ちさたきがいちゃいちゃするのを見守るだけの話   作:丸尾裕作

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1話 Dream comes true

 壁になって、イチャイチャを眺めたいです。

 

 私はそんな欲求が人一倍強い。

 

 リコリスリコイルの世界に転生したことで、かわいい女子がわちゃわちゃしているのがいいよねということでそんな夢が叶っちゃった。もう百合って最高。神様、ありがとう。

 

 ということで、こんにちわ。

 名前を織部雪美と申します。

 

 リコリス・リコイルという作品の錦木千束と井ノ上たきなの二人の関係性の尊さが好きで好きでたまらなかった。

 

 前世は百合が大好きで、力仕事頼まれまくった男として、バカ力を持ったまんまなんとTS転生しちゃいました。

 

 今は、リコリコというお店で白のかわいい浴衣を着させていただいてる、ただの店員です。

 

 この世界は、女子高生がなんだか物々しいです。

 

 まぁ、治安部隊が女子高生なんでそりゃあそうですよね。

 

 前世だと、私は銃の弾丸ぐらいなら握りつぶせるぐらいしか取り柄がなかったりするんだけど、特にこの世界だと少しぐらい役に立ってくれそうで助かります。

 

 時々、百合を邪魔する奴はぶっ殺すぞ的などすの利いた声が出ちゃうけど、はしたないから男以外にはやらないし、問題ないですよね?

 

 かわいい女子、特に百合百合している人たちには目がなくて、あの喫茶リコリコは素晴らしいです。もう今日も素敵な日が始まりそうです。

 

 ふたりの時間、いいえ、ふたりだけの時間、選び取る未来を見守ります。

 

 私は大きな町が動き出す前の静けさが好きです。

 

そして、この地域は静寂に包まれていますが、この建物内では喧噪が広がり始めようとしています。

 

 私はそれもたまらなく好きなんです。

 

 理由の一つは一人のリコリスの少女、錦木千束の存在にあります。

 

 金髪で肩ほどまでのショートヘア、赤い浴衣を着ていて、出るところと閉まるところがしっかりしまっているナイススタイルと女性としても魅力的な女性です。

 顔も整っていて、いわゆる美少女と言って差支えがないと言えます。

 わたくしはあんな神聖な方に触れませんわ。

 できれば、腹筋とその美しい引き締まった太ももを撫でさせていただきたいんですけど見境がなくなりそうになるのでおやめしますわ。

 

 そんな赤い浴衣を着た錦木千束がばたばたと走りながら、勢いよくドアを開けたことで、カランコロンという音が喫茶リコリコ内に響き渡ります。

 

 中に入ると、リコリコ特製のオリジナルブレンドコーヒーの苦い匂いがふんわりと鼻腔に入ってきます。

 

 建物の外観は一見洋風です。

 でも中に入ってみると、机やカウンターなどはよくある喫茶店風であるが、畳などが随所に見られ、店内の雰囲気は和風というほかありません。

 

 何よりも店員の服装が全員が浴衣であるため、日本風という印象を与えているが、ここは和風喫茶店というコンセプトですが、そこまでうるさく強調しているわけではなく、むしろ逆で気楽な雰囲気を感じさせられます。

 

 赤の対照的な色は青色であるので、自然と青に目が行ってしまいます。

 本当素敵なコントラストだと思いますわ。

 

 おかげさまで、店内でレジの前に立ち、経理にいそしんでいる青い浴衣にツインテールの店内衣装に身を包んでいるたきなが入口の方に顔を向ける姿が視界に入ります。

 

「ねぇねぇ、たきなたきなたきな」

 

 千束は明るく誰もが分かるほどの圧の強い高音の声でたきなに勢いよく、声をぶつけていく。

 あまりにハイテンションで不自然でここまで明るい人物は会ったことがないと面食らうかもしれないレベルに元気な声です。

 

 たきなと違って、赤い浴衣を着ているため、情熱的な印象をなおさら与えて、金髪であることも相まって、明るい陽の人間ということがなおさら強調されていて、見るものが見ると、太陽のような存在にも見受けられます。

 

 もちろん、たきなはそんな千束の明るくハイテンション過ぎる態度に慣れているので、動じることはなく、眉一つ動かさず、首を少しだけ千束のいる方へ向けます。

 

「どうしたましたか? ちさと?」

 

 その声色は千束の声とは対照的に声はとても低く、淡々としていて、抑揚のない声をしています。

 とても落ち着いていた性格だと一度聞くだけで分かります。

 それに、顔は無表情であり、至極冷静だということもうかがえます。

 

 先ほどは錦木千束を太陽と例えたので、こちらはその透き通った目で、端正な顔つきで見つめて、青い服で見るものを落ち着かせるところから月ともいえようか。

 

 逆に言えば、テンションが低く、静かすぎるとも言えます。

 

 私は彼女の方に性格が近く、テンションがとても低いので、彼女の存在こそが私の心の均衡を保ってくれる。

 

 千束のハイテンションであることで間のテンションは存在しないため、大変バランスのとれた形となっています。

 

「これ見てよ、たきな」

 

 チケットをこれ見よがしに見せて、より「ほ-れほーれ」と言いながら、羨ましいだろうとこれ見よがしに自慢げに見せつける千束。

 

「それは何ですか?」

 

 一方、眉を顰め、怪訝そうに千束の持っているチケットを見るたきな。

 

 持ち場を離れて、千束の近くまで来て、たきなはチケットをしげしげと観察しています。

 

「お・ん・せ・ん」

 

 右手を後頭部に動かして、腰を少しだけ曲げて、わざとらしく唇をゆっくり動かして、本人なりに色っぽく話して、セクシーアピールをする千束。

 そんな千束のふざけている様子を全く意に介すことなく、千束のチケットを持っている方の手をたきなは握ります。

 

「まさか! 抽選当たったんですか?」

 

 すると、にまぁーという擬音以外当てはまることのないぐらい口角を最大限まで上げて、目を少し細める千束。

 

「温泉、行きたくない?」

 

「行きましょう」

 

 無表情ながらもその目の輝きはらんらんとしていて、抑揚のないはずの声なのに弾んでいることは分かり、冷静さを保とうとしているだけで内実は心の中は大盛り上がりであるたきな。

 

 一見、合理的な考えに基づいて、冷静でいるようだが、子供っぽいところは隠すことはできないし、本人ももとより隠すつもりはなさそうです。

 

「あれぇー? 以前のたきなだったら、結構ですとでも言いそうなのに」

 

 腕を曲げて、肘の部分でうりうりとたきなの体をこづく千束。

 

「そりゃ、私だって」

 

 たきなは流し目で千束をいたずらっぽく見つめる。

 

「抽選当たったら浮かれぐらいしますよ」

 

 やりたいことは最優先という考えのもとで生きているのだ。

 それも、千束に影響されて、思うようになったということはたきな自身も自覚している。

 すっかりたきなも千束の考えに染まってきている。

 もっと染まることを見てみたい!

 あら、いやだ、思わず鼻血が出そうですわ。

 

「どうしたんだ? そんなに気合い入って、どこかに行くのかぁ?」

 

 袖口だけおおわれ、だぼだぼとした服を着ている少女が2階から降りてきて、気だるげに話しかけてきた。

 

 黄色の服に、金髪の、身長140cm台の見た目は小学生と見間違いそうな少女です。

 

 彼女の名前は、くるみ。

 実はかつての名前はウォールナットで、凄腕のハッカーだったりします。

 

「温泉当たった」

 

「よしっ、準備をする、待ってろ!」

 

 気だるい様子はどこに行ったやら、すたこらさっさと自分の部屋に走りかえっていき、バタバタという音が鳴り始めた。

 

「せんせー」

 

「どうしたんだ? 千束」

 

 とてもダンディでセクシーな声が聞こえる。

 千束に先生と呼ばれたミカという人物が台所の奥から肌の黒い妙齢の男性が出てきた。

 

 杖を片手につき、紫色の浴衣を着ている。

 やっぱり何度見ても大人っぽい雰囲気ですわ。

 

「分かった、準備をする」

 

 大人びた雰囲気は崩さないながらもミカの声から嬉しさがにじんでいるのが感じられます。

 

「温泉当たりました」

 

「うるさいわねぇー、何が起こったっていうのぉ」

 

 抹茶色の浴衣を着ている年齢不詳の美人と呼べそうな女性が間延びしながら不服気な様子でミカの後ろからよたよたと現れた。

 

 左手にゼクツィがあるがいつものことなので、ノータッチとします。

 顔を赤らめていて、理性が正常に保たれているか怪しく、先ほどの千束の声がはっきり聞こえなかったらしい。

 

「温泉が当たったの?」

 

「何なに、酒持ってこい!」

 

「準備をしろ! この酔っ払い」

 

 千束はミズキに対しては邪険です。

 まぁこれもいつものことですけど。

 

「わーってるわってる、呑まずにはいられるかって」

 

 みづきはそんなことを言いつつ、準備に取り掛かっているようだ。

 千束は「ったく」と言いつつ、美月をそれ以上とがめることはしない。

 

 やるときやる女なんだと認めているのもある。

 遊びのこととなれば、なおの事乗り気みたいです。

 

「ねぇねぇねぇねぇ、雪美、聞いてた?」

 

「聞いてましたわー」

 

 喫茶店の隅でしこしことテーブルを拭いていた私に千束が急にハイテンション気味に話しかけてきた。

 たきな、千束のいちゃいちゃが物足りないことを除いて、必死に背景として喫茶リコリコの店内を観察していた私です。

 チケットが当たって嬉しそうに「おぉほー」と歓喜の声が口から漏れてしまっているちさとの様子を見てないわけがない。

 

「雪美、今日の仕事を終わらせたら、すぐに準備をしてくださいね」

 

 たきなは「すぐに」という部分を強調して、私のことをじっと見つめてくる。

 なんだか、声から圧というか、気合が感じられます。

 一見して、クールな様子なたきなだって、浮かれているのか、温泉旅行の準備をてきぱきと始めているようでした。

 

「どうしたの、そんなところにいて、雪美」

 

 私の右肩をつかみ、なれなれしく、千束が私の肩をつかんでくる。

 なんだか、千束の腕が首にかかって、なんだかくすぐったい。

 

「いえ、なんでもありませんわ」

 

 百合に挟まれることなんて、恐れ多いですわ。

 

 友達ですら甘美に感じる私だ。

 

 だったら、せめて二人を見守る壁にでもなりたい。

 

「雪美、聞いてますか?」

 

「は、はい、聞いておりますわ」

 

 いかんいかん、失念してしまった。

 まさかこんなことで、前世からの孤独恐怖症により、激しいつながり欲求が沸くとは。

 

「大丈夫ですか?」

 

 たきなが私の目を覗き込むようにしていて、上目遣いだ。

 

 心配させてはいけない。

 私はたきなと千束の幸せな笑顔を見るためにいるのだ。

 

「いーえ、私は元気ですわ、ふっふっふ」

 

 そんなことより、皆様、お気づきでしょうか。

 

 今回の幸運が起こった理由を。

 

 この温泉チケットを抽選会で当てたのは、私がうまく仕込んだからです。

 

 千束さんに宝くじはそもそも引かないと当たらないのと同じように抽選も引かなければ当たりませんよと。

 

 犬も歩けば棒に当たります、行動しなくてはいいことは起こらないのです。

 

 私がそう熱弁したのでございます。

 

 千束とたきなのイチャイチャしている様子を見るためならば、なんでもする。

 かっこいい活躍を見ることができるのはなおよし。

 

 もちろん二人を不幸にはしませんよ、あくまでできるだけ自然にいちゃいちゃをしてもらいます、ふっふっふ。あっ、鼻血出ちゃう。はしたない、はしたない。

 

 温泉の中でむふふ、わきゃきゃという出来事が日頃見せないたきなと千束の新たな側面を見せるんじゃないかと楽しみです。

 

 この私の企みがちょっとした事件の始まりになるとは、この時は誰も夢にも思っていなかったんです。

 

 この日常にはワケがあります。




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