『残念なスカウト』は勝ち筋を作る ~索敵・罠・毒。笑われた地味な技術で仲間を勝たせる~ 作:久瀬ヤスノリ
「ブギィッ!」
朔に突進して来ようとしたケイプボアの横っ腹に、剣が振り下ろされた。堂本だ。
ケイプボアは勢いのままバランスを崩し壁にぶつかる。そこに今度はマジックボルトが襲いかかる。それも2発続けてだった。
再び立ち上がろうとしたケイプボアだったが、カクンと膝が折れ、そこにもう一発マジックボルトが襲いかかる。
体を大きく震わせ、そのまま地面に倒れたケイプボアはもう動くことはなかった。
ガンッ――!
堂本と対峙していたケイプボアが、再び堂本に向かって突進してきて盾にぶつかる。
「なんやこいつ、ほんま正面からやったら、やりにくいわ」
目の前で起こった状況を処理しきれずに呆然としていた朔だったが、気持ちを立て直して堂本の斜め後ろに移動する。
ケイプボアは身を低くして、前足で地面を掻いている。ぐっと頭を下げ、そして再び堂本に向かって突進してくる。
ガンッ――!
再び盾にぶつかるケイプボア。その瞬間を狙って、その首元に横からコンバットナイフを突き刺す朔。
「ブギィッ!」
ケイプボアは悲鳴を上げる。朔は突き刺したナイフにもう一度力を込め、引き抜きながら切り抜いた。
ケイプボアはそのまま倒れ込む、首から溢れた血が広がり血溜まりになっていく。
「やっぱり三階層の魔物となると少し違いますね」
ケイプボアの最後をじっと見守り続けていた朔と堂本に成瀬が言った。
「ほんまやな。こいつ、なかなかの石頭で根性あるわ」
剣を鞘にしまいながら、堂本が言った。
「でも割と様になってましたよ、盾で戦う堂本さん」
樫村が笑顔でそう言うと、堂本はポリポリと頭を掻き、「そうか」とぽつりと呟いた。
「こいつはガチンコで来たからな、正々堂々。なんや、悪い気がせんかったわ」
堂本が盾を見ながら、ボソボソとそう言う。
「ありがとうございます。助かりました」
朔が堂本にお礼を言うと「おっ、おう」と少し戸惑いながら軽く返事をした。
再び歩き始めた朔は心にしこりのような物を感じていた。
あの時、堂本が助けてくれていなければ、危険な状況だった。自分のフィジカルの弱さと同時に、自由に動けない状況に縛られる窮屈さを感じる。
ダメだと思いながらも、一人なら、もっと別のやり方ができた。 その考えがどうしても浮かび上がる。この感覚は、大輝たちと一緒にパーティーを組んでいた時にも、何度か味わったことのある感覚だった。
せめて自分に日和のウォードのような防御スキルがあれば……。
そんな考えが浮かんで消えた。
「朔どっちや」
道が十字路に差し掛かり、立ち止まった堂本がそう聞いた。
朔は湧き上がってくる感情を整理しないまま、索敵もせずに以前の索敵の情報を元に「まっすぐです」と呟いた。
十字路を抜けてからは、急に道が広くなった。倍近い幅になる。
同時に、奥に進むにつれて空気も少し変わってきた。ひんやりとしていて、わずかに湿っている。足元にもところどころ濡れた跡があり、岩肌には薄く苔のようなものが張りついていた。
サァァ……。
しばらく歩くと、先ほど索敵で拾った水音が、今度はスキルを使わなくてもかすかに聞こえてくる。
「お、水の音してきたな」
堂本も気づいたみたいだ。
朔は一度立ち止まり、索敵を使った。
水の流れる音。その周囲で小さく跳ね返る水滴の音。今のところ、魔物らしい音は聞こえない。
「この先です。魔物の反応もありません」
そう言って、再び歩き出す。
進むにつれて水音は徐々に大きくなり、やがて通路の先が開けた。
「おお……」
堂本が声を漏らす。
そこは小さな広間になっていた。壁の一部にできた亀裂から透明な水が絶えず流れ出し、岩肌を伝って下へと落ちている。
落ちた水は地面の窪みに溜まり、浅い水場を作っていた。そこからさらに細い流れとなって、広間の端に空いた岩の隙間へと消えている。
「地下水……なんでしょうか?」
樫村が水辺へ近づきながら言う。
「さあ。普通の水かどうかも分かりませんし、サンプルを持ち帰ってギルドで鑑定してもらいましょう」
朔がそう答えながら、ギアバッグから15センチほどの大きさのケースを取り出し、その中にある試験管を一本取り出して、直接水に触れないようにして試験管を水で満たして、再びしまう。
そして水場の周囲をもう一度見渡す。さっきから気にはなっていたのだが、湿った岩の隙間を埋めるように、見覚えのある草が何株も生えている。一株や二株ではなく、水の流れに沿うように、広間の奥まで続いていた。
「……やっぱり」
朔はその草の方へ近づいた。
「なんですか」
成瀬がしゃがみ込む。朔の後ろから覗き込んで聞いた。
「解毒草です。しかも青みが強いので少し高めに売れると思います」
「だったら、根こそぎ引っこ抜いて持って帰るで」
「ダメです。根っこは置いておいてください。また生えてきますから」
すぐさま草に手をかけた堂本に、朔は慌てていった。
「そうなんか、そしたらまた採れるな」
堂本はにっこり笑って、ナイフを取り出して素直に従った。
全部で20株ほど取れた解毒草は、ひとまとめにして収納袋に入れた後、堂本のギアバッグに入れることにした。
「これで、マップの権利価格も上がりますね」
「そうなんか」
「はい。採取ポイントのマップ情報は価値があがります」
朔はそう言って、索敵を行った。
目を瞑ると聞き覚えのある足音が聞こえて顔が強張る。
二足歩行、大きな足音。
「トロルです…一体、一体の距離は離れていますが2体います」
「なんやて!」
堂本が声のボリュームを上げて聞き返す。
「一体は、この先です」
「もう一体は?」
「……俺たちが来た方向です」