『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~ 作:久瀬ヤスノリ
「ほな、今日は俺の奢りや。好きなもん頼んでええで!」
反省会は、堂本が行きつけの居酒屋に行きたいと言っていたが、時間が早く、まだ開いていなかったため、手近なファミレスで済ますことにした。
堂本は席に着くなり、メニューを樫村と成瀬に渡しながら言った。
「俺は生ビールやな。樫村さんは?」
「私もビールにします。飲むにはちょっと早いけど、飲みたい気分なので」
「おっ、ええなあ! やっぱり仕事の後の一杯は格別やろ!」
朔と成瀬は烏龍茶を頼み、飲み物が揃うと乾杯した。
「慣れてないから、今日はずっと緊張してましたよ」
樫村が、ビールを飲んで落ち着いてきた頃にそう言った。
「初心者の後衛をほったらかしにしてた前衛がいましたからね」
成瀬はメニューを眺めながらさらりと言った。
「伊織、お前なぁ、何遍俺に謝らせたら気が済むねん」
堂本が眉尻を少し下げ、困ったような表情で言うと、成瀬は「飽きたらやめますよ」と口角を少し上げて返した。
「なんや、今どきの子はドライやと思ったけど、ねっちこいな」
「私も、堂本さんがいなくなったときは結構怖かったです。朔くんがいてくれたから何とかなりましたけど……スカウトは基本中衛ですし」
樫村も堂本に促されるまま、下の名前で呼ぶようになっていた。さすがに堂本のように呼び捨てにするのは抵抗があるらしく、朔くん、伊織くんと呼んでいる。
「樫村さんにまで言われると堪えるなあ」
堂本は頭をかきながら、朔の方を見た。
「朔はどう思う? やっぱり俺、勝手に動きすぎか?」
「はい」
「即答かい!」
堂本が素早くツッコむと、みんな笑った。
なんだか懐かしい。
大輝たちとも、ダンジョンに潜った後、簡単な打ち上げをよくしていた。朔は湊が待っていたので、少しだけ食べて話に付き合い、帰っていたが、柾木と大輝は二日酔いになるまで飲み、次の日に影響が出ることもあった。悪い思い出ではなかった。
「まあ、次からは朔の索敵をちゃんと聞いて動けばいいと思いますよ。この中では一番ダンジョン経験が多いみたいですし」
成瀬が珍しくフォローするように堂本に言った。
成瀬と朔は同い年だったため、お互いを下の名前で呼ぶよう堂本に強く言われ、仕方なくそうすることになった。成瀬もはじめは抵抗していたが、堂本が「先手必勝や」と熱弁してきたので、最後は二人とも折れた。
「せやな。ほな、今度一回、四人で潜らへんか?」
「ダンジョンにですか?」
「せや、休みの日にや。せっかく四人そろっとるんやし、普通に探索してみたいんよ」
堂本はそう言って、ジョッキを持ち上げた。
「二階層やったら四人で楽勝やろ。せっかくやし、三階層まで行ってみいひん?」
成瀬は少し考えるように箸を止めた。
「自主訓練としては、悪くないと思います。実際の魔物相手じゃないと、連携の練習にもなりませんから」
「私は、皆さんが一緒なら……」
樫村も控えめに頷いた。
三人の視線が、朔に集まった。
「……いいと思います」
「決まりやな! ほな、次の休みに集合や!」
堂本は、少なくなっていたビールを嬉しそうに飲み干した。
約束した休日。
朔がダンジョンの入口に到着すると、すでに堂本が待っていた。
「おう、朔! こっちや!」
朔は堂本の姿を確認して明らかにそちらへ向かっていたのだが、堂本はわざわざ手を大きく振り、朔を自分の方へ呼び寄せた。
「おはようございます」
「おう! 今日も頼むで!」
堂本は、朝の情報番組のアナウンサーのように、テンプレート化された笑顔で今日も迎えてくれた。朔はこの笑顔に、初めは圧を感じてまっすぐ見られなかったが、何度か学校で話すうちに、特に意識することもなくなっていた。
しかし、今日はいつもの笑顔を見せた後、なぜかソワソワと落ち着かない様子だ。
「どうしたんですか?」と堂本に声を掛けようとした時、朔はその視線の意味に気づいた。
「どうしたんですか、その盾?」
朔が堂本の足元に置かれている大きな盾を指差して、そう言った。
「ああ、これか。ちょっと、イメチェンや」
そう言って、なぜか照れくさそうにそっぽを向いた。
「盾は性に合わんのじゃなかったんですか?」
柵の後ろから声が聞こえた。成瀬だ。
「性に合わん。性に合わんけど、性に合わんことを確かめるために持ってきたんや」
堂本の後ろから押し殺すような笑い声が聞こえた。樫村だ。
樫村が堂本の方をちらりと見ると、堂本はその視線から逃げるように顔を背け、大きな盾を拾い上げた。
「何か知ってるんですか? 樫村さん」
成瀬がそう聞くと、堂本が成瀬と樫村の間を遮るように立った。
「知らん知らん。樫村さんは何も知らん。俺も何も言うてないわ」
堂本がそう言うと、樫村は笑いを堪えながら答えた。
「はい。何も聞いてませんよ」
樫村はそう言って立ち上がり、意味ありげな笑顔を朔と成瀬に向けてきた。
「行くで。盾が俺には合わんことを証明したるわ」
堂本はそう言って、大きな盾を抱えて歩き出した。