『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~ 作:久瀬ヤスノリ
「厳しいな、先生。そんなこと言ったって、仲間呼ぶうるさいカナブンおったりも散々やったで」
堂本が地面に座り込んでそう言った。
「そっちはアラームビートルいたんですか」
話に割り込んできたのは、DTubeの久賀だった。
「そっちおらんかったんか。でっかい音出したから、魔物寄ってきて大変やったわ」
「こっちは特に何もなく終わっちゃって、ゴーレムと散歩して帰ってきただけですよ」
「なんやそれ、えこひいきちゃうか、先生」
堂本が眉根を寄せて、黒瀬に言った。
「B班は単純に早く動いて結果を出した。それだけの話だ」
黒瀬はそう言ってタバコに火をつけた。
「アラームビートルはこっちにもいたわよ。倒したあとで気づいたけどね」
スマホをいじっていた瀬川が言った。
「へえ、そうなの? 言ってくれよ、美月」
「体が崩れるちょっと前に気づいて、撮影できなかったのよ。それに、今回の企画の趣旨と違ってたしね」
「早クリア企画失敗したか~」
久賀は苦い表情を一瞬見せたが、すぐに人懐っこい笑顔に変えた。
「いや、お前たちの判断は正しい」
黒瀬は煙を吐きながら言った。
「今日の課題は何だ。答えろA班」
「そら、救助やろ」
「そうだ。救助で一番大切なのは速さだ」
「それは分かっとるけど、いろいろあってん」
堂本が少しすねた子供のようにぽつりと言う。黒瀬はタバコをくわえ、A班のメンバーを見回したあと、ゆっくりと煙を吐いた。
「堂本。お前、子供はいるのか?」
「いてますよ。中学二年の娘が一人」
「名前は」
「四葉っていいます。幸せになりそうでしょう」
堂本が顔の筋肉を緩めてそう言ったが、黒瀬はそれを無視して朔のほうを向いた。
「後藤。お前の家族の名前を言ってみろ」
「湊という弟がいます」
「今回、救助要請を出してきたのは堂本四葉と後藤湊だ。救助が遅れたため、堂本四葉は重傷を負って片足を切断。後藤湊は毒が神経に回り、運悪く半身不随。それが今回、お前たちが出した結果だ。お前たちもいろいろあって大変だったな。ゆっくり休んだらいい」
黒瀬がそう言うと、堂本は何か言い返そうとしたが、その言葉を飲み込んで下を向いた。
大げさな話……ではないのだ。
ちょうど昨日、そのような事例があると黒瀬が話していた。
だから、みんなそのことは知っている。
そのときは、ただのよくある事例だと思って聞き流していた。
でも、その事例の当事者にも家族はいた。
湊が救助失敗の事例になる可能性もゼロではない。
「辛辣だね~、あの教官。美月、きちんとカメラ回してた?」
「撮るわけないでしょ。教官の発言や映像は使えない契約でしょ」
久賀と瀬川がこちらのやり取りを聞いて、そんな会話をしていた。
「すいません、ちょっと話を聞かせてもらってもいいですか?」
愛想のいい笑顔で寄って来た久賀を、堂本は眉をひそめて見返した。
「何やねん、見たらわかるやろ?落ち込んどるんや。そっとしとけや」
「まあまあ、同じ教官の下で学ぶ仲じゃないですか。仲良くしましょうよ」
久賀は堂本のきつい言葉も気にせず、近くに寄って横に座る。
「大変だったみたいですね。何があったんですか」
そう言ってバッグの中から缶コーヒーを取り出し、堂本に渡す。
堂本は眉根を寄せて缶コーヒーを見たが、結局受け取って飲むことにした。
「なんでブラックやねん。苦い思いしとるのに、苦いもん飲ますなや」
堂本がそう言うと、久賀は笑顔で「すいません」と言った。
「どうせその人がまたやらかしたんですよ。前の時みたいに」
細身で眼鏡をかけた、魔法使い風の三十代後半くらいの男がそう言った。
三浦と呼ばれていた人だ。
「何?三浦さん、この人と知り合いなんですか?」
「前、一緒に実技2を受けたパーティーなんですよ」
三浦はため息をついて、そう言った。
「なんやさっきの言い方。全部、俺のせいでお前も落ちたみたいな言い方して。同じパーティーで受かった奴いてたやろ」
「受かった人は、私みたいな魔術師じゃなかったからですよ。魔術師は前衛が機能しないと、十分に力を発揮できないんですよ」
「ちゃんとしてたやろ、率先して敵倒しとったやないか」
「それがダメだって言っているんですよ。前も言ったじゃないですか。重戦士はタンクなんですよ。敵を引きつけてなんぼなんですよ」
「そんなんばっかしてたら、経験値が……」
そう言って堂本は、吐き出しそうになった言葉を飲み込んだ。
三浦はその様子を見て、目を細めてため息をついた。
「まだ信じてるんですか、敵を倒した人に多く経験値が入るとか言う馬鹿なこと」
三浦が言うと、堂本はすねた子供のようにぷいっと横を向き、口をへの字にした。
「なにそれ、例の都市伝説ですか」
久賀が声を少し大きくして反応した。すると、堂本はさらに体を横に向け、久賀から逃げようとする。
「そんなん分からへんやろ。戦士は敵倒してなんぼや、敵を引きつけてじっと盾を持ってるなんて、性に合わん」
堂本は独り言を言うように、横を向いたままボソボソとそう言い捨てた。
それを見て、久賀は瀬川のほうを向く。視線を受けた瀬川は小さく頷いた。
「そうですよね。戦士は敵倒してなんぼですよね。その方がかっこいいし。やっぱかっこいいって大事ですよね」
久賀がそう言うと、堂本は体をぴくりと反応させ、久賀のほうへくるりと向き直った。
「わかるか、兄ちゃん! なんや薄ら笑いしとる、うさんくさい奴やと思うてたら、ええ奴やないか」
堂本は上半身をぐいっと乗り出し、うれしそうな笑顔を浮かべている。
「いやあ、堂本さんみたいな人がパーティーにいたら頼もしいですよね。そういう話、ぜひ詳しく聞かせてくださいよ」
久賀は人懐っこい笑顔を浮かべていた。
柾木も、あんな笑い方をしていた。
朔が堂本を見ると、さっきまで落ち込んでいたのが嘘のように楽しそうに笑っている。
なんとなく堂本に叩かれた肩に手を当てる。
胸の奥にかすかなざらつきを感じた。
「先輩の貴重な意見を聞きたいんですが、参考のために撮影させてもらっていいですか?」
久賀はそう言って、うっすらと笑った。