「認識阻害って言って分かるよな?」
旧友と酒の席で、ふとそんな話になった。
「エロ漫画とかに出てくるアレやな?
エロい事されても気付けへんとか。」
旧友は少し困った顔をする。
何歳になっても野郎が集まるとシモの話になりがちだけど、今回はそういうフリではなかったらしい。
「なろう系でも何か出てくるな。
攻撃に反応出来へんとか、見られても警備に素通りされるとか。」
「うん、そういう話だよ。
で、俺が色んな所のTRPG会に顔出してるのは知ってるよな?」
今度は俺が困った顔をする番だった。
「何やエラい話が跳んだな。
まぁお前は昔からそういう奴やった。
TRPGってアレやろ?『大人のごっこ遊び』
知らん人と集まって長時間遊ぶんやから、あんまり突拍子も無い事言うて困らせたらアカンで。」
「もっとお母さんみたいに言ってくれ。」
酒を飲んでふざけながらの話を纏めると・・・
「それぞれ別の人が作ったシナリオで、何件か同じような導入があった。
聞く限り、偶然で被るようなネタではないし、その後の展開や黒幕は違う。
・・・つまりそれぞれ同じような何かを見て、それぞれ導入部分に使えそうだと考えたに違いない。
そういうこっちゃな?」
「そう考えるのが妥当だろうね。
で、県も跨いでそれなりに遠くに行ったから、シナリオを作った全員が同じ物を見たんじゃ無いはずだ。」
「同じ事を余所でもやったんと違うか?
何かの宣伝とかは・・・ちょっと考えにくいか。」
話を聞く限り、ちょっとした事故みたいな物だから、宣伝でやるとは思えない。
「せやったら、誰かがSNSに動画を上げたとか。
偶然動画に撮ったのがTRPGクラスタだから、その関係者にはそれなりに広まった、とかどないよ。」
「そうだよね。
そう思ったから調べてみたんだけど、誰もそんな事件をSNSに書いてなかった。
何か変だと思わない?」
「・・・」
そりゃそうだ。
今の御時世、ちょっと変わった事をしたら、誰かが何処かでネタにしているに決まってる。
「気になったからさ、色々と調べてみたんだ。」
俺が知らないマイナーなのも含めて、随分と沢山のSNSが入ったスマホを友人が見せてくる。
存在すら知らなかったアプリの解説を受けながら、幾つか検索してみたけど、確かに出て来ない。
「・・・誰もネタにしてへんな。」
関係ない話は出てくるから、検索のやり方は間違ってない。
ゲームのシナリオに使えそうな異常事態。
それなのに、異常だと思わず見過ごしてしまう。
「なるほどな、それで認識阻害とか言うとったんか。」
本当に認識阻害が起きてるかは別として、TRPGでシナリオのネタに使うなら面白いよね。
そんな感じで話をしつつ、いつの間にか別の話になって、楽しい会がお開きになった。
オッサンの旧交の暖め合いなんてそんなものだ。
後日、なろう系WEB小説を読んでいたら認識阻害ネタが出て来て、そういえばそんな話をしたと思い出した。
オチも何にも無いそれだけの話なんだけど、あの時確かに聞いたその「シナリオの導入部分」が思い出せない。
年齢のせいで、或いは酒のせいで。
そもそも与太話として真面目に記憶するつもりもなかったせいで。
まともな理由は幾らでも思い付く。
でも、本当にそれが理由だろうか?
現実に認識を阻害する魔法みたいな何かがあったとしたら。
TRPGのシナリオの元ネタとか、ちょっとズレた視点が無いと、そもそも「事件」を覚えていられないのだとしたら。
何となく薄ら寒くなったけれど、だからといってどうしようもない。
ただ、これを読んだ誰かが、ちょっとした異変を異変として対処できるきっかけにでもなれば幸いだ。