『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~ 作:久瀬ヤスノリ
「どういうことや。あのクソコウモリ、おらんようになってもうた」
堂本が振り返ってそう言った。皆、状況を見ていたが答えが出せず、顔を見合わせる。
少しだけ考えて、成瀬が手近にいたケイプバットにマジックボルトを放って、撃ち落とす。
「なにしてるんや!そいつは俺の獲物や」
「いや、もういいでしょう。それに、初めに攻撃してきたのは、向こうに逃げたケイプバットは消えた奴ですよ」
「嘘つけ、適当に言うてるやろ」
「どういうことかな。朔」
成瀬は堂本のことなど気にせず、朔に体の向きを変え聞いてきた。
朔は、まず目を閉じ索敵を行う。しかし、それをすぐやめて、堂本の奥にある壁の方に、スタスタ歩き始めた。
そしてコンバットナイフを抜き、その刃を壁に向かって押し込む。ナイフの刃は何の抵抗も受けず、壁に深く突き刺さる。
「隠し通路のようですね。しかも、索敵がもう通じないように、防音魔法までかけられています」
「それホンマか!メッチャおもろそうやんか!」
堂本が目を見開いて、朔の方を見つめた。
「どうしましょうか?」
朔は少し考えて言った。
個人的には行ってみたい。だが危険があることは確かだ。もし何か危険なことが起きても、隠し通路の内部なら救助は見込めないかもしれない。
「ギルドマップを見てみましたけど、まだ未開拓区画みたいですね」
成瀬がスマホをいじりながら言った。
皆の視線が樫村に集まる。
「皆さんの意見に従いますけど、……未開拓区間のマップデータは、権利料金が発生するんですよね」
樫村が他のみんなの顔色を探るように、ぽつりぽつりと言った。
「正直、権利料金は少額ですが積み重ねていったら美味しいのかなって気持ちはあります」
「マップの権利料金は確かに美味しいですよね。今回の分は1回分だったら、それほど大した金額にはならないでしょうけど、探索者が更新するたびに、雀の涙ほどですが、お金が入りますからね」
「そうか、なら決まりやな」
堂本が言って、皆がうなずいた。
堂本がそういって先頭を切って、壁に向かって歩き出した。
「ちょっと待ってください。向こうに何がいるかわからないんですから、準備してから……」
朔が全部言い切らないうちに、堂本は壁の中に入っていって、その姿を消した。
「全くあの人は」
成瀬がそう言って、壁の中に頭だけ突っ込んで、中の様子を確認してから、顔を戻し「大丈夫です」といった。
「なんやおもろいな、この壁」
3人が全員入ってきたことを確認した堂本が言った。
「で、堂本さんを弱者認定したコウモリはどこ行ったんですか?」
ため息をついた成瀬は、皮肉を込めてそう言った。
「せや、忘れとった。朔、探してくれ」
朔が目を閉じ、索敵を行うと、ケイプバットの羽音は聞き取れなかった。もうどこかに擬態して息を潜めているのだろう。ただ、気になる音がした。水の流れる音。
「ケイプバットの音は聞こえませんでしたが、水の流れる音がします」
「水ですか?なんかありそうですね。行ってみましょうか?」
「ただ、手前にケイプボアが2体いるようなので気をつけてください」
「そうか、やっと魔物らしい魔物とやれるんやな。ブタ公に一撃食らわしてやるわ」
ケイプボアのところまで行く間に、ケイプバットが天井で擬態して止まっていたので成瀬に言って、マジックボルトで撃ち落としてもらった。
堂本が「俺が倒す予定だったのに」と文句を言ったが、「剣が届かないでしょ」と成瀬が一言で終わらせた。
「今度は俺が倒すからな。俺が強いとこを見せつけてやるわ」
ケイプボアを見つけた堂本は前に出てそう言った。
出くわした場所は運悪く狭い通路。幅は3mくらいだ。
やりにくい。正直、朔はそう思った。
堂本がどう動くかわからないし、後ろには成瀬と樫村がいる。突進してくるケイプボアを避けてかわすことはできない。
「ブフッ……ブフッ……」
低く濁った息を鼻から吐き出しながら、太い前脚で地面を何度か掻く。
すぐに突っ込んでくる様子はない。だが、逃げるつもりもないようだった。
一匹が頭を低くし、こちらへ牙を向ける。もう一匹もそれに合わせるように半歩前へ出た。
「ブォッ!」
短く荒い鳴き声が通路に響いた。
「一人前に威嚇か、怖ないぞ!」
堂本がそう叫んだ瞬間、ケイプボアが頭を低くした。
「ブォッ!」
地面を蹴り、一直線に堂本へ突っ込んでくる。
「上等や!」
堂本は逃げるどころか、一歩前へ出た。大きく剣を振りかぶり、迫ってくるケイプボアの頭めがけて振り下ろす。
ガンッ――!
肉を斬ったとは思えない、鈍く硬い音が響いた。
剣はケイプボアの額を切り裂いたが、そこで勢いを失う。
「うおっ!?」
次の瞬間、突進の衝撃が剣を伝って堂本の腕へ襲いかかった。肩が大きく跳ね上がる。踏ん張った両足が地面を滑り、堂本の体が二歩、三歩と後ろへ押し込まれた。
額から血を流しながらも、ケイプボアが堂本を襲う。
一瞬、堂本の体を薄い黄色い光が覆う。
ガァンッ!
辛うじて構えた盾によって突進を防ぐ堂本。
「なんや、ええ根性しとるやないか、こいつ」
突進を阻まれ、数歩下がって距離を取るケイプボア。
様子を見ていたもう一匹のケイプボアも、堂本の方を向く。
すかさず、そのもう一匹の方に投げナイフを投げる朔。投げナイフが肩口に突き刺さる。
「ブギィッ!」
ケイプボアが短く悲鳴を上げ、体をひねった後、朔の方を向き前脚で地面を掻く。
朔も、すでに取り出しておいたボーラを回し、準備を整える。
「ブォッ!」
頭を低くし、地面を蹴ったケイプボアが朔に向かって突進してくる。
その足めがけて、朔はボーラを投げる。
回転しながら飛んだ重りが、足元へ低く滑り込む。
――ガツッ。
しかし、そのうち一つが手前に転がっていた石へぶつかった。軌道がわずかに逸れる。本来なら左右から脚を挟み込むはずだった重りは、ケイプボアの前を空しく通り抜け、そのまま地面を跳ねた。
ケイプボアはボーラのことなど見えないように、動きを止めることなく、そのまま突進を続けた。
すかさずフォースタップを足元に放つ朔。しかしそれも慌てていたせいか、わずかにずれ、肩と地面に当たる。
本来ならここで躱して体勢を立て直すべきだが、後ろには成瀬と樫村がいる。
コンバットナイフを強く握りしめる朔。
ケイプボアとの距離は、もう三メートルもない。