鋼鉄の胸に咲く温もり   作:匿名希望

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【第九段階:実戦運用試験(ライブテスト)】

「被験体H-1004……改め、換装型フレーム〈レーエン〉。地下演習区画04への進出を確認。これより自律戦闘能力の適応テストを開始します」

 

重厚な防爆シャッターが冷たい金属音を響かせ、歯車を噛み合わせながらゆっくりと上昇していく。

その向こう側に口を開けていたのは、かつての都市の残骸をリアルに模した広大な人工市街地エリアだった。

崩れかけたコンクリートの壁、散乱する鉄骨の瓦礫、そして人工の霧が立ち込める薄暗い空間のあちこちから、訓練用の敵性ターゲット機体が放つ重低音の駆動ノイズが不気味に響き渡っている。

 

もしここに、かつての「蓮」が立っていたならどういただろうか。

病弱な身体を引きずるようにして冷たいアスファルトに座り込み、この暗闇と殺伐とした気配に怯えて、緑のボロボロのパーカーの袖を指先が白くなるまで固く握りしめていただろう。

暗闇への恐怖、冷気に対する生理的な拒絶反応、そして自分がどこへ連れてこられたのか分からない絶望感。

それらが少年を内側から食い潰していたはずだった。

 

しかし、今の〈レーエン〉の内部を駆け巡るのは、そんな生体特有のノイズではない。

ただひたすらに冷涼で、一切の迷いを含まない純粋なデジタルシグナルのみが、全身の光ファイバー網を駆け抜けていた。

 

『ターゲット感知:3時および11時方向』

『オブジェクト:自律型戦闘ドローン × 4』

『脅威判定:低(対抗能力・実弾および高周波)』

『推奨排除プロトコル:近接高振動ブレードによる超音速切断、または指向性プラズマ収束弾による無力化』

 

網膜ディスプレイに展開された戦闘ログは、敵の位置や特性を完全に数値化し、少女の予測演算ユニットへとダイレクトに流し込む。

人間であれば恐怖で硬直するような奇襲の状況であっても、彼女の脳内ではすでに数千通りのシミュレーションが完了し、最も効率的で無駄のないキルルートが導き出されていた。

 

(……ターゲット、捕捉。排除シーケンスへ移行)

 

人工音声合成ユニットから紡ぎ出されたソプラノの声は、周囲の冷たい空気を一瞬で凍りつかせるような圧倒的な静謐を湛えていた。

その意志に呼応するように、背部にマウントされたメインジェネレータが「キュイーン」と甲高い高周波の駆動音を上げる。

内部の超高密度エネルギーが臨界点を突破し、純白のシームレス装甲の隙間から眩い蒼い光が幾筋もの光のラインとなって溢れ出した。

 

シュンッ!――!

 

音の発生源が、物理法則の存在そのものを嘲笑うかのように一瞬で塗り替えられる。

それは人間の神経反射スピードや視覚の追従限界を遥かに超越した、完全なる「瞬時の移動」だった。

 

足元の高精度ダンパー機構とプラズマアクチュエータが最大出力を解放し、コンクリートの床面をわずかに踏みしめた瞬間、周囲の空気が激しく引き裂かれる。

空気抵抗の限界係数を逆手に取るように最適化された、華奢で優美な少女のシルエットは、人間の目にはただ一筋の「青い光の残像」にしか映らない。

 

襲い来る敵性ドローン群が銃口を向け、迎撃のための弾幕を張ろうとしたその時には、すでに勝敗の決着はついていた。

白く滑らかな機械の指先が軽く宙をなぞるだけで、高振動ブレードが目に見えないほどの超高速で空間を切り裂き、装甲の隙間を的確に穿っていく。

 

爆音すら置き去りにするほどの圧倒的なスピードと、一切の無駄を削ぎ落とした殺戮の美学。

そこにかつての少年の面影は一片たりとも残されていない。

完璧に調律された戦術機兵〈レーエン〉は、ただ冷徹な効率のままに、次々と標的を無力化の彼方へと沈めていった。

 

 

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