夏休みだ、お爺ちゃん家に遊びに行くぞ、in オーストリアへの旅。
R15と残酷描写は、予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。
マクゴナガル先生、あっちって夏じゃないの?
「パリは大丈夫でしょうけど、オーストリアの山岳地帯は夏でも冬の気温でしょう」
で、用意されたのが、コルセット入りの厚手のドレス。
ボンネット帽とベール。
手袋にレースアップブーツ。
ショールに丈が短めの外套。
お嬢様装備である。
それも20世紀初頭のご令嬢装備だ。
ドレスのバリエーションも豊富に何枚も用意されているが、防御力は何れもゼロである。
下着はいつものアレだし。
まだ動きやすいパニエ無しだからいい、のか?
用意された室内着も、どうしたものかというお優雅仕様。
お代は、財産管理人のところへ正式に請求してもらっている。
はりきっちゃった先生が、必要なリストを先に保護者の方々に見せてからのご購入なので、文句もつけられぬ。
どうしたもんか。
山岳装備にリュック背負って旅立つ感覚だったのじゃが。
山といえば、こう登山靴履いて、ガチガチに防寒着を着て、リュック背負ってさ…。
魔法族ってさ…うん。
これはどう見ても、お嬢様の夏季休暇装備お優雅仕様inレトロスタイル。
拡張鞄に、普段着を後で忍ばせては駄目だろうか。
次々にしまい込まれる小物も含めての旅装は、何となく先生の心遣いでもあるし、断りづらかった。
そいで、ワイに魔法族の常識が欠片もないのもある。
なにしろ、その魔法族の常識は19世紀以前の魔女子さんだ。
お嬢様装備が普通である。
ボンネットは、それでも小さめの奴だ。
全体は落ち着いたカラーで統一されているし、可愛らしいし、文句はない。
ただ、どう考えても気軽にマグル社会を歩き回れる姿ではなかった。
もちろん、チロルの山々では完全に遭難しそうである。まぁ魔法的にどうにかなるんだろうけどね。
「セブルスの方で、偽装魔法を使うので問題はありませんよ。
認識の阻害で、貴女の印象はどこにいっても知り合い以外ではぼやけたまま記憶に残らないようになっています。
国境を越える手続きの場合は、そうした魔法は違法になりますが、こちらも校長先生の方から、許可を申請してあります。」
ならば、いいのか?
コルセット、きつそう。
「コンパニオンがどなたになるかはわかりませんが、着付けの補助が必要となります。その時に、苦しくない着付け方に慣れるようにするといいでしょうね。」
うぇぃっす。
***
学校全体が騒がしい。
荷物を纏め、成績表を親に見せるのに暗くなってたり、夏の休暇を満喫するぞと騒ぐ子もいる。
私はと言えば、一人でドレスの着付けを頑張って部屋で試していた。
横で絞るタイプのコルセットドレスは、一人でなんとかできた。
全体的にクラシックスタイルなので、何とも普段着には見えない。
まぁ仕方なし。
色合いはブラックにクランベリーレッドのドレープ。
レースも凝った物が使われている。
かといって、首輪はマズイ。
どうしたものか。
ワイ的に仮装、それも本格派なので撮影ですか?と聞かれそうなノリ。
しかし、それほど違和感が無いのも事実。
魔法界であれば、実はまったく普通。
奇抜ファッションが普通の魔法界。
むしろこの程度、全然常識範囲内。毛皮とか頭に動物の骨とか装備してる人もいる。
と、部屋にノック。
扉を開くと同じ寮の先輩だ。
「寮監先生が呼んでる。って、すごいわね。
素敵、何、後ろ姿も見せて」
スリザリンは美女揃い〜とか、双子が騒いでいた一人である。
ブルネットの派手な美人タイプの先輩だ。
婚約者は年上らしい。
「色は重いけど夏仕様にはなっているのね、胸元のレースも素敵」
問題は着心地ですよ、先輩。
総レースは、食べ零しが心配です。
それにこんなにウエストを絞ったら、何も食べられません。
「食べるの!?」
食べなくてどうするんです。
魔法で綺麗にしても、レースにソースがついたらお作法減点されるし、食べた気がしないですよ。
なんて話しながら談話室に向かうと、セウェルスがいた。
帰省する生徒達と色々話をしている。
まぁ忘れがちだが、彼は寮監としての仕事もきちんとしている。
「魔道具の交換だ。ついてきなさい」
んで、それまで話していたマルフォイ君達に、何かを言うと先に歩き出した。
出入り口で手を差し出されたので、軽く乗せる。
今日も眉間のシワと顔色が麗しいですぞ、婚約者(仮)殿!
スルーされつつ連れ出されると、そのまま地下教授室へ。
校長室じゃないの?
「校長は今、相手方への手紙やその他の用意をしている。ギリギリまでかかっているようだ。」
因縁のお友達ですものねー積もるお話もいっぱい?
「その程度の軽い因縁だったら、黒い魔法使いなどと未だに恐れられまいよ」
で、椅子に座らされると首輪を解除。
ついでに手袋も外される。
大丈夫?
「見たところ、魔力コントロールはできている。
不意をつかれなければ、大丈夫だろう。
今回はこれだ。」
で、差し出された宝飾品ケースに嫌な予感。
パカリ、と蓋が開かれると、ゴールドの首飾りだ。
先端には涙型の水晶…だけならいいのに、ピンクダイアモンドが周りを囲んでたりする。
やだなぁ、きっと材料の提供元は強火担。
そいで、その中心には怪しげなルーンが炎のように踊っていた。
もしかして、首輪改良バージョンですか?
「婚約者殿に、心を込めた贈り物だ。
私が丹精込めて作り上げた逸品。
こいつのせいで睡眠時間が更に削れた、クソ忌々しい品だ。
ちなみに、勝手に外すとペナルティがある。楽しみにしておけ」
それは呪いという奴では?
というか、オブラートが欲しい。
もう少しロマンとか愛とか、なくてもいいから、優しさをフリカケてくれ、ダーリン。
「そんな物は最初から品切れだ。
更に、こちらが認識阻害つきの指輪だ。
こちらも勝手に外した場合、楽しいペナルティが待っていることだろう。
実に楽しみだ。」
で、オサレな指輪が渡される。
リング部分は可愛らしい蔦のようになっており宝石部分は花の形になっていた。
認識阻害の範囲は?
「記憶として残らない」
トンデモスペックですね。
「かわりに、君を知っている親しい相手には通用しない。
同じ寮や、この学校で関わりのある者だと、君は君に見えるだろう。
言葉を交わしたこともなく、一方的に君を知っているぐらいであれば、視線からそれた途端に記憶から消える。」
やっぱりトンデモスペックだ。
料金をお支払いしますよ、ダーリン。
「私の技術手当のみとなる。ともかく外すな。
外したが最後、私を笑わせてくれるような仕上がりになるだろう。
解呪は帰国後になる。
それも私が暇なときにな」
婚約者を呪うなよ、ダーリン。
ちなみに、そっちは準備できてる?
「そのフザケた呼び名は止めろ。
手荷物をまとめた。着替えも一瞬だ。」
あのね、ダーリン呼びは、フザケてるだけじゃないんだよ。
仲良し偽装しなきゃ。
あっ、もともと二人はなかよしー!
「政略に仲良しは必要ない」
少しは可愛がってくれないと、グレて家出するぞ。
「では、想像するがいい。
自分の親ほどの年の男と、突然、許婚にされた少女の、普通を演じる場合、どれが正しいかだ。
怯える、不貞腐れる、怒る…」
えー
超好みかもじゃーん。
喜んで、ハスハスするでござるよー
「馬鹿めが!嫌がるか、ご令嬢なら無関心だ。」
うわー
「何だ、その顔は」
何処に、その普通のティーンエイジャーご令嬢様がいらっしゃるのかしら?
うふふっ!
んで、立ち上がってお優雅にターンしたついでに、相手の手をとって頬に当てる。
にっこり!
「そうじゃない」
頬を抓られた。
「偽装でいいのだ。相手にも偽装していると伝わった方が面倒がない。」
えー、このままダーリンの婚約者でいたほうが、私が、面倒くさくないのにー。
「出たな、本音が。こっちが面倒臭いのだ」
そっちも本音だね。
まぁ声に出して呼びかける時は、名前にするよ。
発語は、まだ制限付きだ。
どうせ伝わらないから念話はじゆう〜!!
で、旅行プラン、買い物とかしていいってなったでしょ?
「監視がつくだろうがな」
楽しみがなくちゃ、わざわざ行きたい場所でもないよ。
予想ができない相手だもの。
それにいい話の訳、ないってわかってるよ。
巻き込んで、ごめんね。
「…」
おい、殊勝に謝ったら、何で猫のフレーメン反応みたいな顔するんだよ、ダーリン様よ!
「寄生されたのかと心配になっただけだ」
嘘つけ、こいつ初めてマトモな事言いやがったって思ったんだろ!
どうせ、中身はウィーズリー弟くんと似てるとか考えてるって知ってんだからな!
「鏡に映る姿だけは素晴らしいとは、不憫なものよ」
なんだそれ!
クッって笑って、頭を振りやがった。
嫌味も絶好調だなーダーリン!
***
そうして再び部屋に戻り荷物を手に玄関ホールへと向かう。
旅行鞄という程の大きさではない鞄を片手に、ベールを装備して用意完了。
旅行カバンは手荷物程度の大きさで、拡張されている上に重さも感じない。
首飾りは衣服の下に、手袋は普通の物をして指輪も隠れている。
腕輪はしてるし、コートも大丈夫。
ヘアスタイルもアップスタイルにして、エレガントにしてみた。
子供らしさゼロマイナス100である。
ボンネットにベールを下ろせば、まぁ私が子供だと誰もわからないだろう。
帰省する生徒と違い、用がすめば戻るので、部屋の荷物はそのままだ。
誰かが部屋に入ったとしても大丈夫なように、弄られたくない物は鍵付きの収納に移してある。
と、いってもたいした物はない。
部屋の鍵はかけられるし、妖精さん達は信用できる。
基本、女子生徒の寮部分に怪しい人が入り込まないように魔法的な術が施されているしね。
さてと、小切手帳も、先に小鬼さん達に両替してもらっているマグルのお金やらもきちんと装備している。
旅行鞄とは別に、杖ホルダーと一緒に小さな小物入れも下げていたりする。
スリが心配?
心配ご無用。
魔法界の小物入れ、噛みつくから。
ワイという持ち主以外が指を突っ込むと噛みちぎるワンワン仕様。
すごいよねー。
子鬼店長さんがくれたんだよー。
で、校長とのご挨拶は終了済み。
寮を出たところで、影からコソッと招かれてね。
ゲラートに渡してね。と言ってお手紙と書類の箱と、色々渡された。
私の旅行鞄にそれらは入っている。
すでに湖を渡る船着き場には、生徒が並んでいた。
臨時列車に乗り込むためだ。
私はと言えば、ホグズミード経由で列車に乗る。
教師連れだ、これが妥当だろう。
友達と船に乗って夏の帰省。
きっと素晴らしい心持ちだろうね。
「羨ましいか」
いつの間にか側にいた黒衣に、私は頭を振った。
帰る場所、帰る人、友達、夏休み。
羨んでも、私はもう、子供の私には戻れない。
「時間がかかるルートをわざと選ぶ必要は無いと思うが、今回はホグワーツ特急の臨時便だ。
あれらに混じってもいいぞ?」
優しさ、ではないんだろうね。
誰に見せるのが正解なんだろう。
認識阻害の指輪を着けているのだから、誰かの父母に伝わるようにだろうか。
どうせ列車で一緒になる。
んで、突っ込んでいい?
「何がだ?」
というか、それは旅装?
違うよね、それ旅装じゃなくて、狩装束じゃね?
ワイの記憶だと、それ狂気の世界の狩人の衣だから。
獣狩りに行く人と同じ服ー!
「上着を変えて、足元を固めただけだ。」
確かにそうなんだけどね。
もともと修道服か軍服に似たデザインで、ローブを短めの上着に、下をブーツに変えるとだ。
すると、もろアレになるのかよ。
…
そうだよ。
この人、黒髪を一つに纏めて、この手の衣装になると、しっくり来るんだよ。
これでトリコーンハットを被ったらコスプレ完了。
浮くわけだよね。
児童文学系ファンタジーにいちゃいけないキャラだよ。
せめてヤングアダルト系だろ。
ゲーマーが見たら、転げ回るんじゃないかな。
魔法の杖じゃなくて、短銃とか斧とか持たせたくなると思うんだよね。
あぁマクゴナガル先生のファッションコンセプトがわかった。
十九世紀ヴィクトリア時代、ゴシック系だ。
ダークソウルとか、ブラッドボーンである。
そして映画だとジェヴォーダンの獣、フランケンシュタインだ。
くそっ、かっこいい。
やゔぇ、ワイのダーリン、かっこいいよ。
「謎の思考に付き合う暇は無い。馬車に向かうぞ。」
私の荷物を手に、彼はさっさと馬車が回されている裏手に向かった。
何と言うか、この世界の娯楽事情が再び気になるんだよねー。
ワンワンに挨拶してっていい?
「昨日、犬毛だらけになっただろう。
その格好を汚してみろ。いくらキレイにできるとはいえ、ミネルバが泣くぞ」
はーい。
***
狩人様と呼びたい。
「馬鹿が」
コンパートメントにおさまると、さっそく、読書にふけるダーリン。
車内販売のお姉さんからお菓子を買うと、お茶をささっと用意する。
そりゃぁ準備万端、生活魔法は旅行に行くと決まって以来、練習したのさ。
ワイ、中身も優秀。
アホだけどな!
帽子とベールを外して、お茶を飲む。
暇であるが、正式にホグワーツの夏の臨時便に乗るのは初めてだ。
これ以後、乗る予定ができるとは限らない。
そういえば、この旅行の後は予定はあるの?
私は勿論、ホグワーツに帰るだけだけどね。
「マルフォイ家に呼ばれているぐらいだ」
ほぅ、後は自宅に?
「多分」
ご実家は?
一応、ダーリンの情報収集ね。
それにフッと鼻で笑う。
「生家は既に再開発で無い。嘗ての伝統的な炭鉱業が閉鎖されて以来、街そのものがかわった。マグルの政権が変わったあたりで、再開発地域になったはずだ。
マグルの父が死んだことだけは伝えられたが、その他の話は何もだ。縁は切れている。
プリンス家の方も名は知られているが、そちらの親族が残っているという話は聞き及んでいない。
純血氏族としては古いだろうが、名だけだ。」
プリンス家を再興する考えは?
「半純血の私がか?」
利点は無くもない。
実績もある。
資金援助をする者だっている。
さらに言えば、私のような純血のワケアリと婚姻すれば、明日にも名だけは、再興する事ができるだろう。
「犯罪者だが?」
ホグワーツ教授職についている時点で、それは無効だろう。
「デメリットが大きい」
貴方を制限する部分が消えるだろう。
純血どもの繰り言にも、理屈を返せる。
例えばだ。
貴方は幼馴染の子供に保護を与える事もできる。
名目は作れる。
今の貴方より簡単だ。
持たざる者への施しは義務だ。
階級社会の理屈ならね。
私の言葉に、彼は書物から顔を上げた。
お茶をどうぞ、ダーリン。
「君と婚姻しろと?」
違うよ。
例えばの話だ。
貴方に足りない部分は、魔法界での影響力だ。
身を削るのではない。
有利に立ち回れる土台だ。
名ばかりの純血家系?
口うるさい氏族がいないのだ、名乗った貴方が頭領だ。
純血達の権利を脅かさないのなら、いくらでも空手形の約束をする古い輩がいるだろう。
貴方には優れた才能と技術がある。
スポンサーは既についているのだ。
貴方の母親がプリンス家の者ならば、後はだれが父親であろうとそれは重要ではない。
「悪魔の甘言はいらぬ」
違うよ。
スポンサー契約さ。
私が出資をする。
貴方は魔法薬学の研究に邁進する。
つまり安定した収入と名前を手に入れてしまえば、彼への援助はしやすいのではないかって話だよ。
「何の話だ?」
私はクッキーを手渡して言った。
アーモンドで塩味だよ〜
再開発で消え去った場所で育った貴方は、今では高名な魔法薬学の権威だ。
ならば、プリンス家の者と名乗っても不足はない。
プリンス家の貴方を、古い血筋と金ばかりをもった私が援助する。
投資だな。
そして貴方は、彼を援助する。
私のメリットは、この身に付きまとうトラブルの露払いがお願いできる。
取引できる大人として、信用できる貴方にだ。
つまり私の忌まわしい血に、少々お付き合い願えたらという事さ。
ホグワーツにいる間だけでもいい。
望むことは少ないよ。
今後の展望というやつさ。
「犯罪者とか?共倒れになるか、汚名が伝播するぞ」
違うね。
私が何を選ぼうと、相手が魔法族の男である限り、純血どもは許すんじゃない?
これはある意味、グリンデルバルドの手をとらない保障にもなる。
校長は、きっとこう考えている。
あぁ校長だけじゃないよね。
イギリスの純血、それも古い家の年寄りたち。
私の血筋を知る人達だ。
彼らは、私がイギリスの魔法族の男を気に入っている。
という形を望んでいるんでしょ?
私も、知らない人に保護されたくないよ。
「何を企んでいる」
決めろとは言っていない。
頭の隅で考えておいてほしい。
私は浮気はしないんだよ、ダーリン。
そして一旦手に入れたものを、拒絶はしない。
受け入れておいて、考えていた中身が違うと捨てるような事はしないんだ。
もう一枚、クッキーを差し出す。
これは苺ジャムだ。
紅茶とどうぞ。
「私に何をさせたい」
貴方は自由さ。
ただ、婚約を子供の間だけでも本契約として維持してほしいってお願いだよ。
子供の間だけでも許してよ。
もちろん、その埋め合わせはする。
援助はその一つだよ。
それでもたりないのはわかってるよ。
今、お付き合いしたい人とか、内縁の奥様とかいたら謝っておいてね。
「どうしてそうした結論に至るか、理解しかねる」
簡単な話さ。
信じてくれなくていいんだ。
私はね、誰もいないんだ。
あの鏡には、私しか映らなかった。
愛も希望も、願いも何もかも、たった一人の私が見えるだけだ。
皆が、恐れているのは、私がろくでもない相手の愛を選ぶことも含まれてる?
一人ぼっちの私もね、寂しいからって愛で滅ぶなんて御免なんだよ。
可哀想な女は、ご遠慮する。
私の血を知る人達も、私が繰り返してきた愚かな死に様を望んでいない。
貴方を生贄に皆が差し出すなら、その手を握り穏便に過ごしたいと思ったら駄目?
楽しく過ごしたいんだよ。
大人になるまでだ。
わかってるんだ。
愛はいらない。
ちょっとだけ、居場所が欲しいんだ。
「愚かな事を、選ぶ相手を間違えている。それに何を悲観する?」
まぁわかってるよ。
これは私のわがままだよね。
じゃぁお休みだしね、楽しく過ごすよ。
と、言う事で乱入してこようかな。
「待て」
あら、私、お花摘みに行ってまいりますわ。
やだ、まさか一緒に?
「どこまで本気だ?」
本当に嫌だと言うなら、無理強いはしない。
投資はするけどね。
まぁお茶飲んで読書してなよ。
片道8時間だぜ。ダーリン!
返事が来る前に通路に踏み出す。
小テーブルに飲み物を配置したから、急には立ち上がれまい。
衝動的な提案でもない。
ずっと考えていた。
一人で生きていくには未知の世界だ。
せめて子供のうちだけでも誰かの手が欲しかった。
婚約者の偽装を持ち出され、渡りに船だと思った。
ただ、強いるだけのメリットを考えると、私には資産ぐらいしか思い浮かばなかった。
なにしろ、この無駄な美貌は、本当に無駄だからだ。
猿だしな。
もっといい方法があったよね。
衝動的ではないが、まずい持ちかけ方だったのは認める。
と、通路にて反省する猿である。
コンパートメントは最後尾付近の生徒以外が乗る部分。
次が監督生、豪華さの違いもあるのだ。
言った通りトイレに寄ってから、揺れる通路に出ると、ちょうど監督生、グリフィンドールのウィーズリー兄とカワエエ女の子に遭遇する。
グレンジャーさんのコンパートメントがどこか分かりますか?
聞いて回ると騒ぎになると思うんで。
「何で…いや、あぁ、案内する。」
んで、連れの先輩に笑顔でご挨拶。
何故かどん引かれる。
「パーシー、私がおかしいの?
夏の帰省する1年生ってこんな感じだった?」
「大丈夫だよ、弟達を見れば、安心するから」
「えっと」
国外に出るので、旅装で驚かれたとか?
「あぁ、避暑に出向くのね。何処かの純血氏族のお家のパーティーとか?」
まぁ御城らしいんで、格式のある服装をしろって。
堅苦しい上に、着心地も苦しくて。
「でも、とっても綺麗だわ。私も夏のドレスがほしいなぁ。でも着ていくところがないかな。サマーパーティすると言っても、知り合いばかりでサンドレス程度よ。正装してくと逆に浮くわ」
あー、そっちのほうが楽しいこと確実じゃないですか。
いーな〜
こっちは校長先生と同じ年代のお爺ちゃんに会いに行くんですよ。
話が合う気がしない。
「うわぁ大変ね。お小遣いとかお土産おねだりしたら?」
それだっ!
「可愛らしくおねだりしたら一発じゃない?」
先輩、ありがとう!
何だか楽しみになってきた。
「不安な会話だな〜ここだよ。パーシーだ、皆いるかい?」
***
閉じた扉を見つめたまま、動けずにいる。
ビジョン、先行き、未来。
実際、考えたこともない。
ライフプランなぞ、腐り落ちる人生には意味がないからだ。
ところがだ。
かつて力と方向を示していた相手は、あの滑稽な末路だ。
愛する人に償うこともできず、己の欺瞞ばかりの人生に今更立ち尽くす。
指針としていた予言も、頼った相手も、何もかも不確実、霧の中だ。
一人で立つことのできる大人だと言われ、何処か殴られた気持になる。
そう、お前は自由だ。
何をしている?
やるべきことがわからぬなら、走狗となりてただ走れ。
と、言われた気がした。
何かが、変化した。
一つ、終わったのだと、感じた。
窓の外をすぎる景色。
彼女と眺めたかつての景色。
彼女の子が生きる世界。
いつの間に、自由になっていた?
悲しみ、後悔、未だに鮮やかにある愛。
忘れることはない。
なのに自分は大人になり、彼女は死に旅立ち、時は流れ、彼女の子供がいる。
羞恥や怒り、憎しみを覚える記憶も、まだ生々しいというのに、こうして流れる景色を見ていると、時が流れて、自分が大人になってしまったことを不思議に思う。
俯いていた子供、恐怖していた子供、孤独な子供は、大人になっていた。
誰と視線を合わせても怯えるほど心も動かず。
孤独である事を、恥とも思わず。
他人の評価も、積み重ねて得た力によって不思議とどうでもよくなっていた。
あの子供はいない。
己が体を切り刻み血を見ていた子供も、殴りつける父親からの許しを願う子供も、そして助けてくれもしなかった相手に期待をしていた子供もいない。
残るのは、間違いを犯した大人だけだ。
許されたいと思ったことが間違いだ。
許されないまま生きるしかない。
死は恐ろしくない?
痛みは恐ろしい、だが死は恐ろしくない。
だから、許されないまま生きるしかない。
彼女の子供が生きる世界。
それは守られるべきだ。
帝王ではないが、何かが広がり始めている。
何がもたらされるかによっては、未来、先の事を考えねばならない。
確かに。
状況は変わっている。
流れる景色。
そろそろ回収に行かねばな。
この旅の後、ルシウスがどう考えて動いているかの探りも入れねばならない。
それもヌルメンガードにて何が語られるかにもよろう。
少なくとも平穏は望めないか。
苛立ちと、微かな興奮が怠惰の奥から顔を出す。
力を込めて扉を開く。
「ドヴワティーヌ!脱走せずに元に戻れ、自分から戻らぬようなら、ペナルティだ。
食べかけの自分の菓子をきちんと仕舞え!
十数えるうちに通路に出てこい。
来ない場合は、引き寄せの魔法を使うぞ、首の骨を折りたくなかったら通路に出ろ!」
怒鳴りながら、何故か嗤っていた。
***
ベッタリと引っ付かれていたハーマイオニーは、座席にへたり込んだ。
やっと問題児が耳を捻り上げられて去っていった。
あんな美人が耳をひねり上げられている姿は目に悪い。
迎えに来た先生が、更に悪漢に見えるのがなんとも。
けれど悪いのは多分彼女だ。
彼女を少しでも知ってる者はわかる。
怒らせてるのは彼女で、振り回されているのは先生だ。
「ねぇ、ロン、魔法族って夏季休暇に何処に行くの?
あれって懐古主義とか、そのレベルの装いじゃないわよね。
すごい素敵だけど、本当に綺麗なんだけど」
「あー純血の金持ちだとありだと思うよ。」
慄くハーマイオニーとハリー。
それを見ながら、ネビルが呻いた。
「格式の高い家に行くんじゃないかな。
マグルファッションも僕らの年代だと普通だけど、年代が上がるほど、あんな礼装になるんだよ。」
ネビルはちょうど逃げ出したヒキガエルを探しに来ていて巻き込まれた。
引き寄せの魔法で扉にでも叩きつけられたら大変だと、慌てて苦手な先生を呼ぶ羽目になり、ハーマイオニーと同じく座席にへたり込んでいた。
さすがに憐れんだのか、彼のヒキガエルも彼の頭部でおとなしくしている。
「美人は何着てたって同じさ。それよりスネイプの格好が、怖い。あれ、何だよ。真っ黒なのはいつも通りだけど」
「あれもゴシックな立襟の上着だけど、あの程度なら普通に見かけるわ。
夏のロンドンにはいないだろうけど、むしろオシャレね。雰囲気が怖いのはロングブーツでスッキリしているからよ。見慣れない姿だったから、やっぱり付き添いなんだわ。知りたくなかった」
ぎょっとする少年たちに、ハーマイオニーは唸った。
「国外に彼女がでるなら、付き添いは先生しかいないでしょう。
彼女は純血だし、先生はスリザリン。
何がショックなのか、まぁわからないこともないけれど、二人が仲良しなのはあたりまえよ。
嫌いな先生と仲がいいのが嫌なら、彼女に話しかけなきゃいいわ。
私は話しかけるけどね。」
内心、彼女は、ドヴワティーヌが寄越した手紙の方に気を取られていた。
夏休みの間の注意事項。
学校からの以外で、不安な事を伝えておくね。
私のアパルトマンがあった区画は、このあたり。
マグルも含めて、女性の行方不明者がでているの。
だから、どこかに出かける時は、貴方のママも含めて一人にならないように。
貴方の暮らす地域は、犯罪率は低いと思うけど、オカシイなって思ったら注意してね。
多分、魔女は狙われやすいと思う。
魔法界でも、まだ、情報は一般には流れていないの。
野外コンサートとか、夜のイベントは、誰かと一緒に行くとしても、必ず男の人や複数人で行動してね。
あと、ハリー君の夏の様子も休み明けに知りたいです。
追伸
身の危険を感じたら、魔法を使うのも手よ。そうすれば感知して取り締まりに誰かが来るから。
パリ、ウィーン経由でハンガリーに行ってくるので、お土産楽しみにしててね。
葵・ドヴワティーヌ
「怖い話よね」
「えっ、何?」
「私の家と、ドヴワティーヌさんの住んでいた場所が近いの。
ロンドン中心部なんだけど、まだ、未解決でしょ?」
「あぁ、彼女の叔母さん、行方不明」
「夏は夜のイベントが多いから、外出は気をつけてねって言われたの」
「大丈夫なの?」
「ハリーこそ大丈夫?夏の間」
「うん、なんとか」
「ふくろう便をおくるから、僕の家に呼ぶからさ」
「ありがと」
そうして喋ったりしているうちに、あっという間に田園風景は去り建物が多くなる。
マグルの街々を抜け、皆も上着を着替え荷物を片付ける。
汽車はキングス・クロス駅に到着し、皆でプラットホームに並ぶ。
皆、それぞれの家へマグルの世界へと戻っていった。
***
ここから、魔法省へ?
「国際ポートキー施設がテムズ川沿いにある。
車は手配済みだ。」
へぇ〜
とか言いつつ、旅が始まった。
これがね、ラブカップルだったらイチャイチャなのにね。
ケッって顔されたよ、おとなげねーなー!