おとぎ話の末裔   作:C&Y

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寮監先生と人外生徒の明日はどっちだ、オーストリア旅行編。
R15と残酷描写タグは、予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。

ふつうの夏休みなんだよー、いちおうねー(*´ω`*)


閑話 拷問牢獄城塞都市見学ツアー ⑨

 規則正しい揺れと音って、すんごい催眠効果だったりする。

 んで、ぱっちりすっきり目が覚める。

 起き抜けってさ、意味もなく落ち込む時があるじゃない?

 あれって水分が不足すると、でるんだって。

 だから起き抜けの水分は大切。

 新しいミネラルウォーターを開けて飲む。

 それからトイレは共用なんだよ。

 どうしよう着替えるの…

 

「着替えろ。一旦、着替えろ。朝食サービスがある。」

 

 寝てないからレスポンスが早い。

 本当にさー、マタタビを渡すタイミングをしくった。

 

「いや、よい夜を過ごさせてもらった」

 

 ちげぇ、ベルベッドボイスで囁かれても、実際が違いすぎて思わず力が抜ける。

 なんだよ、ベッドタイムラブボイス、おこちゃまだと気が付かんだろうけど、過去の女達がそこじゃねぇって叫んどるわ。もう、すげぇ無駄な破壊力。

 不健全なエロボイスで枯れきった報告すんなよ。

 これがイケイケの女だったら、まじでムカついてコブラツイストだぞ?

 アタシとカビ臭い本とどっちがいいのー!!って。

 

「むろん、この素晴らしい本の」

 

 やめぃ!

 寝不足の即レスすんなよ!

 ハイじゃん!

 

 悲しい、何で、そんなウキウキで甘ったるい声してんの?

 ちょっと狂気の沙汰な研究者の本を睡眠とらずに読み込むと、ラブなイケメンボイスになるのかよ。

 ...

 返事がない。

 

 まぁいいか…

 洗面を終え、お嬢様風のシャツとズボンを身につける。

 

「仕切りをとるぞ」

 

 いいよー

 

 と、寝不足ですという顔を見る。

 

 トイレ寄って、そのままパンを齧りに行こうぜ〜

 

 で、名残惜しげに本を置いた彼と一緒に通路にでる。

 闇祓い達の気配が無い。

 

「隠蔽に優れたのが一人いる。そもそもトンクスは見せ餌だ」

 

 なるほど〜だからバンスも詳しい話を聞かせないようにしていたんだね。

 

「見習いは正式には闇祓いではないからな」

 

 知らんかった。

 

 朝食サービスは早朝の四時半から六時の間である。

 到着が七時だからね。

 サービスを受けずに、早朝の駅前あたりのお店に入るのもあり。

 でもね、折角なんだからと食堂車両に向かう。

 パンに飲み物、フルーツにヨーグルト、茹で卵とかを出してくれる。

 適当に食べながら、開けていく景色を眺めた。

 

 セウェルスは旅行する方?

 

「いや、仕事が無い限り国からは出ない」

 

 まぁそういうタイプだ。

 フランスにバカンスとか、陽射しを浴びてビーチ・リゾートって感じではない。

 

 そいで国際魔法連盟ウィーン支部とやらに行く準備としての正解を教えてほしい。

 

「ホグワーツから魔法省に出向いた時と同じかそれ以上の正装だ。」

 

 ちなみに、理由をば。

 

「ヌルメンガードもそうだが、古の魔法使いが集い、誓約地の扱いだ。

 魔法文化を尊重する格好で、大凡の面倒が避けられる」

 

 マクゴナガル先生は、正解のお衣装を選んでいたって事?

 

「そうだ。

 マグルでいう懐古趣味、舞台衣装のような格好が礼装だ。

 好きで着込む訳では無い。

 が、現代魔法使いとしてカジュアルな旅装で訪れようとも別段問題は無い。しかし、扱いが変わる事は確実だ。」

 

 そういう場所、って事かぁ。

 

「格式を古いと呼ぶには、実力で押し黙らせるしかない。だが無意味だ。何も面倒を呼び込む必要はない。」

 

 着替えるしかないか。

 

「列車内で着替えて、そのまま偽装と隠蔽をかける。」

 

 それもトラブル防止?

 

「一応言っておく。

 むしろパリまで迎えにこなかった我慢を褒めてやれ。」

 

 そこかーだから、パリの偉い人がごめんねーって泣くのかぁ。

 

「国際魔法連盟支部というが、ヨーロッパ魔法界の中心地にかわりはない。

 まず、連盟の主施設は、リヒテンシュタインの庭園宮殿だ。

 国際会議は、ほぼここで行われる。」

 

 もしかして魔法族の元々がマグル界で貴族だった?

 

「古い奴らが格式にこだわる理由がわかるだろう。

 そして大凡、ここの魔法界関係の施設は、歴史的建造物にある。」

 

 観光地!

 

「偽装にも逆に有利に働いている。

 ヴォティーフ教会、ベルヴェデーレ宮殿と魔法界職員が詰めている。

 マグル側も気がついている者も多かろうが、大昔からだ。あえて戦前からお互いに不干渉だ。」

 

 今回は何処に?

 

 それにダーリンは、寝不足の目元を抑え、くぐもった声で答えた。

 

「クソ忌々しい事に、リヒテンシュタインだ。

 庭園側から入れと指示があったが、見世物になる事確実だ。

 案内人が駅で待っているだろう。」

 

 私のせいか〜なんかね。

 マグルの暮らしをさせてた理由ってあったんだね。

 

「君の親も十分にわかっていて、強固な隠蔽を行ったのだろう。

 だから、君の叔母はマグルの、庶民の暮らしをしていた。

 財産に動きをもたせなかったのも、隠蔽の意図もあったのだろう。

 銃器所持の許可をとっていたところを見るに、君が誘拐される不安があったのかもしれない。

 己がストーカーの心配もあったろうが、頼れると真実思える相手が魔法界にいなかったのかもしれない。」

 

 やっぱり、両親の死因って、怪しい部分がありますか?

 

「殺しに来るよりも、囲い込まれる事を恐れた可能性もある。

 君への期待は、君の血を残す事だろう。」

 

 卵子凍結とか?

 

「それは?」

 

 一般医療になったのは、もっと後だったかな。

 でもこの時代にはあったはずだ。

 

 女性の卵子を凍結保存して、妊娠したくなったら人工授精などの方法で子供をもうける方法、かな。

 間違ってたらごめん。

 人工授精もこの頃からあったよね?

 この技術だと、私の卵子を誰かの精子と受精させて、他の母体の子宮に着床させる事も可能だったかな。

 まぁ今現在、マグルの技術で代理母までは進んでないかも。

 

 と、伝えたら、ダーリンが目を押さえた。

 

 もしかして、それぐらい狂気な感じだったり?

 

「拉致監禁されたとして、その技術をもって子供を作る可能性は否定できない。

 暴力、薬。

 キチガイに真っ当さを求めるのは無意味だ。

 だが、愛や幻想を抱えた輩以外。

 多くの子供を他の女に産ませて、その血の力がどうなるかを研究したい。と、考えるキチガイはいる。

 確実に己の血を混ぜたいと言い出す輩もだ。でると、想像できる。クソッ」

 

 おぉぅ、怖いんだけど。

 

「良識があるとはイギリス魔法界も言わんが、ダンブルドアに、そのような技術があると知らせておけ。

 不安だとな。

 さすがに校長は女性に対して、特にそのような非道な考えを持つ事は無い。

 如何に魔法学的興味があったとしても、だ。

 あれで子供や親の愛については、倫理の線引きができている。」

 

 そうかなー

 

「君の叔母がとどまったのも、魔法界の頂点にダンブルドアや、社会的人間的に、まだ、真っ当な感性をもった人間が残っていたからだろう。

 非魔法族やスクイブへの弾圧を許さないと表明しているバランスのとれた良識派だ。

 だから、かろうじて魔法界とは縁を切らずに、本国に戻らずイギリスで暮らした。

 こちらのほうが、執念深い輩が多かった。

 それもスクイブへの差別よりも、君の血に目の色を変える輩がだ」

 

 じゃぁヌルメンガード城のオジイちゃんも?

 

「君の古い血というより、君の縁者を知っている可能性が高いだろう。

 そもそも君の血に価値を見出している者と、誰かの子として知っている者は違う。」

 

 ん?

 

「君の血、ドヴワティーヌという家名を崇めている者。

 君の直接の血縁、ヨーロッパにいたであろう、君の祖父母世代と知り合いである者。

 という違いだ。

 グリンデルバルドが活発に活動をしていた頃、フランス系の配下は多くいた。

 彼が君の血縁を知っていて、君が表に出てきた事を耳にしたという可能性もある。」

 

 犬と知人の違い?

 

「身も蓋もないが、君の血筋の誰かを崇拝していた者の生き残りと、本当に君の親類の知己という違いだ。同じ知り合いでも意味がだいぶ違う。」

 

 あ〜うん。

 パパ上とかの友達と、知らぬ一族女性のストーカー自称お友達の違いだろうか。

 

「今日、顔をあわせるのは十中八九、お前の血の崇拝者だ。

 それも年寄りの化け物どもだろう。

 念入りにめかし込め。

 少しでもお前が貧相だと、保護しているこちらの扱いが悪いと攻撃される」

 

 そんなー

 

「ホグワーツに寄付でもさせろ」

 

 しょんなー

 

「ともかく、だ。マグルでいうハプスブルク家領地跡だ。魔法連盟が華美華麗なのは、それが理由だが、接収した後、錬金術が盛んだったウィーン魔法界が、心血を注いで作り上げた。

 これから向かう場所は無駄に豪華で、無駄に権威主義だ。」

 

 やだにょ〜

 

「私も嫌だ。

 そしてよくわからぬ、年寄りが出てきた場合、大方が今から言う魔法族だ。

 バイエルンの宮廷魔法使い出身者、ヴェネツィアの魔法師貴族、ハンガリードルイド氏族、ボヘミア錬金術協会、そしてリヒテンシュタイン公家血統。

 マグルの上流社会と結びついている魔法族が多いのがヨーロッパ魔法界だ。

 つまりマグルの金持ちと結びついている。適当に愛想を振りまくだけで、喋らずに笑いつづけていればいい。

 あと、面倒になったら泣きそうな顔でもして逃げろ」

 

 あーうん。

 わりと無作法な対処方法だね。

 

「相手にする必要はないが、敵対するなと言う意味だ。

 利用できる人間が多い。

 いつもどおり、よけいな事をしなければいい。

 向こうが勝手に勘違いをするだろう」

 

 そんな会話の後、お着替えタイム。

 洗面は交代で済ませた。

 んで、ここで、また、一悶着。

 着付けをしてコルセット、一応下着の上に薄布のドレスの下のやつまで着込んでるから、セクハラしてないよ。

 コルセットと背中のボタン類の着付けをダーリンにお願いした。

 

 ぜってぇいや!って感じで、ぷぃっとされた。

 ぷぃっ…だって。

 このギャルめ!

 何だ、可愛いな!

 

 でもね、本格的なドレスってさ、一人じゃお着替えできないのよ。

 

「となりのトンクスを呼べ」

 

 トトロみたいーじゃなくて、呼びたくないなぁ。

 

「何故だ?お前に危害は加えない」

 

 それに荷物を纏めるダーリンを振り見る。

 

 じゃぁ聞くよ?

 自己弁護するのが闇祓いなの?

 そんな甘ったるい子は、長生きできないのだよ?

 

「本当に悪気はなかっただけだ。

 殴りつけたやつは、殺していいがな」

 

 犬にしたー!

 

「どのような影響が残るのか調べたいものだ。精神汚染系の魔力操作だろうか」

 

 知らね。

 でも、きっと彼女は理解していないよ。

 

「何をだ?」

 

 彼女は闇祓いの見習いだ。

 立ち位置は明確にしておくべき、だよね。

 

 ウソとは違うからね。

 わかるかな?感情だけでは拒否しないよ。

 

 それには答えず、ダーリンは、ほんのりと笑顔になった。

 

「優しいことだ。巻き込みたくないと?」

 

 優しくないよ。

 私は、私の過失で、人を殺したくないんだよ。

 

 それからダーリン、コルセットで死ぬ。

 

 触るのが嫌だと、魔法でコルセットを絞めてくるダーリン。

 容赦がない。

 

 内臓でる。

 

 吾輩氏、面倒くさくなったのか魔法で、ボタンまで嵌めてきやがる。

 あ〜だから、あのボタンだらけの服かぁ。

 魔法的にささっとできちゃうから、袖口から足元までびっしりボタンがあったんだね。

 

「髪は?」

 

 これもまた、びっくり魔法で結い上げてくれた。

 なんだろう、有能すぎる。

 もしかして前世のママ?

 

「カウントだけはするか…」

 

 何の?

 もしかして拳骨なの?

 後で、まとめてゴンゴンされるの?

 馬鹿の取り返しがつかなくなるよ?

 

「では、耳を捻り上げてやろう」

 

 そんなダーリンは既に、狩人様だ。

 かっこいいねー

 

 褒めてるのに、なんでケッって顔する?

 ともかく、見習いのトンクス姉さんは、駄目。

 私、子供だし、仲良くなれちゃいそうだからね。

 

「かまわんだろう」

 

 サラッと言うね。

 駄目だよ、セウェルス。

 貴方は生徒じゃなくなると途端に割り切ってしまう。

 私の事も大人になったら、割り切って手を離してしまうんだろうね。

 

 小さな鏡に映る無表情。

 暗い目だ。

 私は笑いかける。

 いいさ、私が放さないもんねー。

 

「友人としておくといい、師匠は難攻不落の強情で偏屈。

 死ぬ様子もない男だ、ヤツの周辺の動きが知れるとやりやすい」

 

 ほらね。

 情け容赦ないなぁ。

 

「それも見習いの内がチャンスだ。懐柔してしまえばいい。君に負い目を感じているうちにな」

 

 トンクス姉さん、これだよ。

 悪い奴ってのはね、中途半端な甘さを持った相手を見逃さない。

 そして悪いやつは優しさを配る相手を選ぶんだよ。

 利用するためにね。

 

 ダーリン、似合う?

 

 振り返り冷たい両手を握る。

 が、そっと外される。

 相変わらずの拒絶具合だね。

 でも知ってるよ、最近は私をちゃんと視界に置いている。

 どこにも旅立っていないね。

 

「装飾がたりないか?」

 

 首飾りだけでいいよ。

 ワイの年齢を考えてほしい。

 

 十九世紀ファッションのドレスは、基本色が白の刺繍入りドレスだ。

 旅装ということで、裾は床についていない。

 見事な黒の刺繍糸が裾やら何やらに施されているが、やはり首元胸元はきちんと隠れている。

 小さなボンネットのベールを下ろし、手荷物は小さな鞄とウエストには杖フォルダーだけだ。

 肩掛けは、これまたロマンティックな黒薔薇の刺繍が施されている。

 黒い刺繍というところがオサレポイントらしく、白い生地のドレスでありながら、ふわふわした印象はない。

 やっぱりゴシックなんだよね〜おしゃれ番長マクゴナガル先生が考える、お嬢さま訪問着である。

 

 うわーガラじゃない。

 

「見た目は上出来だ」

 

 あざっーっす。

 褒められたよ。

 でも、ダーリンの苦々しいお顔から飛び出した褒め言葉である。

 意訳としては、猿なのにな!だろう。

 

 そして隠蔽。

 もともと魔道具も隠蔽しているが、今回は、認知を歪ませるのではなく、本格的に姿を消す感じらしい。

 まぁそうだよね。

 気軽に遊びに来たナップザックの客の間を、十九世紀ファッションの男女がのし歩いたら写真撮られるよね。

 

 そいでコンパートメントからでると、隣で待ち構えていたトンクス姉さんと目があった。

 彼女はさすが闇祓いの卵、抗魔力が高いらしくて、このトンデモファッションが見えるようだ。

 パカッと口を開いている。

 おぉバンス姉さんもいた。

 

「うわぁ」

 

 そのトンクスの顎をバンスが下から、指で押し上げた。

 

「おはようございます、教授、お嬢さん。

 とても素敵なお支度ね。

 このまま面会許可証を取りに?」

 

「面倒事は手早く済ませたい。

 西駅に迎えが来ているはずだ。」

 

 そう言えば90年代は、ウィーン中央駅が無い。

 今はロシア連邦の頃だ。

 ベルリンの壁が崩れたのは、89年だから、うん。

 この時代って、結構、マグル側の歴史が動いていたはずだ。

 パリ方向から下車したから駅西側なんだよね。

 こっち歴史的建造物が多くて、そう、まだ冷戦時代の終わりかけだ。

 歴史、そうだ。

 思い出せワイの脳みそ!

 なんかヨーロッパ方向で事件、あったよなぁ。

 ベルリンの壁崩壊の頃の、やべぇ何か。

 思い出せない。

 東欧は、まだまだ雰囲気が違うはずで、何か、気にかかる事が...

 

 早朝のざわめき。

 カフェは開いてる。

 小さな売店に新聞スタンド。

 行き交う人々。

 車の交通量が思ったよりも多い。

 と、ざわめく朝の光りの中に、馬車だ。

 観光用のフィアカーじゃなくて、古い黒塗りに金の紋章入りのだ。

 たぶん、魔法的に隠蔽されていて、御者は仮面をつけている。

 

「予想通りだな」

 

 こちらに向けて礼をとっている。

 たぶん、視点と体の向きから、ワイに向けてだ。

 気が重いなー

 馬車の扉は開かれ、セウェルスが中を確かめる。

 それに対して御者は文句も言わず、私に手を差し出す。

 乗り込んで、内装の豪華さに、嫌な予感が増した。

 

 金持ちの強火担、それも、やばい感じ?

 

 それにセウェルスは人差し指を唇にあてた。

 まぁそういう感じか。

 んで、扉は閉じられ、静かに馬車は進みだした。

 

 隠蔽とマグルよけが施されているのか、とんでもない交通量の道をゆっくりと進む。

 

「この辺りは移民の多い地区だ。

 この通りの渋滞を抜けるとラートハウスが見えるはずだ。」

 

 ラートハウス?

 

「市庁舎だな。

 歴史建築が増えて、欧州らしい美しい街並みになる。

 その先が9区、ブルジョワの街だ」

 

 おぉ。

 

「今通っているのが、マリアヒルファー通りだ。

 石畳と古い商家が並ぶ。

 観光風に言えば、バロック風のファサード、壁の色も面白かろう」

 

 もしかして、もしかする?

 反対側の窓に顔を向けながら、彼は呟くように続けた。

 

「本の礼だ。

 低速の馬車をよこしたところを見るに、向こうも景色を見せるつもりだろう」

 

 ふむ。

 馬車の窓から見える建物の壁はパステルカラーだ。

 綺麗で可愛い。

 

 来たことが?

 

「観光ではないがな。

 少し遠いが、エメラルド色のドームがカールス教会だ。

 朝陽や夕陽に美しいと名所のひとつだ。」

 

 そいで観光案内とまではいかないが、景色の解説を彼は続けた。

 本の効果が怖い。

 これは慎重に投資しないと、ダーリンにプレッシャーを与えてしまう。

 むむむっ

 

「君の窓のほうが見えるか、ウィーン美術史美術館まえの広場だ。

 建物そのものの色が美しい。

 屋根の彫像といい、この景色だけは不変であるべきものだ。」

 

 馬車は道を曲がり、再び緑と美しい景色が流れていく。

 このあたりからゴシック様式の尖塔が目に付くようになる。

 木立が実に美しく、絵画の中にいるかのようだった。

 

 本当にさー普通の夏季休暇だったらね〜

 

「同感だ。ひと夏、時間があれば、どれほどの書物に目が通せるだろうか」

 

 ウィーンに戻ってきたらさ、おみやげ買うんだよね。

 錬金素材に錬金系の書籍はこっちがいいかな。

 お菓子も買いたい。

 

「チョコレート菓子や、凝った菓子類、アルコール、スィーツは充実していた、はず。工芸品もか。まぁ口に出せば出すほど、貢物が増えるぞ?

 たぶん、購入せずともホグワーツに直送されるだろう。」

 

 馬車の会話というか、開心術、それとも魔道具かなぁ。

 

「ここは古い魔法使いの根城であるし、錬金術の祖と言われる者共が集う。それに魔女の集いもか。ともかく何も隠す事ができぬと思えばいい。」

 

 え〜きもぃ〜

 

「..」

 

 じっと見つめ合う飼い主と猿。

 ワイの念話も読まれているなら、ここからワイは婚約者として愛を叫んじゃうぞ!

 

「横手に見える、あれがウィーンの市庁舎とラートハウス公園だ。

 夏場だけは、ああして白い椅子が置かれる。冬、クリスマスシーズンは飾り付けが美しいと、誰かがいっていたな。」

 

 し か と

 

「何が不満だ」

 

 手を繋ぐなりよぅ。

 らぶらぶ婚約者は、お手々を繋がないと、この先にいるだろう誰かのヅラをふぁいあーするの。

 

「づ…ら」

 

 たぶん、ゴシックな感じで向こうもファッションキメてたら、カツラとか付け毛してる。

 ワイ、お狐様に言うのー、人間は自然がーいちばーん!!

 

 ぎゅっと手を握られた。

 冗談とは絶対に侮らないダーリン、ちゅき!

 

「許可証を取得したら勝手にしていいが、それまではヤメロ」

 

 え〜

 

 やがて通りは落ち着いた雰囲気に。

 ブルジョワと彼は言ったが、高級な店構えや住宅ばかりになる。

 まぁどこも綺麗なんだけどね。

 喧騒は遠ざかり、馬車の音だけが静かに響く。

 

「何か個人的に欲しい物はあるか?」

 

 意味に首をひねる。

 私は物質的に恵まれているし、旅先だからと何か特別に欲しいとは思わない。

 絵葉書は買った。

 でも、そういうんじゃないんだろうなぁ。

 何が欲しい?

 正直に浮かんだ答えは、ケダモノらしい悍ましさだ。

 予想、つくよね。

 人間を支配し所有したい。

 たとえば、ダーリンをお買い上げしちゃだめ?とかね。

 しない。

 しないよ?

 できないのはわかってるしね。

 ただ、ずっと一緒に

 

 …

 

 ふぃ〜あぶねぇ

 ヤンデル魔女子さんに乗っ取られてたわ〜

 精神安定の為に、指を握る。

 

 ちょっと旅先で、寂しくなっただけ。

 彼の言葉は、もっと単純。

 なにか記念とかお土産で欲しいものある?って話。

 そいで考える。

 

 …

 …

 

 ぷぃ〜

 手をにぎにぎする。

 冷たい指だな〜

 

 浮かばんのよ。

 まったくもって、何も欲しくない。

 物質なら、あげる、与える方が満足する。

 くりかえすけどさーワイ、貢ぐ系ダメンズ育成ゲームが好きなのよ。

 まぁそんな答えをマイダーリンが欲しい訳じゃない。

 普通の女の子への、普通の質問。

 何か欲しいお土産とかある?って意味。

 

 …

 

 無い。

 ずいっと寄りかかる。

 思うよりムズい質問ですな〜

 残念。

 諦めたら、試合はそこで終了だ!

 なので、もう一度考える。

 おみやげ〜う〜ん

 

 そしたらふと、思ったんだ。

 

 貴方自身はもらえないし、買収はあかん。

 わかってる、ワイ、アニマルだけど、人間の理性はミリ残ってるぜぃ!

 欲しいもの、なにかくれるってか?

 ...

 くれるの?

 およ?

 そうだよね、彼がちょっとばかりくれるんだぞ?

 拘束具とか、魔力抑える為の装飾品型のナニカじゃないんだじょ?

 

「どうした?」

 

 ほら、ちょっとばかり本音でいいじゃん。

 どうせ、思い出ぐらいいーじゃん。

 きっと彼なら作れる。

 うん、作れるだろうし、それにきっとさ作った事あるんじゃね?

 たとえば、初恋の彼女に渡してそうじゃね。

 

 ワイが魔法薬学大好きな少年だったら、ホグワーツで手に入る材料で作って贈ってる。

 お誕生日とかさ、記念日にね。

 

 …

 …

 …

 

 いーなー

 うらやましいなー

 

 確証もないのに羨むな?

 

 いや、陰キャはやる。

 ワイのオタク脳に住まうユニコーンなら、やる。

 

 なら、私も欲しいな。

 ちょこっとぐらい、欲しいな。

 自分の分はわきまえているよ。

 わかってるよ。

 うん、なんだかね。

 それでも欲しいな。

 

「何が欲しい?」

 

 デオドラントを作ってくれるんなら、ついでにフレグランスも作ってほしい。

 

 って、伝えたら、ダーリンはムムッと考え込んだ。

 これはノーなのかイエスなのかわからんなぁ。

 ちなみに海外の有名ブランドの香水とか、外付け人格の彼女は集めてた。

 つけないで、集める方ね。

 香水瓶とか凝ってるの大好きでね。

 結局、つけない香水陳列用の棚を部屋に置いてた。

 死んじゃった後、あれってどうなったんだろうね。

 家族には渡らなかったと思う。

 きっと処分されちゃったかな。

 

 そんな事を考えていると、薄い金色の陽射しを抜けライムツリーの並木が見えた。

 木々の向こうには、白い壁の建物がチラチラと見える。

 馬車は石畳から逸れ、その並木道へと入った。

 

 マグル側も観光客がすべて入れる訳では無い。

 この時代は入場制限も厳しかったはずだ。

 この時代?

 

 …

 …

 …

 

 今、ちょっと記憶が蘇るとか、ヤメレ!!

 

 馬車は更に並木道を外れ、庭園方向へと回り込む砂利道へと入っていく。

 美しい景色を見ながら、この時代に何があったのか、引っ掛かっていた部分が思い出された。

 もちろん、この世界の歴史が私の知っている現実とリンクしているかは、甚だ疑問であるのだが。

 

 ベルリンの壁崩壊以前に、深刻な核汚染がおきている、はずだ。

 確か、86年頃だったか。

 当時ソ連領で原発が爆発、放射性物質が飛散した事故があった。

 詳細な経緯は思い出せないが、この時代はまだ、放射性物質の飛散の影響下。

 その他にも冷戦終了による混乱で核物質そのものが持ち出される事件もあった。

 なにより、東西冷戦の象徴である壁の崩壊で東の機密やロクデモナイモノが持ち出される、流出売買の危機の時期でもあったわけで。

 何で今思いだすんじゃ、関係な…くもないのか?

 

 ぜったいこれ、魔女子さんじゃないほうの、じゃぱん系アニマルの託宣じゃね?

 そもそもママ上の血筋も謎なんじゃよ。

 つーか、そっち系が意外にも、能力尖ってる?

 そいで全く不意に、頭に浮かぶ。

 

 歯。

 

 抜けた歯。

 

 汚染?

 そうか、汚染ってそっち系の汚染。

 そもそも物体Xを持ち出したのも、放射性物質みたいに目に見えない人体に有害なモノだと嫌だなぁって。

 歯が…

 遺伝子の変異

 いやいや、マジでこうそっち路線の設定世界ヤメレ。

 愛と勇気と魔法に、核汚染とかじっけん…うちゅうなの、まじ?

 

 待て、ストップ。

 

 ベルリンの壁は崩壊してる?

 核施設で事故あった?

 あ〜ジョン・レノンは〜

 株価暴落

 

 マグルの世界の情報収集すべきって事?

 

 美しき早朝の庭園。

 美しき菩提樹。

 美しき世界。

 

 美しき庭園の小道で停まった馬車の扉が開かれ、ステップが降ろされる。

 手をとられ降り立てば、無人に見えるお優雅な景色が輝いていた。

 

 傍らの婚約者に手を置くと、私は姿勢を正した。

 無人に見えるだけの、多くの視線がそこにはあった。

 

 ルイ・アームストロングの歌声が頭の中を巡った。

 ちょうどいい、余計な思考を読まれない為にも。

 私はひたすら歌詞を追った。

 素晴らしき世界に。

 ベトナム戦争は、あったのだろうか。

 バリー・レヴィンソンの映画は作られたのか?

 

 私は、どの世界に招かれたのだろうか?

 

 私は傍らの婚約者の瞳を見上げた。

 あぁ、このろくでもない世界で、君の瞳に乾杯しよう。

 

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