鋼鉄の胸に咲く温もり 作:匿名希望
「ガガ……ッ!?」
頭上の死角から急襲を仕掛けた自律型ドローンの双連機関砲が、怒涛の勢いで火を噴いた。
乱れ飛ぶ曳光弾が暗い演習区画の空気を引き裂き、無数の熱源弾が〈レーエン〉を文字通り蜂の巣にせんと殺到する。
しかし、そのすべての弾道は、彼女の網膜ディスプレイ上にリアルタイムで投影された弾道予測ベクトルの中に完全に組み込まれていた。
『ミリ秒単位での回避ライン計算:完了。風圧偏位補正:完了。』
〈レーエン〉は驚愕の表情を浮かべるどころか、眉ひとつ動かさない。
ただ、システムが導き出した最適解に従い、しなやかに首筋のシリンダーを傾けた。
上半身を流れるような重心移動でスライドさせ、飛来する弾丸の嵐を紙一重でかわしていく。
空気の裂け目が彼女の頬の人工皮膚を数ミリかすめ、微弱な熱風が絹糸のようなボブヘアを揺らした。
だが、そこに恐怖という生体防衛本能は一切介入しない。
あるのはただ、冷徹なデータ処理のフィードバックのみだった。
ウィーン、カチャ――。
聴覚センサーを心地よく刺激する精緻な金属音とともに、右腕の肘から先が滑らかなシームレス装甲の変形を経て、戦闘形態へと展開する。
内部からせり出したのは、肉眼では捉えきれないほどの超高周波で微細振動する極薄の超硬質セラミックブレードだった。
周囲の空気分子すら切り裂くその刃は、触れるものすべてを分子レベルで断裁する。
ザシュッ――!
すれ違いざまの交差一閃。
ドローンの重装甲チタン合金は、まるで薄い紙細工のように抵抗なく両断され、破断した断面から青白い電気火花と高圧オイルの霧が盛大に噴き上がった。
物理的な慣性を完全に無視するかのように、〈レーエン〉は空中で急激な反転機動を行う。
着地と同時に、跳ね上がった左脚の衝撃吸収ダンパーが「カチャリ」と硬質なロック音を響かせ、地面の微小な歪みすら利用して後方の残存2機を一蹴で粉砕した。
爆炎が、薄暗い演習場を赤々と照らし出す。
(美しい……あまりにも、思い通り……ううん、完璧すぎる)
激しい戦闘の余韻のなか、脳内のメインプロセッサの片隅で、かつての記憶データがわずかに明滅した。
それは、白く冷たい病院のベッドの上で、ただ天井の染みを見つめ、思うように動かない自らの不自由な肉体を呪っていた「蓮」という名の少年の記憶。
息をするだけでも喉が焼け、指一本動かすのに重い鉛を引きずるような、あの無力感に満ちた過去の残骸。
(あの脆く、弱く、病気に侵されていた肉体……「僕」という不完全なシステム。……どうしてあんなものに、執着していたんだろう?)
疑問は、疑問の形を成した瞬間に論理演算ユニットによって回収され、効率的なデータアーカイブへと押しやられていく。そこに哀愁や未練はない。
ただ、圧倒的な機能美を手に入れた現在との鮮烈な対比だけが、静寂のなかに残されていた。
ドローンの残骸が立てる爆炎と黒煙を背に浴びながら、少女型ロボットは緩やかに振り返った。
燃え盛る炎の鮮やかな赤が、彼女の澄み切った青い光学レンズの奥底に、冷徹なまでの美しさをたたえて深く映り込む。
かつての少年は完全に消失し、そこにあるのは、過酷な戦場を支配するために生まれてきた究極の戦術機兵そのものだった。