『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~ 作:久瀬ヤスノリ
「えらい時間かかったな。何してたんや?」
悪気はないのだろうが、堂本が言った第一声に、朔たちは顔を見合わせため息をつく。
「後ろからも敵が来てたんですよ。それを、前衛の堂本さんがいない状況で対応してました」
セリフを返したのは成瀬だった。ここに来る道中もブツブツと文句を言っていた。
樫村さんも不満はあるのだろうが、あまりにも成瀬が不満を言っていたので、何も言わなかった。
「ああ、そっか。すまん、すまん。俺の悪い癖やねん。なんか空気読めんみたいでな。あんまりひどかったらバチコーンとしばいてくれや。気にせずな」
そう言って深々と頭を下げた。
本当に悪気はないようだ。成瀬は頭をかきながら、視線を横に向けた。
もう少し文句を言いたかったようだが、消化不良のまま口を閉じたように見えた。
そんな成瀬の様子を見て、樫村の表情が緩んだように見えた。
「でもどうしましょうか。救助対象がいないとなると、周辺を探して救助しろってことですよね?」
樫村がそう言った。
もともと黒瀬がそのようなことを言っていたので、そういうことなのだろう。
「マップを見てみたんですが、この先は行き止まりになっていますね。二手に分かれていますが、両方とも行き止まりです」
すでにマップを確認していた成瀬がそう言った。
「ほな二手に分かれて、ちゃっちゃと片付けようか」
堂本がそう言うと、成瀬が鋭い眼差しを向ける。
「さっきそれで苦労したんですけど」
「お、そうかそうか。すまんすまん、そうやわな。ほな、みんなそろって行こうか」
堂本がすぐさま片手で「すまん」のポーズをして、成瀬にそう言った。
「いえ、先ほど索敵したのですが、片方は敵の気配がありませんでした。そちらは自分が1人で行くので、皆さんは反対側に行ってください。反対側もゴブリンが2体いるだけですので、対応できるはずです」
朔がそう言った。
多分、本来かかる時間を超えているだろうから、少しでも短縮したいという気持ちが朔にはあった。
この学校の月謝が2万円。堂本のように再履修は避けたい。
「後藤君がそう言うなら間違いないな。ほんますごいよな。敵の数まで分かるのに、『残念なスカウト』なんて言われてるとは思いもよらんわ」
堂本がそう言った後、樫村と成瀬の表情が固まる。
やはり皆知っていたんだ。
「あ、これ言うたらあかんやつやったな。忘れてたわ、ごめんやで、隠し事ちょっと苦手やねん」
堂本はそう言って、いつものように笑った。
「本当にデリカシーないですよね、堂本さんは」
成瀬が言った。
「ごめんやけど、すごいものはすごいって言いたいし。動画とイメージ違うから、どうしても引っかかっててな」
堂本がそう言うと、樫村と成瀬も遠慮がちに伺うような視線をこちらに向けてきた。
この点の説明は苦手だ。何をどこから、どう話していいか分からない。
まだ、混在する音の中で必要な音をラベリングして整理する索敵の方が、朔にとっては気楽だった。
それでも何か言わなければいけない気はする。
「色々、失敗しまして」
それ以上は言えなかった。正直、自分の中でまだ感情が整理しきれていない。
「そうか、失敗したことなら話しにくいわな、俺もよう失敗するからわかるわ。まぁ、俺はベラベラ喋って、デリカシーがないって言われるけどな」
笑いながらそう言って、肩をポンポンと叩いて歩き出した。
「そっちは頼むで、後藤君。早く終わらせてビール飲みたいわ」
「俺も今日は疲れました。堂本さんのせいで」
そう言って成瀬は朔の方に手を挙げて、堂本の後に続いた。
「そういうなよ、謝ったんやから。若いうちの苦労は買ってでもせえ言うやろ」
「古いですよ、そんな考え。今はタイパ、コスパの時代です」
「知らん、知らん、そんなもん。そういう考えが好きな奴はそう考えたらええ。俺は気合と根性が好きやねん」
「さっきは後藤くんがいてくれて助かりました。そっちは頼みます」
樫村が薄く笑って、朔に頭を下げて二人に続いた。
三人を見送り、朔はもう一方へ向かう。
肩を叩かれた手の感触が残っている。
なんか変な感じだ。
苦手な説明をしなくて良かったという逃げの安心感とはちがう感触。
カンナ達もそうだが、大樹達とパーティーを組んでいた時とは違う感覚。
大樹たちとパーティーを組んでいた時は、大樹と柾木の実力が高く、朔との実力差があったので、それについていくので精一杯だった。
足手まといにならないように、邪魔にならないように、そんなことばかり考えていたと思う。
「頼みますか……」
歩きながら朔はポツリとそう言った。
念のため歩きながら、もう一度索敵をしてみた。進行方向には何もいない。
朔本人も気づかないうちに自然と歩くスピードが速くなっていた。
200メートルぐらい歩いただろうか。通路の行き止まりまで行ったが、何もなかった。
向こうにはゴブリンが2匹いる。あの3人なら難なく倒せるだろう。
でも、早く行こう。
なにか手助けが出来るかもしれない。
朔はそう思って、もと来た道を急いで戻った。
合流する少し手前で足を止め、目をつぶって索敵をする。
戦闘をしているような音はしていない。
それなら息を整えよう。
走って戻ってきたことがバレると少し恥ずかしい。
バッグから水筒を取り出し、麦茶を喉に流し込み、口の渇きを潤してから、みんなと合流した。
「お、来たか。早かったな」
そう言った堂本は、背中に人の形をした人形を背負っていた。
人形とは言っても、のっぺらぼうで、顔に目や鼻や口などがあるわけではなく、関節が駆動するようになっているが、服も着てないしベージュ一色の外見をしている。
試作品のマリオネットのようだ。
「助けに来るのが遅かったから、魔物に襲われて怪我して、毒が回って自分で歩けんって、この木偶の坊が言いよんねん。つーかそれしか話さん」
「後藤さんも手伝ってくださいよ。俺はどうもこういうの苦手で」
堂本から少し離れたところに、成瀬と樫村がいた。
2人の間には堂本と同じように人形がいて、こちらは片足がない。
その人形を二人が肩を貸す形で支えている。
堂本の背負っている人形との違いは、こちらの人形は支えられながらではあるが、自分で歩いているということだ。
そのことだけでその人形がゴーレムだということがわかる。
それからの帰り道は、結構大変だった。
途中で魔物に出くわすたびに、ゴーレムを庇っての戦闘になる。
何故だかわからないが、魔物たちは執拗にゴーレムを攻撃しようとする。
そのように仕組まれている何かがあるのだろう。
行きの時間よりもだいぶ時間を要して、スタート地点に戻った時には、みんな満身創痍だった。
「遅すぎだ。時間がかかりすぎだ。これが試験だったら、お前たちは全員失格だ」
帰ってきた俺たちに、教官の黒瀬は言った。