おとぎ話の末裔   作:C&Y

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ハリー・ポッターの世界と得体の知れない何かがクロスオーバーしている世界。
本編前の、寮監先生&人外生徒の明日はどっちだ。
残酷描写とR15は、寮監先生の苦行成分でできています。


うろ覚え転生でデッド・オア・アライブ ①

 知らない天井ではないが、前世の記憶が蘇った。

 

 一般人の記憶で役立つ事なんて、料理ができる、車の運転ができる、ぐらいである。

 そもそもここが同じ世界であるのか、同じ類人猿から進化し、ダーウィンがいた世界かもわからない。

 アームストロング船長が月面着陸したのかも、今現在の私にはわからないのである。

 現状、ゲーム風に言うとだ。

 

 性別・女

 年齢・十一歳

 特徴・東洋系? 

 前世・社畜、独身、女? だったかもしれない日本人。

 現在・死にかけ? 

 攻撃力・ZERO

 SAN値・ZERO

 体力・ZERO

 幸運・お察し

 である。

 

 死にかけ? 

 

 そう絶賛命の危機である。

 車に轢かれたのである。

 後輪に巻き込まれたでござる。

 多くのギャラリーの皆さんが、車を押し上げ車体から引き摺り出してくれたのでござる。

 

 ありがとう、ありがとう。

 LUCKはお察しだが、頭部と胴体は守られた。

 しかし、現在ダクダクと血が流れ。

 これまたギャラリーの方々が止血やらなんやら、大声で呼びかけてくれながら行ってくれています。

 ありがとう、ほんとうに。

 

 そんな中、唐突に前世らしき覚醒を果たした私ですが、残念ながら十一歳の誕生日を迎えるまでの記憶が思い出せません。

 今日が誕生日だった事だけ覚えているのです。

 誰かがハッピーバースデーって言ってくれたのを覚えているのですよ。

 

 んで、覚醒。

 

 気がついたら車体の下から、曇り空とギャラリーの皆さんの恐怖で歪む顔が見えた訳です。

 そして覚醒した筈の前世とやらも朧げ。

 役に立ちません。

 

 一般人女子であった。

 社畜であった。

 過労死したんだよね、職場で倒れたメモリーが。

 何の役にもたちませんな、FUHAHAHAHA! 

 

 と、こんな感じで、異国らしき路上で、大勢の人間がわーわーしてる中で倒れ伏していたりする訳ですな。

 一瞬意識が飛ぶ、死にかけと言うか死にそう。

 

 何故に? 

 

 ここでうっすらと貧血による寒気に襲われながら、走馬灯ならぬ考察をしてみる。

 つまり、前世というのも怪我のおかげで引っ張り出された走馬灯のひとつ。

 もしかしたら、すべてが幻覚なのかもしれない。あらあら。

 

 そして三途の川なのか、異国の地ですと天国の門とか見えるのでしょうか? 

 うん、何でこんなにベラベラ脳内で喋っているのかって、重症らしく、痛みがない。

 ただただ、沈み込んでいく、全身脱力、息ができない。

 力が抜けて、命が消えていく感覚だけがある。

 

 なのに、私自身は、こうして不思議だなぁ〜。

 言葉が通じねぇなぁ〜。

 つーか英語? 

 英語にしては発音少しちがうよねぇ〜。

 

 とか、SAN値が死んで逆に突き抜けて平坦な思考になっていた。

 神様がいるなら、記憶が蘇るの、もう少し穏当にしてほしいのである。

 

 と、そこで霞む視界に妙なモノが見えた。

 

 お迎えでしょうか、なんでしょうか。

 パカッとお口を開けた猫がいます。

 右往左往する人間たちの足の間。

 救急車輌の到着と共に、激しいやり取りも聞こえますが、それも次第に遠くなっています。

 なのに、猫ちゃんが、おすわりして、パカッとお口をあけている姿が見えました。

 

 まるで、驚いちゃったなぁ〜もう、やめてよぅ。

 という驚愕の表情です。

 

 猫ミームではないですが、何故か、おっどろき〜という表情に見えました。

 猫ちゃん、最後に見る景色が可愛らしくてありがとう。

 などと、冷静なんだか混乱しているんだか、考えながら思いました。

 銀色のトラ猫というより、山猫みたいですね。

 なんで街なかに、こんなどデカい猫ちゃんがいるのでしょうか。

 

 あぁかわいい、かわゆす、かわちぃのですね。

 で、ストレッチャーに乗せられて、救急隊やお巡りさんの格好を見て、なんとなくイングランドとか? 

 考えている内に意識不明に。

 

 ***

 

 意識不明からの復活は、またも唐突。

 麻酔後なのか吐き気が凄い。

 手当が為されて病室、大部屋ですね。そこに寝かされる我一匹。

 

 病床は埋まっておらず、窓際。

 何となく、現代的ではありません。

 少し古い設備です。

 

 カーテンで仕切られていますね。左手に点滴、うむ、集中治療とかされてないところを見るに、瀕死では無いようですね。

 反対側の手で頭部を確認しますが、髪の毛があります。

 開頭手術をされた様子なし。

 どうやら、脳挫傷は免れたようですね。

 ダクダクと流れていた血は、主に事故でちぎれかけた足と、路面に擦れた顔面からのものだったようです。

 鼻が潰れたかも。とっても心配。

 ですがお顔は包帯とガーゼで覆われています。

 

 スケキヨ某探偵小説キャラみたいだったら嫌ですが、今生、生きているだけ幸せです。

 生きているのなら問題ありません。

 社畜としてオフィスで死んだ香ばしい記憶がガガガッ! 

 

 そんな人生はいけません。

 スローライフではありませんが、人間、睡眠時間を削ると人格が変容し、更には人間関係さえも破綻します。

 えぇ、人間らしいって素晴らしい。

 

 落ち着いたら猫を飼いますにゃぁ。

 あの今際の際に見た、巨大な銀色のトラ猫さまのような、かわちぃ猫様をお迎えするのです。

 それまでは生きねばなりません。

 

 あぁ人間、お顔の怪我ぐらい問題ありませんことよ。

 ご飯が食べれて息が吸えるんですもの。

 人間、生きてればとりかえせます。

 

 自分自身の現状がわかりませんが、何があったとしても人生経験豊富な前世の記憶があります。

 というか、無念の無様な死に様でしたので、今世は頑張りません。

 えぇボーナスステージと思い、心の赴くまま自由に怠惰に過ごすのです。

 

 恋愛もしません。

 恋愛の修羅場はもうたくさんです。

 というか、その恋愛の縺れが発端で社畜生活になった記憶、黒歴史ぃー! 

 

 あぁ嫌な前世ばかりを思い出しますね。

 付き合ってた相手が既婚者だと知らず、騙されていたのに、慰謝料請求されたのも塵な思い出です。

 やだもう、十一歳の夢見る少女には不似合いなドロドロ泥沼劇場でしたね。

 そいで奴は奥さんに滅多刺し。

 

 私が騙されていたことが裁判で認められたのですが、ちょっと精神に不調を来して医療措置を受けてた奥様に慰謝料ならぬお見舞金を月々送っておりましたな。

 奴は滅多刺しなのに生き残りやがって。

 んで、もう、現世が嫌になって仕事仕事と請負、更にクソな上司に目をつけられて、まぁそりゃぁもう。

 世界を超えて呪ってやろうか。

 

 いや、オフィスで死んだから奴の不始末も露呈しただろう、ガハハハ。

 なんだろう。

 前世が酷すぎて思い出す必要ZEROでしたね。

 すでに幼女ではなく、干物女、いえ素敵なマダムのノリですね。

 ですが、それも致し方なし。

 

 事故が事故でしたから、恐怖から私が出現したのでしょう。

 この前世の女なら図太すぎて、大凡の事は乗り越えられるだろうって。

 

 お陰様なのでしょうか? 

 少女の記憶がスッポ抜けているので、不安も何もありません。

 後遺症の方が不安ですし、そもそも私の保護者は何をしているのでしょうか? 

 

 そんな高速スキップ思考をしていると、カーテンが揺れて誰かが来たようですね。

 看護師さんでしょうか? 

 

 と、見ていると、背の高い女性がいます。

 緑の瞳の背の高いマダムですね。

 起きている私に気がついたらしく、何かを話しかけてきます。

 

 ですが、なちゅらるぼーんネイティブの会話には、じゃぱにーずの英語能力が通じな……わかりますね。

 まぁヒアリングは何とかわかるようですが、何故か言葉になりません。

 

 何故でしょう、喋れない? 

 何だか変ですね。

 言葉、何も出てこないのですよ、日本語さえも。

 へんですねぇ〜。

 

 で、どうやら、気分はどうか? と聞いてくれたようで、頷くワイ。

 相手は、私が喋れない事に気がついたらしく、なにやら狼狽えている。

 その様子から、私の公式プロフィールは、この国の言葉を喋れる生活をしてた模様。

 

 しくった、記憶よ戻れ。

 そしてジンワリと嫌な予感。

 もしかして、車に引かれた時、死んでる? 

 

 ワシ、死んでる? 

 

 で、残り滓の前世で復活とか? 

 残基ワシ。

 

 とかフザケてみましたが、ちょっとばかり不安に。

 そもそも交通事故? 

 

 とんでもないデカい車に交差点で接触。

 いや、ちょっとなんとなく、覚えていたりする。

 

 誰かに押されたんだよ、トンって。

 

 そして何故に、あの場所にいた? 

 思い出せ、自分、そもそも自分、誰だよ! 

 前世も含めて、現実に即した記憶が無い。

 

 おまけに喋ろうとしても言葉が形にならん。

 日本語だろうが何だろうが、こう、喋る事そのものが妙な感じになっとるで。

 まぁ生きてるし、痛み止め効いてるし、足も感覚あるしぃ。

 

 吾輩は人間である、名前は、わからないにゃ〜(ΦωΦ)ノ

 

 と、一昔前の絵文字を浮かべたところで、SAN値が少し回復。

 

「保護者への説明と魔力を確認をしたかったのですが、それどころではありませんね」

 

 マダム、何か変な単語混じってるっすよ。

 しかし、現状の説明を先にと思う私は間違っていない。

 魔力とか、この人、大丈夫なのか? 

 

 ***

 

 そいで一ヶ月ほど入院。

 

 ここがイギリスであること。

 ワシ、イギリス在住の叔母さんのところで世話になってたこと。

 

 その叔母さん、現在行方不明のこと。

 そいでそいで、事件性ありすぎなんだけど、ワシ、トンってされて殺されかけたらしいこと。

 

 ちょーまってや? 

 叔母さん、ストークされてたみたいで、事件になってるってさ。

 私は怪我のせいで、それまでの記憶や言語系に問題がでちゃったらしくてね。

 んで、私の両親は既に鬼籍に入ってて、唯一の肉親が叔母さんだったらしい。

 つまり、国籍はいちおうイギリスらしくてねぇ、福祉のお世話になる事に。

 

 なる事にならなかったんだよぅ。

 どうしてか? 

 それは緑の目のマダムが関係しているのさ。

 

 ***

 

 さて、私の調べてもらったプロフィールがこれ。

 

 性別・女

 年齢・11歳1ヶ月(1980年3月18日産まれ)

 名前・葵 ・ドヴワティーヌ

 

 両親は、母親が日本人で、父親がフランス系の人だったって話。

 両親とも飛行機事故で死亡。

 

 叔母は父親の妹で、マーガレット叔母さん。

 

 叔母さんは政府の仕事をしてたみたいだけど、定時に帰宅して子供の私の面倒をみてくれていた。

 彼女は、たちの悪い男の人に付け回されていたみたいで、警察に相談していた矢先に行方不明。

 私もどうやら、帰らない叔母さんを探しに外に出た途中で事故に。

 警察は事故というより事件として考えてるってところ。

 

 でも、行方不明となっていても、連れ去られるところは誰も見ていないし、私自身も記憶がぶっ壊れている。

 だから捜査といっても、パトロールが増えて、記録がとられて、他の事件と一緒に続ける。ぐらいだって。

 つまり余程の情報がなければ、未解決になりそう。

 

 悲憤は覚えたけど、そもそも叔母さんの記憶がないんだよ。

 これはこれで怖い話である。

 自宅に帰ったら、叔母さんの写真とか情報を確かめなくちゃね。

 そもそもストークしてる奴を何で捕まえないんだろう。

 たぶん、証拠不十分って奴かなぁ。

 

 記憶があればねぇ。

 言語的にもおかしくなっているらしくて、ある程度読めるし聞き取りもできるんだけど、話せない。

 たぶん、前世と思ってる私が脳みそを支配しているからかもね。

 で、そんな私だけど、さすがにストークされてるアパルトマンに戻るのは躊躇われた。

 福祉に頼る事になる予定だったんだけど、そこで待ったがかかった。

 

 ちなみに、今年は1991年だった。

 前世より前だったよ。

 でもこの世界が私の知っていると思ってる世界とは限らない。

 

 何故なら

 葵・ドヴワティーヌ嬢から始まるお手紙が来た。

 

 それも梟から、病院のベットにだ。

 

 病室の窓から、どうどうと梟が入り込んで、手紙をポテッと置いていった。

 幻覚かよ。

 

 と、思いつつも、今世は何でもありなんだよなぁと思いつつ封蝋されてるお手紙を見る。

 

 病院と病室名と窓際のベットに寝てる、葵・ドヴワティーヌ嬢へって。

 んで、ホグワーツ魔法魔術学校、アルバス・ダンブルドア校長先生のお名前

 お手紙にはホグワーツの紋章? があるし、なにやら良い香りのするお手紙である。

 

 んで、本文。

 ホグワーツ魔法魔術学校より、ご入学のお知らせを喜んでお届けいたします。

(ちなみに、ニュアンスでよんでるよ〜)

 

 

 学校名 ホグワーツ魔法魔術学校

 

 始業日 9月1日

 同封の学用品リストを、入学前にご準備いただけると幸いです。

 また、当学校の教育カリキュラムも記載されておりますので、目を通したいただけますようお願い致します。

 

 敬具 アルバス・ダンブルドア校長 記

 

 

 はっきり言おう。

 私は、ハリー・ポッターを知らない。

 

 嫌な汗が出てきた。

 ミリシラな日本人の前世知識からすると、時代によってはアバダされる危険な内戦時代だったりする。

 

 いやいや、信じるの? 

 どう考えても、妄想でしょ。

 

 そう頭部損傷して言語野だけじゃなくて根本的に脳みそがアバダの可能性だってある。

 つーか、死の呪文ぐらいしかしらん。

 んで、二枚目の学用品リストに目をやる。

 

 制服は、普段着のローブ(黒)三枚

 いや、そもそもローブってなんだよ? 

 

 昼用の無地の先の尖った帽子(黒)

 尖った帽子とは、何ぞ? 

 

 防護手袋(ドラゴンの皮、または耐久度の高い素材のもの)

 ドラゴン...

 

 冬用のマント(黒、銀の留め金つき指定品)

 注意、すべての服には名前を入れる事。

 

 教科書

 

 標準呪文集(ゴスホーク著)

 魔法史(バグショット著)

 魔法理論(ワフリング著)

 変身術入門(スイッチ著)

 薬草と菌類千種(スポア著)

 魔法薬の基礎(ジガー著)

 幻の動物とその生息地(スキャマンダー著)

 闇の力に対する防衛術入門(クィレル著)

 

 コメントできないラインナップや。

 ワクワクする前に、スンッってなった。

 

 その他学用品

 杖、大鍋(標準2号)標準とは.

 クリスタルの小瓶セット

 望遠鏡、真鍮の天秤

 羊皮紙、羽根ペンやインクなどの筆記具

 校内にて取り寄せや購入も可能ですが、持ち込みする事をおすすめします。

 

 羊皮紙、羊皮紙に文字をかける自信がないのだが。

 ペット(いずれか一匹まで持ち込み可)

 梟、猫、蟾蜍ひきがえる

 

 

 手紙を見つめてから、眉間をもんだ。

 

 スマホが普及するのは、数年先だ。

 そもそもこの世界で、スマホは普及するのか? 

 ノーパソでお仕事とか、いやいやワープロさえも普及しない可能性。

 

 羊皮紙、だと? 

 

 何時代だよ。

 歴史的な転換期は、記憶にあるとおりなのか? 

 そもそも、これは現実か? 

 

 添え木もされた足の痛みが現実だと訴えかけてくる。

 痛くて、トイレも面倒で、嫌でも現実だと実感している。

 ただ、脳の損傷が本当はあったとするほうが飲み込みやすい。

 

 ちなみに、ハリー・ポッターと同じ入学時期じゃないことを切に願うしかない。

 死にフラグあるんでしょ。

 つーか、魔女っ子、魔法少女なん、ワシ? 

 これハリポタ限界オタクだったらのたうちまわってるんだろーなー。

 

 ***

 

 そして無常にも、魔法界(笑)から保護責任者という方が退院の手続きに来た。

 不安しか無い。

 

 正気かよ? って、言いたいが、十一歳児に抵抗の術はない。

 

 そして現れたのは、緑の瞳に姿勢の良い、あのマダムだ。

 よかった、普通のイギリス人女性に見えるし、むしろ上品で素敵。

 レディーススーツに身を包んだ、いかにもなマダムである。

 福祉事務所のふくよかなオジサンの雰囲気とは隔絶した威厳というのだろうか。

 特徴的な硬いイギリス英語で、話しかけてくる。

 

 ニュアンスはわかる。

 ジェスチャーだけでやり過ごすぜワシ。

 福祉関係から連絡がいっているらしく、私の言語がぶっ壊れている以外は、それほど心配が無いとのお達しを受けていると。

 読めないわけじゃないし、言い回しに若干の理解が及ばない事はあるが、文章読解にいたっては十一歳の標準以上だと判断された。

 

 まぁ入院中に色々知能テストや計算、読み書きのテストを受けたんだよね。

 数理の成績だけなら優秀だってさ。

 

 ただし、どもる以前に発語に繋がらない。

 これ、魔法使いにとっては致命的じゃね? 

 とか考えているが、マダムは、魔法界(笑)の説明をマジにしてくれるわけだ。

 

 故に、開き直ってこっちも真面目に聞く。

 そもそもどこから保護者うんぬんが出てきたのかといえば、寄宿学校の福祉制度云々つながりらしい。

 ちなみに学費は、魔法省から費用を負担してるらしいよ。

 魔法省(笑)とか茶化しているが、現実だと考えると非常に胡散臭い。

 

 でも良い方に考えればだ、学用品や生活用品だけを用意すればいいってわけだ。

 叔母さんの行方や、ストーカーの事は気になるけど、この魔法学校は寄宿制だから安全面では一番だとは思う。

 けれど、記憶にはないとはいえ、肉親である叔母さんを放置するようで、心苦しい。

 

 だが、十一歳に何ができるのか? 

 トンされて、次、生き返れる気がしないのである。

 いや、魔法を習得すればワンチャン。

 

「未成年の人間界での魔法使用は禁じられています」

「あい」

 

 無理くり発語すると、YESが幼児言葉になるのよ。

 そしてNOとYESの発語がほぼ同じなのである。

 相手もわかっているのか、頭をナデナデされた。

 

 で、マダムにストーカーの事を訴えたところ、解決策に我が魔力で挑むのはどうよ? ってのの答えがこれ。

 確かに、滅多矢鱈に魔法使ってたら、補導されちゃうよね。

 ちなみに筆談でコミュニケーションを試み、無理に声を出さなくて良いそうだ。

 後々、魔法界の医者ならぬ癒者での診察を受けられるそうだ。

 魔法界の福祉って整ってるんだなぁ。

 

 んで、もう一つ問題がわかった。

 マダムが名乗ってくれたんだけど、一部の音声が耳に入らないという。

 やっぱり事故の後遺症みたいで、このマダムのお名前が理解不能の音になる。

 

「では先生と呼びなさい。ドヴワティーヌ嬢」

「あい、しぇんせぇ」

 

 自分の脳内では、ちゃんと発音しているよ。

 

「書いておきましょうね。音としては聞こえないでしょうけど、文字としては理解できるでしょう」

 

 魔女としては色々致命的ですなぁ。

 と、しながらも、小さな会話用メモ帳に、先生がカキカキ。

 羽ペンじゃなくてボールペンだよ。

 

 ミネルバ・マクゴナガル

 うむ、なんとなく聞いたことある。

 主要登場人物ゲットした。

 

 まぁ学校の先生だったら、主要人物だよね。

 ミリシラのワシでも、なんとなくわかった。

 

 んで、にっこりお愛想を振りまいて、先生と共に退院。

 その日の内に、アパルトマンの契約を弁護士経由で更新。

 費用は私の両親の遺産の方へ変更して、叔母さんが帰ってくるまで叔母さんの資産は凍結。

 

 何かがあって、貯金が引き出されたり、荒らされないように依頼。

 とか色々。

 その間、近場のホテルで先生と宿泊。

 

 学校の事、買い物の事、これからの事なんかを、尽きることなく語ってくれた。

 まぁマクゴナガル先生は、十分に世話してくれたってわけ。

 

 ただし、私が残りの入学時期まで何処で過ごすかが問題になった。

 人間社会の手続きは二週間もあれば、あらかた片付いた。

 

 叔母さんの行方はまったくつかめない。

 公共交通機関も利用されてないし、銀行へのアクセスもなかった。

 お財布はみつからないし、鍵は、安全の為に大家さんに言って鍵はつけかえた。

 

 煙のように消えちゃって、私の記憶にも無いから、本当に困った。

 フォトアルバムも探したんだけど、見つからない。

 もしかしたら、ストーカーに持ち出されたのかも知れない。

 

 まぁそんな感じで、ひとりでアパルトマンで暮らす事はできるけど、事件が解決していないし、そもそも叔母さんが行方不明になったのは、このアパルトマンの叔母さんの部屋だ。

 

 大家さんのお婆ちゃんに、叔母さんが居なくなったって声をかけて飛び出したらしい。

 あの事故の起きた日、叔母さんは仕事を休んでた。

 

 私の誕生日だった。

 

 二人で料理して、ご馳走並べて、それで。

 事故の後、自宅を訪問したお巡りさん達が、並べられた料理を発見した。

 

 そいで、ストーカー相談があった事を確認。

 私が、叔母さんがいなくなったって外に出た事。

 叔母さんの行方がまったく掴めないこと。

 そして車道に突き飛ばされる姿を複数の人が見ていること。

 目撃者がそれだけいたのに、誰かが突き飛ばした事は皆見ていたのに、犯人を誰も見ていなかった事。

 

 叔母さんの足取りは、いつまでたってもわからない。

 ストーカーしていた相手は、警察も把握してる。けど、アリバイがあるらしい。

 

 そして私の記憶も消えてしまっている。

 そんな自宅にローティーンの女の子ひとりとかありえない。

 んで、異例ではあるけれど、入学時期を早めて、先に入寮してしまおうって話に。

 生活だけ先に、先輩方に交じるって事だ。

 

 異論は無い。

 むしろ、順当に何某かの主要イベントにかかわりたくないし、何も知りたくない。

 衣食住が保証され犯罪者から守られるなら、それでいいのだ。

 ちなみに、保護者はホグワーツ理事会と校長先生なんだって。

 こりゃぁ勉強しないとね。

 今世は魔法を早く習得して、叔母さんの事件を解決するのだ。

 

 ***

 

 んで、寄宿学校には4つの寮があるそうだ。

 話が飛びすぎ? 

 ほんとにねぇ。

 暖炉でワープだよ。

 いろいろなところを経由して、驚いてる内にお城に入ってた。

 荷物はトランクに詰めたよ。

 今回は買い物は先生が済ませてくれて、私は既製品の制服とローブを用意した。

 本来だとオーダーメイドらしいけどね。

 すべて省略、来年、次の年度の用意をする時は、買い物に連れて行ってくれるってさ。

 

 そいで、早急に入寮する事になった。

 

 マクゴナガル先生も本来のお仕事にもどらないとね。

 寮を差配したり、勉強教えたり、他にもお仕事いっぱいあるんだってさ。

 どんだけブラックなんだよ。

 って、思ったのが通じたらしくて、私のお世話も息抜きになったって言ってくれた。

 優しいね。

 

 そいで古い巨大なお城に到着。

 あれよあれよという間に、覚えられない通路をいくつも通り過ぎて、眼の前にはヒゲの爺様がいる。

 

 映画とは違って、ちょっと若々しいね。

 映画は見てないけど、ほら、テレビとかマスメディアに流れてちらっと見た。

 テーマパークとかゲームにもなってたしね。

 

 でも魔法使いで長いヒゲだと、トールキンの物語が頭に浮かぶんよ。

 ホビットの冒険は知ってるのに、眼鏡っ子の少年のお話は抜けている。

 

 残念である。

 

 そして眼の前にいるのは、サンタクロースというより、元気なおヒゲのオジサンだ。

 不思議なキラキラした目をしてる。

 よくわからないけど、挨拶したらじ〜っと見られた。

 

 良く来たねって、色々あるだろうけど、様々な事を学んで、楽しく過ごしてねって感じの言葉をもらう。

 そして変な帽子を渡された。

 歌って喋る帽子だ。

 

 魔法界ってさぁ、なんかツッコミをいれないと駄目なんだろうか? 

 ツッコミ待ち? 

 というか十一歳女児は驚くのが普通? 

 むりだよねぇ〜では、いざ、すぽっとな。

 

『私は組分け帽子さ。

 君にふさわしい居場所を選んであげよう』

 脳波を読み取るのかな? 

 

『マグル的に言えばそうなるかな。

 趣味や考え方が似た者どうしのほうが、楽しく生活できるだろ?』

 

 でも途中で考え方が変わったら? 

 

『お嬢さんならわかるかな? 

 素質ではなく、君という人間が重要だと考えている事柄で選んでいるのさ』

 じゃぁ帽子さんも間違えたりする事も? 

 

 間違えて組み分けて、虐められたら別の寮に変えてもらえる? 

 

『...』

 

 いや、そんなしょっぱい空気を醸し出さんでも。

 わかってるよ、大変なお仕事だよね。

 そりゃぁ人間なんて、四パターンに収まるもんじゃないしね。

 成長期だもん、思春期きて急に性格激変とかあるし、そこまで帽子さんが責任持てないもんね。

 ごめんごめん。

 失礼したわ。

 って、シカトせんといてぇ。

 

『間違える事はないよ』

 

 うんうん、図星だった? 

 

『間違えてないから』

 

 そりゃぁねぇ、昔々からお仕事してたら、一人や二人、十人やウン万人間違えるよね! 

 

『ウン万人は多い!』

 

 はい、言質取りました〜! 

 あぁウソウソ、怒らないで帽子さん。

 久しぶりに会話ができて嬉しかったんだ。

 わかってるよね? 

 

『君は、お喋りさんのようだね。そして自分自身の機嫌をとるのがうまい』

 

 ありがとう、帽子さん。

 そうなんだよね〜。

 でも、もともとの記憶がないからねぇ。

 無口で、癇癪持ちかもよ? 

 

『いや、逆に今までの結びつきが消えている今が本来の君、なんだろう。

 で、希望はあるかな?』

 

 友達を得られて、野心的。

 知識や機知、賢さを尊ぶ。

 忍耐と正しき心根。

 勇猛果敢、勇気を選ぶ。

 そんなニュアンスだよね。

 

 私は臆病で、慎重。

 それでいて怠け者だと思う。

 どこにも居場所はなさそうだなぁ。

 

『あえて言うなら、君はとても思いやりがある。

 引き際を心得ているし、相手が望む事を差し出しもする。

 顔色を読むのに長けているな。

 思慮深いし、勇気もある。

 執念深さももっているし、口にするほど愚かではない。

 君ならスリザリンでもよかろうし、レイブンクローでもやっていけよう』

 もっと簡単に言ってほしいな。

 

『狡猾で闘争心もある。グリフィンドールでも良いだろう』

 つまりハッフルパフは無理? 

 

 一番、穏当そうなのに。

 

『無理であろうな』

 

 十一歳の少女に、面と向かって狡猾でイケイケだとか、酷いわ〜。

 どちらかというと穏当な性格のつもりなんだけど。

 

『おとぎ話の少女は、皆、穏当で善良。なれど不幸と災いは勝手にやってくるものだ』

 なんだかロマン溢れるお言葉だけど、それすごい不安要素あるよって話じゃないの? 

 じゃぁ、言語的に問題がある場合、一番、まわりと摩擦がおきない寮をお願いしたい。

 

「スリザリン!」

 

 頑張り給えと帽子に言われ、校長先生には頭をグリグリされ、飴をもらった。

 組分け時間が少し長めだったので、心配されたようである。

 雑談してただけとは言えんかった。

 

 そいで制服の色がエメラルドグリーンになった。

 所々は銀色だね、おっしゃれ〜。

 スリザリン寮の制服だそうな。

 

 マクゴナガル先生は大きなため息をつき、歴代の校長室の絵が動いて手を振ってくれる。

 絵が動くんだよ! 

 んで、スリザリンとなると、マクゴナガル先生ではなくて、別の先生が寮を差配している。

 マクゴナガル先生はグリフィンドールなんだってさ。

 

「別に寮がわかれても、何か困ったことがあったらいつでも声をかけなさいね。

 お家の事や、困ったこと、誰にも言えないと思った事柄も、何でも良いから私にいいなさい」

 

「あい」

 

「ただ、常に接する事になるのが、スリザリン寮の寮監である  ・   先生になります。

 お名前は聞き取れますか?」

 

「むり、です」

 

 やっぱり人名がとぶ。

 これはやっぱり障害がでてるなぁ。

 脳の検査では出血も見られないきれいな状態だったし、経過観察でも異常がみられなかった。

 あとはメンタル問題なんだろうか。

 んで、メモ帳にカキカキ。

 

「やはり、マダム・    に一度診てもらうのがよかろう。それによっては    に薬を煎じてもらうように」

 

 お名前がまた、聞こえない。

 どうやら、それが校長先生にもわかったらしく、ゆっくりと口を動かして言ってくれた。

 メモ書きと同じ名前だね。

 

 セブルス・スネイプ先生

 スリザリンの寮監

 魔法薬学教授

 お薬をつくってくれる。

 

 アルバス・ダンブルドア校長先生の名前は理解できるんだけどなぁ。

 で、授業中のスネイプ先生のお手を煩わすのも何だから、授業が終わるのを待つことに。

 校長先生のお部屋で少し休憩。

 

 これぞThe魔法使いって感じのお部屋で、常に何か物音がしてる。

 絵画は動いてるし、奥の鳥かごは何だかウゾウゾしてるし、銀色の不思議器具とかキラキラしていた。

 少しも気が休まらないが、これが魔法使いの普通なのかも知れないと、一応、顔に出さないように座る。

 ちなみに8階ぐらいだと思うけど、この場所が何処かと聞かれても説明できない。

 螺旋階段とかぐるぐるして、石像に話しかけてと、テーマパークみたいで盛りだくさんすぎた。

 普通の寄宿学校でよくね? 

 

「ちなみにドヴワティーヌ嬢、貴女の現状を、ここの生徒に知らせても問題ないかね? 

 知られたくなければ、家庭の事情としておくがの」

 

 紅茶とフワフワしっとりしたマドレーヌを前に、考える。

 喋れない、一部、聞き取れないとなれば、理由を知らしめた方が楽ではある。

 情報開示のマイナス面は何だろうか? 

 たぶん、好奇の目で見られる事と、私が魔法界に疎い事がわかる。

 つまり余所者、異物としての立場に置かれる事だ。

 

 ほら、転校生あるある。

 けれど、そもそも今季9月の新入生フライングである。

 そもそもがそもそもだ。

 

 そしてコミュニケーションツールが不具合出ちゃってるわけで。

 情報開示を先生方からして頂いたほうがプラス面は大きい。

 そして私のような状況の人間に無用なちょっかいをかけると、悪者に見えるねっていうアドバンテージの方が、異邦人に対する差別を上回るかもしれない。

 

 つまり? 

 まぁ説明していただけるなら、悪い事は無いのである。

 ちなみに、この高速スキップ思考内容を何と伝えれば良いのか。

 

 問題なし。

 家庭環境、事件、事故、私の不具合の説明をお願いします。

 叔母の状況によっては、学期中に外出をする可能性もありますです。

 と、カキカキ。

 

「先生から、人間界と魔法界のお話は聞いているかね?」

 

 チョコがけのを手渡されて、少し考える。

 差別と区別のお話だろうか。

 魔法を使える人と使えない人。

 多くの魔法界の人は、魔法をつかえない人間、マグルを差別や警戒している。

 そして極端な純血統主義もある。

 魔法界は階級社会でもある。

 でも、これ普通の人間社会も同じだよね。

 階級はあるし人種や宗教なんかで揉めるのは、日常だ。

 

 んで、これもカキカキ。

 私はマグルで東洋の血が入っている上に、身が不自由なので、ここでは受け入れられないと言う話でしょうか? 

 

 実際問題。

 受け入れられなくても問題無いのである。

 自分の杖を持ったけど、うんともすんとも言わないので魔法が使えない可能性が高いし、何より、犯罪者からの避難場所として選んだだけだ。

 究極、人間界の孤児院でもいいので、マグルとして生きていっても問題は無いのである。

 親の財産もあるしね。

 あとは保護者が必要ってだけ。

 人間界の学校に通うってのもありだし、そこでも差別や区別はあるだろう。

 人間はバカだからね。

 同じ人種や同じ国民同士だって、争い合うわけでさ。

 

「マグルで言う人種の違いでの差別は無い。

 ホグワーツにおいては、君が学びたいと思うなら、それが一番であり、それ以外の事は重要では無い。

 ただ魔法界となれば、やはり魔法族とマグルは、まだまだ解りあえるところまでたどり着けていないのじゃ」

 

 う〜ん、教育者の二枚舌。

 つまり差別はある。

 ただし、魔法がつかえるか、つかえないかってのが重要。

 あと、貴族とか血筋ね。

 マクゴナガル先生は、いまでこそ貴族階級と庶民をわける事は無いが、魔法族としての旧家はたしかにあり、その血筋を重要視しているとの話だった。

 

「君のご両親は、魔法族だったのは確かであるし、その点は問題ないじゃろう」

 

 おい、問題ありすぎな発言頂きました。

 知らないんだけど。

 ワシの両親、魔女っ子、魔法使いでやんの。

 つーことは叔母さんは、魔女なのかい? 

 

「資料によれば、君の父君がフランスのボーバトン魔法アカデミーの卒業生じゃ。

 そして君の母君は、国際魔法使い連盟教育局のアジア地区、日本のマホウトコロ卒業者とある。

 母君は通訳として、君の父君は魔法生物局の職員だった。と報告を頂いておる。

 ちなみに、君の叔母上のマーガレット女史は、スクイブだったが魔法族とマグルとの政府機関の窓口ではたらいておった。

 職業の性質上、仕事内容はマグル界では話せなかったようだの。

 マグル職員の安全管理を魔法省へ訴えておるが、マグルの事件として処理されたようだ」

 

「その報告は受け取っておりませんが」

 

 と、マクゴナガル先生。

 

「魔法省を少し突いた。

 スクイブだからと魔法界の捜査機関に連絡しておらんかったようだ。

 家名から除籍された訳でもなし、養い子のドヴワティーヌ嬢は生粋の魔法族じゃ。

 犯人がどちらの人間だったとしても、調べ、保護するのは当然じゃろう」

 

「...そうなると話が大分変わるのでは」

 

「そうじゃな。

 ドヴワティーヌ嬢。

 魔法界は未だに純血主義やマグルを揶揄する風潮がある。

 しかし、お互いに譲り合い思い合えば解りあえると信じておる。

 そして純血主義者であっても、マグル出身、半純血であろうとも、君のように異国の魔法使いの血が入っていようとも、ホグワーツにおいて重要なのは、知識を学び取る学生としての姿勢だ。

 そして学生として多くの友との繋がりを得る事じゃよ」

 

 いや、まてや。

 情報多い。

 おまけに、ちょっとその資料くれ。

 

 くれるんですね、あ〜どうも。

 

 自分の両親と身辺調査の軽いまとめだ。

 本当に簡単な略歴、今、校長先生が語った事柄ぐらいだ。

 いや、生粋の魔法族。

 日本に魔法学校あるんかい。

 

 つーか、やっぱり平行世界? 

 そうそう、スクイブ。

 魔法使いの血筋で、魔法が使えない人の事だけど。

 私も産まれこれまで魔法なんて使えたことが無い。

 杖を与えられて振ったけど、沈黙が返ってくるし。

 私もスクイブなんじゃないのかなぁ。

 もし使えなかったら、退学なのかな。

 

 それでもいいけどね。

 

「貴女の杖は借りの物です。後で、専門店にて誂に行く事になるでしょう。

 入寮後に、付き添いと共に出かける事になります。

 今の仮杖では、魔法力が通せるかだけ、握らせましたが。

 貴女とは相性が良くないようです」

 

「まぁ魔力量は見たところ標準量に達しておるようだし、問題なく扱えるだろう。心配はいらんよ」

 

 ほんとにぃ? 

 何もかもがペテンに思えるのは、仕方ないよね。

 社畜過労死転生だもの。

 昏睡状態でみてる夢だって方が現実味あるし。

 そもそも葵の両親ってどんな人だったんかいな。

 謎が謎を呼ぶなぁ。

 

 少し疲れて紅茶を頂いていると、部屋を訪う声が。

 んで、どうやら、お忙しい先生を呼びつけたようだ。

 つまりスリザリンの寮監先生である。

 立ち上がってお出迎え。

 日本人お約束のペコリ挨拶。

 そしたら、先生に慄かれた。

 

「(寮監先生の名前かな)、言っていた早期入寮者です、そんな驚くことはないでしょう」

 

「いや、マンゴの入院患者ではないのですかな? 

 校長、教頭、こんな怪我人をどうしたのです?」

 

 存外良心的な人のようで、包帯と松葉杖、顔もガーゼだらけの私を指さしてツッコんでくれた。

 ありがとう、先生、常識って大切だよね。

 

 ***

 

 んで、私の現状を説明される寮監先生。

 暫し、沈黙。

 顔色悪いお兄さんである。

 

 敢えて言おう、オジサンじゃないでしょ。

 知ってる、思ってるより先生若いだろ。

 西洋人的老け顔で、その脂ギッシュな髪の毛に土気色の顔色。

 ワシ、知ってる。

 

 社畜臭がする。

 それもとてつもない、ブラックの香り。

 お家に帰れないシステムエンジニアとか、徹夜で資料つくってる営業とか。

 年度末の、ほら、締切間近に何故か帳尻合わない数字が出てくるんだよ。誰だよ、いい加減な数字出しやがってよぅ〜っていう幻の前世が見えた。

 

 知ってる。

 お家に帰れないんだよ。

 寝たいけど、時間あっても気になることがいっぱいで、寝れないんだよ。

 そしてストレスフルな職場に、鬼のような仕事量。

 

 知ってる。

 気絶寝落ちスタイルしてると、頭皮の油と顔色がおかしくなるんだよ。

 不憫臭がする。

 もうちょっとで精神崩壊して、笑い出すんだよ。

 

「.まずは、診察からですな。

 治せるところは、治してしまいましょう。

 医務室での療養が必要か、マンゴの治療が必要かは、診察の後ですな」

 

 あざっす先生。

 よろしくっす。

 と、何故か変な口調を脳内で呟く。

 それに先生は奇妙な虫でも見るような目線で促すと、校長室を後にした。

 

「何かあったら、私達に遠慮せずに声をかけてくるのですよぅ」

 

 らじゃーっす、マクゴナガル先生。

 ありがたいなぁ。

 

 それからそれから...

 魔法使いのお洋服センスって独特。

 誰一人統一感が無いのは、やっぱり西洋文化だから? 

 

 現在、松葉杖ごと微妙に浮いてる私です。

 

 魔法治療的なものは、未だに受けていない。

 というのも、マグル世界での診療が、事件絡みで保険金とかあったので、不自然な治療の痕跡を残せなかったってのが理由。

 

 んで、眼の前を歩く寮監先生は、全身ブラックで上着がロング。

 後ろにタックが取られてて、なんとなく可愛い。

 スタイルとしては、修道服みたいにも見えるし、独特なのは言わずもがな。

 

 そしてチマチマモタモタしてたら、浮かされた。

 足元五センチぐらい浮いてる。

 ふぃ〜って間抜けに進む。

 なんというか、感覚的にエスカレーター。

 そして前を進む寮監先生は、面倒見がいいけど、説明しないタイプ&キレやすいお年頃。

 

 寝てないからだよ、先生。

 

「大きなお世話だ」

 

 カツカツと歩くお姿。

 少し前かがみで急ぎ足。

 十一歳少女で怪我人が追いつける速度ではない。

 つーか、浮かして引っ張るとか、普通に怖いでしょ。

 

「怖い? それだけベラベラと喋れるなら大丈夫であろう」

 

 優しさが控えめなタイプなんですね。

 やっぱり寝不足だからでしょ。二徹ぐらいですか? 

 

「三日目だ」

 

 うわぁ、陽気になりません? 勝手に笑いだしちゃったり.

 

「今朝は危な、ふんっ、くだらんことを聞いてくるな」

 

 苦労なさってるんですね。

 教職って大変な仕事の筆頭ですもんね。

 魔法界もモンペいるんですよね? 

 

「モンペとは?」

 

 クレームを何かといれてくる保護者ですよ。

 

「あぁ旧家に多いな。スリザリンは殆どが純血貴族の師弟がしめているからな」

 

 私、マグル育ちのなんちゃって純血らしいですけど、不安しかないっす。

 

「それだけベラベラ口がまわれば、心配なかろう」

 

 そうっすかね。

 こう、考えを垂れ流せば、魔法使いの人って読んでくれるんですかね。

 マクゴナガル先生とか、校長先生は答えてくれなかったですが。

 ガツッと足音をたてて、寮監先生は立ち止まった。

 ゆっくりと振り返り見下ろす。

 

「不覚」

 

 怖い。

 まともに顔を見たけど、ひでぇクマだ。

 おまけに眉間にシワ。

 先生お若いのに、過労死寸前のお顔色っす。

 

「ドヴワティーヌ嬢」

 

 葵でいいっすよ、先生。

 その苗字、言いにくいっすよね。

 自分でも言えねぇっす。

 

「レジリメンスは行われていない。

 オクルメンシーはできていない。

 声が届くとしても、吾輩自身が読んでいるわけではない。

 吾輩が何を考えているか、よみとれるかね」

 

 んな、表情死んでる先生の考えなんて読める訳無いじゃないですか。

 もしかして、食事も疎かに? 

 ビタミンDとらないと、骨がもろくなりますよ。

 

「相手の心を読む魔法や、考えを閉じる魔法がある。

 また、相手を支配する能力や、一時的に思考を変える薬もある。

 だが、任意の相手に言葉を意識だけで伝えるというのは無い。

 吾輩が知らぬだけかもしれぬが」

 

 魔法界でもポピュラーじゃないって事でしょうか? 

 

「開心術レジリメンスをかけずに、お前の考えを読み取る事は普通はできない。

 つまり、お前が任意で吾輩に話しかけている訳だな。

 だが、ミネルバや校長には伝わっていない。伝えていないのは何故だ?」

 

 いや、そんなん言われましても。

 この事故に合う前まで、魔法とは一切縁のないマグルの生活でしたし。

 言葉にも不自由じゃなかったはずです。

 記憶にはありませんが、このような特殊な能力があれば、やはり周囲に知られていたのではないでしょうか? 

 う〜ん、心のなかで同じようにお喋りしていましたが、伝わっている様子はありませんでした。

 先生は答えて下さったので、魔法使いならできるのかな? と。

 

「無闇に思考を相手に向かって投げないように。

 一時的な事か、魔力の管理ができていないのか。

 今の怪我の状態による物かも不明だが、ともかく、そうして相手の中に入るような行いは慎みなさい」

 

 そうすると、殆ど筆談になるのと、意識しているわけじゃないんで、無理なのでは〜。

 

「吾輩以外に、声が届くか確認せねばなるまい」

 

 うぃっす。

 

「下品な物言いは、スリザリンの品位を疑われる。

 寮杯得点にも関わるので言動には注意するように」

 

 はい、言葉には心の中でも注意します。

 ですが、先生の発言の半分以上が謎です。

 寮杯得点? 

 なんですかそれ。

 

「先に医務室だ」

 

 いやぁ〜先に足を止めたの先生じゃぁん。

 で、沸点低い寮監先生の怒りケージを溜めつつ、医務室へ向かう。

 先生も少し休んだほうがいいと思うよ。

 

「おやさしいことで、問題がなければ吾輩も休めるのですがね」

 

 そのお前のせいなんだよってぇ視線はやめてください。

 イギリス英語の皮肉的言い回しって、日本人には難しいんですって。

 やっぱりビタミンDですよ、先生。

 それとも魔法薬でもそういう栄養剤あるんですか? 

 

「授業で習う、少し黙れ」

 

 多分、血行不良で肩や首も凝ってるじゃないですか? 

 眼精疲労で目が霞んで頭痛がするなら、仮眠ですよ先生。

 熱いシャワー浴びて寝るのもよさげっすよ。

 

「黙れ」

 

 ういっす。

 つーか、吾輩とか初めて聞いた。

 古風ないいまわしだなぁ。

 話しかけてるつもりはないんだけど、会話が久しぶりで嬉しかったから、しつこくしちゃった。

 ごめんね先生。

 そうして浮遊して運ばれる包帯巻き巻きの私と、キレ散らかしそうな顔した寮監先生が通路を通れば、移動中の少年少女達に遭遇する訳で。

 

 絵面はアウトである。

 包帯少女を浮かべて運ぶ寮監先生。

 ざわつくギャラリー。

 

 無言で睨みつけて、歩き続ける先生と包帯人間。

 期待を裏切らぬ、寮監先生悪人ムーブである。

 

 ちょっとワシのワクワク好感度があがる。

 そいで多分、寮監先生の好感度は下がったな。

 こっちの考えがどこまで漏れてるのやら! 

 

「(多分、寮監先生の名前かな?)! その子はどうしたのです?」

 

 中々に奇抜な格好の御婦人に呼び止められる吾輩氏。

 お花や草が飾られた可愛らしい帽子を被ってる、先生かな? 

 灰色の髪に親しみやすい茶色の瞳の御婦人です。

 ふっくらした体型で、魔女って感じですね。

 

「来季の新入生で、事情により早期入寮となりました、ドヴワティーヌ嬢です。

 本日、ホグワーツに入寮となりましたので、最初に医務室にて診察に向かうところです」

 

「罰則で体罰をしている訳ではなかったのですね」

 

「流石にウィーズリーの双子と同じ扱いを女子に与える事はいたしません」

 

 何気に失礼な信頼をもらっている寮監先生だった。

 おぉぅ、いつも体罰してんの? 

 やだ、乗馬鞭とか似合いそう。

 

「しておらん。罰則は掃除や書き取り等だ。時々吊し上げているが、相手が度を越したイタズラをした時のみぞ」

 

 苦労してるね、先生。

 

「あら、仲がいいのね。何も言わなくてもお話できているみたいだし。スリザリンかしら?」

 

 はい、お恥ずかしながら、この気の短い寮監先生と気が合うと帽子が言いまして。

 

「私はポモーナ・スプラウトよ。

 ハップルパフの寮監で、薬草学の教授よ。

 一年生の授業でも顔を合わせることになるわね。

 よろしくね、ドヴワティーヌ嬢」

 

 寮監先生、通じてないっぽいよ。

 でも名前は聞きとれてる。

 

「ポモーナ、彼女は事故で怪我をして以来、会話に不自由している。

 読み取りや書取は大丈夫だが、頭部の損傷で過去の記憶も完全ではない。

 一部、聞き取れない単語もあるため、今後、何か授業の進行や彼女が学び取れない部分があるようなら、吾輩に知らせてもらうようになる」

 

「まぁ、それでは授業は適当に誰かと組ませるようにしておくわ。

 ドヴワティーヌ嬢、何か困ったことがあったら、遠慮せずに周りや私達先生にすぐに知らせてちょうだいね。

 医務室に向かうところを呼び止めて、済まなかったわね」

 

 で、去っていくスプラウト先生を見送り、傍らの寮監先生に言う。

 けっこう喋ったつもりなんすが。

 先生はどのくらい聞こえてました? 

 

「組分け帽子は何と? 気が合うとは到底思えないのだが」

 

 ハッフルパフ以外なら適正あるって。

 うわぁ眉間のシワが深くなったよ。

 何でスリザリンなんだよって顔だね。

 つまり、この会話をみこしたんじゃないっすか? 

 喋れない状態で摩擦の少ない居場所希望したら、スリザリンでしたんで。

 帽子さんとは、テレパシー通じてましたし。

 

「テレパシーとは?」

 

 マグルの遊び、ゲームとかの設定で出てくる精神感応能力、ですかね。

 声や文字を使わずに、言葉や意志を直接相手に伝える能力です。

 等とお喋りしつつ医務室に到着。

 教会みたいな場所にベッドに衝立。

 一昔前の病院というか、それこそゲームにでてくる野戦病院とか、ゾンビとか出てきそうな感じの部屋だ。

 もちろん、お城の中の綺麗なステンドグラスの窓に、古風な看護服の女性がいる。

 

「失礼する」

 

 寮監先生と校医であろう看護服の女性の会話を他所に、独特の消毒薬の匂いと薬草の匂いに包まれながら、まわりを見回す。

 もうさ、全部、アトラクションだって信じた方が楽だって思う。

 現実味が無いし、記憶もない。

 家族だという人は行方不明で、体は子供だ。

 おまけにろくろく喋れない。

 囲むは異国の西洋人でしょ。

 そしてね、この医務室の扉の直ぐ側に鏡がある。

 身だしなみチェック用かな? 

 

 そこに映るのは、ひょろりと背の高い包帯とガーゼで顔貌もわからない女の子だ。

 自分だって実感無いんだよね。

 薬を塗る時と通院で治療する時以外は自分の顔ってガーゼと包帯の下なんだよね。

 おまけに自覚してた前世は過労死しただろうアラサーぐらいの大人だった。

 体力ないし、こう自分って感じがしないいんだよね。

 そして何より、ミイラと化した私の瞳の色がブラウンとブルーの混ざった色だったから。

 薄い紫にも見えるブラウン。

 これ、東洋人の要素が消えてる。

 そしてこれ、どうも色素の問題で、アルビノまではいかないけれど、ちょっとかわった色味になっているそうだ。

 ちなみに、髪の毛の色も薄い。

 くすんだ金髪である。

 

 日本人の遺伝子はどこよ? 

 

 そう、残念な事に平坦な顔面と薄い体つきに出ている。

 ちょっとホラーキャラじゃね? 

 事故で顔が擦られて平坦じゃなくて、もともとの平坦なお顔だった。

 まぁ生きてるんだから文句はない。

 前世も平凡かつ性格も、まぁ優しくはないが悪人でもなかったつもり。

 どちらかというと、超絶頑固。

 今世は、お気楽に生きたい所存。

 

「はじめまして、ポピー・   よ」

 

 やばい、寮監先生、校医先生の名前が半分、聞き取れないっす! 

 

「マダム、先程お渡ししたマグルの医療記録にもあるとおり、特定の単語や人物名を聞き取って理解する事ができないときがある。

 すまないが、文字にて伝えてもらえるだろうか。

 文字の読み取りと筆記には問題がないようなのだ」

 

 そいで校医先生は杖でササッと空中に文字を描いた。

 ほのかに光る文字が、すごく綺麗である。

 これぞ、The魔法。

 ポピー・ポンフリー

 養護教諭兼校医

 貴女のカルテを拝見し、治せるところは魔法薬などのお薬を使用する。

 また、ここで治療できない場合は聖マンゴ魔法疾患障害病院に診察に行く事になります。

 

「マグルで言う病院だ。

 イギリスの魔法使いのための病院である。

 お前の保護者が健在であれば、即座にこちらに引き取れたのだが、マグルの治療が先に為された。

 マグルでは直せない傷も、こちらでは完治可能の場合もある。

 校医の指示には、必ず従うように」

 

「あい」

 

 何で慄おののくの先生。

 一応、発語はできるんよ。

 

「魔力コントロールが不十分だ。不快である。どうにかしろ」

 

 そう言われましても〜そもそも魔力(笑)である。

 

「.では、診察と治療の間、こちらは本日の授業などを進めてまいります。後はよろしく。

 授業後にもう一度こちらにきますので、それまではとめおいてください。

 緊急の治療などある場合は、教頭か校長の判断でよろしいでしょう」

 

 寮監先生、諦めた模様。

 

「わかりました。では、ドヴワティーヌ嬢、簡単な問診から始めましょう。

 私の質問が理解できない。もしくは聞きとれない場合は右手をあげるように」

 寮監先生に注意を受けたので、頷くだけにとどめた。

 

 ***

 

 不思議お薬で、足の骨がくっついたよ! 

 不思議軟膏で、お顔の傷が消えたよ! 

 不思議魔法の診察でも、やっぱり頭部外傷に新たな出血は無いって。

 

 つまり、記憶と言語の不具合は謎。

 するすると包帯をとって、全身の傷を確認。

 今のところの治療は終了。

 

 素晴らしき魔法界。

 

 よっぽどの病気や怪我でも治っちゃうんだねぇ。

 魔法薬は、吐き気がするお味だけど。

 んで、今日は医務室のお世話になる子供はいなかった。

 だから、先生と二人でお話。

 

 マグルの世界でマグルとして暮らしていた事。

 叔母さんが行方不明で、気がついたら事故にあってた。

 記憶がなくて、言葉がおかしくなってたこと。

 身の安全の為にもホグワーツに早めに来た事。

 

「そうね。

 貴女の家系図を取り寄せる事を校長先生にお伝えしておくわ。

 魔法使いの問題は、家系、血筋によるものも多いの。

 それから、できれば寮の変更も考えたほうがいいかもしれない」

 

 およ? 

 どういう事でしょうか? 

 カキカキしてメモを渡す。

 それに校医先生は、ちょっと考え込んだ。

 

「この後、入寮部屋割、夕食の流でしょうけれど、先に校長と教頭、それから寮監先生とで改めてお話し合いをしましょう」

 

 んで、先生は白いふわっとした塊を杖から飛ばした。

 キラキラしたそれは、パタパタと飛んで扉の外へと消え去った。

 

「伝言の魔法ですよ」

 

 で、程なくお返事が来た。

 

 猫である。

 青白い霞のような猫様がいらして、医務室に集まるよって。

 えぇっと、つまり診察結果がおもわしくないのか? 

 不安に思っていると、校長先生、マクゴナガル先生、寮監先生がやってきた。

 皆で奥にある応接室みたいな小部屋に腰をおろす。

 

「で、診察の結果はどうかね」

 

 校長先生の言葉に、マダム・ポンフリーが笑顔をを返す。

 

「マグルの医療機関からの見立てとかわりなしです。

 ご覧の通り、骨折部分やその他の外傷は治療できております」

 

「ほぅ、それは良かった。

 で、記憶やその他の部分についてはどうかね」

 

「これは私個人の見立てですが、外傷が原因では無いかと推察しております」

 

「というと?」

 

「ドヴワティーヌ嬢の治療は終わっています」

 

「うむ、綺麗になっておるぞ、よかったのぅ」

 

「えぇ、もう包帯など素顔を隠すものはありません。

 よくご覧になってください。

 校長、お気づきになりませんか?」

 

「はて?」

 

「ドヴワティーヌ嬢の家系は、彼女の父君と行方不明という叔母君も、フランス系の方で間違い御座いませんでしょうか? 

 ダンブルドア校長、彼女の顔と姿、この雰囲気、何かを思い出しませんか?」

 

 で、校長先生は眼鏡をずらしてこっちを見る。

 居心地が悪いが、愛想笑いを浮かべるのもなんだし。

 無表情で目を覗き込む。

 にらめっこ? 

 なんて考えたら、校長先生はにっこり笑った。

 

「美人の家系じゃの。

 日本人の母君の血筋も考慮すべきかも知れぬ。

 あちらにも同じ魔法生物がおると聞く。

 いずれも美しい女性の姿をとるらしいのぅ」

 

 それにマダム・ポンフリーが眉根を寄せた。

 

「母君の家系もですか」

 

「瞳を見ると良い。極端な力は認めないがのぅ」

 

 んで、校医先生が改めて、目の診察をする。

 難しい表情ですね。

 

 寮監先生、なんか、不味い感じっすか? 

 ギロッと睨まれる。

 うん、先生も目が充血してるよ。

 今夜は流石に寝ないと、大切な場面で笑い出しちゃうよ?

 

 黙っていろと口の形だけで伝えてきた。

 相変わらず、念話は寮監先生だけに飛んでいるようだ。

 

「つまり、血筋かのぅ」

 

「多分ですが、血縁者による予防策でしょう。

 その行方不明の叔母君も、トラブルの原因はそこかと。

 家系図を取り寄せて、調べるのが一番かと。

 彼女の場合、保護者が予防的に守りを与えていたか、保護を外れた時に発動するようになっていたのかと」

 

「うぅむ」

 

 唸る校長先生を見て、マダム・ポンフリーが私に言う。

 

「校長先生が今から、貴女のお名前を呼びます。

 元気にお返事してみましょう。

 校長、呼び掛けてみてください」

 

「葵・ドヴワティーヌ嬢、少し疲れだだろうが、もう少し付き合っておくれ」

 

「あい!」

 

 元気に返事をしてみた。

 だが、校長先生は驚いた様子で、マダム・ポンフリーを見やる。

 なんぞ? 

 その流れに、我慢できなくなったマクゴナガル先生が口を挟む。

 

「どういう事ですか?」

 

「発語に関しては、傷病ではないという事です」

 

 どういう話? 

 と、言う私の呟きを拾い聞いた寮監先生も口を挟む。

 

「お二人だけで会話をされては、話が何も進まないのですが?」

 

「すまんかった。

 あまりにも単純な見落としだった故な」

 

「説明をお願いします。ただし、本人に聞かせても良い範囲でお願いします」

 

 とは、マクゴナガル先生。

 

「そこが難しいのじゃ。

 彼女は、どの程度、世間をわかっているかの?」

 

「といいますと?」

 

「例えばじゃ、人間の男とヴィーラの話をしても大丈夫かという」

 

「不適切です!」

 

 マクゴナガル先生の血管が心配だ。

 あ〜と、言葉につまる校長先生を尻目に、寮監先生がため息混じりに口を開いた。

 

「吾輩の想像でよろしければ、つまり声はわざと出ないように保護者が制限をかけていた。

 そして名前を意識して読ませない相手は、効果範囲に入りやすい相手であると? 

 女性の名も範囲に入っているようですが?」

 

「幼体は保護者を得るために男女区別なく力が働くのだろう。

 記憶は事故の所為だが、発語や人名の欠落はわざとじゃ」

 

「それはどいういう事なんです?」

 

「彼女の家系に、魅了系の能力者の血が流れている可能性があるんじゃ」

 

 はっとして驚くマクゴナガル先生。

 私の顔を見る。

 

「あぁまさか、スクイブという彼女の叔母も」

「血が同じなら、魅了保持者じゃ。

 魔法として発現しておらんでも、微量の体内魔力で能力が垂れ流されているやもしれん。

 早急に魔法省にも連絡をしておかねば」

 

 どういう事か、説明してほしいっす。

 

「声を出すのを止めろ。魔力の低い、そうだな、抵抗力の低い男だと血迷って食い殺されるぞ」

 

「セブルス!」

 

 名前が聞きとれたよ、寮監先生。

 魔力コントロールの問題? 

 それともヤバいのかな? 

 

「本人も謀っているわけではなさそうです。知らぬ危険の方が高い。

 それに此奴、既にある程度力を使っておりますぞ」

 

「まさか」

 

「血迷いそうな相手の名前が認識できないよう予防している。

 抵抗できると確認できれば、認識できる。

 もしくは、魅了できる相手の場合、脅威では無い為、認識できている可能性もあるか。

 魔力値が大きな相手に、魅了は通用しませんが。

 利用できそうな男には、直接思念が飛んでくるようです。

 先程から、フザケた会話をしておりますぞ」

 

 フザケてないっす、寮監先生だけ念話が通じるからですよ。

 つーか、利用できそうとか考えてないっす。

 

「なら最初から、ベラベラ話しかけて来たのは何故だ?」

 

 独り言のつもりですよ。

 でも返事くれたから、これが普通かなって。便利だし。

 

「便利かどうかの問題ではない」

 

「グリフィンドールに寮替えが必要です。

 もしくは、ハップルパフに。

 歳は離れていても寮監が男性では問題です」

 

「どうぞと言いたいところですが、魔力量が問題です。

 これが魔力暴走を起こした場合、気絶させる事ができる人間が少ない。

 違いますか?」

 

「先程の返事の程度でも、ほんのりと暖かくなった。教授陣以外だと難しかろう」

 

「前提として女性ですと異変に気が付かない可能性があるのも問題です」

 

「マダム・ポンフリーは気がついたじゃありませんか」

 

 マダム・ポンフリーのお名前も聞こえました、寮監先生。

 

「彼女の容姿がボーバトンで見かけた一族と系統が似ていたからよ。

 あちらは桃色の瞳にプラチナブロンド。

 彼女は薄い紫の瞳の色違い、それに全体の雰囲気よ。

 浮世離れした姿に、身長も普通の子より高い。

 骨格からも他の血が混じっているのは経験上わかるわ」

 

「不安しかありません。せめてセブルスより年上の者が」

 

 えっとぉ、寮監先生、すみません。

 先に謝っておきますけど、先生、流石に信用なさすぎじゃね? 

 間違えてなければ、ガキンチョに手を出さないか心配されてる? 

 そういう人だったら、ドン引きっすよ。

 

「信用の話ではない。

 安心しろ、守備範囲外だ。(ゲイに偏見は〜)

 ゲイでもない。

 少し無駄口を閉じていろ。

 あぁ、この子猿に言ったのですよ」

 

「何と言っているのです?」

 

「吾輩の信用がなさすぎて謝られましたな。

 己自身の危険な状況はわかっていないようです。

 そもそも自分自身をマグルと同じ感覚で認識しているようです。

 吾輩の魔力量なら抵抗できますし、このような子猿に血迷うなどありえませんな。

 それよりも生徒同士の諍いの可能性を考慮しなければなりません。

 能力の方向性を分析し、対応策をこうじねばなりません。

 子猿のうちにです。

 寮内の部屋は個室にせねばなりませんな」

 

 なんか、先生方が沈鬱な表情に。

 学校が受け入れられないなら孤児院にでも。

 

「止めろ、パーソナルスペースの確保できない孤児院で、能力を圧えながら生活するなぞありえんし、野に放って悪用されるか犯罪に巻き込まれる未来しか見えん!」

 

 え〜、こまったなぁ。

 魅了? 

 自分じゃわからんし。

 美人? 

 つーよりホラーキャラみたいで不気味ですが。

 寮監先生もそうだけど、もっと日光浴びたほうがいいような感じ? 

 ゲームキャラなら盛るけど、さすがに不健康な細長い白っぽい子供ってホラーにしか見えない。

 夜、鏡見て、悲鳴をあげる自信あるよ。

 

「記憶喪失がネックですな。

 スクイブどころか、此奴、マグルと自身を思い込んでおりますぞ。

 ドヴワティーヌ嬢、薄々わかっているだろう、お前は魅了持ちの血が入っている。

 多分、お前は声に魅了の力が乗るタイプだ。

 いつ親が亡くなったかは知らんが、成人するまで制限をかけたのだろう。

 だが、その制限が何らかの狂いをもたらしている。

 事故の所為か、叔母とやらの失踪の所為か。

 故に、お前の声は怪我ではなく、単に、力を管理できるようになるまで意味ある言葉を作る事はできん。

 発語できるようになってもだ。

 お前の叔母ももしかしたら、魅了が微量でも周りに影響を与えるタイプで、犯罪に巻き込まれた可能性がある。

 スクイブだからと放置したが、魔力量ゼロのマグル相手だと効果が出てしまったのかも知れない。

 理解したかね?」

 

 何か、人生ハードモード過ぎて、辛い。

 

「救いは、この子猿の思考、存外裏表がないところですかな。

 力さえ押さえられれば、普通に勉学に勤しめるでしょう。

 能力制限の効果が不明の為、護符や魔道具による管理がよろしいかと」

 

「そうだの、心当たりの魔道具を探してみよう。

 それまでは、そうじゃのぅ。

 マダム・ポンフリー。魔力過多症の子供に握らせる石はあったかの?」

 それに校医先生は立ち上がると、部屋の隅にある木箱をごそごそかき回した。

 木箱には用途のわからない品々が詰め込まれており、そこに片手でかき回すと、ちょっと鼻の頭がかけた馬の置物を取り出した。

 手のひらサイズの硝子の馬で、のほほんとした間抜けな顔をしている。

 

「おぉそれじゃそれじゃ。

 多分じゃが、ドヴワティーヌ嬢の能力は、体内魔力依存であろう。

 常時能力が解放するような厄介な力ではないだけ、安心じゃ。

 魔眼も切り替えておるようじゃし、これを少し握ってご覧」

 

 ほいっと手渡されたそれを握ってみる。

 ひんやりとすべすべしているが、握ると微妙に柔らかい。

 硝子じゃないの? 

 というか、厨二病ワードが不安なんですが。

 魔眼? 

 やめてほしい、それで喜ぶのはジャパンの一部少年だけだよ。

 

「よくマグル世界で生きてこれたな」

 

 魔眼とか知らんのですが。

 見ると石になるとか? 

 

「それは邪眼だ、馬鹿が。校長、魔眼とはどのような?」

 

「声ほどの影響はなかろう。硝子越しなら問題はない。眼鏡の利用でもよかろう」

 

 よくないだろうが。

 と言う寮監先生の声が聞こえるようだ。

 

「魔力のコントロールのあまい子供が、暴走しないように漏れ出た分を吸い取る魔石じゃ。

 起き抜けに一度、寝る前に一度握れば良い。

 魔力依存能力なら、これで意識外の発動は押さえられる。

 幸いにも直接声を聞かなければ、効果は出ないようだしの」

 

「発語による能力以外にも異能があるかと、それを握ったまま、また頭の中で話してみろ」

 

 この硝子の馬、柔らかくてキショイです、寮監先生。

 言ったら、眉間に3割増のシワが寄る。

 

「吾輩以外にだ」

 

 しょうがないな〜我儘さんめ。

 校長先生、きこえますかぁ? 

 馬の置物、キショイので側に置きたくないです。

 

「校長、聞こえますかな?」

 

「何も聞こえんの。セブルスよ、聞こえているのか?」

 

「どうやら、他者に語りかけている念話も聞こえるようです。

 魔石の馬を側に置きたくないなんぞとほざいておりますな」

 

「馬は嫌かの、他に何かあったかのぅ」

 

「甘やかす必要はありません。

 フザケた物言いばかりしおって。

 自分の事であろう。健全な学生生活をおくらせようと腐心しておるのだぞ」

 

 いや、フザケているんじゃなくて、これ触ってみてくださいよ。うにょうにょな感触が。

 

「魔力コントロールができていれば、変化は無いのだ」

 

 え〜。

 手の中の馬がニヤリとしたように見える。

 

「もう一度、発語を試してみましょう。校長先生にお返事をしましょう。校長、どうぞ」

 

「セブルスとだけ、お話するとはずるいのぅ。ワシよりセブルスが好きなんじゃな?」

 

「あい!」

 

 良いノリしてるよね、校長先生。

 

「うむ、力はのっておらぬようだ。

 他は、様子見じゃな。

 手を貸してご覧」

 

 差し出した手を握る。

 サラッとした校長先生の指には、たくさんの指輪があるね。

 魔法使いって感じ。

 いや、魔法使いだった! 

 

「セブルス、試しておけ」

 

 で、寮監先生の方にも私の手を握らせようとする。

 すんげぇ嫌そう。

 汚物並みの嫌がり方である。

 指ぬき手袋を外すと、穢らわしいとばかりに手が触れる。

 寮監先生、体温低すぎ、血行不良、睡眠不足に栄養不足じゃないっすか? 

 カフェインだけで生きてると、寝てる間かシャワー中に死にますよ? 

 

「ほっとけ、馬鹿者が!」

「接触による魅了効果は無さそうだの、ただ、他にその念話の能力がかかるようならば、それも能力の一部かもしれぬ。

 自身で抑制できればよいのだが。で、何と」

 

「バカにした言様を」

 

 違うし。

 首を振る。

 手を解くとメモ書き。

 

「セブルスよ、今夜の夜回りは」

 

「問題ありませんな」

 

「食事はとるように」

 

 と、校長先生はマクゴナガル先生にメモ書きを渡した。

 三徹目で体温低すぎ、死ぬからってメモ。

 

「余計なことを」

 

 大人気ねぇ視線をスルーする。

 

「魔法薬は最後の手段で。今思い当たる抑制剤の殆どが、成人向けです。

 成長期の子供に与えるエビデンスがありません」

 

「私の方からもマンゴの方へ問い合わせてみますが、能力のコントロール訓練か魔道具が妥当でしょう。

 ただ、やはりどのような能力かを調べた上になります。

 これまでマグルの生活で不都合がなかったのでしょうし。

 ただ、セブルスとの意思疎通の繋がりが不安です。

 私達の揃っている内に、誰か、そうですね男子生徒の」

 

「マダム・ポンフリー! いますかぁ。

 なんか、皆、医務室いけってうるさくって、大丈夫だと、あぁ〜すいません。

 失礼しましたっ!」

 

 入口に立ち尽くす元気そうな少年。

 何かのユニフォームらしきモノがボロボロである。

 まるで立ち木に突っ込んだように、木の葉やら枝が突き刺さっている。

 どうみても、怪我人だ。

 鼻血を拭けよ少年。

 

「オリバー、ちょうどよかった。

 クィディッチの練習だったのですね。

 擦り傷でも診てもらった方がいいでしょう」

 

「いや、いいっす。校長先生まで」

 

「いいから、こっちへいらっしゃい」

 

 生贄よろしく校長、寮監先生、校医先生の前に、少年を突き出すマクゴナガル先生。

 オリバー君、鼻血を片手で拭いながら、挙動不審だ。

 

「えっとぉ、俺、何かまずい時に」

 

「いいえ」

 

 ナイスタイミング生贄。

 名前は聞こえています。

 話しかけますね。

 お兄さんは、何年生ですか? 

 

「いえいえ、骨はやってないっす」

 

 うん、聞こえてないですね。

 オリバー先輩は、どこの寮なんですか? 

 反応なしですね。なんとなくわかってた。

 

「ウッドは、グリフィンドールだ」

 

「うぇ?」

 

「あぁウッド、スリザリンの新入生です。

 スネイプ先生が色々案内をしているところです」

 

「ドヴワティーヌ嬢、彼はグリフィンドールでクィディッチチームのメンバーです。

 オリバー握手を」

 

「おぅ、はい。ウッドだ。寮対抗で競うことになるが、先輩と後輩に変わりはない。

 困ったことがあれば、声をかけてくれ」

 

 わぁぉ、男前。

 よろしくお願いします。

 うん、好感度とか慣れでもなさそうですよ。

 だって寮監先生、初っ端からだもの。

 で、オリバー先輩と握手。

 彼は擦り傷や切り傷、打撲の治療を、無言の圧力の中で終え、逃げていった。

 

「許容範囲内でしょうか。

 オリバーにしては態度が、妙に柔らかいような気も」

 

 そりゃぁ先生方に囲まれてりゃぁね。

 

「いや、普段より軟化しているな」

 

「でも思春期の少年なら、あのぐらいでは? 

 むしろ塩対応するようなら、不安ですよ」

 

 可哀想、ウッド君。

 

「お前に憐れまれるとは、ウッドも不憫なものよ」

 

 フフンって、感じ悪いですよ、寮監先生。

 もしかして、寮ごとに競う感じで、更に闘うというか対立させてるんですか? 

 マグルでいう大学対抗スポーツみたいな感じより、もっとこう先生からして煽る感じ? 

 

「どうしてそう思った?」

 

 組分けの失敗は無い。

 帽子さんの発言ですよ。

 マグルの実験で、人間を2つのグループにわけて、温度差のある扱いを続けたら、それまで仲の良かった人間関係が破綻して、差別やいじめが起きたってのがあるんですよ。

 自立や競争心、お互いに能力を高めあう効果もあるでしょうけれど。

 4つに分ける、区別は、レッテルや差別に走りやすいですし、階級特権、魔法とマグル、血統、色んな縄張りがありそうで。

 

「怖いか?」

 

 疲れそうじゃないですか。

 誰に媚びへつらったらいいですかね。

 うわぁ、心底嫌そうな顔をされた。

 

「いや、子供らしくない非常にリベラルな事をほざいておりますな。

 記憶喪失、保護者不在でも十分やっていけるでしょう。

 学習面で不足が出ないためにも、自習を行い、生活全般の監視、管理をする方向がよろしいかと」

 

「このままスリザリンでよろしいのですか、校長。グリフィンドールなら面倒を見る女子生徒をあてがう事もできますが」

 

「意思疎通の面で、セブルスが一番なのと、逆に距離感の近しい場合の影響が不安じゃ。

 魔道具が調達できるまでは、スリザリン預かりとしておくのが妥当じゃと思う。

 本人も楽に意思疎通ができる相手がいるほうが、安心じゃろうしの」

 

「不本意ですが、かわりに、どのような能力なのか。また、早急に家系の調査結果が欲しいところですな。

 それに今回の事例が最後とは限らないでしょう。記録と対応をまとめておくべきですな」

 

 魅了、魅了ねぇ.

 つまりゲームで言うところの、状態異常効果が声にあるって事か。

 歌を歌うと、バインド効果とか? 

 

「バインド、金縛りの事か? 

 面白い事を考えるが、我々が心配しているのは、相手への攻撃ではない。

 コントロールできる能力ならまだしもだ。

 お前が被害者になることを恐れているのだ」

 

 ん? 

 

「魅了持ちの多くが人間ではない。

 危険な攻撃手段を持つイキモノが、獲物を調達する為に使う力だ。

 ところがどうだ。

 お前は、ろくろく魔法も使えない小娘だ。

 獲物が牙を剥き、襲いかかってきたら身を守れまい。

 皆、悩んでいるのは、相手を加害者にする事以上に、お前が被害者にならぬように苦心している。

 お前が如何に傷つこうとも、被害者として扱われぬ可能性があるからだ。

 理解したかね」

 

 反省しました、寮監先生。

 立派な指導のお言葉に、己の至らなさを痛感しました。

 

「そうか理解したか」

 

 自己管理能力が底辺なのは、先生の真面目さのしわ寄せの結果なのですね。

 

「その減らず口をまず、反省せんか馬鹿者が!」

 

「ミネルバ、この様子なら大丈夫じゃろう」

 

「はぁ、ですが早急に対策は進めませんと。

 今度の新入生には、あの子の他にも色々とありますから」

 

 そんな会話の後に、寮のお部屋へと行くことになった。

 うにょうにょな馬は、寮監先生が管理する事に。

 

 一日二回、馬を握るだけなのに、サボったり忘れないように朝食時と夕食時にぎにぎしに、寮監先生のところに行くしか無い。

 寮監先生のストレス値が瀑上がりであろう。

 

 そんな寮監先生の引率で、寮のお部屋を確認後、夕食が出される大広間にて、吊し上げならぬ紹介をして下さるそうな。

 憂鬱であるが、これも自立への第一歩。

 

 立派な魔女っ子になって、この才能あふれる面倒くさい能力を使い、叔母さんの行方を探し、尚且つ、平穏な魔女っ子生活を送るのだ。

 できれば、穏便にイギリス魔法界とは、平和になるまで距離をおきたい。

 ミリシラ原作勢としては、何がバッドエンドフラグになるのかわかっていないのである。

 そしてさらには、己も微妙な才能があるらしい。

 

 魅了持ち? 

 美人じゃねぇのよ、状態異常スキル効果撒き散らすスカンク扱いだよ。

 

「スリザリン寮の寮付きゴーストは、今はいないが血みどろ男爵だ。

 彼との会話では生前の話はタブーと心得ておけ」

 

 スカンクという思念が伝わっていたようで、三徹目で引き金が軽くなっている寮監先生は、怒るか笑うか迷っている。

 なんというか、入り込むなと言うお言葉を思い出し、反省。

 真面目な先生は、パーソナルスペース広くないと駄目そうだもんね。

 この念話、やっぱり精神感応、魅了能力ぽいので、なるべく己自身の殻に押し込める感じにしよう。

 で、地下の談話室、女子寮、そいでお部屋をあてがわれたんだけど。

 

 そこは説明だけ。

 女子棟は寮監先生も余程の事が無いと入らないし、今はちょうど生徒がいない時間帯だったからね。

 寮の監督生がいて、女子棟は監督生に任せる事って話。

 で、このスリザリン寮は、湖側の地下にあって、豪華な内装で窓からは水の中見える。

 豪華で優雅、個室もお姫様ベッドだし、さすが貴族の師弟が多い寮だとわかるよ。

 美麗な肖像画、時々窓の外にはSAN値を削る巨大生物。

 魔法族には癒やしのペットなのかなぁ。

 寮監先生、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトって知ってます? 

 

「いや」

 

 大好きなマグルの小説家だったんですけどね。

 記憶を失って、知ってる事の差異を探したんですよ。

 そしたらですね、ラヴクラフト、いないんですよ。

 で、ヤバいと思って、スティーブン・キングなら現役じゃんと思って、探したんですよ。

 マグルの本屋で。

 そしたらね、存在しないんですよ。

 キャリーも、呪われた町も、シャイニングも。

 

「現実と夢の区別がつかないということかね?」

 

 魔法使いがいる世界ですからね、ちょっとマグル世界も狂ってたら嫌だなぁと。

 つまり、勉強頑張ります。

 

「結構」

 

 フィクションの世界が現実で、その現実に、覚醒以前に存在するフィクションが失われていた場合。

 それが現実に反映されている可能性は? 

 ハリー・ポッター以前の作品でたまたま、思いついたホラー作家二人。

 書店で探してもらった古典に差異はなく、まぁ全てを確認できるわけではない。

 単に、頭に残っていたホラー作家のアメリカ人を上げただけだ。イギリスでも知らないわけがなかろうとね。

 魔法界がハリー・ポッターに似た世界で、マグルも準拠してたらいいなぁ。

 

 まさかね。

 人間界も、何某かの不穏な設定無いよね? 

 

 

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