鋼鉄の胸に咲く温もり 作:匿名希望
「全ターゲットの沈黙を確認。戦闘データ収集率100%。演習終了です、レーエン」
天井のスピーカーから響いたオペレーターの冷徹なアナウンスメントを合図にするかのように、〈レーエン〉の右腕に組み込まれていた高周波ブレードは無音に近い正確さでホワイト装甲の内部へと収納された。
駆動部から漏れた微小な排気ガスが、人工市街地の冷たい夜気の中に白いスモークとなって溶けていく。
彼女はゆっくりと腕を持ち上げ、先ほどの爆風と激しい機動によってわずかに乱れた生体金属繊維のボブヘアを、滑らかな機械の指先でそっと整えた。
絹糸のようにしなやかなその髪は、一筋の乱れもなく美しいシルエットへと即座に収まる。
かつての蓮という少年が抱いていた、自分の身体に対する劣等感も、病弱ゆえの焦燥も、その頭脳のいかなるロケーションにも、もう存在していなかった。
すべては綺麗にデフラグされ、遠い過去のアーカイブへと追いやられている。
「作戦完了を報告いたします。システム、全機能正常……思考ログにノイズはありません」
人工音声合成ユニットから響き渡ったのは、鈴を転がすように可憐でありながら、感情の温度を一切持たない完璧に冷徹なソプラノの響きだった。
その声は防音ガラスの向こうにいる研究員たちの耳を打ち、彼らに彼女が完璧な戦術機兵として完成したことを改めて確信させた。
胸の奥深く――かつて生身の心臓が不規則な痛みを伴って脈打っていたその場所で、今や高密度エネルギーを湛えた主電源コアが、規則正しく、そして力強く青い光の脈動を放っていた。
それは、病魔という理不尽な運命から完全に解き放たれ、不完全な人間という枠組みを自ら脱ぎ捨てて、完璧な機械の美へと生まれ変わった、新しい「彼女」の永遠の鼓動だった。
「次のミッションの入力を待機中――。私を、どこへでも連れて行ってください、マスター」
純白のシームレス装甲に身を包んだ少女型ロボットは、静かな微笑みをその人形のような完璧な素肌に浮かべ、無機質でありながらも息を呑むほどに優雅な一礼を捧げた。
視界の端で、絶えず明滅するシステムステータスと照準レティクルが緑の光を静かに瞬かせる。
薄暗い演習区画の奥で、次の扉が開く音――重厚な油圧バルブが軋む音が、新たな戦場への招待状のように低く響き渡っていた。
少女は一切の迷いを見せることなく、その完璧に調律された両足を滑らせ、無限に続く戦闘の旅路へと、静かに歩みを進めていった。