小僧、お前変なのを引き寄せすぎじゃないか?
「新しい先生さんですね。マーチャン人形を差し上げます。いいですか? ちゃんと覚えていてくださいね? マーチャンでした」
「おぉ、ありがとう」
手渡された人形をしげしげと眺める。片手で持つには少し大きい、確かな存在感のあるそれをわきに抱えて顔を上げると、マーチャンと名乗った少女はもうすでにそこにはいなかった。
「マーチャンです。よろしくお願いします」
と思ったら、普通にいた。登校中の他の生徒にも先ほどの人形と同じものを配って回っている。どうやら彼女が背負う膨らんだリュックの中には所狭しと人形が詰め込まれているようで、後から後からそのリュックの中から人形が取り出されては誰かの手に渡っていく。
「んん……?」
手の中にある人形と、配られているそれをよくよく見比べてみる。すると、人形ごとに微妙に表情や腕の角度に違いがあることが見て取れる。それすなわち、
「これ、手作りか……?」
「正解です」
正解なのでもう一つあげちゃいます、と更に手渡された人形で両手が埋まる。先ほどの物とは違って満面の笑みを浮かべた人形から手を離して、目の前の少女は一歩、二歩後ろに下がった。
「サービスです。ファンになっちゃいました? なってもいいんですよ? マーチャンでした」
「ありがとう、大事にするよ」
後ろに置いた鞄に形が変わらないように気を付けながら二つとも仕舞う。顔を上げると、今度こそマーチャンは居なくなっていた。
「虎公ー、どぉらぁっ」
「おっと」
背後から気性のラリアットが、ひょいと下げた頭の上をごお、と風を切りながら通り過ぎる。多分だが、普通の人が喰らったら首の骨がお亡くなりになる程度の威力は籠っていることだろう。
「虎公よぉ~、いつになったら授業するんだよぉ。一緒にコサックダンスしようぜー?」
そう言いながら阿波踊りを披露し始めたゴルシを無言でひょい、と持ち上げて、ちょうど歩いてきていたメジロマックイーンに向けてパス! ゴルシのルパンダイブ! マックイーンは死ぬ。
なんてことはなく、どうやったのかは分からないものの空中でブレーキをかけたゴルシを、驚きながらもマックイーンが受け止める結果となった。
「な、なんですの」
「おー、マックイーン。パフェ食いに行こうぜパフェ」
「ぱ、パフェ……。はっ、ダメですわッ。そもそもこれから授業です!」
懐から取り出した割引券を2枚、ひらひら振って見せるもあえなく轟沈。校門の前に屍を晒すこととなってしまった。
「ゴールドシップさーん? ここではお邪魔になるので少しよけてくださいねー?」
「えーい」
流石に校門の真ん中で寝転がっているのは許されなかったらしい。うつぶせになったまま気の抜けた返事をしたゴルシがシャカシャカとうつぶせのままで変に滑らかな移動をしながらこちらに近づいてきて、がしっと俺の足を掴む。
「虎公でいいや……、マグロ釣りに行こうぜ……」
「授業ちゃんと受けたらなー」
「ほんとか! 言質取ったぜヒャッホウ!」
釣り針用意しとけよー! と勢いよく跳ね起きたゴルシの姿がすごい速度で校舎の方角へ消えていく。
「釣り針だけでいいのか……」
「あの、本当に行かれるんですか?」
「行かないんですか?」
最悪素潜りで捕まえればいいか、という結論に達した。今夜は寿司だな、ゴルシにも美味い握りを食べさせてやろう。
「俺、いつちゃんと授業できるようになりますかね」
「う、うーん」
思っていた以上に学園に生息する奴らの数がいたせいで、その対処に追われてしまい現状は9割警備員のような仕事しかしていない。呪力とはちょっと違うせいで見つけにくい上に、貧弱すぎて近くにいても気が付かないこともしばしば。だからこそ、派手に動いたところを見逃さないようにしている。そうなると、授業をやっている暇などなく。なんなら減らしても湧いてくるし。
「私たちからはどうにも……」
「見えないですもんね……」
2人揃ってため息をつく。人材不足の悩みは昔から呪術師につきものの悩みだ。どうにも伊地知さんが恋しくてならない。
「ゆーじせんせー。あぅっ」
こちらの姿を認めて、両手を前に伸ばしてぱたぱたと駆けてきていたウララが何かに躓いたのか、ずしゃぁと転ぶ。両手を伸ばしきってしまっていたからか、受け身も取れずに顔からいってしまった彼女に慌てて駆け寄る。
「怪我したか? どこが痛い?」
「えへへ、転んじゃったー」
ぱ、と顔を上げたウララの鼻の頭から血が垂れる。見ると、肘と膝もすりむいてしまったようでそちらからも血が滲んでしまっていた。
「大丈ー夫! ばんそーこ持ってるからっ」
やはり痛いものは痛いのか、立ち上がらずに座ったままで鞄の中から常備してある絆創膏を取り出してこちらに向けて見せる。箱に貼ってある付箋には、几帳面そうな綺麗な字で「ちゃんと保健室に行くこと!」と書かれている。きっとキングヘイローだろう。
「ウララ、ちょぉっと目ぇつむってな」
頻繁に転ぶこの子は、いつ見ても足に幾つかの絆創膏を貼っている。子供が元気に走り回って足に傷をこさえてくること自体は悪いことではない。それにしても多いな、とは思うが。指先に正の呪力を集中させる。分かる人が見ていたのなら、人差し指から放たれた白い光がウララの体を包んでいる光景が見えたかもしれない。
「はい、もういいぞ」
「あれっ? 痛くない! すごいすごいっ、何したのっ?」
内緒だ、と唇に人差し指を当ててぴょんぴょん飛び跳ねるウララの頭を撫でる。
「女の子の顔に傷が残ったらいけないからな、特別だぞ?」
「うんっ、わかった! 誰にも言わないね!」
ありがとーっ、と元気に手を振りながら校舎の方に走っていく。相変わらず素直だなぁ。でも、多分喋らないように気を付けるけど明日には誰かにうっかり話してしまうんだろうな。
◯
「おぉ……! これこそ聖剣! 素晴らしく手に馴染む!」
放課後、学園の中庭を歩いていると、そんな声が聞こえてきた。少し気になったので、そちらに足を向けて茂みを抜けていき、抜けたところで急に目の前に木の棒が突きつけられた。
「見よっ、我が聖剣の切れ味……。誰っ!」
突きつけられた枝の先端越しに声の主と視線が合う。金髪碧眼で、ポニーテールで髪を纏めている少女だった。思っていた展開と違ったのか、彼女の頬が段々と紅潮していく。
「ん゛んっ、……どうした? 切っ先が震えているぞ。それでは聖剣の名が泣くな」
羞恥と混乱からか固まってしまっていた少女の表情がぱぁ、と輝く。一拍置いて、こちらに向けていた枝を後ろに引いて、元気よく口を開いた。
「言うでは無いですか。そんなに言うのなら、見せてあげましょう。我が聖剣の切れ味を!」
振りかぶった枝が勢いよく振り下ろされる。怪我をさせないようにと気を使ってくれているのか、ギリギリ手前で当たらないくらいの軌道だ。
「──良い太刀筋じゃないか」
が、一歩踏み込む。人間よりも遥かに高い身体能力を持って振るわれたその枝が描く軌道が思っていたよりもずっと綺麗だったから。
少なくとも、3級術師相手で不意打ちなら普通に一撃食らわせられるのではないかと思うほど。
「あ、あぶなっ──。へ?」
顔の前にまで迫った枝を指で摘んで止める。流石の動体視力なのか、当たりそうになったとみるや力を込めて止めようとしていた少女の目が大きく見開かれた。
「凄いな! 綺麗な剣だ。君、名前は?」
「デュランダルです。と、当然のことです。騎士ですから」
よし、と頷いて7歩ほど彼女から離れて、振り向く。昔、何度も後輩たちにしてやったように笑って手招きをした。
「まだまだこんなものじゃないだろ? 聖剣の切れ味、もっと見せてくれよ」
「い、いえ。危ないですよ……」
「だぁい丈夫。俺、最強だから」
遠慮すんな、ともう一度手招きすると、おずおずと、それでも笑ってもう一度両手で持った枝を正眼に構える。
「言うじゃないですか……。ならば受けてみよっ!」
再び今度は大上段から振り下ろされるそれを、手の甲でもって横に逸らす。地面に当たる直前、力任せに方向を変えて垂直に跳ね返ってきたのを更に手のひらで勢いを殺しつつ止めた。
「いいなぁ! 避けられたり流されたりした後も思考が止まらないのは凄いぞ!」
「そ、そうでしょうか……っ」
ぴこぴこ、と頭の上のウマ耳が機嫌良さげに小刻みに動き、口元にも隠しきれなかった笑みがこぼれてにまにましている。
とても嬉しそうにしているその様子が、こちらとしても何だか嬉しくて。構え直して手を叩いた。
「よし、もう一回こいっ」
「はいっ」
もはや隠す気もなく尻尾をぶんぶん振りながら先程と同じように枝を構えたデュランダルを見ながら、こちらもすこし脱力しつつ構えを取った。
「先生っ! 先生はどこで騎士をやられていたんですかっ」
「騎士では無いんだが……。なんだろ、治安維持みたいなことをずぅっとやっててなぁ」
「つまり騎士ですねっ」
「違うんだよなぁ」
こちらを見る目が完全にきらきら光り始めたデュランダルがずい、と一歩近づいてくる。いつの間にか“聖剣アロンダイト”と名付けてお気に入りになったらしい手頃な枝を此方に差し出してきた。
「先生っ、私、先生の剣もみたいですっ!」
「剣? んー。よぉし、見てろよ」
西洋式の剣を使ったものは無いものの、刀なら何度か使ったことがある。そして、丁度良い技もある。
腰だめに枝を構えて、壊してしまわないように気をつけながら枝に呪力を流す。
そして
「石でも何でも良いから、ちょっと幾つか投げてみな」
領域を広げた。
(日下部さん直伝──)
「それっ」
石でもいいと言ったが、割と大きめのそれが幾つか自分に向けて飛んでくる。テンションが上がって力加減を間違えたのか、それとも大丈夫だろうと信頼してもらえているのか。
結構な速度で飛んでくるそれに対し、反応して自動で動く体に身を任せる。
(居合い、“抜刀”)
領域の外郭に触れた瞬間、鋭利な刃物に切り裂かれたように二つに分かれた石がぼとぼとと下に落ちる。全てを真っ二つにした後、残身して構えを解いた。
「……どうだ?」
「……ふ、
ふぉおおおぉっ!」
凄い! かっこいい! と幼子のように両手をぶんぶん振って感動を全身で表現してくる。尻尾は千切れんばかりに振られているし、瞳も今までに無いくらいキラッキラだ。
「師匠っ! 今の教えてくださいっ、師匠っ!」
師匠、師匠とこちらににじりよりながらもう一回、とねだってくるその様子がなんだか少し懐かしくて。一つ大きな笑い声を上げた。
◯
ゆらりと一つ、噂話が立った。なんでもハルウララが最近絆創膏をしているのを見ていない気がする、といったものだった。
そんなことはずない、とキングヘイローはその話を聞いた最初は否定して、その後、考え込む姿勢となった。どうにも思い返してみると確かにここ最近は見ていなかったらしい。
「ウララさん? 最近転んだりはしていないの?」
「えー? 転んだよ? 今日もね、ずべーっ、て転んじゃったんだー」
「怪我は? していないみたいだけど……」
「したよー?」
「え? で、でも……。何してるのかしら?」
怪我をした、と言う割にはどこにも絆創膏は貼っていないし、いつも怪我をしている膝も傷一つ無く、綺麗なものだ。なんなら昔の傷跡すら消えてきれいになっているようにさえ見える。
疑問に思いながら顔を上げると、両手で口を塞ぎながらモガモガ言っているウララと目が合った。
「ゆーじせんせーがね、言っちゃダメだって」
「虎杖先生が?」
それでは虎杖先生が関係していると言っているようなものだけど。そう言いかけて、思いとどまる。隠すのが苦手なこの子が頑張って隠し事をしようとしているのだ。
あんまり無理に聞き出すのも違うだろう、と頷いて。明日には必ずや名前の出てきた彼から話を聞き出そう、と決意するのだった。
【朗報】虎杖さん弟子が出来る。
頑張れ虎杖!このままだったらあと母と妹ともしかしたら幼馴染まで映えてくるぞ!
どうしよ、
ゴルシと無人島一周珍道中だったり、ヴィルシーナと愉快な仲間たちだったり、ジンクス妖怪と物理で全てを破壊する教師だったり、ジェンティルとのゴリラ廻戦だったり、書けることが多すぎて逆にやりにくい。