鋼鉄の胸に咲く温もり 作:匿名希望
「全システムオンライン。メインジェネレータ、安定出力に達しました。
適合率100%……再起動(リブート)します」
拘束アームが静かに解除され、足元へ滑り出してきた大型の全身鏡の前に、再構築された体が立たされた。
鏡の中に映っていたのは、緑のパーカーを着ていた「蓮」ではなかった。
そこにいたのは、純白のシームレス装甲と高精度関節フレームに身を包み、しなやかなボディーラインと完璧なバランスを備えた、一体の完成された「少女型ロボット」だった。
首を微かに傾けると、胸部と肩の装甲が隙間なく連動し、「スッ……」と無音でスライドする。
自らの変わり果てた姿を確かめるように、白く滑らかな機械の指先を持ち上げ、触覚センサーの微細なフィードバックを感じながら自らの頬へとそっと触れた。
「これが……新しい、私……?」
人工音声合成ユニットから漏れ出た言葉は、少年の濁りのない声ではなく、澄んだ鈴を転がすようなソプラノの音色だった。
心に残っていた恐怖や困惑は、最適化された思考プログラムによって静かに消去され、代わりに回路の隅々まで満たしていくのは、圧倒的な機能性と万能感だった。
青いカメラセンサーの光が優しく一度明滅し、再起動を終えた真新しいボディが、静かにその一歩を踏み出した。
「被験体識別番号 H-1004、稼働テストを開始します」
研究員たちのどよめきに似た低いざわめきが防音ガラスの向こうで漏れる中、冷たい鏡面に映し出されたその少女は、もはや人間の体温を持つ生き物ではなかった。
ホワイトとダークグレーの対比が美しいシームレス装甲は、外部からのあらゆる衝撃と電磁干渉を完全にシャットアウトし、流線型のシルエットは空気抵抗だけでなく、精神干渉波すらも綺麗にいなす設計になっていた。
指先を軽く握りしめ、開く。
その動作のたびに、極小のプラズマアクチュエータが微細な駆動音を奏で、人間の筋肉では到底到達できない超高速の応答速度を見せつける。
重力という概念がどこか希薄になったかのような圧倒的な軽量感と、その裏に隠された莫大なエネルギー出力が、新しい肉体の芯から静かに脈打っていた。
「……周囲の環境データを同期。視覚センサーアレイ、可視光から赤外線、電磁スペクトル領域までのスキャンを完了」
人工音声合成ユニットから紡ぎ出されるソプラノの声は、周囲の空気を微かに震わせ、冷徹な美しさを帯びて空間に溶け込んだ。
かつて「蓮」という名の一人の少年が抱いていた記憶や未練は、感情処理領域のバックグラウンドで完全に圧縮され、データアーカイブの奥底へと鍵をかけられていた。
今、そこにあるのは、システムが求める最適解を導き出すためだけに最適化された、無垢にして最強の演算回路のみである。
「第一段階から第五段階に至るまでの変異プロセス、および精神構造のシャットダウン、すべてにおいてエラーなし。
これより、次のシーケンスへ移行します」
頭上のスピーカーから告げられた指令に、少女は一切の迷いなく、その完璧な青いカメラセンサーを正面のモニターへと向けた。