アインズ様、今度はバビロンオンラインの世界に転移してしまう 作:白いスミレ
異変は、唐突に始まった。
ナザリック地下大墳墓。
その広大な地下迷宮を包み込むように――巨大な紫色の魔法陣が出現した。
それは地面に描かれたものではなかった。
ナザリックを中心として、空間そのものに浮かび上がっている。
淡い紫色の光が、ゆっくりと脈動していた。
そして、その異常を最初に察知したのは――玉座の間にいたアインズ・ウール・ゴウンだった。
「……何だ、これは」
玉座に座っていたアインズは、ゆっくりと立ち上がった。
普段ならば感情を表すことのないアンデッドの身体。
しかし、その内側では警戒心が一気に高まっていた。
ナザリックに対する攻撃。
転移魔法。
未知の魔法。
あるいは――
「……罠か?」
アインズはそう呟いた。
目の前にある魔法陣。
見覚えがない。
ナザリックの誰かが発動したものでもない。
少なくとも、自分は知らない。
そして何より。
この魔法陣は――
**ナザリック全体を包み込んでいる。**
「……まずいな」
アインズは即座に判断した。
「守護者たちを召集せよ」
「――はっ」
傍に控えていたアルベドが深々と頭を下げる。
「至高なる御方の御命令とあらば、直ちに」
アルベドが動き出す。
ほどなくして。
玉座の間には、ナザリックの主要な者たちが集結していた。
アルベド。
シャルティア・ブラッドフォールン。
コキュートス。
デミウルゴス。
アウラ・ベラ・フィオーラ。
マーレ・ベロ・フィオーレ。
そして――
セバス。
それぞれが異変を察知し、警戒した表情を浮かべている。
「アインズ様」
アルベドが一歩前に出た。
「先ほどの魔法陣について、確認を行いました」
「それで?」
「ナザリック内部から発生したものではありません」
「……そうか」
アインズは沈黙する。
「魔法陣の規模から考えて、転移系の魔法である可能性があります」
デミウルゴスが冷静に告げる。
「ただし、通常の転移魔法とは明らかに異なります」
「どこが違う?」
「対象範囲です」
デミウルゴスは魔法陣を映した情報を提示する。
「この魔法陣は、ナザリックそのものを対象にしています」
「……ナザリック全体を?」
「はい」
アインズは考える。
ナザリックを丸ごと転移させる。
そんな魔法が存在するのか。
少なくとも、自分の知る限りでは聞いたことがない。
「発動者は?」
「不明です」
「外部からの干渉か?」
「可能性はあります。しかし、現時点では断定できません」
デミウルゴスが答える。
シャルティアが眉をひそめた。
「では、攻撃という可能性もあるということでありんすか?」
「否定はできません」
「ならば――」
コキュートスが静かに口を開く。
「戦闘準備ヲ整エルベキデス」
「その通りだ」
アインズは頷いた。
「全員、警戒態勢に入れ」
「「「はっ!」」」
守護者たちが一斉に頭を下げる。
その瞬間。
――魔法陣が一度、大きく脈動した。
「……!」
玉座の間に緊張が走る。
紫色の光が強くなる。
壁が揺れた。
空気が震える。
それはまるで、巨大な何かが世界そのものを掴んでいるかのようだった。
「アインズ様!」
アルベドが前へ出る。
「動くな!」
アインズが制止した。
「まだ何も分かっていない。下手に動けば、相手の思惑に乗る可能性がある」
「……承知しました」
アルベドが下がる。
アインズは玉座から立ち上がった。
「全員、戦闘準備」
守護者たちが武器を構える。
シャルティアが槍を握る。
コキュートスが四本の腕に武器を構える。
アルベドは手に持った黒い玉をバルディッシュに変形させ身構える。
デミウルゴスの周囲には魔力が集まり始める。
アウラとマーレも、それぞれ武器を構えた。
セバスは拳を握る。
ナザリック最強の戦力。
その一部が、玉座の間に集結していた。
それでも。
アインズには一つだけ、どうしても理解できないことがあった。
――なぜ、今なのか。
ナザリックはこれまで幾度となく危機を経験してきた。
だが、今回の異変は違う。
敵の姿がない。
攻撃もない。
殺気もない。
ただ――
**ナザリック全体を包む紫色の魔法陣だけが存在している。**
「……何が起こる?」
アインズが呟いた。
次の瞬間。
――魔法陣が輝いた。
「総員、耐えろ!」
アインズが叫ぶ。
轟音。
紫色の光がナザリック全体を覆い尽くす。
空間が歪む。
床が揺れる。
壁が震える。
世界そのものが引き裂かれるような感覚。
「ぐっ……!」
シャルティアが目を細める。
「何という力……!」
デミウルゴスですら驚きを隠せない。
「これは……転移……?」
アインズは必死に状況を把握しようとする。
しかし。
魔法の解析が追いつかない。
これは自分が知っている転移魔法ではない。
もっと巨大で。
もっと異質なものだった。
そして――
世界が白く染まった。
◆
――静寂。
先ほどまでの轟音が嘘だったかのように消えた。
アインズはゆっくりと顔を上げる。
「……」
玉座の間。
見慣れた光景。
周囲を確認する。
アルベド。
シャルティア。
コキュートス。
デミウルゴス。
アウラ。
マーレ。
セバス。
全員がいる。
「……全員、無事か?」
「はい!」
アルベドが即座に答えた。
「問題ありません」
「こちらも問題ありません」
デミウルゴスも答える。
「そうか……」
アインズは安堵する。
少なくとも、仲間たちに被害はない。
ならば――
「外を確認する」
アインズは玉座の間から移動する。
ナザリックの内部。
異常はない。
壁も。
床も。
施設も。
守護者たちも。
すべて無事だった。
しかし。
外へ出た瞬間。
アインズは足を止めた。
「……」
そこに広がっていた光景は。
彼が知っている世界ではなかった。
空。
大地。
遠くに見える景色。
すべてが違う。
ナザリックは確かに存在している。
だが、その周囲にあるものは――
見覚えのない世界だった。
「アインズ様……?」
アルベドが声をかける。
アインズは答えなかった。
ただ、遠くを見つめていた。
敵はいない。
攻撃もない。
しかし――
ここがどこなのか。
それすら分からない。
アインズは静かに呟いた。
「……ここは、どこだ?」
その言葉だけが。
新たな世界の空気へと溶けていった。
読んでくれた方々、ありがとうございました。この他にも「幻想郷に飛ばされてしまったアインズ様、今回はこの幻想郷をナザリックの支配下に置くようです。」も同時に連載していますのでそちらの方もぜひご覧ください。