おとぎ話の末裔   作:C&Y

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寮監先生&人外生徒の明日はどっちだ、オーストリアへの旅編。
R15は、予防処置と寮監先生の苦行成分でできています。

秘密の部屋編へのインターバル。
まぁいつもどおりのぬるいお話です(゚∀゚)アヒャ


閑話 拷問牢獄城塞都市見学ツアー ①

 さて、夏季休暇を目前にしての、例のグレイブス氏からの招待状の旅をどうするかである。

 旅程は3パターン提示された。

 

 まずは、オーストリア入国方法。

 スコットランド北部のホグワーツから〜だよ。

 

 パターンAは、魔法省ルート。

 ホグズミード駅からロンドン(ホグワーツ特急、夏の臨時便で片道8時間)

 ロンドンの魔法省から、国際ポートキー施設、ポートキーでウィーン郊外へ転送(約1分)

 

 旅情は無いけど、消耗しない旅だね。

 この魔法省ルートは公式ルートになるから、校長の許可と旅行目的が必要になる。

 教師引率研修とかね。

 

 次は、マグル混成ルート。

 ホグズミード駅から、ロンドン。

 キングズ・クロス駅から、ヒースロー空港(地下鉄1時間かな)

 ヒースローから、ウィーン国際空港(所要時間2時間半)

 ウィーンから、ザルツブルグかハルシュタット(鉄道で3.4時間)

 

 普通の旅だと、まだユーロトンネル開通前だから、フェリーで海を渡ってフランス経由?

 カレーに渡って高速列車でパリ、パリから夜行でウィーンか、ミュンヘン?

 つまりマグルと同じ旅程になると、時間と体力がすごい大変。

 

 んで、非合法セウェルス独自ルート。

 スコットランドからフランス北部へ転移。

 そこからいつも魔法薬の原料を仕入れているルートをつかって、ウィーンに。

 これは止めてほしい。

 転移そのものが高難易度な魔法なのに、なんでそんなバラける事必須の手段をとらねばならぬ。

 大丈夫?

 いや、私が大丈夫じゃないねん。

 

 3パターンとしたが、これはあくまでもセウェルスが望む、短縮バージョンだ。

 オーストリアに入っちゃえば、どうとでもなる。

 魔法薬でドーピングして、転移を繰り返したらぁという、お荷物の事は無視な提案である。

 つまり一日、少なくとも2日で帰る強行軍だ。

 まぁ気持ちはわかる。

 んで、問題の目的地はだ、オーストリアのチロル地方に近いらしい。

 

「で、こっちが校長が寄越したルートだ。片道3日。滞在を考えれば1週間程度と考えられる」

 

 そいで嫌そうに出されたのは、まぁそこそこ普通の行程が書かれていた。

 

 一日目・ホグワーツからロンドン、パリ。

 

 ホグズミード駅から臨時便でロンドンへ。

 ロンドン魔法省・国際部からポートキーで、フランス魔法省支部へ転移。

 パリにて一泊。

 

 二日目・パリからウィーン。

 

 パリ東駅から国際列車でウィーンへ。

 魔法省からの監視を切る目的で、マグルの列車を利用。

 

 三日目・ウィーンからチロル地方へ。

 

 列車とバスを乗り継いでの旅(4時間程度)

 国際魔法連盟の監視と接触。

 ヌルメンガード城へと馬車を仕立てる。

 

「帰りは、この逆を辿る」

 

 そんな苦々しい顔せんでも。

 私が行きたい訳じゃないんですよ、ぷんぷん!

 

「わかっている。

 ただ、相手が相手だ。」

 

 まぁ、ここまでくればグレイブス氏が誰かは、私でもわかっている。

 魔法史、頑張って眠らんように勉強しつつ、近代の歴史も調べたもんね。

 我が校長先生の宿敵というか、因縁の相手であるグリンデルバルド氏が虜囚として暮らすお城、からの手紙だったのだ。

 

 そもそも幽閉というか閉じこもってから、何年ぐらいなんです?

 というかお爺ちゃんいくつ?

 

「…五十年弱が過ぎている。

 魔法使いにとって年齢は無意味だ。

 体内の魔力、魔法薬、その他で肉体も思考も老いず、また偽る事もできよう。」

 

 じゃぁ三十代とローティーンの許婚も許されると?

 

「言っておくが、マグルの正常な価値観と同じだ。変質者ではない。」

 

 ガンギマリした目で言わなくても、わかってますって。

 正常かどうかは知らないけど、女神信者は信じられるよぅ。

 ヒゲが面白がって偽装しろって話でしょ?

 

 それにセウェルスがため息をついた。

 

「そうだったら、断る。

 だが、違う。

 君を知る者は、少なからずグリンデルバルドの側にいる、あるいはいた、という事だ。

 君の血筋を知っている。

 おかしくはない。

 彼の側近にフランス人もいた。

 そして君の父親の血筋は、ヨーロッパでこそ有名なのだ。

 イギリス魔法界としては、形式だけでも、君とこちらの縁を保たせておきたいのだ。」

 

 方便としてだね。

 

「そうだ。」

 

 そしてヒゲは愉悦に浸ると。

 

 言うと、セウェルスが舌打ちをした。

 

 因みに、婚約者(仮)のスネイプ氏よ。

 お互いのプロフィール交換とかしとく?

 話し合わせといたほうがいい?

 

「いらん。

 形式上だ。

 一応、プリンス家の末と私の事を聞かれたら答えろ。

 私の母方の姓だけは、覚えておけばいい。

 スネイプはマグルの父方の姓だ。」

 

 王子?

 マグルの爵位で言うと、大公閣下?

 

 いや、そんな淀んだ目で睨まなくても。

 何も言わんし。

 

「他に何か言う事は無いのか?」

 

 ご両親は?

 

「父は死んだと聞いた」

 

 なるほど。

 期待に添えそうもない。

 私は、優しくない。

 それに賢くもない。

 口からでるのは、フザケた言葉と理屈だけだ。

 教えてくれるかな、私の王子様?

 

「私は半純血だ。

 そしてマグルを嫌っている。

 心の底から嫌っている。

 そして嘗て、そのマグル生まれの彼女を蔑む言葉を投げた。

 

 彼女だけは別だったのにだ。

 彼女だけを愛していたのに。

 

 まぁ彼女もわかっていたのだ。

 私が心底、マグルを疎んじていた事を。

 変わらず、変えなかった。

 

 私は彼女だけを特別としたが、それで許されるはずもない。

 だが、私は変わらなかった。

 

 良き関係を築ける可能性をすべて、自ら潰した。

 その結果、失った。

 彼女の命をもだ。

 

 そして君は、本当の純血だ。

 ここでマグルの人種を言っているのではない事はわかるだろう。

 

 君は長く長く血を継いだ者だ。

 その呪い。

 その姿。

 これぞ純血と体現している。

 それが、仮初とはいえ、この半純血と繋がりを持つ事をどう考えるかと思った。

 私なら、その半分の血を汚れと思うだろう」

 

 まさに、今、翻訳が必要だと思った。

 彼が口にしている言葉と、考えが、また層になっている。

 たぶん、この後の意見のすり合わせか、グリンデルバルドに対する時の準備か。

 

 彼の話す自分とは、今の自分ではない。

 彼の根底、土台の話であって、聞いているのは価値観についてだ。

 

 価値観、自分自身の芯を、まったく違う考えの相手を愛した場合、変えられるのか、変えてしまうのか。

 善い悪いの話ではない。

 

 彼と彼女。

 理屈としては、彼女は善い人だ。

 彼も認めている。

 彼も変えたかったし、できれば彼女と同じになりたかったろう。 

 でも、聞いているのは、そういう話ではない。

 

 グリンデルバルドの提示する良き条件に、私が寝返るかどうかだ。

 彼が示すかつての思想は、半純血さえ認めないであろう過激さだ。

 闇の帝王に従う死喰い人であった男にとって、純血の私は、帝王やグリンデルバルドに賛同するに容易く見える。

 

 だから今のうちにだ。

 私の価値観、純血とマグルをどのように考えているのか?

 どの程度、感化を受けやすいのかみてみたい。(超訳)とかだろうか?

 

 面倒くさい。

 ウィーズリー弟君は、正しい。

 わけがわからないよ〜

 

 まぁ、聞かれたところで私は純血のアホタレである。

 

 セウェルス。

 私達は喧嘩をしない。

 

 言葉に、彼は片眉を上げた。

 

 さぁ、こちらに来て話し合おう。

 

 と、暖炉前の長椅子、前にセウェルスを昏倒させた座面を叩く。

 諦めたように隣に間を開けて座る彼に、私は笑った。

 

 私は純血だが、高貴ではない。

 私は純血だが、所謂、呪われた末の、獣だ。

 何を言わせたいんだよ。

 面倒くさいなぁ。

 まぁ、いいや。

 

 私の中で純血主義者とはだ。

 花の原種を尊び過ぎて、弱らせ腐らせ、実も種も残せずに枯らす蒐集家と同じだ。

 

 くだらねぇ、バカだ。

 まぁ、どうでもいいんだけど。

 

「どうでもいいのか?」

 

 話を聞く姿勢を感じて、私は続けた。

 

 純血なんて続かないさ。

 私を見ればわかるだろ?

 真っ当な人生なんてのは望めない。

 恐ろしくて子供なんて産めそうもないぞ。

 お相手と真っ当な暮らしが望めるか大博打だ。

 それも呪われた女で魅了持ちと世帯を誰が持ちたい?

 愛人や恋人どまりがいい線だ。

 

 私がどんな人間であろうとだ。

 

 純血?

 こんな血が尊い、高貴?

 その恩恵って何だ?

 金か?

 身内一人守れない。

 純血である事で、メリットはあるだろうさ。

 貧しさとは無縁だ。

 

 だから?

 一人ぼっちの獣に、純血なれば全て幸せな生活だと、誰が言ったところで、笑ってしまうね。

 

 純血だけの世界?

 子供なんていずれ生まれなくなるさ。

 

 魔法薬学の教授なら理解しているだろう?

 純血なんて病気の巣窟さ。

 スリザリンの子弟を見ればわかるだろう。

 多かれ少なかれ、よくない血が表に出ている。

 子供も少なくなっただろう。

 魔法薬で子供を授かるようになる薬が作れたら大儲けだ。

 

 実際、頼まれるんじゃないか?

 貴方なら作れるんじゃないかってね。

 で、純血思想ね。

 

 いいんじゃない?

 勝手にすればいいと思うよ。

 私には、いくら純血の尊さを説かれても、理解できないけれどね。

 どうせ氏族として繁栄してる純血は、マグル生まれの魔法使いを血筋に入れているさ。

 詐欺師の血統至上主義者に、惑わされる事は無いよ。

 

「混血がマグルを嫌う事には?」

 

 否定はしない。

 積極的な攻撃をしないで、妥協点が望めるなら。

 

「ご立派な考えだ。寛容を純血らしく示すのか?」

 

 何度もいうよ。

 どうでもいいんだ。

 

「どうでもいいと言う態度には見えぬが?」

 

 手を差し出す。

 嘘がないか、触れていたほうが伝わるだろう。

 

 差し出された手の指が握り込まれる。

 相変わらず、体温が低い。

 ご飯を食べろよ〜

 

 さて…

 

 貴方はマグルが嫌いだ。

 私はマグルという分け方に関心がない。

 

 貴方は半純血という分類を自分にしている。

 私は貴方を魔法使いの男と分類している。

 

 貴方は半純血のマグル血をどう思うかと聞く。

 どう思うか?

 思春期か…

 

「どうした?」

 

 いや、結局、好き嫌いの話だと思った。

 小難しい事を並べてもだ。

 私が貴方を好きならば、どうでもよいことなんだ。

 

 少し驚く相手に、笑う。

 

「そうではなかろう」

 

 そういうものだ。

 貴方は女神が好きだ。

 マグル生まれでもね。

 

 私も貴方が嫌いではない。

 貴方が足を、手を失っても、私は貴方を貴方だと分かるだろう。

 つまり貴方が魔法を使えなくなっても、私の中での貴方は変わらない。

 老いて爺様になってもだ。

 

 貴方もだろう?

 

 女神が女神であるのは、欠片でも見分けがつくはずだ。

 女神の子の中にさえ、見つける。

 

 マグルの血が汚れ?

 

 貴方は魔法族である自分を好んでいる。

 いいんじゃない?

 

 マグルの血が嫌いなのかな?

 純血から何か言われたかな?

 無能なくせに純血と言うだけでマウントを取るやつ。

 マグルだって、ろくでもない態度のやつはごまんといる。

 嫌なヤツに、魔法族もマグルも関係がない。

 逆もね。

 

 なら、半純血?

 悪くないさ。

 少なくとも血の呪いが無いだけ、いいじゃないか。

 

 そうだね。

 私の純血の血にあるだろう獣ならば、こう言うだろうか?

 

 喜べ、貴様は私の獲物だ!

 

「獲物…、教育的に指導が必要か」

 

 しょうが無いだろう、私は純血の、獣だ。

 

 そんな貴方は大人になった。

 十分に大人として一人で立っている。

 

 半純血。

 それが貴方を示す全てではない。

 実際、貴方は試すために半純血という言葉を使ったが、どうでもいいんだろ?

 

 マグルを嫌うが、本当は、どうでもいいんだ。

 

 大人になり、今、ここにいる貴方にとって、混血の意味は小さい。

 だって血に頼らずとも、貴方は貴方として確立している。

 ホグワーツの魔法薬学教授であり、魔法使いだ。

 教職を辞めたって、一人で食っていける大人だ。

 本当は自由で、貴方を縛っているのは貴方自身だけだ。

 

「そうだろうか、そう見えるか」

 

 選ばないだけで、選択肢があるのが大人だ。

 

 心底、どうでもいい話じゃん。

 貴方と私では、意味は少し違うんだけどね。

 

 貴方は利用できる限り、私の側にいるだろう。

 私が純血だから?

 まぁ、純血の呪い持ちを利用できるから。

 

 その本体はどうでもいい。

 実際、血なんてどうでもいい。

 私が利用できるかできないかだ。

 

 指が離れる。

 

 そう、貴方は私に興味がない。

 私が何者でも、どうでもよい。

 

 ほら同じだ。

 好意のある無しを抜けば、どうでもよい。

 私は分からないなぁと思うし、貴方は分かりたくもない。

 

「なら、なぜ?」

 

 好意的か?

 獲物だから、はいはい、ふざけてないよぅ。

 

 学んだ上での意見がある大人が好きなのさ。

 そう、ほら、好き嫌いだ。

 道徳や倫理、知識や学識、広い視点を踏まえての、偏屈で馬鹿で自分がある大人は凄いなぁってね。

 

 迎合したら楽なのに、我が道を行く?

 なかなかできないじゃーん。これね。

 普通を知ってるのに、敢えてするってすげぇなぁってね。

 

「馬鹿にしてることは理解した」

 

 そもそもだ、血がうんぬんより、私が問題にするのは、そこじゃないんだよね〜

 

「なら、何処が気になる?」

 

 じっと見つめる。

 うむ、今日も酷い顔色だ。

 眉間のシワに、骨ばった鼻筋。

 偏屈に曲げられた唇。

 実に、マズそう。

 

 ご機嫌麗しくない、私の王子様だ。

 

 敢えて私が気にするとしたら、相手の男とキスができるかどうかだ。

 婚約者(仮)殿なら、キスができるよ!

 

 別にマグルだろうと半純血だろうと、そこが重要。

 生理的に無理なのは、如何ともしがたい。

 

 大丈夫、イケるよ。

 貴方ならイケる、どんと来いだ!

 

 もちろん、今の私は子供だ。

 冗談だよ。

 

 でもそんなものじゃないかな?

 貴方と一緒にいても、嫌じゃない。

 それが重要で、理屈は無意味だ。

 

 で、下品な物言いに怒るかな?って反応見たら、目を覆ってる。

 どうやら笑ってるらしい。

 あまりのアホぶりにだろう。

 

 この判断基準だと、ホグワーツでは、貴方だけになるよ。

 女の子以外だとね。

 女の子も、別に血筋も何も関係ないなぁ。

 

 そうだ、証明する?

 

 んで、ハグしてキスしようとしたら、割と本気で拳骨をもらった。

 まぁハグまでは許してもらった。

 いつも思うけど、どっちが女の子なんだよ。

 

 で、話は戻るけど、私は貴方を否定しない。

 私はマグルを嫌わないが、純血の考え方も理解できる。

 けれど誰かの考えには染まらないよ。

 

 純血とマグルは仲良くしろと行動はしない。

 仲良くしたら楽しいのにとは思うけどね。

 私はどれだけ意見の違う相手と許しあえるかって考えだよ。

 妥協じゃない。

 わかりあえると思える相手だけ、なんだけどね。

 変えようとするより、相手も考えてくれる分だけ、私も譲るって事。

 それにね。

 

 私も変わりたくないし変えたくない部分がある。

 それもあるんだ。

 狡い立ち回りだと言われるだろうが、私の物差しは、もっと狭い。

 

「広いのではなく?」

 

 私を抱えたまま、彼は呆れたように呟いた。

 

 この世には、糧と仲間と敵がいる。

 男は糧だ。

 仲間は家族と友だ。

 敵は、我がテリトリーを脅かす全てだ。

 そして、貴方は唯一の艀だ。

 

 糧であり仲間であり、私を獣ではなく人に、この世に留める艀だ。

 それ以外に意味はない。

 私の婚約者(仮)殿ならキスもできるぞ。

 

 グリンデルバルドの言葉に惑わされると思う?

 惑わされないように、もっとアニマルを可愛がってもいいんだぞ!

 

 いや、拳を構えるなよ。

 ちなみに、匂いもだな、好き嫌いがあるんだよ。

 その点合格って、突き飛ばされた。

 乙女かっ!

 

「己の行動を少しは顧みろ、猿!」

 

 なんだよ〜わかったよぉ、今度、おそろいのアメニティグッズを揃えようぜー、偽装もばっちりだぞ。

 ヒゲにも言っとく。

 

「罰則を科すぞ」

 

 ドンと来いっ!

 

「わかった、降参しよう」

 

 理解できた?

 

 私に血統至上主義とか生えたら、それは別人。

 寄生された何かだよ。

 

 性懲りもなくハグするべく突撃すると抵抗が止んだ。

 諦めたようだ、ガハハハ!

 

 ***

 

 旅費はどこからでるの?

 

 彼女は楽しそうに言う。

 楽しい旅でもなかろうに。

 

 何でもないように抱きついて、まるで本当に遊びに行くようにだ。

 

 ふっと意識がそれる。

 

 何も憂いる事の無い世界を見た。

 愛する人がいる世界。

 子供の頃の世界。

 

 そして引き戻される。

 心は穏やかで、やけに緩んでいた。

 それを自覚し、暗澹とする。

 あぁ己は愚かだ。

 

 そう己を縛るは己の意志だ。

 

 多分、魅了持ちは外見で惑わされると皆思っているだろう。

 実際、こうして相対してみれば、それが間違っている事実に愕然とする。

 美しさや欲望、魔力侵食だけなら、簡単に跳ね除けられるだろう。

 本物の魅了持ちとは、こうも違うのか。

 試す言葉どおり、長い年月を経て作り上げられた化物は、美しい外見や直接的な魔力干渉以上に、その精神が恐ろしいものであった。

 

 彼女はくだらないことばかりを吐き出すが、本質は、恐ろしいほどの寛容さだ。

 

 赤子が母に求めるものだ。

 それも欲しい時に、欲しい言葉や態度をさり気なく差し出す。

 心を緩め、許しを与え、意欲を与える。

 魔法薬なら、打ち消せる。

 魔法であるなら、対抗できよう。

 だが、これは中々に難しい。

 

 遠慮が無いようで、きちんと線引きをしてくる相手をどうすればよいか。

 そして実母とは違う温かみを、小娘に与えられる度に、嫌になる。

 魅了する魔力の流れに沈んでも良いような錯覚と共に。

 

 傍らに寄り添う死を感じる度に。

 その度に、少しずつ降り積もる。

 痛みはどれほどだろうか?と。

 誰かの死に行き当たる度に、己がバラバラになっていく。

 今度は、どれほどの痛みだろうか。

 

 どうでもいいと彼女は言う。

 知っていると。

 私が心を閉じている事も。

 もう、この世に未練はもたぬと決めている事も。

 なのに、死を感じる瞬間に。

 その度に、少しずつ降り積もる。

 記憶。

 

 くだらない日々を、誰かが側にいる温度を。

 忘れて眠る度に、死を感じる。

 降り積もる記憶が、失った時の痛みを考えさせる。

 

 私はきっと彼女の時のように泣きはしないだろう。

 悲しむことはないだろう。

 思い出す事も拒否するだろう。

 

 今のうちに、時を刻む前に、拒めばいいのだ。

 ただ、拒むには暖かい。

 

 これは難敵だ。

 寛容な母の態度とは恐れ入る。

 

 そして予想ではなく、確実に、これは何をしても許すだろう。

 無情な裏切りも、許すだろう。

 嫌な確信だ。

 試しているのは、こちらではない。

 

 考えに沈んでいると、彼女はサラサラと旅程の紙に何かを書き込んだ。

 

「魔法省法務局からの依頼で、表向きは違法引取にて没収された魔法薬の確認で公費扱いだ。故に、寄り道は公費で落ちないぞ?」

 

 パリにて古書探索。

 行きの行程で、難物を発注し、帰りに立ち寄って購入。

 

 気になる書籍、古書や古文書があるんじゃない?

 

「確かに」

 

 オーストリア入国後、ウィーンにて博物館やコンサート、古い建築跡を巡るコースもあるよ。

 ザルツブルグでは、アルプスの山や湖など、向こうの魔法族に聞いて珍しい植生を調べるとかもできるし。

 ハルシュタットなんてきれいでしょ?

 

「それは普通の観光だが」

 

 彼女が真顔で首を傾げる。

 顔を仰向かせ、頭をこちらに預けるようにし、顎をあげる。

 可愛らしい仕草だ。

 ダンブルドアは、彼女のこの仕草を見る度に、少し微笑む。

 死んだ妹と同じ仕草だそうだ。

 少し上にある兄の顔を、ちょっと不思議そうに見上げてくる。

 何をいうのかと、すこし身構えて待つのが癖になっていた、と語っていた。

 

 容姿は似ていない。

 性格もだ。

 けれど、自分より上にある顔を、目を見つめて、少し上向くようにして首を傾げる。

 それは相手の心を覗き見るように、その時だけは虚ろな瞳に命が見えたと。

 生きていたらと心が苦しい。

 けれど、思い出すことができて嬉しいと。

 ダンブルドアも、彼女を見ると懐かしいと思ってしまうそうだ。

 

 それも手管なのだろうか。

 美しく滲むような瞳の色が、キラキラと輝く。

 

 それを呆れたように見下ろしながら、再び思う。

 暖かな命が側にあると、いつも死を感じる。

 消えた時、どれほどの痛みを覚えるのだろうか。

 暖かいものを探してしまうのだろうか。

 それは嫌だなと思う。

 何も感じない。と、取り繕う自分が見えるようだ。

 眠れずに…

 

「また、ろくでもない事を考えているな」

 

 婚約者(仮)との、婚前旅行だぞ?

 

「嫌な事を思い出させるな」

 

 ほら、公費でいけるんだ、希望で埋めろ。

 そして個人的に資金を援助して進ぜよう、お高い書物を求めるが良い。

 

「で、何が狙いだ?」

 

 ヌルメンガードでも守ってね、ダーリン(笑)

 

「子供に誰がタカるか」

 

 ワイ、お金持ちー!

 実際、荘園ももってるしぃ、お城ももってるしぃ、ワイ、ちょっと心配になるくらいのお金持ちぃ!

 

「本当に、その手の話は誰にも言うな。誘拐されて監禁幽閉になるぞ」

 

 ワイ、毎年のお小遣いで研究援助できるくらいの資金力ー!

 ダーリンに貢いじゃうぞ?

 

「財産管理人に相談する事と、決してダンブルドアには言うな。

 くだらない投資をさせられるから」

 

 セウェルスは?

 

「今のところ、魔法薬学の研究資金の援助は、複数、受けている。困窮している部分はない。」

 

 と、答えると何故か不機嫌になる。

 

 ワイ、婚約者を養う男前になりたいなりよぅ。

 

「養われたくないのだが?」

 

 ワイ、カワイイ婚約者を甘やかす男前になりたいなりよぅ。

 

「意味がわからないが、生徒に養われたくないのだが」

 

 そう言いつつ、彼女は私の腕をとり、自分の身体に巻き付ける。

 抱え込まされて、二人で旅程を眺める。

 そう、多分、誤認するのは仕方がない。

 己の人生になかった、なにかをこうして差し出されてしまうから。

 答えを口にしたくない。

 いつか、どこかで、こんなふうに許されていたかったと、馬鹿な事を。

 

 ふっと嘲笑が浮かぶ。

 既に毒が回り始めたぞ。

 原因はわかっている。

 予言が揺らぎ、行き暮れていた。

 

「私が学生の頃、純血思想に染まり、マグル生まれに危害を加えていたとして、君はどう思う?」

 

 犯罪者予備軍だったって事?

 不良だったんだねぇ。

 

 いつもの外した反応にため息をつく。

 

「純血思想、つまり純血の魔法使いであろう過去の人物にあやかり力が欲しかった。」

 

 その地続きで、未だにマグル生まれの生徒が嫌い?

 

「そんな所だ。実際、犯罪者まで落ちたし、未だに付き合いもある」

 

 表情を伺う。

 すると、そこには予想通りというか、楽しそうな笑顔があった。

 

「何だ?」

 

 ヒゲ、公認でしょ。

 

「だとしても、誤った解釈をするな。

 欠陥は自覚しているが、私がマグル生まれが嫌っている事に変わりはない。

 これが私の本性である」

 

 その心は?

 

「私はこれからも、マグル生まれを差別するだろう。

 悪事も続けるだろうし、善い人間にはなれない。

 実際、正しいことだと知っていても、私は正しいことを選ばない。

 君を殺したくはないんだ。」

 

 正直だね。

 私も貴方に殺されたくない。

 

 そう言いつつも、別段逃れる様子はない。

 

「私に近づくなと言う意味だ」

 

 それにやはり、楽しそうな笑顔が返ってくる。

 

 大丈夫だよ。

 貴方の愛は、永遠だ。

 ならば、私も死なずに済む。

 

 ため息が口からこぼれ、私は目を閉じた。

 暖かさを享受し、考えるのを今だけやめる。

 そうすれば傍らの死の気配も、密やかに膝をつくのを感じた。

 

 ***

 

 さて、ダウナーな私の王子様を懐柔すべく、どんな賄賂にしようかと考えるワイ。

 シリアスで、ダークなダーリンに貢ぐ、喜ぶ賄賂は何であろうか?

 

 ん?

 マグルはシネシネ思想に昔はハマっていたという話はどう思うか?

 

 状況によっちゃぁ、昔と同じくマグルシネシネするかもね?

 

 まぁいいんじゃない?

 私の知り合いのマグルだったら、ワイ、普通に敵になるし。

 そー言う事。

 でもね、矛盾なのよ。

 ダーリンは、グリンデルバルドに感化されないか、ワイを試す。

 闇の帝王(笑)の脅威度が下がったからね。

 つまり、マグルは家畜論とは違う。

 そしてマグルはシネシネ論だった若い頃とも、違うって言う事なわけよ。

 ウィーズリー弟よー

 やっぱセウェルスの論旨を見つけるのは、面倒クセェのあたりー

 嫌いなのは変わらんけど、シネシネとは思っていない。

 

 校長と似てるよね。

 つまりマキャベリな感じよ。

 大義の為なら、犠牲はやむなし。

 なので、場合によっては、色々と齟齬のある動きをするかもね。

 

 お互い様である。

 

 私も、私のテリトリーの私の仲間を殺すとか考えたら、敵になるし。

 かと言って、積極的に誰の勢力にも入りたくない。

 

 正義も悪も、私の行動の一番上にはないんだもの。

 ワイ、アニマル。

 オマエ、アタマ、マルカジリ!

 

 まぁ面倒くさい話とか考えは置いておいて。

 シリアスでダウナーな私の王子様(笑)であるダーリンに、少しでも楽しんでもらうべく、旅行プランを組むことにした。

 

 それは違う?

 

 やだなー、ワイ、こう見えて貢君よ?

 ホストと駄メンズに、大金ぶっこむ、駄目女よ?

 去年のお小遣いも使わずに、今年もグリンゴッツに大量の金貨が振り込まれているだろう事は予想がついている。

 子鬼店長さんから、年末と新年にご挨拶のカード来たし。

 海外の魔法銀行ともやり取りできるのは確認済み。

 

 んで、貴重な魔法薬の原料とか、書物とか学術書とか、錬金系の器具とか、アーティファクトを求めての寄り道プランを作成。

 荷物はホグワーツ宛にして、ワイの小切手帳を光り輝かせようかと考えている。

 

 マイダーリンは、自分で払うつもりだろうが、そうはさせない。

 いずれ、彼の魔法薬学の財団をつくってワレが支援者になるのだ。

 魔法界の投資顧問、誰か紹介してもらわんとなぁ。

 ヒゲは駄目みたい。

 ダーリンが辞めとけという理由があるのだろう。

 誰に相談するかは、子鬼銀行のプランナーとかに聞いてみるかなー

 

 ってな感じで、ホグワーツ特急の夏の臨時便が仕立てられる前に、こんなやり取りがあったのさ。

 マクゴナガル先生に旅行支度の相談して、ヒゲとペッタリが問い詰められるのは、このすぐ後である。

 

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