おとぎ話の末裔   作:C&Y

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寮監先生&人外生徒の明日はどっちだ、夏休み番外編。
R15と残酷描写は、予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。



閑話 拷問牢獄城塞都市見学ツアー ③

「本来なら、駅から魔法省へアクセスするが、今回はテムズ川沿いのポートキー施設へ直接向かうようにとの事だ」

 

慌ただしいマグルの駅に入る。

既に殆どの生徒は去り、私達はゆっくりと人混みを抜けていく。

異様な風体と見られかねないが、認識阻害が働いているらしく、誰も目線を向けてこない。

まぁ十九世紀ファッションの男女が歩いていても、仮装か何かと勘違いして案外スルーかも知れないが。

初夏の午後の陽射しは中々に眩しい。

駅前へと不思議と誰にもぶつからずに進むと、これまたレトロなタクシーが停まっている。

まぁ魔法界のタクシーだとすぐにわかるね。

乗り込んですぐ、運転席に薄ぼんやりとした人影が座っているのが目に付く。

ゴーストタクシー!

都市伝説だなぁ。

私の視線をベール越しとはいえ、感じたのか運転手さんが帽子に手をあてた。

ご挨拶ね。

で、あっという間に川べりの倉庫に乗り付ける。

所要時間五分少々で、国際ポートキー施設に到着。

倉庫の裏口から入ると、いつの間にかお役所みたいな場所にいて、セウェルスが手続きの書類にサインをしていた。

その間、私は、ほへぇ〜っとしてるだけ。

外側は倉庫だけど、中は広々としたオフィスだ。

大きな窓からはテムズ川が煌めいている。

手続きが終わり通されたのは、テラスに面した小部屋だ。

中央には式台のような場所があり、そこでは書架の上に大きな本が広げられていた。

 

「あれがフランス魔法省支部へ転移するポートキーだ。

同時に触れる、特に呪文はないが、長距離の移動だ。

反動があるので、無理には動かず離れないように。」

 

ならばとハグを要求する。

手を広げて抱きつこうとしたら、顔の前に手だ。

なんでだよ。

で、何故か付き添いの職員の方を見るセウェルス。

職員は咳払いをしながら、視線を川に向けた。

…

なんだろう、私は何か間違っているのだろうか?

 

「目を閉じろ」

 

次の瞬間、スコンっと意識が消えた。

 

***

 

移動は成功し、フランス支部の小部屋に到着。

寸分違わぬ部屋の造りに、目の前には書架に本。

違いは、職員と窓から見えるセーヌ川が夜をうつしている事だ。

そして

 

「お連れ様は大丈夫ですか?」

 

長距離の移動で、案の定失神している。

彼女を両腕で抱えあげた。

 

「長距離の移動で気を失ったようだ。

滞在先にこのまま向かいたい。特に手続きは?」

「魔力紋は登録済みです、パスポート受取窓口の方へ向かってください。」

「相分かった」

 

想定内であったが、己の最初の提案が如何に無謀であったのか、今更実感する。

校長の呆れ顔とマクゴナガルの怒りの表情を頭の隅から追い払う。

そうして、失神しているのを良いことに、今宵の宿泊地への姿現しを試みる事にした。

転移専用の部屋に向かいながら、職員へ荷物を先に発送するサービスを頼む。

パスポートを受け取るために、彼女を脇へと降ろす。

再び抱えなおしてから、職員へとチップを渡すと、何故か相手が笑いかけてくる。

 

「そのまま向かわれますか?」

 

肩を竦めると、年配の男が頭を振りながら、更に笑う。

 

「多分、後で怒られますよ。起こしてくれればと」

「そんなものか?」

「えぇ、喧嘩をしたと皆様おっしゃいますから。では、遅れましたが、ようこそ、パリへ」

 

バラけるリスクを下げる為に、扉が閉じられる。

気を失った彼女を片手で抱え、そっとそのベールをめくる。

相も変わらず造形は完璧だ。

それが手の内にあるというだけで、羨ましがる輩もいるのだろう。

 

残念だ。

 

残念ながら、この娘は私に憑いている。

誠に残念だ。

 

頭を胸に押し付けるように手をそえる。

髪ひとすじ、失うような間抜けはしない。

意識が無くとも、繋がりは切れていなかった。

なるほど、と集中し呪文を唱える。

 

いつも通り、完璧だ。

 

常に一人ではないという感覚も、依存を深めるのだろう。

人は孤独を求めるが、同時に孤独を厭う。

つながりに慣れた後に独りに戻れば、自我の弱い者は崩れるだろう。

 

定宿の路地に姿を現しながら、嗤いが漏れる。

 

そして己はといえば、魅了も感じぬ有様だ。

囁きかける魔力を受け、思うは優越感と苛立ちだ。

己のゲスな部分の御開帳といった具合だ。

 

忌々しい。

 

彼女に問題がないかをさっと確かめる。

指の先まで、どこも欠ける事無く完璧だ。

だからこそ、皆、奪い合い滅ぼしあうのだろう。

娘が男を餌と扱うわけだ。

 

娘を抱えて嗤う。

傷つけぬようにと、ロクデナシなりの誠意だ。

 

そして惨めな自分は繰り返すのだ。

心の中で繰り返す。

 

貴方は特別だと囁く魔力に、心の中で反証をしている。

そうして証拠を並べているというのに、男という生き物は愚かにできている。

 

貴方は、特別だ。

 

それは愛や好意よりも、心に残る。

 

実に実に、残酷だ。

だというのに何故だろう、深みに嵌る感覚を覚える度に、奇妙な喜びが増える。

人間の業の深さだろうか。

 

彼女を抱えたまま、裏口へと回り込んだ。

薄暗い石畳に足音を忍ばせる。

すると訪う前に扉が開いた。

いつも利用する魔法医を兼ねる宿の主だ。

腕の中の娘を見ると、中へ入るようにと身振りする。

内装は落ち着いたもので、金回りの良さを窺わせる調度が並んでいた。

 

「ポート酔いか?」

「気を失っていたので、ここまで姿現しをした。

国外へ移動するのは初めてだ。

健康状態は問題ないが、体内魔力のバランスが元から不安定だ。

一晩休ませれば、自然に目覚めると思うが、具合が悪いようなら、その時は頼む」

「まぁそうだな。世話をさせるから、寝室まで運べ。二階奥突き当りの部屋だ。

お前さんの部屋は右隣になる。」

「鍵はこちらで預かる。彼女の寝室には結界を張る。使用人が入る場合は、先にこちらに声をかけてくれ」

「ふむ。」

 

何かを言いかけた主人の顔を見る。

じっと睨み下ろせば、相手が参ったように片手を上げた。

 

「珍しいと思っただけだ」

「好奇心は控えておけ」

「あぁ」

「で、何がだ?」

「聞くのかよ」

 

狭い階段をあがり、言われた部屋へと向かう。

主はそのまま先導するようにして部屋の鍵を開けた。

さっと見回す。

彼女を片手に寄せ、杖を振る。

疑わしき何かは無いようだ。

部屋は広くはないが落ち着いた調度が並び、歴史を感じさせる内装だ。

寝台の上に彼女を下ろし、とりあえず帽子とベールを取り去る。

髪を解くべきか。髪飾りなどは見当たらないが、枕にゆっくりと頭を乗せる。

そうして横たえてから、靴に手をかけた。

と、そこで背後の気配が動いていないことに気がつく。

 

「早く女手をよこせ。」

 

チップを投げると、主人がため息と同時に呟いた。

 

「良かったよ、いつもの女達じゃないようで」

 

言われて気がつく。

 

「あぁ失念していたが、彼女は違う」

「なるほど、いつものお楽しみの方じゃないなら、家内を寄越すよ」

「頼む」

 

世話といつもの調子で依頼していた。

ろくでもない方の世話と勘違いさせるところだったようだ。

 

「まぁそうだよな。ゴミみたいな奴らの靴を膝をついては脱がさねぇよな」

「黙ってろ」

「あぁわかってるさ。」

「荷物は届いているか?」

「そっちも運ばせる」

「他に客は?」

「依頼通りだ。手付はもらってるしな」

「使用人は?」

「それも家族だけにした。で、どこの誰なんだい?」

「好奇心は」

「わかってるが、帰りも立ち寄るんだろ。こっちもどう接すればよいのか、ある程度は教えておいてくれよ。どこの誰と詳しくは聞かんが、どこの派閥かぐらいは」

「彼女は、私の婚約者だ」

「…」

 

何故か、頭を振って酷い冗談を聞いたかのように主人は出ていった。

まぁ口に出した自分も、嘘くさいと思う。

誘拐してきたと言ったほうが信じられるだろう。

 

ここに連れてくる女の殆どが、情報提供者か商売女だ。

素行の悪さを隠していない場所ながら、ダンブルドアの手配の場所でもある。

他所を探す手間を考えれば致し方ない。

レースのついた靴を脱がせ終えた頃、宿屋の奥方だろう夫人がやってきた。

後を彼女に任せると、自分にあてがわれた部屋へと向かう。

流石に普通のホテルでは安心できなかった。

部屋に運び込まれた荷物と一緒に、騎士団からの書簡を渡される。

軽食を運ばせる間、満足するまで部屋の中を調べると窓辺にある椅子に腰を下ろした。

結構な量の書簡を見て、時差を解消するには寝るべきか起きているべきかと悩む。

 

「ここに置いておくよ。娘さんは着替えさせて布団に入れた。出入りは一応終わったが?」

 

一度彼女の部屋に入り、確認後に施錠をし結界を張る。

どうせ繋がりがあるので、起きればわかるだろう。

 

「念入りだな。一応、建物全体に魔除け人避けはされているし、護符も部屋ごとにあるんだがね」

「意識の無い時に攫われては面倒だからな。まぁ血迷って触れれば呪われるがな」

「冗談だろ?」

「言ったろう、婚約者だ。不用意に男が触れれば指が腐り落ちるよう護符を与えている」

「冗談だっていってくれよ。親切でちょっと触れたら呪われるとか勘弁しろや」

 

自室へ戻り小さなバーカウンターを物色していると、主人の盛大なため息が追ってきた。

 

「朝食の時間は七時だ。食堂でとるか、運ばせるか?」

「彼女の様子を見てからだが、部屋がいいだろう。先にこっちに2人分用意してくれ。」

「了解したよ。あぁギムレットを作るかい?」

「いや、アブサンがあるようだ、これでいい」

「それじゃぁ何かあったら声をかけてくれ。失礼するよ、教授。良い夜を」

 

グラスで挨拶を返すと、書類の前に座る。

窓からの夜景は、ハイランドとは違う明るい街場の光だ。

 

貴方は自由だ。

 

だが、大人だからこそ、何処にもいけないものなのだ。

小卓の上で簡単に書簡を振り分ける。

まず、書簡、書類に仕込みが無いかを魔法的に探る。

クリア済みなのはわかっているが、念の為だ。

それから内容で2つにわける。

願い事と情報だ。

願い事は魔法薬学系の事か、騎士団関係の依頼かの2つ。

情報は、これから向かう先の政治情勢や治安状況、後は雑多な気になる噂話の類に分ける。

魔法薬学系は手早く目を通し、無理だと思うものから断りの言葉を簡単にしたためて処理。

可能なものを依頼相手の期日が早いものから、交渉のテーブルにつくことだけを伝えて処理。

次に、騎士団関係の依頼、一つはハンガリーで手に入る高山植物系の採取依頼とグリンデルバルドに対するレポートの依頼だ。これは両方承諾の返答をしたためて処理。

残りは情報関係だ。

これは頭に入れていく為にも、読み込む事にする。

と、どれほど読み進んだ頃だろうか、気になる情報を複数拾い上げていた。

 

アメリカ合衆国マサチューセッツ州北東部周辺にて、魔女の失踪事件が起きている。

同様に、マグル女性の行方不明事件も起きているが、同一犯と考えるよりも犯罪件数の増加ととらえられているようだ。

 

ただ、合衆国の魔法族コミュニティでは、若い女性の失踪は問題視されており、現在は、夜間の女性の外出などは控えられているという。

 

場所はマサチューセッツ州のセイラムからロードアイランド州プロヴィデンス周辺が多い。

ただ、広大な土地柄故、数値の把握が正確ではない可能性もある。

 

また、マグルの間では、メリーランド州ガレッド郡にての集団失踪事件も注目をあびていた。

こちらはアパラチア山脈の裾野の森林部で発生した、若者の失踪事件である。

未だに行方不明者は発見されておらず、マグルの当局も捜査継続中だ。

届けられたレポートによれば、争った形跡があり極めて事件性が高いことが窺われる。

 

そしてこのマグルの集団失踪事件には、スクイブの女学生も含まれており、魔法族の省庁も注目をしている。

 

つまりアメリカ魔法界では、若い女性、それもスクイブも含む魔法族関係者の失踪事件が起きていたのだ。

 

関係がない?

 

そんなおめでたい話ではないだろう。

騎士団の情報屋が寄越すという事は、闇祓い達は、このアメリカの事件がイギリスに波及しつつあると見たのだろう。

 

ドヴワティーヌの特殊姓に意識を持っていかれがちだが、その特殊性があったから助かっただけで、もしかしたら二人とも行方不明だった可能性は十分にあると。

そうイギリス魔法族の女性に危害が加えられる何かが起きている可能性だ。

 

関係がない、捨て置くか。

と、するには非常に不穏な話だ。

変質者の犯行とするには、些か違和感がありすぎる。

これが例の、ドヴワティーヌの叔母を狙った輩と同じ系統と考えれば、魔法界にとってはよくない話だ。

魔法族の争い、主義主張権力闘争という枠から外れる話だ。

得体の知れぬ集団、犯罪者、テロリスト、宗教団体。

その枠にあるなら、今までもある病だ。

だが、あの木は違う。

現物を見ていなければ正気を疑う魔法族らしい法螺であろうかと思う。

神に捧げられた女の末路。

寄生された男が女を苗床にして生まれる何か。

世も末だと年寄りがよくいう言葉が浮かぶ。

 

魔法族が衰退していく話ではない。

人間が死滅する話だ。

これが病なら薬もあろうに。

いや、病、薬か。

 

アブサンにトニックウォーターを注ぎ、切ったライムを加える。

ストレートで飲んでの二杯目だが、酔いよりも頭の冴えが戻ってきた。

 

寄生体。

 

コナン・ドイルの小説に、そんな題名の話があった。

ドヴワティーヌに、嫌味を言った覚えも同時に思い出した。

あの悍ましいモノと彼女のあり方が違う事はわかっていたのに。

卑怯な言い様であった。

 

大人を、男を頼るのは、寄る辺のない身の少女としては当然だ。

そして頼られぬ大人、男など、みっともない事この上ない。

 

ドイルの小説は、男を手に入れる為に、催眠術をかける女が出てくる。

愛の妙薬で相手を自由にするような、卑怯な話だ。

だが、小説で女は死に、男は最後に逃れることができたが、これもまた彼女の有り様とは違っている。

 

彼女を求める男から、彼女が逃れる手段が、男、なのだ。

ロジックが些か捻れている。

男から逃れる為に男を側に置き、その男に殺される。

救われない閉じた輪だ。

 

彼女の言う、特別の意味はわかっている。

 

だが、彼女こそ理想に生きているのだ。

だからわかっていない。

 

酔った頭で捻り出したが、間違いではないだろう。

 

彼女は男を恐れている。

しかし、寛容であり許してもいる。

なぜなら、男が彼女を殺すのは、己が悪いと勘違いしている。

彼女の魅了、血の呪いによって。

だから、許す。

 

美しい女をストークする男や、嫌がらせ、偏執的な行為をする男の言い訳を鵜呑みにしているようなものだ。

 

美しくしているから、笑顔だったから、話しかけたから。

装いが誘っていたから、バーで飲んでいたから。

 

被害者が悪いと思い込む。

そう、彼女は被害者でもあるのだ。

庇護者を求めるのは当然で、彼女は子供だ。

 

貴方は、特別だ。

そう貴方は、私を愛することはない。

 

だが、愛ではない感情によって、人は愚かに走ることもある。

幾度も幾度もそうして裏切られてきただろうに、彼女は愛を信じている。

 

また、捻れた考えだ。

よほど自分より、彼女は捻れていた。

 

末路、結末の記憶がある所為だ。

耐えられずに大人の人格を呼んだのだ。

 

恐ろしかったのだろう。

 

切っ掛けは、やはり叔母がいなくなった、転移させた後か。

叔母が殺されると思った時、きっと理解したのだ。

己の末路は繰り返される。

きっと救われない。

ならばと、己を差し出した。

 

誰も巻き込みたくないと願ったのだ。

 

十分に美しい行いだ。

如何に誤魔化そうと、自己犠牲を厭わない。

その痛々しい美しさ。

 

嗤う。

読まれただろう。

彼女ではない。

私の隙を読まれた。

ダンブルドアに。

 

招待状には付き添い一人と明記されていた。

その条件を飲まずば、何も語らず。と、あった。

自分が選ばれたのは、相も変わらず私の本性をわかっているからだ。

利己的で醜い有り様をだ。

 

彼女はわかっていない。

蛇を飼う身は利己的だ。

一度手にしたものは放さないと彼女は言うが、それは私を理解していない証明だ。

 

私こそ、一度手にしたものは放さない。

 

私は変わらない。

無駄に高い自尊心。

エゴの塊。

底なしの執着心。

良い言葉に変える事もできるが、しない。

一途などという欺瞞は無意味だ。

過去、彼女の記憶の女たちを殺した男の気持ちがよく分かる。

そういう事だ。

 

愛ではない。

実に実に鬱陶しい本能だ。

 

リリーが疎んだ私の本性だ。

 

三杯目を注ぎながら、夜に向かって杯を掲げる。

気に入ったと思えば、邪魔者は殺す。

 

博愛?

知らぬ言葉だ。

変わらぬ慈愛?

嗤える冗談だ。

 

大切にするのではない。

他人に渡すのが嫌なだけだ。

 

完璧なものを壊されたくないのだ。

私が知らぬ間に、彼女が、娘がたったひとりで死ぬなど、許されない。

 

私の本性は、ゲスのロクデナシである。

 

ダンブルドアは、私が蛇だと知っている。

堕落を選ばせる蛇であり、己が罪からは逃れられない。

そう愛ではない。

私は変わらず、美しいモノが手にあるなら、誰にもそれを分け与えはしない。

 

私が彼女を仲間とした事を知った。

ダンブルドアは、考えたはずだ。

 

何処までが偽装かもわからぬが、蛇の本性で囲うだろうと。

 

死にかけが、息を吹き返したのだ。

 

使い捨ての盾ぐらいには、なるだろうと考えていそうだ。

嗤える話だ。

 

その通り。

 

貴方は特別だといい、人の暖かさを与える相手を手放す人間は馬鹿だ。

ただで貰える物は、何でももらう。

子供の頃と違うのは、恥も外聞もないからだ。

上等な人間ではない事は、もう十分にわかっている。

 

死と後悔が混じる埋葬された棺桶に、再び冷たい空気が入り込む。

興味と好奇、血腥い死体を見ての、新たな啓示。

あぁ、まだ生きているのだと感じたならば、既に魅了されているのだ。

 

それこそ、大人に綺麗事は無い。

 

さてと、酒で唇を湿らせると、ヌルメンガードの今の状況を読み込む事にする。

ダンブルドアだとて、自覚しているだろう。

 

死と醜悪な気配を感じ、喜びを覚えたはずだ。

 

生気を取り戻したのも、噛みつく相手が欲しいからだ。

人相手と化物相手では勝手が違う。

賢者と呼ばれる者でさえ、読めぬ先行きに困惑していた。

そう、異変に慄くのと同じぐらい、興奮しているだろう己に。

 

それは私も同じだ。

停まっていた時間が流れ出すかのように、あらゆる感覚が戻った気がした。

不謹慎ながら、ダンブルドアも自分も、人間相手ではない事で安堵しているのだ。

もちろん、人間が関係していたが、その根源が身内の不始末や知り合いの裏切りでなければよいのだ。

親兄弟家族親族で殺し合うような内戦だけは避けたい。

不幸な子供を作り出したくないのだ。

そこに主義主張は関係ない。

もう、十分なのだ。

 

だからこそ、不穏でありながら、それが身内からの毒で無い事を確認したいのだ。

新たな予言として。

 

***

 

目が覚める。

明け方だろうか、薄い光がカーテン越しに見える。

いつ、寝た?

ここは何処だ?

上掛け、シーツも気持ちの良いサラッとしたものだ。

荷物にあった寝間着に着替えている。

髪も解かれ、特に身体に違和感はない。

喉が渇いた。

枕元の水差しは、飲めるのだろうか。

見覚えのない室内。

上品な内装、可愛らしい壁紙。

窓辺に寄りカーテンを薄く開く。

 

うむ、どうやらホテルだ。

 

記憶を辿れば、ポートキーに触れたところで途切れている。

たぶん、気絶したらしい。

トイレ、うん、トイレに行きたい。

部屋の扉は出入り口、クローゼット、反対側がそうかな?

フラフラと扉に取り付き開く。

うん、よかった、尊厳は守られそうだ。

ついでに浴槽にお湯をためよう。

時間的に自由につかっていいのかな?

お湯が出ないこともよくあるんだよね。

その時は、魔法、あぁ魔法は駄目だった。

杖、水に放り込んだら暖かくなりそうだけど、大惨事の可能性もあるからやめておこう。

とか考えながらシャワーコックを捻ったら、ちゃんとお湯が出た。

バスタブにもお湯を張って、備え付けのオイルを数滴。

おぉ良き香り、さすが、おフランス、パリである。

時計は午前四時だ。

今日の予定を考えながら、長距離のポートキー移動も意識が飛ぶんだなぁと、すこしがっかり。

私は思う以上に肉体的に弱いようだ。

髪を洗いながらウムムと唸る。

急激に育ったことも一因だろうか?

全身を洗い流して終了。

本日の装いはどうするかと悩む。

たぶん、昼間は買い物、夜、パリ東駅から国際列車に乗ってウィーン。

列車で確か十一時間ちょい、明け方についてウィーンで一泊、だったかな?

ガウンを着込みベッドに腰掛ける。

薄暗い街並みが窓から見える。

 

とても遠くへ流れてきたような気がした。

このまま何処か遠くへ行けたらなぁと思ってしまう。

目の前にある苦痛や、忘れてしまった痛みを置き去りにできたらいいのに。

逃げたところで、私は私のままだとわかっている。

でも、つい、不可能じゃないような気がしてしまう。

ここにいる私は夢で、本当は病室で意識不明のまま眠っている。

事故のあの時、助け出された後、私は目覚めずに。

 

シャワーの時も外せなかった首飾りが胸元で揺れ、その感触に意識を戻す。

左手を目の前にあげ、腕輪と指輪を眺める。

外したら、呪われるって本当?

 

ふふっと笑いが浮かび、ここにはいない彼女に語りかけていた。

 

『マーガレット、私ね、悲しいけど、楽しいわ。

さびしいけれど、ひとりぼっちじゃないわ。

私は大丈夫なの、だから、戻ってきちゃ駄目よ』

 

言葉にしてから、ハッとする。

あぁ、そうだ。

マーガレットは、きっと戻って来ようとする。

 

備え付けの鏡の前に座る。

そうだ。

自分を哀れんだり悲しんでいる暇はない。

私は学べるだけ学び、力をつけなければならない。

体力がないなら、体力をつける。

髪をタオルドライしながら、血の気の引いた自分の顔を見つめる。

 

恐ろしい魔法使いに、貴女は慈悲を願うの?

 

唇が弧を描く。

睫毛が影を作り、瞳が滲むように輝く。

 

怖い?

 

正面から見つめる。

 

ニヤッと笑う。

残念でした。

 

さて、半日が勝負だ。

ワイの小切手帳が唸りをあげちゃうのだ。

スポンサーってのは思いつきだったけど、悪くないと思うんだよね。

大人一人の時間を買い取る形っていうのかな。

 

今一度気合を入れるとクローゼットに吊るされていた、昨日の服を適当に畳んで鞄に入れる。

かわりにお嬢様仕様のサンドレスを引っ張り出した。

 

 

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