【ヒヨリ視点】
私は、本が好きだ。メイさんに連れて行ってもらったお店で、初めて買ってもらった。私はその本からアリウス自治区の外のことを多く知った。
それまでは、外の世界へのイメージは漠然としたものだった。アリウス自治区とは違って、家は壊れていないし、ご飯も3食食べられる。学校も校舎がきちんとあってみたいな。
でも、雑誌にはキヴォトスの各自地区の観光名所や、生徒間で流行っているモモフレンズというキャラクター、新発売の化粧品なんかがこれでもかと載っていた。
私はそれを読んで、いつか行きたい!食べたい!と思うようになった。それをメイさんに言ったこともある。
「メイさん!私、ここ行ってみたいです!」
「ん?どこ?アビドス砂漠かー遠いなぁ。」
「行けないくらい遠いんですか!?」
「いや、そこまでじゃないんだけどね。行くとなると車で1日がかりなんだよね。1日ここを開けるわけにはいかないかなぁ。」
「そんなぁ」
私はそれを聞いて落ち込んでしまった。頭では分かってはいた。まだ車はメイさんしか運転できないが、うちの最高戦力であるメイさんが1日明けるのは現実的に無理だし、観光して帰ってきたらまた寝る場所がないのは嫌だ。でも、知ってしまったのに行けないのは悲しい。
「分かった!なら、約束する。今すぐは無理だけど、私がいつかヒヨリをアビドスに連れて行くよ!」
「本当ですか!?本当ですよね!?」
「もちろん!嘘ついたら、針千本飲むよ!(黒服が)」
何か含みのある言い方だったが、絶対連れていくという約束の前ではどうでも良かった。
そんなこんなで、私は本を読むのが好きになったわけだが、私はその後、運命の出会いをしてしまった。そう、電子書籍だ。メイさんのスマホには、サブスク?というのが入っている?らしくて、雑誌を買いに行かなくても、新刊は読めるし、過去のものまで読めてしまう!
私はすぐ電子書籍に夢中になった。今も第七拠点で与えられた自室のベッドの上で読んでいるところだ。
突然、私の部屋にノックの音が響いた。
「ヒヨリ?サオリだ、居るか?」
サオリ姉さんだった。私は息を殺し、寝たふりをする。
「ヒヨリ?寝てるのか?姉さんが、ヒヨリはきっと夜更かしをしてスマホ見てるから、回収してきてくれと。」
まずい。サオリ姉さんからならともかく、メイさんに頼まれたのなら、サオリ姉さんは絶対引かない。しかし、幸いにもドアには鍵をかけたはず。
「それと、合鍵を預かっている。寝たふりは無駄だ。」
「そんなぁ!なら、寝たふり意味ないじゃないですか!」
「やはり夜更かししていたな!起きているなら、最初から返事をしろ!入るぞ!」
「え!待ってください!今いいところですから!これが読み終わるまで!せめて、このページだけでも!」
サオリ姉さんは部屋に入ってくるなり、ベッドに向かって来て、私が被る掛け布団を剥ぎ取り、そのままスマホを取り上げた。そして、私の訴えも虚しく、スマホを持って、「おやすみ」と一言残し、そのまま出て行ってしまった。
「ひどいです!なら、明日は鍵だけじゃなくて、扉の前に棚でも置いておきましょう。流石のサオリ姉さんでも扉を壊しまではしないでしょ。しないですよね?」
私はそんなことを考えながら、眠りについた。次の日、私は計画通り万全の体制で、部屋に籠城したが、スマホは保護者設定?によって、21時になったら勝手に電源が落ちてしまったのだった。
【サオリ視点】
射撃場に銃声が響く。
「全弾命中、流石サオリだね!」
「いや、何もすごいことじゃない。ここに来てからずっとやっているからな。」
「え、やめて!いまだに何発か外す私の立場は?!」
「姉さんは、まともに練習してないじゃないか…」
今、私と姉さんは、第七拠点の地下に設けられている射撃場で、射撃訓練をしていた。拠点に移って来てから、夜には、ここに来て訓練するのが日課になっていた。というのも、昼間は元強硬派の生徒たちが訓練しているのだが、一応幹部扱いされている私が居ると、周りが集中できないらしいのだ。それは、ここのボスである姉さんは尚更だ。
そこで、私たちは、基本的に射撃場が空いている夜に訓練することになったのだ。といっても、姉さんはほとんど訓練していない。私の射撃を見ていたり、タイムを測っていたり、客観的な指摘をするのがほとんどだ。本人が言うには、
「私、肉体が強いじゃん?だから、銃は繋ぎって言うか、いかに相手に近づくまでの時間を作るかって感じで。ねぇ?」
とのことだ。でも、銃を使う側の視点を知ることは、相手がやられたくないことを見つけることに繋がるからと、様々な種類の銃火器を一通りは試しているようだ。それでも、この拠点にあるものは試し終わったらしく、やることがないようだ。
「姉さん、やることがないから無理に付き合わなくてもいいんだぞ?」
「そうなんだけどね?邪魔じゃなかったら居させてほしいな。見てるだけでも楽しいし、射撃するサオリもかっこいいし!」
「それならいいが...」
姉さんは平然とこういうことを言う。私はレーンに向き直り、打ち切ったハンドガンのマガジンを交換する。このハンドガンは、ここを落とそうとした時に姉さんにもらったものだ。
この銃を撃っていると、姉さんとの出会いを思い出す。強硬派の連中にされるがままになっていた私たちを助けてもらった時のことを。私もあの時ナイフは隠し持っていたが、キヴォトスの生徒は、個人差はあれど体が頑丈であり、人数でも負けていたあの場では、ナイフでの無力化は厳しかった。
あの時、姉さんが現れなかったら…。私たちは今もあの廃墟に隠れて暮らしていただろう。それ以前に、あの場面からヒヨリと無事に帰れなかったかもしれない。
「サオリ準備できた?」
私は考え込んでしまっていたようで、姉さんが私の顔を覗いて尋ねてきた。
「ああ、大丈夫だ」
「では!始め!」
姉さんの合図で、的に向けて発砲する。弾倉が空になるまで撃ったが、全て中心付近に命中した。
「流石だね。精度の向上は練習を続けるとして、これ以上は他の武器との使い分けとか、実際に動きながらの練習になるのかな?とりあえずは、練習の継続、それからアツコ達への指導かな。」
「そうだな。姉さんと撃ち合いの練習をしてもいいが、姉さんは撃たれながら平気で距離を詰めてくるからな。」
「いやー、痛いことは痛いんだけどね。耐えられないほどじゃないからね」
姉さんや、元強硬派の生徒の話では、キヴォトス内の学園には、それぞれ1人か2人ずつぐらい並外れた実力者がいるらしい。
つまり、最終的には姉さんのような相手とも戦えるようにならないといけないのだ。
「まぁ、自分で言うのもなんだけど、私みたいのには1人で挑むべきじゃないよ。やっぱり、数は力だよ。100人いて私に勝てないとしても、20人ごとに別の箇所を責められたら、1人だと止めるのには限界があるし。だから、うちも全体的に強くならないとね。アツコ達の訓練の後に、お嬢達の訓練をやって、その次に部隊運用とか、戦術の勉強かな?どっかに教材落ちてないかね?」
「エンジェル24で探してみたらどうだ?それかヒヨリが愛用してる電子書籍とか。」
「そうだね!今度行った時に探してみようか。じゃあ、今日の訓練は終わりにしよう!」
姉さんはそう言うと射撃場の出口に向かっていく。姉さんは、あんなに強いのに決して現状で満足していない。自分だけでなく、周りをも成長させようとしている。きっと、何か大きな目標があるのだと思う。でも、聞いたところで素直には答えてはくれないだろう。だから私は、その時が来た時に姉さんの力になれるように、姉さんが1人で抱え込まなくて済むようにしたい。
すると、姉さんが突然振り返って言った。
「悪いけど、サオリは私と一緒に教師側だからね?射撃なんかでは既に勝てないし、頼りにしてるよ?」
「もちろんだ。任せてくれ。」
姉さんは私の返事を聞くと、満足そうな顔をしてから、また出口の方に向き直った。私は射撃場の出口に向かう小さくも頼もしい背中を追いながら、決意を新たにするのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
遅くなりました!ヒヨリとサオリの日常編です!
日常、不思議なくらい書けなくてびっくりしました!
次回からは、またストーリー編です!
早く本編行きたい!