自称幼女は銀魂世界でぷりちー天使あいどるにレベルアップする。 作:松魚
さて、ジルが高杉と劇的な出会いをしているとは知らない屯所の面々はと言うと。
緊張した面持ちである男を出迎えいた。
大広間にて仁王立ちしてるグラサンかけタバコ吸ってるいかにも偉そうなおっさんが言い放ったのは
「良し近藤、切腹しやがれ」
と銃をチラつかせたやーさんのごとくという台詞。
「とっつぁん勘弁してくれ!っていうか脅してる武器が銃なんですけどっ!?」
幕府直轄の警察庁長官、松平片栗虎(まつだいらかたくりんこ)は非情なまでに近藤の額にごりっと銃を押し当てる。
「やかましい3秒やるから腹決めろやァ?、1、ハイ終わり」
「まだ1しかカウントしてねぇよっ!?」
「男はな、1だけ覚えていれば生きていけるだぜ?」
「んな理屈あってたまるかぁぁああああああ!」
「んな事よりも噂の子供は何処に隠した。俺から完全に隠せるとでも思ってんのかよ?アァ?」
上司からの圧力に近藤は屈しなかった。顔をぐっとあげ、真正面から松平の視線を受け止めた。
「…とっつぁんでも言う気はない」
「ほぉ」
一瞬即発の空気。だがそこに沖田がこう発言した。
「そうでさぁ。何で俺の嫁をどこぞのキャバクラに走ってる親父に会わせなけりゃならねぇんですかい。ジルは俺の嫁でさぁ。いずれサッカーチーム出来るくらい子供つくるつもりなんで、そこんとこよろしく」
ビシィ!!
「ジルはまだ幼児だっつーの」
ここで土方の的確なツッコミが入った。
松平片栗虎がこうして屯所に来たことには深い理由があった。
以前ジルが出演したテレビの影響が実はネットの方にまで広がり、あるユーザーが動画配信サイトにて、ジルが出演した一部を投稿したのがきっかけだった。
その一部始終がネットの間で話題となりあれよあれよと言う間に10万件再生されるという異例事態になったのだ。
『ぷりちー天使ジルちゃん』という愛称で世間で注目されていることにいち早く気がついた松平はある問題が起こる前に対処しようとこうして真選組を訪れた次第。
「お前らここをなんだと思ってやがる、この真選組は幕府にとっても世間にとっての看板なんだよ。…そこに巷をにぎわせている『ぷりちー天使ジルちゃん』とやら何処の餓鬼かもわからねぇ奴と、一緒に住ませてるとなっちゃお上も黙っちゃいねぇんだよ」
ゴクリと真実の重さに皆黙る。そこまでこの屯所内のあいどるジルがあっという間に世間に広まっていたのか、それが幕府をも巻き込む大騒動になっている事実になっているとは。皆、衝撃を受けるしかなかった。
「とっつぁん、そんな」
松平は冷徹に命令を下す。
「てめぇら、腹括れ、ジルちゃんは」
ごくりと皆、一様に喉を鳴らす。
「俺が責任もって育ててやる」
「「「結局はテメェの願望じゃねぇかかかぁぁあぁぁああああああああ!」」」
皆心からのツッコミをした。松平は茶目っ気たっぷりに自分の欲望を吐いた。
「だってあんな可愛いージルちゃんにパパって言わせてぇだろうが!あんなぷりちー天使ジルちゃんに『ぱぱ~?大好きっ!』なんて抱きつかれた日にゃ、俺は鼻血で宇宙まで飛べそうな気がするぜ!」
「出血多量でまず三途の川に飛ぶわっ!」
「それを近藤、テメーが独り占めしてるなんて許せねぇ。それにな、あの少女は利用価値があると上の連中が嗅ぎつけてきたんだ。これだけ世の中に影響を与えるってには問題なんだよ。政治に利用される前に俺が保護してやんのよ。お前らとこにいたんじゃいつか強制的に連れていかれちまう」
「いくらとっつぁんでも譲れない。ジルは俺の大切な娘だ。あの子が親を亡くしたんなら俺が親御さんに代わって責任もって育てなきゃならねぇんだよ」
近藤はあの日、決意したのだ、あの虚勢を張り大人を寄せ付けなさそうとする、小さな頼りない少女の顔を。自分だけしか信じられないという過酷の中で生きてきただろう少女を。
絶対に守って立派に育て上げようと決めたのだ。
だから松平の言葉に曇りなき眼で応えることができた。
「テメェ、守りきる自信あるのかよ、アア?幕府敵にしてまで守る価値があるかってんだよっ!」
「ある」
キッパリと、近藤は言い切った。すると、松平は目を細め、
「いい度胸じゃねぇか…殺るか?」
と近藤の『本気』を感じ取ったからこそタイマンの意思を示した。
「お願いします、俺からもアイツの件に関しては口を出さないで欲しいんだ」
近藤に続いて土方が隣に並び、頭を下げた。
「土方、…鬼の土方にしちゃ殊勝じゃねぇか」
「アイツがこの屯所に来てから隊士の士気も上がってきてるんだ、ジルの影響も強いが、アイツラがこんなにまとまりだしたのは共通の守りたいものが出来たことでもある。だから、それを奪わねぇで欲しい。ジルは近藤さんの義娘ってだけじゃねぇ。俺たちの仲間でもあり家族でもあるんだ。だから」
「俺からもお願いします」
「…総悟……」
いつもふざけた様子など微塵もなく、沖田はスッと頭を下げた。下げたまま声を張り上げて言った。
「アイツの居場所はここでいさせてぇんです!」
沖田とて思ったのだ。あのジルは重い、とても俺たちとは違う『何か』に囚われた事があり今もまだ、彼女は何かに縛られて生きていると。
縛り付けられた経験があるからこそ、あんな自由を求めるのだ。何者にも何物も囚われない翼を、ジルは欲している。それを、俺たちの都合で縛り付けることなんで許されねぇし、俺自身が許さねぇ。ジルの屈託なく笑う笑顔こそに、俺は惚れたんだ。
「俺たちからもお願いします」
「俺も!」
「俺もです、松平のとっつぁん!」
次々と隊士たちが土下座し、ジルを連れて行かないでくれと懇願してきた。
松平はこの光景に言葉を失い、真選組の本気を感じ取った。
と、その時ドタドタと廊下を走る音がする。それはこの広間へと音が大きくなっていく。そして転がるようにして入ってきたのは
「申し訳ありませんっ!」
なぜかボロボロ状態の山崎であった。土方は舌打ちし
「山崎、…テメェ戻ってくるなって…ジルはどうした…」
ジルの名を出した途端、山崎は顔を青くし「申し訳ありませんっ!!」と声を張り上げた。
「ま、さか」
「俺が、俺が悪いんです。…ジルちゃんを、ジルちゃんをっ!」
山崎はその場に土下座して大声を上げた。
「見失ってしまいましたー!」
一気に隊士たちの怒気が上がる。しかしジルを
「何だとっ!?」
しかも山崎が告げた情報は、それだけではなかった。
「それと、他の隊士から連絡がありまして。ジルちゃんが走っていった方向近くにて、天人の惨殺死体が発見されたと!」
それは、ジルの身に何かあったも同じこと。
「ッチ、こんな時にかよ…」
「……ジルっ……!」
沖田は悲痛に顔を歪めながらすぐさま立ち上がり駆け出しました。
すぐさま近藤、土方山崎ら続くことになりました。皆、思うのはどうか無事でいてくれという一つの願いだけ。
◇◇◇
さっきからジルのおなかは大合唱していた。ぐーぐーぐぐー、と。
それは高杉の耳にもちゃんと入っていたが今はいかにしてばれないよう移動するかというのが彼の最重要行動。だから無視。
でもジルは無視されるのが嫌いなので素直に訴えた。己が欲求に正直になったまでのこと。
「高杉さーん、おなかへった。まだつかないの」
「うるせぇ」
衣をかぶったジルには周りの雰囲気はわからないが、彼の意識が集中しているというのは感じとれた。それでもそれで終わらされるのが嫌いなので素直に訴えた。己が欲求に正直になったまでのこと。
「お腹と背中がくっつきそうなんだけど」
「そのままくっつかせてろ」
高杉は辺りを見回しながら注意深く歩き出す。なんせ指名手配されてる彼。
血まみれ銀髪少女を連れまわしてると通報されちゃ、真選組の集団がやってくること間違いない。見た目4歳児の幼児を抱えていればそれなりに腕が疲れをみせるというもの。
でもこの少女はまったく重さという言葉からかけ離れた存在のようで、高杉はなんとも珍妙な奴を拾ったようだなと不思議半分面白くジルに気づかれないよう観察していた。
「髪が血でべっとり、臭い、魚臭い。……クソ、あの魚人め。やっぱり刺身じゃなくてこんがり網焼きにするべきだった…」
「やっぱりテメェだったか」
ばれちゃーしゃーないとジルは腹をくくった。むしろ隠すつもりは毛頭なかった。
どうせ感の鋭い男だ、ばれるのも時間の問題と思っていたし。
「軽蔑する?私の事」
「は?」
「だって…『普通』の幼児はこんな事しないから」
「鼻からお前が『普通』だと思っちゃいねーから安心しろ」
ポンっと手を置かれ、ぐりぐりと撫でられた。
「…痛い…」
決して嬉しいわけではない。断じて嬉しいわけではない。
だからジルなりの照れ隠しになった。
「これも女を落とすテクニックなんだね、高杉さんて女たらし」
「オメェ落としても意味ねーがな、餓鬼に欲情する趣味はねぇ」
アイツなら当てはまりそうだけどなと、零す。
ジルは高杉のいうアイツとはわからないのでスルーすることにした。
「ぶー、失礼な。私だってそれなりにナイスバディなんだよ」
「クク……まな板にしか見えねぇけどな」
高杉の言う通りジルの胸はどうみてもぺったんこ。んなもん信じられるかと高杉は鼻先で笑った。
「ムカァー!高杉さんって女の人と付き合っても長続きしないタイプでしょ?そんな台詞ばっかり言ってたら女の人のほうから『御断りよ!』なんて言われるんじゃない!駄目だよ、嘘でも『お前ほど綺麗な女はどこ捜してもいねぇよ?』って甘く囁いてやらなきゃ」
「寒気がするぜ、大体幼児の癖してなんで女の手ほどき言われなくちゃいけねぇんだよ」
「幼児でもババアでもいいじゃない!ちゃんとそういう風に説教してくれる人がいるのはありがたいことだって教えられなかった?」
「俺の先生も幼児にアドバイス受けるとまでは教えちゃねーよ。想像できねぇだろうが」
「あーいえばこーいう!高杉さんってホント性格ワル!」
「それはお褒めの言葉ととっとくぜ」
ぷんぷん、とジルは口をとがらせて拗ねた。
そんなこんな会話をしている間に高杉は隠れ蓑のしている場所に到着したようである。
来島また子(きじま またこ)武市変平太(たけち へんぺいた)両名は高杉の帰りを待ちわびていた。いつもの散策の帰宅よりも遅いので、真選組にでもとっ捕まったかと思ったのだ。
「晋助様、お帰りなさいッス!」
「少々遅いお帰りでしたね、散策でもされていたんですか?」
高杉はなんか腕に荷物を持っているらしく、何とも面白そうに歪んだ笑みを浮かべながら不思議そうな顔の二人に言った。
「面白いモン拾ったからよ」
「面白い、もん?」
ソレは突如顔を出した。
「ぷはー!いい加減この衣うっとしー!高杉さんが息吸うなとか無理難題言うから死ぬかと思ったじゃんか」
「その方が楽しいだろーが」
ククク、と意地悪く笑う上司とぶーぶーとドSが!と文句言いまくる幼児。
しかもただの幼児ではなかった。
「ナっ!?晋助様、こんな幼児誘拐してきたんスかっ!?しかもメッチャ可愛いじゃないッスかっ!」
「ぐふッ!ナイスです…」
そう、銀髪の髪をした超絶悶絶するくらいの可愛さに溢れまくった少女だったのだ。
いい加減降ろせと暴れるジルを床に降ろし、また子に命令した。
「また子、コイツを風呂に入れてやれ」
「そういえば、なんで血まみれ?…まさか怪我っ!?」
「違うよ、返り血だから。おねーさん、心配してくれてありがとう」
「ハゥ!ハンパねッスこの子供の笑顔が!輝いて見えるッス!っていうか返り血!?」
幼児がなぜ返り血を浴びねばいかんのだ!?とまた子は混乱した。
「ハァハァハァ…たまりませんねぇ…。ぜひコスプレしてほ『ばきっ!』」
隣の同僚に蹴りを入れつつ、ジルに視線を合わせる為にまた子はしゃがみこんだ。
「変態は黙ってろッス。…お前、名前は?」
「ジル」
高杉は自分の腕の匂いを嗅ぎ「魚クセ」と零しつつ、足を動かす直前「ソイツ身ぎれいにしたら俺の部屋に連れてこい」と言い残し自室へと向った。
「了解ッス」
ちゃぽん、とお湯につかりジルはまったりと悦に浸る。
「おー、生き返る~。いやぁ~いい湯だねぇ~」
「台詞がおっさんぽいッスね、ホントに幼児か?」
また子と一緒にお風呂に入ることになりさきほど、彼女に丁寧に血で汚れた髪を洗ってもらい気持ちよさそうな顔してたジル。
最初、また子は共に入る気はなかったのだがジルが「女同士裸で語り合おうよ」
とおっさんくさい台詞で誘ってきたのでびっくりしつつ共に入ることにしたのだ。
コイツ、ホントに幼児か?疑問を抱くのはもっともなんですがジルの可愛さにどうでもよくなった。また子も毒された一人のようである。
「おねーさんはまた子って言うんだよね、高杉さんの彼女?」
「えっ!そ、そんな違うッスよ!?…まだそこまでは」
ちょっと照れ顔でいるのは恋に恋する乙女の顔。まさにジルはそう直感。
「え!じゃあ何なの?もしかして『部下』、とか?」
なんの、とは言わない銀髪少女。あえて言わなかったのだ。
そこまでの内容を知っていると思わせない為に、ただの指名手配男の部下とだけ思わせておけば、何かと動きやすいから。
「そうッス。……お前」「ジル」「…ジルはなんで晋助様に誘拐されたんだ?」
別に誘拐されたわけじゃないし、自分も一切抵抗していないから誘拐と言うのかわからないが話を合わせておいたほうがいいなと判断したジルは、適当に相槌を打ちながら言った。
「…んーと。行き当たり?魚さばいたら丁度高杉さんが通りかかったの」
「何処で魚さばいたんすかっ!?幼児に包丁持たせるなんて、なんて非常識な親だっ!」
どうやらまた子の中では違うストーリーが出来上がっているらしい。言い直すのも面倒なのでそれで終わろうと思ったジル。
「ちょっと違う気がするけどありがと、またまた!」
「またまた!?なんだソレ?!」
「あだ名」
「もっと他のがイイっス!」
ジルのネーミングセンスゼロはここでも絶賛発揮中。
「ぶー可愛いのに、じゃあまこね。まこまこで決まり!」
「…まぁ、イイっス。それで…」
渋々、承諾したまた子であったが、若干嬉しそうであった。
「じゃ友達だね、まこまこ!」
「幼児と友達になると思わなかったスよ」
そういいつつまた子は微笑みながら、ホラ!ちゃんと浸かるッスとジルに言うのだった。また子としては友達というよりも、手のかかる歳のはなれた妹のように感じた。
※
ジルとまた子はアイテム確保のため禁断の扉を開いた。
「はぁはぁはぁ」
一匹の変態が沸いた。ロリフェミニストが威嚇の鳴き声を発した。
「はぁはぁはぁ…」
「コレ捌いていい?」
ジルがキレかかりそうになった。攻撃力が上がった。
「捌くにはコツがあるッス!」
また子がジルに加勢した。また子は呪文を唱えた。
「このロリコン野郎ガァァアアアアアアア!」
一匹の変態には効いていないようだ。
「はぁはぁはぁ……」
「キモい」
「ウザいッス」
ジルとまた子はダブル攻撃を開始した。
ちゃらっちゃちゃ~
一匹の変態は倒された。
「よし、倒した!」
「レベルアップしたっスね」
ジルは蔑み20、女帝300、また子との友好度150上がった。
また子は冷徹30、ジルとの友好度190上がった。反対に同僚への信用度、-300減った。
「これなんかジルに似合いそうッス」
また子は変態から着物を奪うことに成功した。
「これなんかお姫様っぽい、動きにくそう」
ジルは気に入らないようだ。
「でも他はまともなのなさそうッスよ?」
また子はジルに制服や幼児が着るぶりぶりのワンピースを見せられた。
「それで決めた」
ジルは速効にアイテムを決めた。
「よし!ゲットしたっス!」
ジルとまた子はアイテムをゲットした。
部屋からでた。一匹の変態鼻血出したまま倒れている。
「快感、ですね」
最後力をふしりぼって鳴き声を発し、倒された。
バトルで得たアイテムを着用したジルはまた子に伴われ高杉の所へと連れてこられた。
ズルズルと長い着物を引きずってジルは重い~と唸りながら文句ぶーぶー言っていた。
「ちゃんと大人しくしてるッスよ?」
「ハーイ!」
「晋助様」
「入れ」
「おお!広いお部屋~」
全国指名手配されてるのに、贅沢な暮らしぶりに感嘆しかでない。
高杉はジルが来たことで軽く一瞥し、「下がれ」と命令した。
「はい、…またなジル」
また子は軽くジルにウインクし挨拶をして出ていった。
「うん、ありがと~」
ひらひらとジルは彼女の背に手を振り見送る。後に残されるのは野獣とちびっこ。
だだっ広い畳の部屋に高杉はいた。縁側に近い場所で酒盛りをしていたらしいが酔っている様子はない。
「すっかりお姫様になったじゃねぇか?」
「あの変態おっさんのコレクションみたい。まこまこがかっぱらってきた。バトルもしたけどね」
「(バトル?)……こっち来い」
高杉は首を捻りながらジルに手招きした。
「一人で酒盛りしてたんじゃないの?邪魔じゃない?」
「だから華がきたんだろーが」
ずるずると着物を引きずるジルを容赦なく自分の元へに引っ張る野獣。
「んきゃ!」
瞬間問われる言葉。根本をこの男は突いてきた。
「お前一体何もんだ」
「だからジル」
「それは名前に過ぎねぇ。テメェの本性は何だ」
人は自分が知らない異物を知りたがる、そして知ると勝手にその異物を決めつけるのだ。
コイツは、こうだからこうするしかできないだろうと。簡単に情報を得られると思うのか、甘い。私は普通ではないのだ。簡単に自分が知りたいことを吐くとでも思っているのか。
この、高杉晋助は。人を安くみる男だな、とジルは目を細めた。そして雰囲気を変えた。ガラリと一瞬にして、ジルは本性を出した。
「素直に吐く女だと思ってんの。私も安く見られたものね」
「いや?こうすれば吐くだろ」
シュっと風が生まれた。それは高杉の刀だった。
目にも止まらぬ素早さで鞘から抜かれた刃は血が出ない薄皮一枚と言うところで止まっている。だが、首に押し当てられた煌めく刃を目の前にしてもジルの表情は微動だにしなかった。むしろ挑発さえしていた。
「どうして止めるの」
「死んじまっちまったらつまらねぇだろ」
「確かにそう、貴方は血を求めている。常に渇いて渇いて仕方がない獰猛な獣を内に飼っているわね」
「……テメェが俺の何を見る」
高杉は唸るように低い声を出した。ジルは口角を少しだけ上げて笑った。
「私もそうだから。いつも内に彼女が棲んでいる。血に飢えてるの。それがワタシだから、だから貴方のその瞳をみればわかる。貴方は大切な何かを失った、…奪われたから?」
「……黙れ…」
何かが高杉の琴線に触れたらしい。ググッ、と刀が数ミリ動きジルの首から血が流れ出した。ジルは僅かな痛みを感じながら、分かりやすい男だと呆れていた。だがこういうタイプはキライではなかった。なぜなら嘘を吐く奴らよりも数倍マシだからである。
ジルは嘘が嫌いだ。嘘をつくことも嫌いだ。
だが嘘をつかねばやり過ごせないなら嫌いでありながらも実行することはできる。つまり時と場合によるということだ。
今にも首と胴体が離れそうな危機であるというのにジルは余裕そうに高杉を見上げた。怯えもせず、逃げようとせず、抵抗すらせずに射抜くように真っ直ぐに。
そして、言葉で獲物を追い詰める。
「言い当てられたから殺す?まるで貴方は子供その者のよう。奪われたから壊す。壊されたから奪うのね」
「テメェに何が分かる?あの人を奪われた苦しみを理解できるってのか!」
激高するように高杉は怒鳴りつけた。
だが彼の言い分はただ感情の乱れによる八つ当たりでしかない。
かつて本人が受けた壮絶な痛みを苦しみを他人と共有できるわけがない。ましてや理解などしようがない。だからジルは嘘偽りなく答えた。
「そんなの無理よ、完全に理解できるわけないじゃない。だって私は貴方じゃないもの」
「っ!?」
真っ向から正論を言われ、高杉は息を呑んだ。それは高杉がより理解していることだ。
自分の痛みを他人が理解できるほど、この世は生きやすい世の中ではないこと。十分に分かっていた。だが高杉とて人の子。感情なしに生きていけるわけがない。
「嘘はつきたくないの、だから正直に言うわ。それに私も奪ったり奪われたりしたからその気持ちは多少なりとも理解できる。私は自分の手で大切な人を殺した、この手で」
「幼児の癖に知った風な口を…」
明らかに高杉は動揺していた。自分が抑えている餓鬼一人に対して。
その小さな外見からは想像もつかないほど一端に世渡りを済ませた大人の印象を受けたからだ。ジルは淀みない口調で高杉を諫めるように追い詰め、脅す。
「今貴方の前に映っているのが幼児であろうが化け物であろうが、それは貴方が思うこと。私はワタシとしてここにいる。それは誰にも否定させないし思わせない。私がワタシである限りそれは覆されやしない。私はワタシが支配する。誰にも邪魔はさせない」
「………」
「思うように動けばいいわ。それは貴方の人生、私は否定も肯定もしない。今の所私の大切な領域に手を出さなければ何人死のうが関係ないのよ。でも私の領域に一歩でも手を出したら殺すわ」
「テメェはイカレテルのか」
つい、高杉はそう問いかけていた。自分よりももっと深く根深い闇を抱えていると感じたからだ。この幼児から。だがジルは否定する素振りすらなく肯定してみせた。
「あら?獣じみた貴方が言うの?そうよ、私は最初からイカレテルわ。産まれた時からね」
「………変な『女』だな」
「私は幼児なんじゃなかったのかしら?」
「今更幼児ぶったところで信じられるかよ」
高杉は認識を改めた。ジルを餓鬼ではなく、女であると認めたのだ。
首に当てられていた刀の刃がゆっくりと退かれて鞘に戻される。押し付けられた箇所からは血が流れつづけていた。ジルは首元に手を当てる。
「血が出ちゃった、まこまこの所行ってこよ、手当してもらわなくちゃ」
「そんなもんいらねぇよ、俺がしてやる」
「は?どこにそんな道具が」
と言いかけている途中で大きな体にどすっと畳に組み敷かれ細く折れてしまいそうな腕を男の手で拘束される。交差する先には高杉のギラついた瞳がある。
この流れはヤバいとジルの中で警鐘が鳴るが、時すでに遅し。
「舐めりゃいいんだよ」
と高杉は意地悪い笑みを浮かべてジルの首に顔を下して舌を這わせた。
「んっ!?ちょ、やめ、あ…!」
「錆びついた味しねーな、本当に飽きねぇ『女』だぜ」
べろり、べろりと血を丁寧に舐めとる高杉。まるで意地汚く皿に残った微かな余りものを舐めとるように丁寧にだがどこか淫靡さを感じさせるような舌遣いで執拗にジルを攻める。
「こ、この…!ひゃ…」
「良かったな、幼児で。『女』だったら即刻、ヤッてる、ぜ?」
「この、ドSがぁ!」
首筋にねっとりとした柔らかい感触。鎖骨に一番弱い耳すじを舐められかじられ、抵抗すらできずに痺れる体のまま、最後は着物まで脱がされそうになったのでそこは大声でまた子を呼ぶまでしばらくジルは高杉にイジメられた。
幼児を組み敷くロリコン男に他ならなかった。見た目は。
ジルの首にある傷に驚愕しすぐに慌てて手当したまた子による丁寧に巻かれた包帯があった。そして帰る頃、家には一人で帰れるといい、また子が心配する中大丈夫大丈夫!と無理やり納得させ、ジルはギロリと高杉を睨み遠慮なく言い放つ。
「二度と会わない、アンタとはね」
「そうか?またお前とは逢う気がするぜ」
不敵に笑う男から予知まがいの発言にジルの機嫌は下がりっぱなしだ。
その自信はどこから湧いてくるのだろうかと首を捻りたくなるくらいだった。ホントこの世界の種族は予想を遥かに超える存在なのでジルはこう言ってやった。
「超勘違い男と呼んでやる」
くるりと背を向けて立ち去ろうとすると「待て」と呼び止められる。だがジルは振り向く気はない。
「何よ」
「テメェの本名は何と言うんだ」
これにジルは少しだけ顔を振り向かせた。
「知りたかったら私を堕としてみることだな、高杉晋助」
「フッ、だったらそうしてやるよ。ジル」
宣戦布告はこれで果たした。私は二度と会う気はないと今度こそジルは歩き出す。
※
高杉の所にはどうやら一晩いた様子。また子から携帯番号を入手したので連絡をしようと思えば取れる間柄となった。それが唯一の収穫と思おうとジルは自分に言い聞かせた。さて、高杉に連れ去られてから丸一日立っている様子。さぞ、屯所では騒ぎになっているだろうと冷や冷やしながら屯所の近くになった所で、見慣れた姿を見つけた。ジルは明るい声で平然を装って声を掛けた。
「総ちゃん!」
「ジル!?お前っ!何処にいって」
「総ちゃん、あのね」
総悟は声を荒げジルの小さな体に手を伸ばした。そして彼の顔が一瞬にして凍りついた。ジルのある部分を凝視しているのだ。
「……ソレ、どうした」
「総ちゃん、瞳孔開いてるよ」
ジルが無視する形で何気なく指摘すると沖田は声を荒げた。
「どうしたっていってんだよっ!」
いつものふざけた態度から想像もつかないほど鬼気迫る勢いで小さな肩を掴んで乱暴に揺さぶる。しまいには黙り込むジルに「答えろよ!」と怒鳴る始末。どうやらジルの首に包帯が巻かれているのが目に入って人が変わったらしい。怪我をして手当を受けているということは何かしらの事件に巻き込まれたということをすぐに察知したのだろう。
「総ちゃんは目ざといね。でも気にしないで」
「気にするなって!?な」
反論しようとする言葉の途中でジルはぐぃっと総悟の服を引っ張った。そして、「んむ」と己での唇で総悟の唇を塞いだ。
「!………」
総悟は目を見開き固まった。ジルは総悟の反応を楽しみながらゆっくりと唇を離す。そして甘く囁くことも忘れない。
「………今はこれで我慢して?総悟…」
甘く甘く囁く。女である部分を一気に彼の前で披露しいつもの幼児ではなく本物の自分を見せることで黙らせる。
聞くことは許さない。貴方にはまだ『覚悟』が足りない。私に相応しいとは思わない。
「…ジル…」
餌に食いついた総悟はジルの口を求めてまた舌先を絡めようとする。舌と舌が混じりあってくちゅっと音を奏でる。
男の性がそうさせるのだ、本能が総悟を突き動かす。
今これが欲しい、とにかく求めたい。離れていた分、失ったと思っていた分全て取り戻したい、と。
総悟の手がジルの後頭部にまわされぐっと一気に全てを求められる。だがジルはいいわ、と瞼を閉じて舌先で応える。
ワタシを裏切ると言うなら裏切らないようにしてあげる。
だから餌を与えよう、甘く、囁いてその体に徐々に刻ませてあげるのだ。
ワタシという逃げられない快楽に溺れさせてあげるのわ。
貪られるような口づけの中、彼女は目を細めた。
まずは、一人目、よ。
【一人目、つかまえたぁ】