鋼鉄の胸に咲く温もり 作:匿名希望
「適応テスト通過。これより義体フレームの同期を開始」
機械的なアナウンスと同時に、視界の隅を冷や汗が滑り落ちた。
「あ……がっ……!?」
唐突な異変は、左右の指先から始まった。
温かかった少年の皮膚から急速に血の気が引き、蒼白を通り越して陶器のような無機質な白へと変色していく。
いや、変色ではない。
表皮組織そのものが細胞レベルで分解され、極小のナノマシンの群れによって高精度な硬質ポリマーと高分子セラミックへと置換されているのだ。
爪は消失し、第一関節から順に「カチャリ、カチャリ」と精密なメカニズムが噛み合う音が鳴り響く。
「うそ……僕の手が……カチカチ言ってる……?」
指を曲げようと試みると、脳からの神経伝達信号は生体の神経ではなく、極細の光ファイバー網を駆け抜けた。
駆動部に組み込まれた微小アクチュエータが「ウィーン、カチャ」と脳裏へ直に重低音を響かせる。
腕の内部を通る高出力回路に微弱な電流が流れるたび、痺れるような熱と鋭い刺激が疾走し、蓮は息を呑んだ。
手首から先はすでに完全に機械化され、白とダークグレーを基調とした洗練されたシリンダー関節が、滑らかなメカニカルラインを描いていた。
機械化の波は、手首の関節を越えて、容赦なく少年の肘、そして肩の関節へとその領域を広げていく。
「ひっ……あぁ……!」
上腕部の筋肉や血管がナノマシンによって一斉に分解され、その痕跡を塗り替えるように軽量かつ高強度のチタン合金の骨格が組み上げられていく。
生体組織を失った内部からは、かすかに冷却液の循環する水音が聞こえ、神経信号の代わりに高密度パルスが脳髄へと直接突き刺さるような激しい眩暈を引き起こした。
「右腕、同期完了。……続いて、左腕および胸郭周縁の換装へ移行します」
ガラスの向こうで淡々と告げられる冷徹な報告は、蓮の耳にはもはや遠い海の底の音のようにしか届かない。
左腕にも同じように硬質の痛みが走り、小さな胸の真ん中――かつて温かな鼓動を刻んでいた心臓の周囲に、人工のジェネレーターがめり込んでいく。
ドクン、ドクン、という有機的な心音の上に、重低音のメカニカルな回転音が重なる。
胸部フレームの換装が完了するにつれて、蓮の呼吸は肺による酸素の取り込みから、高効率なリキッド・オキシジェン循環システムによる強制冷却へと完全に切り替わった。
冷たい液体が体内を巡るたび、全身の感覚が研ぎ澄まされていくと同時に、人間の体温が急速に失われていく。
「いタイよ……苦しいよ……これ、もう僕の体じゃない……っ!」
声帯の振動も、機械化された喉元を通ることで、微かに電子的なノイズを帯びた硬質な響きへと変貌していた。
もはや動かすことすら恐怖に満ちたその両腕は、白とダークグレーの精巧な装甲に包まれ、無機質なまでの美しさを湛えてモニターの光を鈍く反射している。
――しかし、システムは容赦なく次のフェーズを告げる。
それは、少年の下半身、そして感情や記憶の領域そのものを変異させる、さらなる深淵への扉だった。