R15と残酷描写タグは、予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。
皆、なかよくしろよー
時刻は午後六時すぎ。
ちょっと小腹が空いてきたなぁ〜
『犬、おなかすいた、なんかパシってこい』
「バウ!」
うむ、犬、行って来い。
「あのー、あのね、お嬢さん。許してもらえないかなぁ。」
何で?
「皆ね、君を傷つけるつもりも、誘拐したり、何かをするつもりは欠片もないんだ」
『せんせー、くる?』
「確認してる。ほら、見張りが消えてるでしょ。確認してるはずだよ」
『とんくす、かくしょうの、無い、こと、いわない、きほん』
「うん、だけど。きっと君の取り扱いでクレームがあがると困るって、話が上に行く。そうすれば、この間違った判断を推し進めた誰かが、考えをひっこめるよ。
君の安全を願われているけれど、邪魔をした、不興を買いたいなんて誰も思ってないんだ。」
『どこまで、ゆるされると、おもう?』
「えっ?」
『わたし、どこまで、ていこう、ゆるされる、しょぶん、されないかなー』
私の言葉にトンクス姉さんは、口を閉じた。
かわりにベンチで伸びていた、エドガー・バンスが笑った。
中々に胆力がある。
さすが闇祓いだね。
「たぶん、私達をうっかり殺しても、罰は無いでしょう。
貴女は被害者ですもの。」
「先輩」
「私達、きちんと話しておけばよかったのよ。
誰かの欲に巻き込まれて、犬にはなりたくないもの。
あぁ犬が、帰ってきた。
やだ、あんなふうになりたくないわ」
『どくみ、しろ、いぬ』
「バゥ!」
よし、半分食え。
お前の金だしね。
毒見が終わってから、半分こされたサンドイッチを齧る。
おいしいね。
先程から、不安が小さくなっていた。
たぶん、彼は今、攻撃されていない。
『おすわり、まて』
「バゥ!」
「あぁ、ひでぇ」
「すごいわね。ちょっとしたSMプレイだわ」
『おまえも、いぬになりたいか?』
「なりたくないから、っていうか、本当に犬になってるの?やだ、なんで犬に睨まれてるの?
元の人格の影も形もないんだけど!」
「こわっ!こっち睨んでるっす、やべぇこれ、元にもどるっすかぁ?」
『せつめい、する、しゅっぱつ、じかん、たいむりみっと』
「簡単な話よ。
会わせたい相手がいたの。
罠ではないわ。
ただ、貴女を保護してほしいという依頼が多数。
ならばと、欲をかいた誰かが、随伴者の交代を望んだの。
例えば、この新人なら嫌じゃないでしょう?」
嫌ではないよ。
でも、私の艀は彼だけだ。
他人を巻き込みたくないし、きっと何か起こった時、私は彼女を守れない。
そう、私の所為で、誰かを殺したくない。
きっと後悔するから。
『わたしに、たえられる、だれが?』
そしてお前達は、弱い。
意味を込めて睨んでやると、エドガー・バンスは、降参するように目を閉じて両手を上げた。
「えぇ、そう、もう十分、わかったわ。
貴女の力に抵抗できて、はじめて、犬以上の扱いになるのね。
でも、誰も貴女がそんなふうなのを知らないの。
貴女はか弱いお嬢さまってわけよ。
きっと報告してる奴らも、勘違いしたままよ。
殴り飛ばされても無傷なのは、男が渡した護符のせいだってね。」
「えっ?」
「そうね。タリスマンの効果が発動してたら、そもそも殴る前に呪縛で昏倒してたでしょう。でも、貴女は攻撃ととらずに受け取った。わざとね。」
「どういうことなんすか?」
「手加減してくれたのよ。
本来なら、カウンターで、そこの犬は死んでたのよ。
そういうタリスマンよ。
だから、彼女は受け取った。
殴られたんじゃない。
たまたま押されたって認識でね。
だから襟首つかまれて釣り上げられても、指は腐らなかった。」
「えっ、腐るの本当なんですか?」
「ちゃんと私、聞こえるように護符持ちだって言ったでしょう。誰も真剣に聞いてなかったようだけどね」
きっとね。
私の外見に誤魔化されてたんだね。
残念残念。
「みてよ、ほら、馬鹿どもがって顔してるわ。
その通り、馬鹿だわ。
犬になりさがってる男もね。」
犬になったら、素直でよき感じになってるよ。
支配の通りがいい。
きっと飼い主に不満もあったんだね。
うちのコになるなら、これ以上、意地の悪い命令はしないよ。
って、多分、これパパ上の血筋の魅了の呪縛にも、同じような支配系の何かが混じってる。
たぶん、強火担の原因、これだ。
ひらめいたね!
…じゃねぇよ。
アニマルの業が深い。
ママ上の支配能力以前に、何代か前の魔女子さんあたりから、犬を作り始めてたのかも。
やだ、魔女子さん、魔女子さん、もしかして、下僕をつくってた?
(ほほほ)
あかん、これはあかん。
両親の血筋、なんだかんだいって、トンデモねぇ悪役令嬢のダブルスじゃね?
だから火炙りとか、最後に悪霊扱いで祀られる事になるんだよー
って、一匹ふつうに犬を作るワイ。
十二歳少女、犬を作るなりよ。
駄目じゃん。
「首飾りと指輪の反応域はシンプルよ。
発動条件は彼女の思念ね。
彼女と連動してる。
彼女が意識を失ったら、自立する感じ。
魔法、物理攻撃が来たら、彼女の魔力を使ってのカウンター。
もし、彼女が意識を失うようなら、蓄積された魔力での攻撃。
魔道具自体が損傷したら、その時点で警告発動、追跡全振り。
魔道具が粉々にならない限りは、何か彼女から離れないようになってる。
こういうの、多分、魔道具じゃなくて、もっと違う奴ね。
呪物に使われているモノで構築されてそう。決して見失わないように。生きてさえいれば追える」
「こ、怖いっす」
「えぇ、だから私が解析した事を口に出していたでしょう。
仲間が口に出している事を流さないで聞き取るものよ。」
『じかんかせぎ、むだ。リミットきたら、Puppetお人形遊び、する』
「…もう、吐けないわ。
何か水分だけちょうだい。喋りたくても、失神しそうなのよ」
『Puppet』
「彼氏が心配なんでしょう?」
『いいよ』
そう、自由だ。
闇祓いが私を人間扱いしないなら、私だって彼らを敵とみなす。
セウェルスを人質にする?
別にかまわないよ。
取り返すし、私の親しい人を取り上げたり、利用するなら、報いを受けさせるだけだ。
私を人間に繋ぎ止めてくれている人たちを傷つけるなら、私は自由になるだけだ。
『いいよ、やってごらん』
そう、自由だ。
いいんじゃないかな。
自由に、なる。
いいんじゃないかな。
冷たい世界だ。
私もそれに合わせてもいい。
「先輩、だめだ。それ、だめだ。
この子、そういうの平気だ。
ホグワーツにいる、純血の頭のオカシイのと同じだよ。
身内も友達も、恋人だって人質にはならないよ。
そういう感覚じゃないんだよ。」
「べつに敵対しているわけじゃないし、彼氏を痛めつけているわけでもないのよ」
「違うんですよ、そこが論点じゃないんですよ。
外見を、ビジュアルを外して、この子、アンタの祖父母ぐらいの純血だと思ってくださいよー」
トンクスの叫びに、バンスは口を開こうとして閉じた。
「話の通じない純血の年寄りだと思ってください。
今の感じで交渉を持ちかけないでしょう?」
私はそのやり取りを笑って眺めた。
トンクスは、私のことがわかり始めている。
さすがホグワーツ卒業生だ。
スリザリンの、純血っていう看板を背負ってる子供の特性をよくわかっている。
もちろんレッテルだけどね〜ワイね、ワイ自身をどうにかするだけなら、許すんよ。
私を攻略するのに、私の周りに手を出す事が有効だと考えた事が許せないんだよ。
つまりワイのモノに手をだしても、どうせ反撃もできないだろうってぇ考えがね、許せねーんだよね。
ダーリンを心配しているのは本当。
けどね、犬の躾をする理由は別。
「脅したり、取引しようとしたら、純血の、古い階級の年寄りはどう対応します?
自分たちの血縁を人質にとられたら、奴ら、どう振る舞います?」
そこまで言われて、バンスは私の目を、避けていた目を見つめた。
にっかり。
ワイのダーリンに何かしたのか?って質問、なーんにも今に至るまで答えて無いのわかってる?
階級社会は舐められたら終わりなんだよ、犬?
そいでワイ、アニマルな。
群れのリーダーは、舐められたら追放だ。
「交渉なんて端から拒否するわね。
話にも取り合わないし、報復一択になる。」
自分で言っておいて、バンスの表情が抜けた。
わかってきたね。
ワイね、素直な相手には素直だし、敵対しないといいながら、馬鹿にし腐った事をしてくる輩はね、相手にしないんだよ。
「敵対行動を一度でもしたら、拒絶一択になりかねない。
あらゆる手を、コネクションを使って相手を潰す動きを始める。」
わかってきたね。
でも、ワイは優しいよ。
だって、お話をしてくれるの、こうして待ってるんだもの。
それも喋らないで時間稼ぎするなら、別にいいけどね。
タイムリミットで、犬をもう一匹仕立て上げて、ダーリンを迎えに行くだけだもん。
ヒゲに討伐されそうになったら、セウェルスを人質にとられてーって嘘泣きしよう。
「あー嫌な予感がします、先輩。早く話してくださいよ。ジュース、ジュース、そこで買いますから。毒見もしますから、ちょっと待っててください。」
トンクスの背を見送る。
目の前のジューススタンドで注文している。
あー小銭をばらまいてる。
ワザとじゃないようだ。
「騎士団の事は知ってる?」
『いいえ』
「ヴォルデモート卿と死喰い人への対抗組織よ。
ダンブルドアが結成した組織ね。
闇祓いも多数参加しているから、騎士団の仕事と闇祓いの仕事が重複している場合があるの。
だから、当初仕事としか伝えられなかったのも、両方に関わる話だったから。
そしてトンクスみたいな見習いにも伝えられない内容だったの」
『つづけて』
「不死鳥の騎士団と名乗っているけれど、ヴォルデモート卿の失踪で解散。
今は闇祓いと連携して、死喰い人の残党や不審な動きを追うような事をしているの。闇祓い以外は本業もあるしね。
私の親族も騎士団員だし、トンクスの師匠も騎士団員よ。」
『で、それが?』
「創設時メンバーで行方不明だった男が、つい先日、発見されたの。その男に会ってもらっている。」
『名前』
「ディアボーン。付き添いが私の親族で同じくバンス。
貴女の教授を攻撃する事は無いはずなの。
名前を伝えていいのかわからないから、苗字だけ。
校長に聞いてもらえれば、誰だかわかるはずよ。
ディアボーンは、十数年前から行方不明だった。
ヴォルデモートに殺されていたと考えられていたの。
それが戻ってきた。
彼への尋問、そう尋問が開始されたんだけど、それが難航していてね。
貴女の教授に助力を願った次第よ。
それだけだった。
介入は、そう貴女への余計な手出しは、単に、付き添いを変えたいという要望だけよ。
厄介な事を教授に頼んで、足止めをしただけ。
攻撃をしたわけじゃないの」
私は彼女をじっと見つめた。
この人をぶっ壊して、中身を取り出す事は可能だ。
だが、それをしてしまうことのリスクも考える。
ワイだって、蛮族じゃが、多少は色々考えることもできる。
もちろん、ウソツキさんたちを火炙りにしても、全然、いーとおもうけどな。
うむむっと考え込むが、表面上は、ニコニコしてるだけだ。
相手は私が何をどうするかは、読めていないらしい。
どんどん、顔色が悪くなっていく。
おーもーしーれーなー
『じんもん』
「そうよ。
死喰い人の疑いよ。
貴女の、セブルス・スネイプは死喰い人。
知ってた?」
『しってる、そういうウソはつかない』
「…そうね、そうなのね。
私達は、元死喰い人だろうと、死喰い人は死喰い人なのよ。
だからね、ダンブルドアが証言しようが、アズカバンにて刑期を終えようが、死んでも死喰い人なの。
彼は帝王の側近だった。
なぜ、生きているのか。
同じ事よ。
なぜ、ディアボーンが生きて、今頃戻ってきた?
闇に呑まれたのか、それとも逃げていたのか。
そもそも、どうやって生きてきたの。
それを調べようとしたけれど、難航していたの。」
死喰い人の先生と対面させて、お互いの反応を見たかった?
結果、攻撃を受けるような事になっている。
ついでに始末できたらと?
皆、それでハッピーエンド?
私達は、離れてはいけない。
これはワイの失敗である。
獣は反省した。
自分の間違いは認める。
死喰い人と言う過去の重さや、過去の殺し合いの時間を知らないってのは、言い訳だよね。
(あら、許すの?)
いやいや、魔女子さん、許すとかじゃなくて、ワイ、少し鈍ってたって話。
こう、なんだろう。ちらっと過るアニマルの黒歴史。
弱肉強食、親兄弟で争う権力闘争。
寝首をかかれないよーに信頼できる部下も、いろいろ疑ってた日々をだ。
やっぱさーこう、緊張感?
じゃぁ仕事行ってくるぜ!
つーダーリンを一人で行かせちゃ駄目じゃん?
そこはメンヘラを発揮してだ。
アタシと違う女と会話するんでしょー!
きっと誰かと会うんでしょー?
一緒じゃなきゃいやー!
アタシ、泣く、シヌ、ダーリンに火をつけるー!!
ぐらいのポテンシャルでいないと駄目じゃん。
パリだろうが旅行先だろうが、メンヘラムーブしなきゃねー
(肯定しづらいわぁ。
私もメンヘラ?って方向性だけど、貴女のそれ、メンヘラじゃなくて...)
言わんでも良い、イマジナリー魔女子氏よ。
まぁ反省してるって話だよ。
信用できる人間なんて、いない。
ヒゲなんぞ、大義の為とか戯言をいいだす爺様である。
そして警察組織は、そもそもセウェルスを犯罪者だと認識している。
これ彼自身が、自分の側にいることはマイナスなんだぞと何度も念押しした意味ね。
でもね、セウェルス。
利点はそれを大きく上回るんだよ。
イギリス魔法族の男というだけでね。
多くの純血の古い血の人間が、半純血だろうとイギリス魔法族の男に執着している私に安堵するんだよ。
『ワタシの、モノ』
それにバンスは、小さく指を振った。
呆れたという意味か、馬鹿らしいと言う意味か。
「現実に、その彼が人を殺し、甚振る様を見て同じ事が言える?」
『無意味だ』
ジューススタンドからトンクスがカップを手に戻ってくる。
無意味だ。
彼は必要な事を行う。
人を殺す?
私のテリトリーに存在する私の仲間を殺すというのなら敵対しよう。
だが、それ以外にまで倫理を求めるだけの、私にどんな正義があるだろうか。
彼は快楽殺人者ではないと理解している。
そして忌避感?
むしろそれを心配するのは私の方だろう。
私は子供ではない。
人間でもない。
魔法生物、妖魔にもなりきれていない。
けれど、人間ではない。
人間の女ではない。
子供は産めるだろう。
人間の形をした子供は産めるだろう。
けれど、呪われた子供だ。
子供を産んで、私の業を引き継がせていいものか。
人の愛を望む?
そもそも私は人ではないと思うんだ?
地獄にいるのが相応しいような生き物じゃないかな?
誰かの幸せを眺めて、ひっそりと何処かで生きていればいいんじゃないかな?
幸せになりたいけれど。
幸せになってはいけないんじゃないかな?
そう人間の幸せ以外なら、手に入るような気がするんだ。
愛を求めなきゃね。
人を殺す?
彼を嫌悪する?
もっともっと恐ろしいことを知っているよ。
あの時。
マーガレットと二人、確信した。
殺される事は恐ろしい事だ。
犯罪だろう。
けど、確実に、死んだほうがマシだって事が起きるってわかった。
私達はわかったんだ。
だから、あの時、考えた。
どうやったら助かるか。
私はマーガレットが。
マーガレットは私が助かる事を探した。
マーガレットは銃を。
私は魔力全部と、ママにお願いした。
どうか、時間をちょうだいってね。
このままだと、マーガレットが…
私はどうせ、もともと何度も生きて死んだ。
彼女が助かるなら…
彼が誰かを殺める時、それはきっと彼の大切な者の為だ。
彼は、人間だ。
私とは違う。
そして何より、帝王がアレだ。
小賢しい犯罪を行う事は、もう、無いのだ。
質問の意図がそもそもだ。
離反させたいのだろうが。
嫌悪?
痴漢とかしてたら、ぶっ殺すけどな。
『彼は、私の艀。帝王のモノではない』
ふっと笑う。
彼は過去に愛を捧げ、この世のすべての欺瞞と苦痛に耐えている。
だから、私は彼を艀とした。
彼が何をするというの?
彼は唯一の愛に生きている。
少なくとも、あの奇妙な姿になった帝王の残りカスと同じではない。
死んだ幼馴染の為だけに生きる男なんて素晴らしいじゃない?
私を愛する事がないんだもの。
とっても貴重な骨を、他人と等分にするなんて嫌だし。
獣が獲物を分け与えるのは、自分の子供にだけだ。
すくなくとも、何処かの飼い犬闇祓いに、骨を齧らせる事は無い。
もちろん、私の犬になるなら話は別。
だが、バンスを犬に?
冗談にもならない。
マキャベリってる校長と同じで、ワレは正義なりって、キライ。
正しいのは良いことだよってのはあるけどさ〜。
でも言ってる本人が一番、矛盾した行動をしてたりするんだよ。
正義のためならなんでもありってさ。
じゃぁこっちも自分の主張を通すためになんでもありでいいじゃん。
もちろん、爺ちゃんは実力がある上での、正義とか愛とかほざいてるわけだけど。
そんな事を魔女子さんと語らいながら、ワイ、バンス推定お姉さんを見る。
正義を振りかざすには、大義が無い。
そして大義を振りかざすには、根拠がねーんだよ。
法を守るなら、彼は犯罪者ではない。
グレーなんだよ。
わかってるかなー?
そしてね、疑わしいなら、何をやってもいいって考えをするなら、こっちも抵抗してもいいんだよね。
だって、それ、ただのリンチだもん。
そいで、実力はあるのかな?
ねじ伏せられるかな?
おら、やってみろよ、カスがよぅ。
って悪役するの楽しいぃ!
まぁそんなアニマルだが、別に、彼らが仕事の範囲内での話であることもわかってるんよ。
蛮族じゃが、今回はワイのヌルさもある。
反省じゃ。
信用してないし、許してもねーが、これ以上ヤると確実に、ダーリンの拳骨が脳天にヒットするのが目に浮かぶ。だって、近くなってきたもんね。
しかし、バンスにはわからんので、少しずつ目線をそらして汗をかいていた。
いやぁオネエサンにも、効果あるんだー
よい被験体であった。
と、見慣れた姿がフッと遠くに現れる。
おぉ、即座に直通パス。
五体は揃ってる。
見える範囲で欠けた様子はない。
顔色は、白い。
やっぱり、血を流したな。
魔法薬、魔法で傷とか消してる。
もう、だめだじょ〜!
彼は私を認めると、その眉間にシワを寄せた。
ふふっ、大丈夫。
皆、無事だよ。
小さな私も、魔女子さんも、獣の私も。
苦々しい顔だ。
暴れたのが伝わったのだろう。
一旦、雑踏の中で立ち止まる。
完璧な隠蔽だ。
無意識に人が避けていく。
私もいつか、魔女っ子として格好良く魔法を使いたいなぁ。
「溝は埋まらないかしら?」
『彼への攻撃は、私への攻撃、お前たちが恐れた事が現実になったぞ?馬鹿が』
「そのようね」
それに足置きを見る。
『犬、仕事にもどれ』
「はい、お嬢さま」
すっと立ち上がると、犬が雑踏に戻っていった。
「どうなってるの?」
『じっくり調べろ、私への攻撃への返礼だ』
バンスが口を開く前に、トンクスがジュースを渡してきた。
背後の寮監先生には気がついていない。
「お嬢さま、仕事だからあやまれないけど、ちょっとばかり卑怯だった。
それでもウィーンまでの護衛は許してくれないかな。
図々しいのはわかってる」
信用もしてないけど、ずうずうしいとは思ってないよ。
メモ書きを渡す。
喋るのはおしまい。
そうとう魔道具に負荷をかけた。
発語も思った以上に、できるようになっている。
もしかしたら、この魔道具には、発語に関してもアシストが入っていそうだ。
ダーリンは優しい。
それこそ、ダーリンは矛盾だらけで面白い。
そのダーリンは雑踏の中に立ち尽くしている。
暗い表情だ。
虐められたの?
大丈夫さ、倍にして返してやるよ。
ワイの群れの中にいるなら、その手を放さないよ。
にっかり笑う。
ジュースをトンクスに返すと、立ち上がり駆け出す。
わーい!
はやく列車に乗ろうぜー!
うざいジジイに会いにいったら、ウィーンでお土産買って、美味しいもの食べようぜー!
わーい!
***
「新人、ウィーンまで何が何でもついて行くのよ。」
雑踏の中、隠蔽された姿に飛びつく。
それだけなら、微笑ましい姿だ。
首筋に手を回し飛びつく。
飛びつかれた男は、暗い表情のまま、こちらを眺めている。
大凡、何があったのか理解しているのだろう。
そして彼女の力に翻弄されて、蹴散らされたのもだ。
「彼女と家族に襲いかかった奴らってのは、まだ、わからないんですか?
あれほどの魔力があれば、どうとでも」
「馬鹿ね、あの力を振り絞って、家族を逃したのよ。
そうしないと死ぬってわかるような相手だった。
力を持っている者は、相手の力量もわかるのよ。
今の私達を見ればわかるじゃない。
相手にならないのに、調子に乗るんじゃないって警告よ。
ともかく、ジュース頂戴。
内臓がひっくり返りそうよ。」
再会した少女と男の姿を見やる。
何を話しているのだろうか、男は抱き返しもせずに耳だけを寄せている。
あの、魔力混じりの言葉を受けているのだろうか。
「あれ、平気なんですかね」
「魔力操作が凄まじいのよ、あの男を危険視する要因の一つよ。
さっき潰されそうになった位の魔力を当てられても、どうにかしてしまうって意味。」
「教授って、思ったより凄いんだなぁ」
「馬鹿なこと言わないで。
あの教師の姿は偽装よ。
死喰い人の中でも常に側近にいたんだから。」
「授業以外、生徒の悪戯に罰則つけてるぐらいで、こう、陰気で地下に籠もってるっていうか」
「偽装に決まってんでしょう。
最悪な場所に平然といた人間よ。
人が死のうが廃人になろうが、それを眺めて嗤っていた人間なの。
その地下とやらにいれば、授業以外は自由でしょう」
「そ、そうなのかな。いつも顔色悪く薬草とかいじってる感じで」
「プライベートがわからないんでしょ?」
「あー考えてみれば、スリザリン側の地下ダンジョンなんで、授業以外だと食事時だけでしたね。それも早々にいなくなってたか」
「あの男より魔法使いとして強い男はいくらでもいるわ。
でもね、魔力操作、隠蔽、総合的な能力が図抜けているの。
いくらダンブルドアが庇ったって実力がなければ、教師として手元に置かない。
つまり死喰い人という負の要素があったとしても、利点が上回っているって意味よ。」
「何か、噛み合わないです。
教授の印象って、いつも小言ばっかりの陰険で嫌味な教師、根暗でひ弱って感じでしょうか。
それに防衛術の教授になりたいと毎年言っていて、外されてたかな。」
「魔法薬学を極めて、それでも防衛術の教授につく意味ってなにかしら。
実力自慢?
よく考えてよ、つまりそれって闇祓い志望の新人を教えられるぐらい防衛術に秀でている自信があるって事よ。
もっと言えば、あれ、ひ弱じゃないわよ。何でそう思ったの?」
「顔色悪くて、フラフラしてたもんで」
「顔色悪くて、ふらふら?
それ何か教師以外の活動してるんじゃないの?
本業が教師じゃないとか。
防衛術の教授に?
つまり我々と同程度以上の闇の魔術も防衛術も使えるって事になるわよね?
本当に、よく考えなさいよ。
おもったより凄いんじゃなくて、死喰い人として側近クラスの危険人物なのよ」
「うぅ」
「実力、隠している部分が多すぎて測れないってのも不安なのよ。
彼女が懐いている、つまり、彼女の魔力保有量より、あの男の方が大きいと考えるのが妥当ね。」
「大きい、ですか?」
「えっと、つまり抵抗魔力量が大きいの。
私は彼女より少ない、魔力の量の差だけで押しつぶされた。
だから、傀儡にできるといい切っていたのよ。
でも、彼はできない。
だから、ああして付き合える。
無意識に傀儡にできる相手じゃぁ安心できない。だってそうでしょう?
自分や家族に襲いかかった相手は、確実に実力が上だった。
下の人間に護衛、主導権を握らせるなんて馬鹿のすることですものね。
おまけに、アナタが言う純血の人間らしい考え方もそれでしょう?
何で下の人間に命令されなきゃならない?って奴よね。
実力ないのにでしゃばんなよって事でしょう?」
「あ〜、まぁそうっすね。
ホグワーツでも純血は、実力の無い相手は、同じ純血でも明確に下の扱いです。
年寄りともなれば、会話になりませんよ。
教授は魔法薬学では権威です。
卒業に関わる教科ですし、校長も彼を信頼していますから」
「それがねぇ、ネックなのよ。」
少女の手を握ると、男はこちらに歩いてくる。
ディアボーンとどんな会話になったのだろうか。
創立メンバーであるディアボーン。
彼は、フランスのラ・マドレーヌ海岸に、当時の年齢のままで現れた。
海辺の砂浜で立ち尽くしていたのだ。
それだけでも異常だ。
魔法族だから年齢がかわらない?
奇妙な服装に、不可解な言動。
彼の持ち物はすべて、見たこともない魔道具であり、それを他人に扱わせる事を嫌った。
過去を問いただすが、支離滅裂。
魔法干渉をしようとすると、暴れ出す。
彼が消えてからの事を伝えると、黙り込んでしまったそうだ。
ダンブルドアに直接会ってもらう事を考えた。
だが、魔法界に不穏な要素が漂い出した今、彼をイギリスから出す事は躊躇われた。
ましてゲラート・グリンデルバルドが沈黙を破った。
であるなら、こちらに来るであろうセブルス・スネイプと会話させる事になった。
元死喰い人であり、騎士団に寝返った男。
どう転んでも良いと。
「一旦、拠点に顔を出してくるわ。アンタは、引き続き張り付いてなさい。
離れたままで十分よ。これ以上機嫌を損ねたら、洒落にならないわ」
「彼女の」
「ドヴワティーヌと言う名に狂った愛する者達ストーカーどもの機嫌の方よ」
理解不能という表情の新人に、バンスは肩をすくめた。