どうしてだろう。なんだか、かなり長い間眠っていたような気がする。
いつものように登校するために重い瞼を無理やり持ち上げて、あたりをきょろきょろと見回す。そういえば、昨日はベッドの上で眠りについたはずだけどやけに床が固い。…床?そんなことを思っていると、段々と冴えてきた頭に視界が一面真っ白な空間を映し出した。
なんというか、”我が目を疑う”って表現が適切だった。その言葉通りに目をこすり、もう一度あたりを見回す。正面、左、右、後ろ、上、下。どこを見ても真っ白な壁に囲まれている。しかもさらに可笑しいのは、そんな白い箱の底に数十人くらいの人間が寝転がっている___正確には気を失っている状態で倒れていることだった。
そんな特異な状況の中で、一つだけ日常があった。少し安堵しながら、僕はその日常に近づいていく。
「おい、起きろよ龍一」
「あと5分だけ…頼むって母さん…」
寝ぼけて中々起きない友人、小林龍一を揺さぶりつつ、僕は徐々に状況を理解し始めた。
これはいわゆる、デスゲームってやつだ。おあつらえ向きに密閉空間に閉じ込められた人たち、そしてさっきは気が動転して目に入らなかったが、正面の壁に堂々と存在を主張している無機質なモニター。
そして何より、これまたおあつらえ向きに全員に装着されているであろうこの首輪。僕は触って構造を確かめてみようとするが、素人では何も分からない。精々、これが金属に近しい物質であろうことくらいが解明できたことだった。
この状況を理解すればするほど訳が分からない。妙に現実味がないのは、デスゲームという創作にありがちな設定に巻き込まれたせいだけではないだろう。
龍一を起こすのを一旦諦め立ち上がると、ズボンの前ポケットが若干重いことに気が付いた。ポケットを探ると、中には見覚えのない端末が入っていた。
端末を起動してみると、”堀口輝”と画面に表示される。僕のために配られた端末、ということなのだろう。様々な操作を試してみたがどれも受け付けず、画面は依然としてその3文字を映し出していた。
1時間も経つと、同じ空間にいるほとんどの人が目を覚まし状況を理解しているところだった。みな同じように動転し、このカオスな状態をなんとか自分の説明できる状況に落とし込もうと努力していた。僕だって、龍一がいなければ真っ先にパニックになっていたに違いない。
「なぁ、いい加減起きろって」
「ん………テルか…なんでテルが俺の家に…?」
「…とりあえず起きてくれ。なにやらとんでもないことに巻き込まれてるみたいなんだ」
「…は?」
目の前の光景に絶句している龍一に説明を試みるが、当然…というべきだろう、それは上手く行かなかった。自分だって理解できていないのだ、寝起きでこんな状態を飲み込めという方が無理がある。
龍一を起こしたところで、他の人達にも話しかけようとした丁度その時____
『Box-Cの皆、おはよう。無事に全員目覚められたみたいだね』
液晶がパッと点灯し、全身きっちりとしたスーツに身を包んだ男が映し出された。
髪型を整えたゲームマスターらしき画面に映った男を見ながら、僕は考えていた。
お前は何者だ、この場所はどこなんだ、早く僕たちを解放しろ___様々な考えが頭をよぎっていったが、『Box-C』という単語がこびりついて離れなかった。Boxというのがこの白い空間のことを指しているのなら、もしかすると僕たちのほかにこんな感じで閉じ込められている人達がいる空間が少なくともあと2つあるのか…?
『おはよう、100人全員が目覚めたようだからこれからルール説明を始めるよ。いわゆるデスゲームのルールをね。僕はゲームマスターの境。覚えなくていいよ、よろしくね。』
「ふざけるなっ!何がデスゲームだ、この首輪を早く外すんだ!!」
「そうだよ、早くここから出してよ!」
当然ともいえる怒号が飛び出す。そりゃあそうだろう、僕だって文句の一つや二つぶつけたい気分だ。でも、こういうのは下手に逆らうと首輪がボン!となったり、あり得ないほど熱されて首が焼き切れたり…ろくな死に方をしないんだよな。龍一もどうやらそれを分かっているみたいで、何か言いたそうなのをぐっとこらえていた。
『今僕に怒号がぶつけられたり質問責めにあってるのを感じたけど…あいにくこの映像は録画なんだ、答えられなくて悪いね』
『さて、ルール説明だったね。とは言っても…デスゲームのルールなんて、負けたら死。逆らったら死…そのくらいは首輪を付けられてる時点で察せると思うけど、そんなとこなんだ。だから、ここではざっくりポイントの概念について説明させてもらうね。まずは君たち個人個人に配られた端末を確認してほしい』
男にそう唆されると、ほとんどの人間が自分の服をまさぐり自分の端末をのぞき込む。僕と龍一も端末を起動すると、やはりさっきと同じように自分の名前が映し出されている。
「なぁ、これってさ…俺らのために作られた端末ってことなのかな…?」
「うーん…今の段階ではまだ何とも言えないけど、僕たちの名前が表示されてるってことはその可能性が高そうだよね…」
龍一からの質問に答えていると、自分の名前の下に新しく"1P"という文字が刻まれた。
「なんだ、これ…?1P?テルの端末にも1Pって書いてあるよな…?」
『君たちの名前の下に、今現在の君たちの"所持ポイント"を表示させてもらった。このポイントはいろいろなものと交換できたりデスゲームを優位に進めたりできるから、是非とも持っておくといいよ』
つまり、逆にこのポイントを持っていないとゲームに勝利したところでなにもできないってことなのか。最悪の場合、水や食料すらも………
『さて、ポイントの増やし方だけど…簡単に言うと、デスゲームを[出来る限り少人数で]勝ち抜くんだ。例えば、この100人で行われるこの第一ゲームだけど…勝った人で、Pを山分けできるんだ。だから、10人で勝てば一人10P。5人で勝てば一人20P。1人勝ちなら…100P持った状態で次のステージに進むことができる』
なんて趣味の悪いシステムだ。
『ポイントの説明も終わったことだし、早速だけど第一ゲームを始めようか』
境がそう言うと、端末が震えだして名前とポイントの表記が消える。ゲームに使うシステムを起動しているのだろうか…?これから何が起こるのか、緊張と恐怖が伝染して周囲の喧騒が加速していく___
続きます