完璧で究極の! 〜ウマ娘プリティーダービー外伝〜 作:我が主長い鼻
『やった、やったぞアーモンドアイ!並み居る海外からの刺客を返り討ち!9冠の女王に輝いた!我々は今歴史的瞬間を目にしています!』
疲労と達成感に震え、興奮する体をそのままに思いっきりの笑顔で歓声へ手を振る。
『『『アーイ!!!アーイ!!!アーイ!!!』』』
更に強まる大歓声に応えようと更に大きく体を振ろうとするが、ふらつき、慌てて駆け寄ってきたトレーナーさんに支えられてしまう。
『ウォォォォォォ!!』
もはや歓声ではなく雄叫びのようになっているそれに、今更になって疲労と熱を強く感じ始めた体を引きずりながら、それでも手を振って精一杯応える。
『ウイニングライブは──分後に行われます!観客の皆様方は押し合わず───』
だんだん、声が遠くなっていく。確かに聞こえるけれど、内容が分かりづらい。
あぁ、良かった。勝った。私の今までは無駄じゃなかったんだ。
どうしよう、今になって涙が出てきてしまった。
涙で前が見えない。でも、この涙を止める気にはなれなかった。
「良かった……良かった………勝てた…それでこそだよ、アーモンドアイ……」
嬉しさと同じくらいに湧いてくるこの⬛︎⬛︎⬛︎も、止める気にはならなかった。
十数年前……幼稚園の頃。
私には、ライバルがいた。
キラキラ輝く瞳のアーモンドアイ。
いつもかけっこで勝ったり負けたり。でも、それが楽しい。アイは必死に努力して、私を追い抜いてくる。だから、私も努力してアイを追い抜く。
追い抜いて、追い抜かされて、追い抜いて、追い抜かされて。
それだけじゃなかった。どっちが早く寝られる?とか、どっちが早くご飯食べられる?とかたくさんの勝負をした。
時々やりすぎちゃって、先生やお父さんお母さんに怒られる時もあったけど「私たち2人ならどこまでも速くなれる!」を合言葉に何回も勝負して切磋琢磨した。とっても楽しくて、私にとってかけがえのない大事な記憶。
そして、私達は地元ではお互い以外に負けなしになって、トレセンに入学ができた。
このまま、私達は勝負し続けてあのジャパンカップで勝敗を決めるんだ、なんて約束までした。ちょっと、熱に浮かされ過ぎで今思い出せば恥ずかしいな。
アイと同じ美浦寮だったけど、私は学園側の手違いで1人部屋になってしまったらしい。まぁ、気楽でいいか、とポジティブに捉えることにした。明日は初めてのトレセン学園でのトレーニング。やることは変わらないけど、ちょっとだけ特別な気がした。
翌朝、起きて身だしなみを整えているところに、誰かがノックしてきた。
「おはよう、ルベウス!起きてる?トレーニング行くわよ!」
扉を開けて、もうやる気満々といった感じで目を輝かせているアイを部屋に入れる。
「起きてるよ、アイ。でも早過ぎない?」
まだ朝の5時だ。この時間から起きてる人はなかなか居なかった。
「そう言うルベウスも、もう起きて着替え終わってるじゃない。ほら、早く行くわよ!」
「しょうがないなー」
そう言いつつ、私もちょっと浮かれているのは否定できなかった。アイが来ていなかったら私がアイの部屋に行ってたかもしれない。
「んー!いい空気ね!なんかいつもより速く走れちゃいそう!」
「無茶して怪我しないようにしないとね。私もちょっとワクワクしちゃってるかも」
「そうよね!?だってわたし達、今日からトレセン学園の生徒になるのよ!」
目を輝かせ、尻尾を強く振りながら言う彼女に私も素直に頷きを返す。
表面上は取り繕っているが、本心では飛び跳ねながらそこらを走り回りたいほど心が浮ついている。トレセン学園のグラウンドに来て、実感がようやく湧いてきたのかもしれない。
「さ、まだ式まで時間あるし、走るわよ!」
「えっ!?今から!?怒られるよ!」
「こんなワクワクしたまま入学式に出る方が無理だわ!途中で走り出しちゃうかも!」
「絶対やめてよ!?そんなことしたら笑い者じゃん!…………ちょっとだけ、入学式の10分前まで、ね?」
「そう来なくちゃ!ほら、スタートラインはあっち!競争よ!ルベウス!」
「あぁ、ちょっと!これから競争するっていうのに今からやらなくて良くない!?」
2人で楽しく、笑いながら走り、気づけば2人とも汗だくで周囲にはちらほら人の姿が見えてきていた。
「……アイ、私達、ヤバくない?こんな汗だくで入学式出るの?」
「……ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったかもしれないわね…」
周囲からの視線を感じ、今更になって、初日の朝から走るのはまずかったのでは?と思う。
「あなた達、新入生ですね?」
ビクン!と2人して背が伸びる。尻尾も耳もピーン、と。アイと顔を合わせるようにして後ろを振り向くと、面接の時に見た緑の服と帽子を被った綺麗な人。
私は心の中で、美人が怒ると怖いって本当なんだなーと思った。
「入学式当日の朝から走るなんて、何を考えてるんですか?そんな状態で入学式に出るんですか?」
2人とも汗だけでなく舞った砂がついて髪も服もジャリジャリだ。
「「ごめんなさい…」」
「はぁ、良いですから、はやくシャワーを浴びて着替えてきてください。後…1時間もしないうちに入学式が始まりますよ」
「「はい…」」
2人でしょんぼりしながらシャワーを浴びて、着替える。制服を着ながら、アイと走りについて話し合う。
「アイ、さっきのスタート完璧だったね。私が出遅れたかと思っちゃったくらい」
「ルベウスだって、ペース配分完璧だったわ。3回ともほとんど同じタイムだったもの」
「確かにペースは掴めたんだけどさぁ、まだ出せる強みが見つからなくて…」
「うーん、確かにわたしがラストスパートかけた時にも同じペースだったものね」
「あのペースのまま、足を貯められたら良いのかなぁ?」
「それ、結構嫌かも…」
「アイが嫌がるんなら……やるしかないよね」
「でもわたしだって負けないわ!これから更に速くなってやるんだもの!」
「目標はジャパンカップで対決、だっけ?わざわざ屋上に呼び出して言ってくるんだから、本気だよね〜?」
「う、やめてよ……あの時は本当に舞いあがっちゃってて…でも、ジャパンカップで対決っていうのは叶えるつもり」
「ふふっ、私だって!大舞台でアイに勝って私が最強だ!って宣言してやる!」
「いいえ!勝つのはわたしよ!」
「いいや!勝つのは私!」
「「うー……!」」
アイと向かい合って唸りあっていると、放送が流れる。あの緑の人の声だった。
『あと5分で入学式が始まります。まだ集合していない生徒は急いでホールまで来てください』
時間を見ると、もう10分ほども話し続けていた。
「……なんか、放送から怒気が感じられたのは私だけかな…?」
「わたしは気のせいだと思いたいから、急ぎましょう。彼女を怒らせると怖い気がするのよね…」
結局2人で全力疾走した結果、ホールに着いた頃には汗だくになっており、担任になる先生から事情を聞かれたので素直に話したら叱られてしまった。
私達の一生に一度の入学式は忘れられない、汗だくの入学式になってしまった。
式が終わって、たづなさん(緑の服の人)にたっぷり怒られた後、教室でアイの様子を見る。彼女は体に熱が籠るタイプだから練習後とかは体を冷やさないといけない。しかし、今日はまだ平気そうだった。
「アイ、大丈夫?今日は冷やす時間なかったけど…」
「これくらいなら大丈夫。一回シャワー浴びて冷やせたから」
アイのおでこに手を当てる。
「んー、まぁ大丈夫みたい?」
「冷たくて気持ちいいわ…」
目を細めているアイの隙をついて、両手で頰をむにむにと押し潰す。
「気持ちいいわ…じゃないの。この前もそれでフラフラになってたでしょうが」
何か言いたげに暴れ始めたので手を離して自分の鞄を手に取った。
「……あれから学んだから大丈夫よ…」
ちょっとぶすくれているアイに、置いてくよ、と言って扉へ向かう。
「あ、待って!」
急いで鞄を持って走ってくるアイに、私も走り出しながら言った。
「先に下駄箱についた方が勝ちね!」
勝ち、と聞いた瞬間アイの目がキラ、と光りスピードが上がる。
「負けないわよ!」
「ちょっと!?本気出したらダメだからね!?」
「縛りってことね!それでも勝つのはわたしよ!」
「っ!私も負けない!」
2人で廊下を駆け抜け、階段を駆け降りて、下駄箱まで後5メートルの直線。
「負けない!」
「わたしが勝つわ!」
2人のデッドヒートを止めたのは、緑の服の人だった。
「2人とも……」
決して大きくはないのに、よく通ったその声に急減速して普通に歩いて来ていたように取り繕う。
「たづなさん、さようなら〜………」
「さ、さようなら〜………」
鋭い眼光に怯えながらなんとかやり過ごすことに成功する。
「………少なくとも、校内で走る勝負するのはやめよう…」
「えぇ……そうね…………」
しょんぼりとしながら寮まで帰る。三女神の像が夕陽に照らされて、少し綺麗だった。
「……ねぇ、アイ」
「うぅ、分かったわよ……」
まだちょっと引きずってるアイに苦笑する。
「そうじゃなくてさ。…私達、本当にここまで来たんだね」
「……えぇ。そうね。ようやく、わたし達の夢が叶う」
「ふふっ、叶うことが決まってるみたいに言うじゃん」
「あら?じゃあ勝負はわたしの勝ちね!ジャパンカップのトロフィーはわたしのものよ!」
「……私だってアイに負けない!あの優勝レイは私が貰うんだから!」
お互いに睨み合って、すぐに笑い合う。
「まずは練習を重ねてトレーナーさんについてもらわないとだよねー」
「わたしは問題ないわ。私なら絶対に彼らの目に留まるもの」
「すごい自信……だけど、私だってスカウトを受けるから」
「……楽しみね」
「…うん、とっても」
私は一生涯この時の気持ちと光景を忘れることはないんだろうな、となんの根拠もないのに確信があった。それと同じくらい、私はずっとアイと競い合えるとも思った。
次の日から授業が始まった。とは言ってもまだレースの理論とかフォームとかを座学で学ぶ所で、体を動かしたりはしないのだがアイはそれが大変ご不満らしい。
「教室で学んでてもつまら…身につかないわ!やっぱり外で走るべきよ!」
「はいはい、それは本格化が来てからねー。少なくとも夏休みまではずっと座学だよー」
「むぅぅぅ………」
机に突っ伏してお餅になってしまったアイの頬をつつきながら私も思うところを話す。
「まぁ確かに体を動かしたくなってくるのは事実だけど……私達はたづなさんに目をつけられてるからグラウンドで爆走でもしようものならすぐに飛んでくるんじゃない?」
アイは頬を膨らませるのをやめ、真剣に考える。
「確かに、初日から怒られたのはわたし達だけだったらしいわ」
「普通は初日くらいピシッとするものだからね」
「わたしだってちゃんとしようと思ってたわ」
朝っぱらから私と一緒になってた癖にどの口で言うのだろうか。
「でも、ほら私達ってずっと独学で走ってたからここで一度しっかり基礎を学ぶのも良いんじゃない?知らない事も沢山あったじゃん」
「そうだけどー……やっぱりつまらないわ…」
もー、なんて言って苦笑しながら私の頬をむにむにと揉んでくる幼馴染。
綺麗な金の髪をロングにして、目には星が宿る。スラリと伸びたスタイルに私よりも大きい身長。
見ててとっても羨ましくなってくるのが彼女、シオンルベウス。
しかも、私と何度も勝負してくれていつも勝ったり負けたり。ルベウスは、アイは本当に負けず嫌いだね、なんて言うけど彼女も私と同じくらい負けず嫌いだ。
でもそれがとっても嬉しかったりする。私と同じ熱量で勝負してくれるのはルベウスくらいだったから。とても口に出しては言えないけどルベウスは唯一無二の親友だと思ってる。
まぁ、2人でヒートアップしちゃって歯止めが効きずらいのはダメな所だな、と思ってはいるけど…一度走り出すと止まるのは難しいから、仕方がない……はず。
「ほらアイ、次の授業は通常科目だよ。準備しないと」
「うーん…やっぱりつまらない…」
「……じゃあ、こう考えてみたら?期末テストで満点取れればこの学年の全員に勝ったってことになるんじゃない?」
「学年の全員に……」
やっぱりルベウスはわたしと一緒だ。
「あー、軽く背中を押すつもりだったけど、もしかして……」
「やってやるわ!わたしは負けないもの!ルベウス、授業の準備するわよ!」
ルベウスといれば、わたしは何だって勝てるしなんだってできる。あんなにつまらなかった授業ももう楽しみで仕方がない。
「はいはい、まだ期末は数か月先だから落ち着いて」
とってもやる気が出てきたわ!