 

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