少し、遅れ気味で、焦ってます。
「それで、姉さん。強硬派の拠点をどうやって落とすつもりだ?いつもと違って、相手は数も多いだろう。」
サオリが心配そうに聞いてきた。サオリの言う通り、今回襲撃する強硬派の拠点は大中小でいえば小さい拠点だが、それでも、生徒が50人以上、戦車や機関銃、迫撃砲なんかも配備されているらしい。それに対して、こちらの戦力はスクワッドのみんなと私一人。戦力差は歴然だ。しかし、私にはいくつかの作戦があった。
「それがね、お嬢たちが言うには、最近私たちが強硬派を撃退しまくったせいで、強硬派自体が結構弱体化しているって噂が流れているらしくてね。噂の真偽はともかく、それで、融和派との縄張りの境界線付近で、大規模な戦闘が予想されるから、目標の拠点の半分以上の戦力が出払っているらしくてさ。」
私たちが活動している地域は、縄張りとしては強硬派の範囲内だが、その位置は他の自治区との境界線側で、強硬派と融和派は、中央付近のアリウス・バシリカをめぐって獲って獲られてを繰り返しているのだ。
「でも、半分は残っているでしょ?私たちはまだそこまで戦力になれないし、メイちゃんが一人で突っこむの?」
「いや、流石にメイでも無理でしょ。」
「そうだぞ、姫。いくら姉さんでも武装した20人以上を単独では無理だ。だから、きっと姉さんにも考えが…」
サオリがそう言いながらメイに視線をやると、メイは黙々と自分の装備にマガジンやグレネードを補充し、体には弾帯を巻き付け始めていた。
「姉さん!」
「え、何、サオリ?!お姉ちゃん単独出撃の準備で忙しいから、帰ってきたらまた甘やかしてあげるからね!
「違う!甘やかしてほしいわけでは…」
「さっちゃん…」
「サオリ姉さん…」
「サオリ姉さんばっかりずるいです!」
「だから、違う!」
そのあと、サオリの説得が始まった。今までほぼ素手であんなに倒してきたんだから、武器があればもっといけると思うこと、お嬢を通じて内側からも反乱がおこる予定であること、なによりこっちには戦車があることなど、根拠を踏まえて説得したところ、納得、ほぼしぶしぶって感じだったけど、送り出してくれることになった。
「じゃあ、行ってくるね」
「気を付けてね。」
「ちゃんと、帰ってきてくださいね!」
「帰ってこなかったら許さないから。」
アツコ、ヒヨリ、ミサキが各々励ましの言葉と共に送り出してくれる中、サオリの姿はなかった。
「さっちゃんも、誘いはしたんだけどね。やっぱり一人で行かせるのが心配だし、何もできないのが嫌みたい」
「そっか。なら、なおさら無事帰ってきて、甘やかしてあげないとね!」
「そうだね。そうしてあげて」
アツコはクスクスと笑いながらそう言った。そして、私は戦車を発進させる。目指すは強硬派の拠点。時間にして約40分の場所だ。戦車だから少し時間がかかる。私は戦車を操縦しながら、これからのことを考える。
「拠点を落とした後は、強硬派が奪還しに来るだろうから、できるだけ拠点の防衛設備は壊したくない。あと、お嬢みたいに懐柔できるかもしれないからできるだけ生徒は捕らえる方針で。あとは…」
「姫たちと合流して、早めに防衛設備を使えるように訓練を開始したほうがいいんじゃないか?それと、強硬派が遠隔で操作可能な設備や抜け穴がないかの確認も必要だろう。」
「確かにそうだね。いや、やっぱりサオリがいると助かるよ。ん?サオリ!?なんでここにいるの?!」
私は、独り言に突然交じってきたサオリに驚愕し、戦車の操縦を誤りそうになったが、なんとか立て直し、サオリの方を向いた。
「姉さんが一人で行くって譲らなかったからな。私も譲らず隠れてついてくることにした。」
この戦車は近代化によって、中の機器類が少なく、荷物が多く積めるようになっていたので、念のため色々積んできていたのだが、どうやらその中に隠れてついてきたようだ。
「みんなにも黙って付いてきちゃったの?今頃心配しているんじゃない?」
「それなら大丈夫だ。姫には言ってきた」
どうやら、クスクス笑っていた姫も共犯なようだ。あとで説教しなくては。そんなことより、今はサオリのことだ。
「本当は、このまま戦車を降りて帰って欲しいけど、降ろしたらそのまま着いてくるよね?」
「もちろんだ。姉さんを1人で行かせるわけにはいかない。」
サオリの目には決意が宿っていた。こうなったら連れて行くしかない。私は、直線の道に入ったところで、戦車の操縦を自動操縦にし、後ろの荷物の山から一丁のハンドガンを取り出した。これは、ヒヨリとミサキと3人でエンジェル24に行った時に買っておいたものだ。それからは、射撃の訓練などに使っていた。強硬派から奪ったものもあるが、せっかくなら新しいものをあげたい。
私は、ハンドガンのスライドやマガジンの動作に問題がないことを確認してからサオリに手渡す。
「姉さん、これは?」
「サオリが今回の襲撃で使う武器だよ。まだ幼いサオリの体じゃアサルトライフルとかだと制御しきれなくて危ないし、ハンドガンなら使い方も単純だからね。」
「これ、姉さんがずっと使っていたやつだよな?」
「そうだけど、気に入らない?なら、一応他にも積んで来てはいるけど…」
私は、強硬派から奪った武器類をいくつか取り出しながら尋ねた。
「これでいい。いや、これがいい。姉さん、よかったらこの襲撃が終わっても、これ持っていてもいいだろうか。」
「別にいいけど。そんなに気に入った?」
サオリは、受け取ったハンドガンを大事そうに見つめつつ、動作確認を始めた。私は操縦席に戻り、拠点への到着が目前であることを確認する。
「サオリ、そろそろ準備して。最初は拠点の門をこの戦車で突き破るから。そのあとは、中で白兵戦かな。」
「分かった。姉さん。背中は任せてくれ。」
私は、サオリとの共闘に胸を躍らせつつ、アクセルをベタ踏みする。そして、門に突撃するべくそのまま直進して行くと、なぜか拠点の門が開け放たれた。
「え?なんで?」
私は予想外の出来事に驚いたが、突撃するつもりで加速した戦車は簡単には止まらず、そのまま拠点の敷地内へ入っていってしまった。
「姉さん、どうする?もしかして、こちらの襲撃が漏れているのかも…」
もし、サオリの言う通りだとしても、ここから出るのは難しいだろう。なら、やることは変わらない。このまま戦車から飛び出し白兵戦だ。
「サオリ、私は戦車を降りて白兵戦に入るよ。戦車は門に突撃しなかったから、砲撃も可能だろうし、サオリはそれで援護を。建物まで私が侵入したら、サオリも降りて来て。」
「分かった。姉さん、気をつけてくれ」
「ありがとう、行ってきます!」
私は、荷物の山からライトマシンガンを二丁取り出し、両手で構えた。リロードはできないが、使い捨てとしてなら大多数に有効だろう。
私は、戦車の上部から飛び出し、周囲の敵を薙ぎ倒すべく、射撃体制に入った。その時だった。
「待ってくださいまし!わたくしたちに抵抗の意思はございませんわ!全面降伏致します!」
「え?お嬢?!」
そこには、今朝別れたばかりのお嬢と他2人がボロボロの状態で立っていた。
「わたくしたち、第七拠点はメイ様たちに完全に降伏いたします。また、残存している生徒のうち、8割はそのまま強硬派を脱退いたしますわ。つきましては、メイ様たちの配下に加えていただきたく思いますわ。」
「え、どういうこと?」
「姉さん?どうなっている?いつまでも戦闘が始まらないが。」
サオリも状況が掴めず、様子を見に出てきた。お嬢に話を聞くと、お嬢は昨日のやりとりで強硬派を見限ったらしい。それで、どうせ新興勢力として独立するよりは強硬派に対して抵抗の実績のある私たちの下に付きたいとのことだった。そして、反対した少数派と先ほどまで殴り合いの喧嘩をしていたせいでぼろぼろで連絡もできなかったそうだ。
「それに、ここだけの話、離脱を扇動したことで、第七拠点の下っ端扱いだった私たち3人も、今やリーダー扱いですの。これでまた実家の復興に一歩近づきましたわ!」
お嬢は胸を張ってそう言った。他2人も満更でもない感じだ。
「ま、まぁ、戦わなくて終わったならよかったね?ねえ、サオリ?」
「そうだな…。姫たちを呼んでくる。」
これから始まる戦闘に向けて決意を固めていたサオリとしては、なんとも言えないようだが、第七拠点攻略作戦は、予想外にあっけなく終わったのだった。私的には、防衛設備も壊れず、痛い思いもせず、万々歳である。
【???視点】
「忌々しい」
私は、強硬派から上がってきた報告書の内容につぶやく。私は、アリウス支配下に置き、将来的にはトリニティに攻勢を仕掛けるべく、強硬派を支援し、融和派の壊滅を促してきた。しかし、ここ数日、謎の勢力が強硬派の活動を妨害、結果として強硬派は混乱し、融和派は勢いずいている。
「謎の勢力については、まだ何もわからないのですか?」
「はっ!例の勢力につきましては現在調査中であります。近いうちに、当該勢力の活動地域に一番近い第七拠点に対して、本部から調査隊を派遣する予定です!」
「そうですか。何か分かれば、すぐに私に報告を。」
「はっ!了解しました!」
そこに、生徒が勢いよくドアを開けて入って来た。まったく。完全な支配下に入れたあとはこういうところも、躾けていかないといけませんね。
「失礼します!緊急の連絡がありまして!」
「お前!マダムの前で失礼だぞ!」
「構いませんよ。それで、あなた。緊急の連絡とは?」
「はい!申し上げます!第七拠点より本部に移動中であった増援部隊によりますと、第七拠点が謎の勢力により制圧されたとのことです!」
「それは、間違いありませんか?」
「間違い無いかと!増援部隊はすぐ引き返したそうですが、その際、拠点に掲げられていた旗は下ろされており、設置された設備も防衛態勢をとっていて、こちらからの呼びかけにも応答しないようです。」
「なるほど。なら間違いないようですね。」
拠点が奪われるとは予想外だ。あくまで融和派に取り込まれなければいい程度に思っていたが、まさか牙を剥いてくるとは。
「申し訳ありません!すぐに奪還部隊を編成、私も現地に向かい指揮を…」
「構いません。一旦放っておきなさい。そちらに戦力を回し、融和派に本部を落とされたら目も当てられません。あなた達は目の前の融和派に集中するように」
「はっ!そのように!」
強硬派の生徒達は、そのまま部屋を後にした。事実として、今の強硬派に例の戦力に回せる余力は無い。中途半端な戦力では返り討ちにあって終わりだろう。
「そろそろ、時間ですね。」
私は、時間を確認し、席を立つ。所属する組織ゲマトリアの会議に出るため、移動しなければならない。やつらも私の計画がうまく行っていないことは、把握しているだろう。だからこそ、参加して想定内であるという体裁を保つ必要がある。会議では、間違いなく計画の遅れを言及されるであろうことに嫌気がさしつつ、その原因であるまだ見ぬ謎の勢力に、恨みの念を募らせるのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
次回は日常パートの予定です!
お楽しみに!