R15は、グロの予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。
今回は、番外編とも言える他者視点から。
ハリー・ポッター(推定)世界に、何かが降臨しました。
マスクと手袋、それに生き残るにはバーベキューだね!
日没が美しい日だった。
ここ最近、ホグワーツでは不思議な出来事、不穏で不気味で、おかしな事が起きていた。
試験が終わると、結果がわかる一週間後までは自由だ。
クィディッチの練習をする者、テストの出来を思い、憂鬱になる者。
試験後のリフレッシュ期間だが、ホグワーツの殆どの学生は学内で様々な補助カリキュラムに勤しんでいた。
そして双子の兄弟も、それぞれに自己研鑽をしていた。
まぁ自己研鑽といっても、新たなるイタズラのネタを仕入れているというわけだ。
多くの者が勘違いしているが、彼らはイタズラの為なら、分厚い専門書も読むし、魔法薬の複雑なレシピを覚えもする。
そして複合魔法や、高度でニッチな呪文だって調べるのだ。
そんな二人が図書室で一日を費やし、それなりの成果を抱えて通路に出ると、実に美しい夕焼けが見えた。
***
実際、この二人にとってホグワーツは、思ったよりもずっと楽しい場所だった。
家はある意味居心地の良い牢獄だったし、素晴らしい家族であっても、その愛情は彼らにとっては、少し歪で息苦しかった。
規則のある学校の方が自由で、二人がそれぞれ別のパーソナリティを持っている事を、思うより皆理解してくれていた。
彼らはホグワーツが好きだし、ここで思う存分愉快な時間を過ごし、夢に向かって突き進む。
そこには別段暗い影も無いし、不安も無い。
期待だけがあり、傍らには兄弟がいる。
ただ、親が作った世界も、自分たちが思い描いていた世界も、信じていた事が、必ずしも正しいわけでも普遍的なわけでも無い事に気が付き始めていた。
子供の万能感も、親への期待も、少しずつ失われ、これが大人になっていく事なのだろうか。
愉快さや楽しさを人に与えたいと思う事も、いずれは色褪せてしまうのだろうか。
そんな漠然とした不安が、二人にはあった。
二人は、狭い世界に生きている。
それがわかったのかも知れない。
高名な英雄が校長であるホグワーツ。
教師たちも、様々な専門家で、生徒だって色々な生い立ちだ。
だから、ここが全てであるかのように考えていたが、考えてみれば、皆、ひとりひとり違う場所、違う人生を過ごしているのだ。
その違いを感じたのは、弟の親友となったハリー・ポッターだ。
有名な生き残った男の子である。
物語の英雄みたいに遠く感じていた存在が目の前に、弟の隣りにいて同じく糖蜜パイを食べている。
何ら不思議はないし、話してみれば実に良い子だ。
そして弟のロンも、他人の中に置かれると、思っていたよりも、よく考えて行動していた。
失言は多いが、彼は彼なりにハリーを英雄ではなく、友達として見ようとしている。
人間は人と人との関係、関わりで、中身がわかるものらしい。
二人は、よく知っている弟でさえ、わかっていなかったのだ。
それは不思議な感覚だった。
双子の共鳴に慣れていて、狭い世界に慣れすぎていて、視点が偏っていたと気がついた。
そこからは、よく人を見ようと思った。
だって、二人は人を笑顔にして愉快な気分にする事を仕事にしたいからだ。
ホグワーツは閉じられた世界であるが、そうして人をじっくりと観察する場にはふさわしかった。
食事は皆でとるし、合同授業もある。
さらに学年行事もあれば、寮生活だ。
年齢も性格も様々で、偉大な人から、意地悪な大人まで揃っている。
まずは教師同士の人間関係や、派手な動きをする生徒に注目をすることにした。
どうせ気になる人間を追うだけだが。
すると教師同士でも好き嫌いがあり、また、考えもしなかった交流がある事もわかってきた。
ここで意外だったのは、穏やかな人間関係を築いていそうな人物同士が、お互いを避けているパターンと、実は頻繁に交流があるらしいパターンを見つけたことだ。
ものやわらかで生徒に人気のある人物であっても、実は個人行動が多かった、等という事もあった。
人間とは面白い生き物だ。
あと、思うより過激な奴がハッフルパフとレイブンクローにいる事だ。
スリザリン?
そう、スリザリンが問題だ。
そうして二人が特に注目したのは、嫌われ者の魔法薬学の教授だ。
理解しがたい人間、想像しづらいパーソナリティ、そんな人間に注目してみることにした。
彼は勘が鋭いので観察するのも用心が必要だった。
そして一番意外なパターンとなった。
魔法薬学の教授は、殆どの教師と交流がある。
そして女性教諭の殆どが、彼をお茶会の席に呼ぶのだ。
謎であった。
あの取っ付きにくい嫌味な男を、お茶の席に必ず呼ぶ。
そして彼も渋々必ず出席する。
更に観察を続けると、他の男性教諭も、彼の事を嫌っている様子は無い。
校長が呼ぶ教師としてはマクゴナガルと同等以上だった。
つまり、あの陰険で嫌味でスリザリン贔屓の教授は、教師の間では評判は悪くないのだ。
どんなマジックだよ。と、双子は思う。
まぁ予想できる答えは、その魔法薬学教授は、非常に有能だからだ。
嫌な答えである。
更に不思議なことは、葵・ドヴワティーヌは、彼を信頼しているらしく、いつも一緒にいるのだ。
彼女もスリザリンだ。
一番の話題はハリー・ポッターである。
最年少のクィディッチ選手だったりと色々だ。
それは口に出していい話題である。
そして彼女の場合は、口に出せない一番の話題である。
異例の早期入寮者で、外見は成人間近に見える美少女だ。
美少女?
この分類も違うと、実は少年たちの間では密かに囁かれている。
何となくわかる。
双子だって思春期だ。
美人はどの学年にもいる。
卒業間近のお姉さんなら、近い生き物はいる。
そう危うさのある色っぽい美人、なのだ。
ふわっとしていて、華奢で危なげ。
中身はロンなのに。
それも多分、優しいだろうなぁとか、可愛がってくれるだろうなぁとか妄想しそうになる感じの奴だ。
中身は弟と同じ成分なのに。
本当なら、もっともっと話題になるし、色々チョッカイをかける輩が出没するところだが、間違ってもそんな命知らずはいない。
まず、隣に黒衣の不審者もいる。
そして彼女は美人とか美少女のカテゴリーにはいない。
野生の猿だ。
うん、大凡の少年は正気にかえる。
アレは、手に負えない。
本来なら、教師が生徒を連れ回すなど問題しか無い。だが事情がある。
人生は色々だと、ここでも学べた。
そして何となく、人と人との機微を見て彼らも悟る。
校長の指示だろう、彼の側に置かれているらしいと。
不穏に見えて、実は不穏ではない。
だからか、彼女を中心に、微妙な人間同士の間合いを理解できた。
彼女は、目印だ。
ホグワーツの大人の立ち回り、考え方を読む指針になった。
偉大な英雄の、何ら凡人と変わることない感情の機微。
子供の自分達でも、観察すれば感じ取れる。
例えば、校長と彼女の間合いも、見ていると変わっていた。
校長はどことなく、彼女をかわいいと思っている。
外見の美醜ではない。
彼女を見ると懐かしいような顔をして、楽しいと言う顔をする。
態度には出さないが彼も面白がっているし、近しい身内の娘に向ける視線だ。
そして時々、嬉しそうで悲しそうだった。
このあたりから、二人は目印の少女を中心に、面白いことは無いかと観察することにした。
彼女と魔法薬学の教授やその周辺だ。
特異な人間過ぎる気もしたが。
一般論には落とし込めないが、彼女も不可思議なパーソナリティを持ち合わせている。
観察するには十分だ。
そして彼女に関わると、理解しがたい男でも、何となく機微が見えてくる。
魔法薬学教授が焦って走る姿を見ると、大凡の者が、彼女が何かをしたなと思うぐらいにはだ。
簡単に言えば、彼女と教授が揃っている姿は、美女と野獣だ。
だが、中身は逆だ。
美女の毛皮を纏った野獣の、手綱に引き摺り回される飼い主である。
葵・ドヴワティーヌは、よくわからない生き物だった。
彼女は見た目を裏切るイタズラ者だし、実にとぼけていた。
賢さも突き抜けているらしく、ぼんやりとしてる割に、どの授業も完璧との事。
あの勉強の鬼であるグレンジャー嬢が言うには、何でも見たまま記憶してしまうらしい。
羨ましい。
彼女が色々な歌を歌えるのも、一度、耳で聞くと完全に覚えられる、という話だ。
うん、彼女の歌は素晴らしい。
そんな彼女であるが、性格は、未だに二人とも掴みきれていない。
浮世離れした美貌から、皆、気後れしている中で、平気でろくでもない冗談を垂れ流す。
彼女がサラサラと書き殴ったメモを渡されると、周りは、いつも動悸が止まらないだろう。
それでいて彼女は、優しい。
困っている子供を見ると、それとなくフォローしていた。
スリザリン以外でもだ。
だから、隠れて彼女を好きな奴はたくさんいる。
まぁ美女である。
弟と同じ年齢で、弟と同じように暴れん坊だとしても、すべてが美貌とスタイルでなぎ倒されるだろう。
反則だが、異質すぎて彼女を同じ人間とは思わない事が妥当だろう。
彼女は自分たちより、少し年上の姿をしている。
魔術的な血の、そう血の呪いと同じく急速に成長してしまったらしい。
ハリー・ポッターと同じく、聞こえる話は、すでにおとぎ話だ。
誰も近寄らないのは、恐ろしい噂ばかり聞こえてくるからでもある。
本人は気安くて優しくともだ。
彼女は国外の魔法族の純血であり、イギリス魔法界の古い血筋の中では知らぬ者がいない貴重な氏族。
彼女に不用意に近寄れば、制裁が加えられるだろう。
まぁ説得力が増す容姿である。
ただ、彼女の父親がフランス人で彼女の母親が東洋人、極東の島国の者だという話も、皆、本当かどうかわからないと思っている。
彼女の容姿に、その名残があるとすれば、華奢な体つきと頼り無げな風情ぐらいだ。
実際は、何もかも不明だ。
だが、魔法薬学の教授は彼女を側に置くし、彼女が傷つけば、相手を殺すであろう魔法を返そうとするのだ。
そしてスリザリンの男子生徒は、誰も彼女に近寄らない。
会話はするし普通の交流は持つが、それだけだ。
まぁそれだけで十分、彼女が面倒な立場の人間であるとわかるだろう。
噂話に妬み嫉みが出ない時点で、彼女は災厄と同じだ。
恐れられている裏付けでもある。
ひとえに貴重な血だと純血達が考えているからだろう。
こうなると俄然、観察が面白くなる。
ハリー・ポッターは、その出自や彼自身の才能は注目に値するが、逆に人間としての秘密は無い。
いや、あるとしても、それは少年らしい悩みや希求の範囲だ。
二人にもわかりやすいと言っていいだろう。
だが、彼女はまったく想像がつかない。
説明される人となり、出自、どれが本当かわからない。
そして彼女の考えというものは、想像もできなかった。
まぁ性別の違いかも知れないが。
探れば報復があるだろう事は理解できた。
だが、面白い事は確かだ。
普段の彼女は寮生と動いている。
食事の時、先に彼女の魔道具を調整するらしく、一旦は魔法薬学教授の元へ行く。
最初は魔道具ではなく、魔石だったのも覚えている。
その調整する姿でわかるのは、男の方は、鉄壁のポーカーフェイスで何も感情を表に出していない事だ。
彼女の方は、とても楽しそうである。
後で知ったが、彼女の声を男だけが拾って聞いているらしい。
魔力の波長がそもそも近いという理由で、魔道具の調整もできるし、彼女の世話も任されている。
なるほどと納得したが、まぁ、問題はそこではない。
彼女は、魔道具を調整する男を、実に楽しそうに見ている。
つまり、会話しているはずで、それに対して男は何も反応していないのだ。
無視である。
何で、それで楽しいんだ?
さて、そんな儀式が終わると、彼女は寮生と共に食事となる。
彼女は恐るべき速さの筆致で、小さなメモ用紙に言葉を書き連ねる。
それをポイポイと撒き散らしながら、優雅に食事だ。
どうやって優雅になるのか、いつも不思議だ。
そしてなんだかんだと言いながら、彼女の周りだけは平和だ。
スリザリンのすました食事風景の中で、そこだけはのんびりしている。
その背後でいつも通りマルフォイと弟達が言い争っていても、何故か、そこだけ楽しそうなのだ。
これも彼女の不思議さの一つだ。
たぶん、彼女は、子ども同士のいざこざの調整をしている。
そこはスリザリンらしいと、二人は感じた。
パーティーを主催する女主人のテクニックだ。
人間関係の微妙な調整を、巧妙に計算して動かしている。
彼女の場合は、笑わせたり驚かせたりと、時々、何かをしでかしている。
で、放課後。
追いかけ回すような事はしていない。
そんな事をすれば、報復もあるし、女子生徒に目撃されたら色々とシヌ。
ただ出没地点は大凡、皆も把握している。
彼女は隠れて歩いているつもりだろうが、全く隠れていないからだ。
彼女はまず、梟小屋に行く。
生徒の梟や学校の梟に会いに行く。
見るだけでなく、小屋の掃除もしている。
梟クラブ員が掃除を受け持っているが、彼女は、その梟と会話できるらしい。
だから、クラブ員も飼い主も、彼女が勝手にオヤツをあげても許している。
なにしろ、不平不満を梟自身から聞けるのだ。
ケルトバーン先生も密かに彼女がどんな風に意思疎通しているのか知りたいようだ。
クラブ員に探りを入れている。
どうやら、直接聞くことを躊躇っているようである。
何やら教師の間でも、彼女と接触するには魔法薬学教授の許可が必要らしい。
あの男が責任者だ。
彼女を管理する事が役得だとは、かけらも思えないのが笑える。
おとぎ話の住人を、自分の生活に入れる事なんて無理だ。
彼女の側にいる喜びより、苦労と苦しみが大きすぎることは、凡人にも理解できた。
ちょっと想像してもわかる。
例えば、彼女が普通に話せて、スリザリンでもなく、マグル生まれの魔女だったらと想像する?
どんな妄想でも、最初に血の雨が降りそうだと夢が見れない。
だって、あれだけの美人だ。
付き合いたいと思う男はたくさんいる。
けれど余程の自信がなければ、付き合おうとも告白しようとする勇気がでない。
そうなると彼女に告白し、彼氏の座につこうとする奴は、とんでもない自尊心や財力、権力、血筋をもったボンボンか、大人ということになる。
きっとマグル生まれだって、気にしないだろう。
ほら、夢なんか見るどころではない。
だから、彼女は別カテゴリー。
いくら可愛くたって美人だって、現実に付き合える気がしない。
そして現実的に考えれば、付き合える奴は学生では無理だ。
それとも卒業間近の成人になれば、ワンチャンあるのか?
双子的には無い。
中身はロンだし。
話は戻るが、彼女は動物が好きだし、動物と意思疎通ができる。
羨ましい能力だ。
歌も歌えて、動物とも話せる。
やはりおとぎ話のお姫様である。
妹が読んでいる絵本にそのまま載りそうだ。
ただし性格と行動はロンだが。
で、彼女は存分に、梟の羽やら藁やらにまみれて満足すると、次は馬小屋に向かわずに、日当たりの良い中庭かハグリッドの森番小屋に向かう。
猫の集会があれば中庭に立ち寄ってからの森番小屋。
猫好きなんだろう。
森番小屋来訪の目的は、ハグリッドではなく彼の飼い犬のファングに会うことだ。
動物好きの彼女だが、馬小屋には立ち寄らない。
馬が彼女に怯えるからだ。
理由はわからないが、遠くから眺めている姿を見るに、彼女は馬も好きなようだ。
そしてハグリッドの犬に抱きついて、弟と同じくゴロゴロ転がって遊んでいる。
因みに、最近、彼女はズボンを履いている。
マクゴナガル先生が胃を押さえながら、犬に会いに行く時と箒に乗る時は、ズボンにするように指導したらしい。
まぁ妥当だ。
彼女の制服は、他の女生徒より少しだけ古風なデザインになっていた。
どうやら、仕立てた時に誰かが指示したらしい。
誰だかわからないが、スカート丈はロングになっていた。
そして当人は、お構い無しで大型犬と泥と草にまみれて遊ぶ。
中身はロンだと、誰かが言っていたが、確かにその姿をみると納得できた。
だが、美女だ。
ちょっと頼りない感じの、温厚なオーラが出ている、可愛くて色っぽい女の子だ。
例え、犬の糞を靴底で踏んでいたとしてもだ。
こればっかりは動かしがたい事実で、その行動と外見の差に脳みそがおかしくなる。
多分、彼女を知る人の大方が、少し自分が心配になると思う。
そして散々犬と戯れ、酷い有様になったところで、ローブが犬の毛と唾液、それに草や泥にまみれた状態のジャストタイミングで、男が迎えに来る。
迎えというより探しにだろう。
心底嫌そうな顔で、彼女の首根っこを捕まえると、つりあげて魔法で身綺麗にする。
確かに、自分たちの弟だったら、間違っていない。
魔法で綺麗にし、一発頭部を殴り、耳を捻り上げて連行する。
同じ事を、夢の国にいそうな美少女、いや、美女にするのだ。
誰にもできないことを実行する男を、勇者のごとく尊敬しそうになる。
まぁ錯覚だ。
彼女は怒られると、ニッコリする。
多分、嬉しいという表情だ。
それを見送ると、二人は同じ事を考える。
人間は不思議だ。
彼女は怒られる事をする。
怒られる為に。
男は、怒る。
けれど、本心は怒ってない。
たぶん。
多分、錯覚かもしれないが、二人は楽しそうに見えた。
兄と弟は、しばらく、二人を継続観察する事にした。
彼女の居場所は、動物の側か男の側だった。
男は終始、無表情で答えも呟きで、中々内容が拾えない。
それでも彼女が時々男の瞳を覗き込むので、会話をしているのがわかる。
そしてある場所で、よく二人でいる事を知った。
その場所は、大きな池側、巨大イカの住処の奥にある。
位置関係はクィディッチの用具が片付けられている小屋の方向で、木立の中だ。
そこは池沿いの岩山の際で、途切れそうな獣道がホグズミード駅まで続いている。
二人は、探検と称してホグワーツのあらゆる場所に入り込んでいたが、たまたまその木立の中で抜け穴のような物が無いかと探していた。
まぁ見つけたのはウサギの穴だけだったが。
そこは少し高い位置にあり、池が見渡せる。
ホグワーツ城を背景に、池には様々な植物が生え伸び、城に向かっての方向は木々と林、美しい庭となっていた。
池のまわりは人が休めるようにと、ベンチなどが設えられているが、この南側からの眺めには何も無い。
荒れ果てた草木が生い茂り、水際までは薬草などが生え茂っているだけだ。
その薬草や植物も、教師達が利用するであろうから、彼らも足を踏み入れないようにしていた。
と、その日はたまたま天気が良く、水の上には靄一つ無く視界が良かった。
二人ともどちらが先に見つけたのかはわからない。
ただ、この池の中ほどにある小島の向こう、ちょうど死角になる部分に石のベンチが見えた。
背後は低木と草に覆われ、上は木が枝を広げていた。
日当たりもよいが、誰の目にもつかぬように自然と木々が囲んでいる。
実に良い場所だと思っていると、見慣れた黒い姿があった。
どうやら、魔法薬学教授のテリトリーのようだ。
そうでもなければいい場所だったのにと思う。
こちらも池を挟んでの間に小島もあるので、見えていないだろう。
そうしていつも通り、というか疲れて休んでいたところだったので、暇つぶしに眺めていた。
男は珍しく疲れているのか、石のベンチに背を預け、だらけた様子で寝入るような姿になった。
こちらも別段、何かをするつもりもないので、持ち込んだ水分やらを取りながら、雑談をしていた。
景色を眺めているだけだった。
すると彼女だ。
彼女はふらりとやってくると、寝入る男の隣に座った。
思わず黙る。
彼女が微笑んでいないからだ。
綺麗な顔が表情を無くすととても冷たく見えるものだ。
彼女は何かを考えているようで、遠くを見ていた。
と、男が気がつく。
顔を押さえているところを見ると、本当に寝入っていたようだ。
彼女が微かに笑う。
何かを伝えたようだ。
男は珍しく笑った。
彼女を見ずに笑った。
何か冗談を伝えたようだ。
男は足を投げ出したまま、空を見上げた。
実にのどかだ。
「彼女、喋れたらいいのにな」
誰もが思うことだ。
きっと彼女はお喋りだ。
延々と喋るタイプだ。
姿が見えない時、午後の授業が無い時、二人はそのベンチにいた。
二人はずっと目の前の薬草を見、時々、別々の遠くを見ていた。
そうして観察を続けた。
別に二人ばかりを見ていたわけではない。
色々な人を見て、気がついたことを兄弟で語り合った。
ある時、男の左手にあった彼女のリボンが変化したのを見た。
男が視線に気がついた時は焦ったが、彼は何も言わなかった。
ガラス玉のような瞳を見て、この男の本質がわかったような気がした。
この世はゴミ溜めで、大切なことは絶対にもらさない。
秘密主義者だ。
彼が生徒たちに見せるのは、うわべだけだ。
そして唯一素で笑うのは、彼女の前だけだ。
一瞬の視線の交わりだった。
彼はそっと袖口を下ろし、何事もなかったように授業に戻る。
止めていた息を戻し、その後、兄弟で男の袖口から見えたリボンのルーンの断片を話し合った。
そのうちに、男の反対側の腕、右の腕にもリボンが巻かれた。
誰のリボンかは言わずもがなだ。
そして彼女の左手には、魔法銀が不思議な紋様を描く腕輪が出現した。
これも言わずもがなだろう。
ただ、あのデザインを男が選んだとは思えなかった。
金と銀の細いリボンが手首に巻き付いているようなデザインだ。
「選んだんじゃないか?」
「どうしてそう思う?」
「奴はスリザリンだ」
「それが?」
「怖くないのかよ、兄貴」
「怖い?」
「あれ、ブレスレットじゃなくてヒモだったら?」
「……あぁ、まぁ怖いな。あーそういう」
「だろ?」
人間は不思議だ。
人間の関係性がだ。
一人では面白くもない。
二人でやっと話が始まる。
もっと増えれば、更に複雑だ。
彼女が気にしている人間にも目を向けるようにした。
教師たちは隠しているが、ホグズミードへの外出が制限されるような事件が起きている。
そもそもクィレルの時も闇祓いが来た。
校長も多くを語らない。
ヴォルデモート関連だろうか。
あの補助教員の二人は、ホグズミードの貸家に二人で暮らしている。
ルームシェアをしている。
実は見分けがつかない。
聞いた話だと、どちらかが事務員の男とつきあっている。
特におかしなところはない。
見分けがつかないくらい似ているだけだ。
で、どうやってか見分けようと考えた。
よくよく観察してみることにする。
間違い探しのようなものだ。
かと言って、生徒が度々、彼女たちと接触する機会はない。
なにしろ、彼女たちは東側のカビ臭い部屋で、資料整理をしている。
それでも注意して人の中に姿を探せば、見かけない事もない。
クィディッチの試合だって見に来るのだ。
因みに基本的な情報は、ワンリー嬢・32歳とディオン嬢・36歳だ。
年齢的には母親と大差ない。
父親よりは下か。
母親と同じ年代はファッションセンスが被るのだろうか?
体の線を見せない、なんとも野暮ったい服装と色具合である。
色彩は、黄色やピンクなどが多く、何故か縞模様だったりする。
冗談みたいなセンスだが、まぁ魔法界の魔女のファッションセンスは多かれ少なかれ、微妙だ。
若い魔女でも、どうしたら、そうなるんだというキャベツ色のワンピースに茶色のよれたコートを着込んだりするのだ。
イケてる服装の魔女もいるが、実は微妙なセンスの彼女たちの方が多数派だったりする。
若い年代はまた、別だと思いたい。
冬頃から、二人は風邪をひいて治りが悪いのか、いつもマスクをしていた。
ダボダボの服にマスクだ。
余計に見分けがつかない。
野暮ったいというより、年齢不詳の祖母の年代のファッションに進化している。
退化?かな。
手袋にマスクで、髪の毛もストールから飛び出している。
あの姿の女性と付き合える事務員の男は猛者すぎる。
「どっちと付き合ってんだ?」
「区別がつかないんだよ、そもそもどっちがワンリーでディオンなんだ?」
いくら気にかかると言っても彼らは学生だ。
観察も真剣という程ではない。
「ワンリーは爪が黒い方だ」
「へぇ兄貴、よくわかったな。」
「冬場は駄目だったが、今はしてないだろ、手袋。 爪の根元が黒い。
割れてそうだし、手もガサガサだ。」
「顔がなぁ」
「あぁ、あれ、風邪じゃなくて隠してるだろ」
「だよな、何で誰も指摘しないんだ?」
「わからない、が、わかっていて、だったら怖いよな」
「どうみても、普通じゃねぇもんな。」
「だから、二人を同じ部屋で仕事させてんじゃね?」
「病気なのかな」
「だったら、生徒にうつらないようにって、マダム・ポンフリーが黙ってないよ」
「……あれさ、妊婦に見えるよな」
「どっちもかな?俺はどっちかが偽装だと思うんだよ」
「わかんねー」
「付き合ってる男の名前とか、まだ調べられないからなぁ。そもそも事務員も通いだし。
この間の、ハグリッドの騒ぎあたりから、あの男、見かけないんだよな」
***
美しい夕焼けを見て、フレッドは相方に言った。
「テスト期間で観察できなかっただろ、だからさ、あの二人が仕事してる部屋、行ってみないか?」
「なんでまた」
「まぁ、何かあればいいなってぐらいさ。」
「そうだな。んじゃぁ、念の為に、手袋とマスクを用意するか」
「やけに慎重だな、誘っといて言うのはあれだけどさ」
「本当に病気だったら嫌だろ、失職しない為に、二人で嘘ついてましたーとかさ」
「確かになぁ」
二人は美しい日没に背を向けた。
人生の岐路は、別段、大げさに天から啓示が降る事など無い。
何気ない日常の先にあり、この選択が後の人生を決めた。
後から振り返れば、そう二人は思うだろう。