R15と残酷描写のタグは、予防処置と寮監先生の苦行成分でできています。
あっさりお爺ちゃん家に遊びにとんだぞー!
シリアスで終わってる、だと…
この時代で記憶している事。
私の外付け人格である日本女性が知っている大凡の話が基準の物差し。
だからイギリス人やヨーロッパ人の感覚とは乖離している。
魔女子さんにしても、ちょっとばかり昔の人たちだ。
つまり、この傍らにいるセウェルスにしても空気感として当たり前の事だよねっていう、そもそもの物差しが違うんだよね。
魔法界の事を知らんのは当たり前だし、マグルの常識も知らん。
当たり前って何?な私。
冷戦が終わった頃だよね?
ベルリンの壁崩壊が89年だ。
ソ連崩壊が去年?
技術革新がとんでも進化した頃でもある。
人工授精に体外受精。
遺伝子組み換え技術、まさにSF映画が取り上げたのは、そんな部分だ。
初期のネット構築時期だし。
携帯電話ってのが出てきた。
問題は、マグル間での紛争戦争がいっぱいあったはずだってこと。
そして原発の事故とイギリスだと、あの紛争は終わりに近づいていたけどテロがあったな。
EU統合は、まだだったか?
社会不安、戦争、時代の節目に、アレは蔓延ってきた。
あの木と儀式だよ。
嫌な感じがする。
うん、このなんとも嫌な感じ。
知らない私、大凡、妖魔の私であるけれど、性格言動は日本人の誰かにしている理由。
つまり、違和感が大切。
きっとね、純正魔法族だとわからない。
エイリアンエッグ抱えてドラゴンの卵だもんって言えちゃう訳だし。
溢れた歯を見て、そんなの別に?って言えちゃうのが魔法族だもんね。
からくりっていうか、主人格と方向性を前世で妖魔な私にしているのは、この世界がだいぶ、おかしいからだ。
そう、魔法が現実の世界。
異形が現実の世界の、住人は、いわばおとぎ話に生きている訳だ。
そしてそのおとぎ話を何かが侵食しているのに気がつけるのは、おとぎ話の外の人間だけだ。
本の外からね。
デッド・プールじゃないけれど。
つまり?
むしろ魔法界よりマグルの世界が怪しいな。
この素晴らしき世界。
頭の中で歌う。
小さなハミング。
あんな渋い声じゃないけれど。
「どうした」
この歌はある?
この世界にある?
「あぁ」
ベトナム戦争はあったようだ。
ルイ・アームストロングもいた?
そしてイギリスでヒットしてる、昔ね。
アメリカ映画はあるんだろうか?
まぁいいか、究極、私の大切な人が無事ならいいんだもの。
考えてもわからない事は考えすぎない。
そうして頭の中身を読まれても意味不明にする為にも、ずっと歌う。
グッ〜トモォォーニングッ、ベェートナムッ!!
あの俳優はいるんだろうか?
すばらしき世界に。
確か、リバイバルでアメリカでもヒット。
で、アメリカのサイコ・スリラー映画でも使われてた。
この歌は、様々な有名映画に使われている。
皮肉な歌なのに、日本人は穏やかで夢のような幸せを歌っていると勘違いしていそうだよね。
不条理で醜い争いの世界に向けての歌である。
だから、この歌が流れる映画は、不穏な題材ばかりだ。
階級社会や差別。
不穏な社会情勢。
紛争。
魔法界の血。
何もかも忘れて、貴方の目を覗き込む。
抜群の閉心術には感服する。
でも、私には無理だから、ずっと歌っていよう。
なんて素晴らしい世界なんだ。
通されたのは美しい部屋だった。
ダークマホガニーの壁、手入れされたアンティークの机。
銀の燭台。
壁には古い地図に肖像画。
羊皮紙が積まれ、時計の音がした。
見えぬ人々の視線に晒された後だっただけに、一人だけと相対すると息が漏れた。
役人だ。
もちろん、古式ゆかしい服装の、少し微笑みを浮かべた年配の魔法族だ。
相手は特段、何も余計な会話をせずに、セウェルスと握手をし、椅子を私に勧めた。
私は側のカウチに座り、二人は何やら相談と書類へペンを入れる。
頭の中では、あいも変わらず歌い続け。
簡単なフレーズを繰り返していた。
情報は与えられても、私の中心がアホなケダモノであっては理解が追いついていない。
想起する断片が、何かの暗示である事は理解している。
魔女子さんにしろ、ケダモノ成分の私にしても、ダイレクトな言葉で伝えてこない。
たぶん、どちらも確証がないので、材料として差し出すだけにとどめているのだろう。
先に答えとして固まった話をしてしまうと、不正解の場合のダメージが大きい。
つまり死に直結しそうな話ほど、曖昧にしているようだ。
ダメージ・コントロールね。
もどかしい限りだが、実際、私の知っている歴史の流れであるかどうかは不明なのだ。
ソ連崩壊による謎生物研究とかバイオハザードしてないよね?
アメリカの株価暴落と紛争介入で、ナニカホラーな事件、フィクションとかじゃない方向でおきてないよね?
とか、実際個人で心配してもしょうもない事なのである。
ただただ、ご安全に過ごしたいので、危険スポットを避けたい所存。
あぁなんて素晴らしい世界なんだ。
こうさー、夏休みロマンティックなオーストリア旅行でさ。
どきどきエロな方向で、ラブに発展するとか、あるじゃない?
それがさー
まったくもって乾いてるわ、バイオレンスだわ。
さすがに思春期入口の女の子としても、もうちょっとお砂糖がほしんだよねー。
まぁ猿だからーラブもエロも望んでないんだけどさー。
もうちょっとさー。
楽しい感じにならんのかなー。
何でリアル歴史のブラックコーヒー思い出すんだよー。
キラキラ美しき景色とか美術品探訪して、楽しいおみやげとか写真撮影して、お泊りするホテルから夜景見たりさー。
まぁこれから行く場所がねー、もう監獄だしなー。
一応、事前に質問してはいたんだよ。
ヒゲにね。
魔法族内で、ヴォルデモート卿とグリンデルバルド氏への評価に、すんごい温度差があるらしい。
魔法族の庶民は、ヴォルデモートを絶対悪としている。
悪魔、ヒトデナシ、って感じだね。
んで、魔法族の知識階級は、グリンデルバルドを危険な思想家として話題に出すって感じ。
純血貴族連中になると、グリンデルバルドは道を誤った賢者で、ヴォルデモートは破壊者。
考えるに、グリンデルバルドとは、直感型の天才、つまり情報や知識を統合して未来を理解する知能がある。
魅力があるんだろうね。
高度な魔法戦闘力、魔力量、物質変成力、冷静な判断力。
つまり、ちょっと変な方向に曲がらなかったら、ヒゲと同じぐらいのヤバメの賢者様って感じだったんだろう。
マグルで言う内政や軍事に強い政治家って訳だ。
たぶん、教育者じゃなくて大臣とかになってたのかな?
とても肯定はできないけれど、魔法族の為に行動したと考える輩も一定数いるだろう。
カリスマ政治家とか、歴史上で戦争を始めた民族主義者って感じだろうか。
だから、グリンデルバルドの話題は口にできるって訳。
でも、もう一人は違う。
典型的な恐怖政治を執り行う独裁者、それも己が思想が一番正しいと心底信じてるっていう人類誕生以来何人も登場したタイプだ。
自国民の虐殺、知識階級の粛清、国内の破壊、監視と恐怖による支配。
結果、魔法族は今に至るまで、多くの人の心に傷と影を残している。
到達地点がわからないってのが、私の感想かな。
グリンデルバルドの目標とか到達地点は理解できる。
魔法族の為に、間違った方向に突っ走ったけど、たぶん、目指す場所は良い悪いは別にして、理解できる範囲。
魔法族リスペクトだよね。
優れた魔法族による支配って奴だ。
より良き善なる世界を目指していたわけだ。テロしながらね。
やり方がね、過激だった。けど、マグルシネとまでは言っていない。
でも、ヴォルデモートになると、純血主義と言いながら、その先がわからない。
実際、どんなに拒否しようとも純血主義としてマグルを排除しても、そもそもが最初の魔女を産んだのはマグルの女性だ。
そして純血と言うけれど、歴史的に見ても、魔法族の定義は、魔法が使える人間だ。
だからマグルの両親からも産まれるし、魔法族からスクイブも産まれる。
つまりそれだけの話だ。
先祖をたどれば、純血という定義は、非常に曖昧になる。
つまりヴォルデモートの言う純血主義、マグルシネは、端から破綻してる。
じゃぁ実現したら?
実際、マグルの歴史でも、この手の恐怖政治を完遂した人物はいる。
生きている間、多くの国民を殺し恐怖に晒し、密告させ、共食いさせて国を維持したという実例がある。
そして別段天罰もくだらず、国として成り立ってしまう場合もだ。
だが、多くはその座を温める間も無く瓦解する。
正義でも暗殺でもなく、人間に永遠は無いってだけの話。
ニンゲンダモノ時が巡れば死ぬわけだ。
ただ、魔法族になると、その永遠が望めてしまいそうなんだよね。
閑話休題。
つまりグリンデルバルド氏の評価は、低くないんだよね。だからこそ恐れられてる。
ヌルメンガードってどんな所?
魔法防衛された城塞都市。
なんつーか、敵を拷問してぶっこんどくやばい場所。
魔法族の高潔な思想が開かれた云々かんぬん。
黒い魔法使い。
マグル家畜論。
魔法族保護。
善を掲げてた?
犯罪者、詐欺師、とか色々言われているんだけど、嫌っている人ってのが少ない。
予想以上にね。
闇の帝王のほうが拒絶反応が激しいっていうのかな。
たぶん、校長と対決して敗れ去り、ヌルメンガードに囚われたっていう終わり方もよかったのかな。
きっと生々しい記憶より、少し前の出来事っていうのもある。
方向性の違いもあるかな。
帝王は内向きに攻撃をしかけた。つまり同族殺しだ。
黒い魔法使いは外に攻撃をした。つまり同族は守ろうぜ、他は家畜。
内部粛清とか恐怖政治が帝王を嫌わせる原因、あたりまえか〜
「書類が揃った。特別に直通の魔法陣の使用が許された。」
んで、歌いながら色々考えていたら、手続きは終わっていたようだ。
ダーリンが差し出す手を握る。
「お嬢さま」
ん?
「長きに渡る旅路からのご帰還。誠にお慶び申し上げます。」
あ〜うん。
深々と偉そうなオジサンが挨拶、と、いうか土下座に近い礼をとられた。
うん、いいよ、いいよ。ヤメレ。
ワイ、ただのガキんちょね。
「ヴェールをあげなさい」
うぇ〜ダーリン、顔見せないとだめ?
「礼儀だろう?」
わかったー
しょうが無いので手袋越しのキスを受ける。
ベールを又、下げて、うん。
ダーリンの指を握る。
…
…
…
やべぇ。
ナニがヤベェって、あれ、犬だ。
はぁはぁしてた…
まじで目がグルグルしてた…
ワイの犬じゃないにょよ…
…
…
「正気を保て」
むっむり…
ワイのじゃないけど、ワイの親類の誰かが仕込んだ昔の犬だー!!
オジサン見た目より、ご年配ぃー、つーか校長ぐらいの年齢?ねぇ、誰の犬?
…しょ、しょうきむりーっぃ!!
ぎゃー!!!
…
…
戦前の仕込み?
パパ上の血筋、本当にいないの?
いるんじゃね?
ぜったいどっかいるだろー!!
親類、生き残ってねーとかウソやろー!
つーか、こわっ!
こっこわ!
やだー!!
ぎぃやぁぁー!!
歌を頭の中で回す。
もうスローテンポな歌じゃなくて、マジでガンガン歌い出す。
すばらしき世界じゃなくて、とっさに思いついた歌。
グレイテスト・ショーマンのラストの歌。
なんでか、感動する歌のはずなのに、今はだめじゃー!!
ヤメロとダーリンが言わないところを見るに、私の怖気がわかったようだ。
表面上は変わらんけど、ダーリンに引かれる手をギチギチに握りしめてる。
怖いと言うよりキモイーっ!
火炙り案件になるわけだわ。
婚約者とか奥さんにぶっ殺される正気の失せ方だわ。
きっとそれ以外、仕事とか他では普通で有能なのに、乙女ゲームみたいに脳みそ腐る感じ?
ワイ、犬はきちんと仕込もう。
アレは嫌だ。
ワイが死んだら解放できるように、どうにか分析をば..
「正気にもどれ。外に出る。観客だらけのはずだ」
あい…幼児化しそう。
「予想外にもショートカットを手伝ってくれるそうだ。
外の巨大魔法陣の使用許可も出ている。
バラける心配は皆無だが、意識が飛ぶ可能性がある。
もちろん、君のだ。本来ならば一番安全な移動方法になる」
優遇措置?
「そうだ。
国賓並の扱いと言っていい。
帰還に関しては別だがな。
むしろ帰りの心配は、我が国の魔法省で考えている。
問題は君の負担だけだ。
ポートキーの長距離飛躍と同程度の体内魔力干渉だろう。
ただ、安全面はこちらが格段に上だ。
物理的に移動する時間と危険を考えれば、十分なコストカットだ。たぶん、パリでの詫びもあるだろう。
この後、ヌルメンガード正面に跳ぶ。」
道案内は又も、仮面の使用人スタイルだった。
はぁはぁしてた人は追ってはこなかった。
うん、良かった…
案内された先は、バロック庭園の星型整形花壇の中心だ。
そこには薔薇のパーゴラがあり、中心には台座と水晶があった。
一見すると魔法陣に見えないが、この庭園そのものが魔法陣として機能しているようだ。
地面の下なのか、建物や置物が何かを担っているのか。
景観全てをつかっているので、私にはわからない。
中央の台座には、サッカーボールぐらいの水晶が据えられていた。
スノードームのように、中を白いキラキラが渦をまいている。
「ベールを上げて、周りを見ろ。」
水晶に見入っていたので、意味がわからず、素直にベールを顔からあげる。
そのまま見回して、ぎょっとする。
庭園を囲む位置で、多くの観客、否、魔法陣を動かすために魔力を注ぎ込む魔法族達がいた。
驚いて見回すと、皆、手を胸にあてて挨拶をしてくる。
私はあわてて、スカートを摘むと腰を折った。
「顔をあげて、見てやれ。」
仕方なく、顔をあげる。
遠くて顔なんてわからんだろう。
と、思ったが、何故かどよめきが。
「微笑め」
何をおっしゃる。
と、思いつつも、愛想笑いを浮かべながら、周りをぐるりと見回す。
…
ダーリン、犬が、いっぱいだー
こりゃぁ火炙りになるわけだねー
あははー
女性からの評判が心配だわー
ワイは違うよーははは…きもぃ
「そのまま、今、頭の中で歌っているやつを歌ってやれ。
起動には間がある。ただし、力は乗せるな。」
なんで?
「お前に近づかなかった礼だ。
皆、お前と話をしたいと考えている。
昔話、これからのこと、グリンデルバルドに会うのをヤメロとな。
だが、安全な送り出しをしようと魔力を使っている。
使わせている。
その礼だ。
お前の血に敬意をはらっている。つまり、お前の家族の味方だ。」
私がその時、考えたこと。
一族の、潰えた女たちが笑う声を聞いたような。
家族、一瞬、彼女の顔が見えたような気がした。
どこかにいるだろう、彼女。
私は…
ミュージカル映画のラスト、歌姫が最後に歌う曲。
成功や名声を得られても、手に入らないものもある。
愛や恋ではない。
一緒に喜びを分かち合える人がいなければ、たりないのだ。
少し恥ずかしいなぁって。
プロじゃないしね。
でも、皆褒めてくれるから、歌う。
これから十年以上後の曲を歌っちゃってるけど、まぁ許してね。
音楽がないから、私だけの声が響く。
最後のフレーズを終えて、礼をとる。
ハミングを続けながら、彼に向き直る。
「キーに片手を置き、私の目に集中しろ。」
あい。
片手をスノードームに置く。
目を見つめていると、何故か、彼はニヤッと笑った。
「記憶できた」
何が?
「起動時間がかかったぶん、読み取れた。
ヨーロッパ魔法族の、それも貴重な転移陣の古代語形式だ。
古代魔法陣終盤期、転送構築図の完成版であるな。
この魔法陣と古代語の構成は出回っていない。
ただ、コストを減らす改造が必要だが、再現できない事もない。」
えーっと勝手に使用しても?
「使えば知れるのは、向こうもわかっている。会話も記録されている。私への報酬だろう」
あー婚約者、というか護衛として?
「君の側に魔法族の男、犬がいる事が重要なのだろう」
うわ〜、私の一族、どんだけ業が深いんだよ。
「それだけ知られた血なのだ。私のような氏素性のしれぬ血でも、魔法族なら許可が下りるという事だ。
皮肉だが、どこまでを純血とするかは、大陸の国々で論じれば不幸な結果にしかならん」
はい、本音。
やっぱりマグルを嫌ってないんだよね。
この人、純血の差別がキライで、マグルの社会システムがキライなだけ。
究極の能力主義者だから、血に価値を見出していない。
魔法族もマグルも混血もスクイブも、彼にとっては能力が問題で、純血思想はキライだけど、魔法の世界を愛してもいる。
ダーリン、感謝してるよ。
「私の務めだ。それに私のほうが、君の恩恵を受けている。礼を言わねばならんのは…」
言いかけて、苦笑しあう。
私達は、かけ離れているがわかりあえる。
歌姫よりも、この瞬間、私は幸せだ。
わかりあえる相手がいる。
それだけで十分だ。
そいで転移魔法陣、ホグワーツに作るつもり?
「騎士団経由の許可ならいける」
生徒の安全面は?
「生徒を緊急時に一度に安全に場所指定で転送できるとなれば?」
許可おりそー
とか、話しているうちに暗転した。
***
転送直後、周囲の安全を確認する。
防御体勢から、サーチ。
人の気配も、起動した魔法陣の名残も一切ない。
冷気を感じ、娘に保温をかける。
それと同時に、荷物からブランケットを取り出し包む。
想定内ではあるが、ため息が漏れた。
予想以上の歓待だ。
皆、彼女に群がることなく、儀礼と手続きに徹した。
彼女は役人と勘違いしていたが、あれはウィーン宮廷魔法師の長だ。
ドヴワティーヌという一族の女性に対する徹底した敬意だ。
本来なれば群がるところを押さえ、未成年への配慮をした。
もちろん、ヌルメンガードに送り出したくはない。
ここへの監視も従来とは考えられないほど用意されているだろう。
彼女が戻らぬとなれば、どのようなことになるか。
歌わせたが、多分、歌の教師が手配されたはずだ。
教師を、何者かを忍ばせてくるだろう。
魔法師の長からの挨拶に怖気を覚えていたようだが、たぶん、それも含めて相手は好感をもったはずだ。
あまりにも可愛らしい反応だった。
支配を望むであろう愚か者が、いい歳をした男であろうと犬は犬であろうに。
それに慄くとは、やはり子供である。
悪意も欲もたりない。
彼女が歌い出すと、皆、聴き入っていた。
どこか不幸な匂いのする歌であった。
ただ、それがよかったのだろう。
先に歌っていた歌詞であれば、幸せに満たされているように勘違いしたかもしれない。
かわりに彼女は美しい歌声で、心の埋まらない部分を訴えた。
その力強い歌声とは裏腹に、何も私には無いのと歌い上げたのだ。
皮肉な感情がわく。
貢物は山となろうし、ホグワーツへの投資が始まるのが目に見える。
これでダンブルドアも、騎士団の資金に困らずにすむ。
と、そこまで彼は考えていただろうか。
もともとあった好感と彼女の価値があがれば、彼女を生贄にする算段をする事はあるまい。
死んだ妹に似ていると、欠片でも縁を探す年寄も無慈悲な事はするまい。
彼女を犠牲にと考えれば、彼の政治的な働きかけに邪魔が入るだろう。
それにグリンデルバルドの思惑は、ある程度、既に知らされているようだとわかった。
ダンブルドアもヨーロッパ魔法族も、グリンデルバルドの意識が生き返ったことを。
グリンデルバルド自身が、先に伝えているのかも知れない。
彼は無駄な思考を止めた。
魔力のゆらぎを感じる。
身構えていると、背後に人の気配が現れた。
ゲートの見張りか。
「お嬢様はご無事にございますか?」
「許可証の確認を」
「このまま内部へ?」
「雪が降る前に中にはいる。体調が思わしくないなら、私が治療する。それに理由があれば、長居をせずにすむ」
「確かに」
と、やはりウィーン宮廷魔法師の刺繍入りローブを着た男は笑った。
相当高位の者を示す錦の衣は、見張りに山中に籠もるような立場では無いとわかる。
天気すぐれぬ空を見上げると、男は指さした。
霧が流れ、ここが山岳地であり切り立った崖と谷を背にしている事がわかる。
そしてその先に見えるは、重力を無視して聳える城塞であった。
距離は思うよりもずっと近く、徒歩で直ぐに入り込める場所に転移をしたようだ。
本来なれば城塞の防御機構に触れて陣の展開もできぬであろうが、それも力技でねじいれたか。
黒味がかった花崗岩の石材は魔力を吸っているのか呼吸するように鈍く光る。
そのさまは蜷局をまいた生き物のようだった。
少女を抱え直すと、そのまま躊躇いなく城塞都市へと向かう。
道とも言えぬ半ば朽ちた石畳の残骸を踏みしめ、ちらつく湿った雨とも雪ともつかぬ中を歩く。
すると正面門に巨大な石碑が見えてくる。
黒石の門上部には、あの文字だ。
For the Greater Good
ルーン文字のような装飾を伴い、魔力で光る赤銅色の文字だ。
再び、くだらない冗談を聞いたかのように、彼は笑いをこらえる。
少なくとも闇の帝王よりは愚か者ではない。
背後で宮廷魔法師の男が歩みを止めた。
「城内に入れるのは許可された者のみです。我々は外から監視を続けます。異変があらば呼びかけてください。そうして招かれれば入る事ができます。」
まぁ古今東西、招かれれば入り込めるのが魔法契約だ。
だから内部に人を置かない。と、いう理由でもある。
そうしてスネイプは、ヌルメンガードに足を踏み入れた。
吹き付ける冷気は和らぎ、そこに広がるは城塞の外郭である。
魔除けのルーンが刻まれた石壁、この都市そのものが魔法陣の一部と言われている。
すべてが興味深いが、彼は素早く辺りを見回す。
見張りの塔は六基、見た限り、魔法的な繋がりが中空に見える。
未だにこのヌルメンガードは機能を維持しているようだ。
その主が虜囚として囚われていようとも。
通路は居住区へと続く細い街路が右手にある。
突き当り方向に見えるのは修道院のような建物だ。
魔力灯も薄暗い場所に灯っている様子から、完全な無人とも判別しがたい。
天井は低く、窓は狭い。
少しそちらに向かって歩を進める。
どうせ誰か、いや、何かが招く方向を指し示すだろう。
腕の中の少女の顔色は悪くない。
呑気な顔をして目を閉じている。
繋がる意識からは、少しの疲労が伺えた。
考えるまでもなく、少女には無理をさせていた。
その言動や考え方で忘れがちだが、彼女は体力のない子供だ。
見知らぬ人、場所に置かれて心休まるわけもない。
そしてなにより、こんな場所に来たくもなかろう。
遊ばせてやりたいような気もしたが、それはそれでもロクデモナイ事になるのはわかっている。
だが、子供が夏休みに、このような場所を訪れるのは不憫だとも思った。
歌っている声は少し震えていた。
失われた家族を考えていた。
微笑んで歌いながら、ひどく、皮肉な気持ちが彼を満たす。
諦められないという歌が、諦めているのと聞こえた。
こんな場所から、連れて帰りたいと思う。
が、それと同時に、こんな場所に追いやる為につれてきたのは自分だった。
自分が不幸にする予感が振り切れない。
酷いことに、それが嬉しいような気もしていた。
聴き方によっては、悲鳴にも聞こえる歌だった。
諦めているのと心が伝わる。
なのに、ありがとうと少女が言う。
何故か心が痛み、喜びがわく。
酷い話だ。
無人の街並み、その中央には薬草院らしき古い建物があった。
工房、小規模の塔、市場は無い。
中世の城に迷い込んだかのような錯覚を覚える。
だが、それほど古いはずはない。
と、燃える松明の油の匂いがした。
ゆらゆらと奥の通路から揺れる炎が見える。
様子から小さなゴーレムのようだとわかった。
案内人だろうか。
それは遠くで立ち止まり頭を垂れた。
子鬼ほどの木の人形である。
「お客様方、ご案内をいたします」
木の人形でありながら、それから漏れ聞こえる声は、女のものだった。
不自然であり、ヌルメンガードらしいとも思えた。
そこから城内への入口らしき中央棟部分へと案内を受けた。
今のところ害意も人の気配も無い。
無人であるとは聞いている。
人間以外、そして入り込んだナニカはいるのであろう。
正式な招待客はいないとの話だ。
地下牢や水牢、拷問部屋や監禁部屋に、招待客も干からびた死骸も置かれていない。
若い娘を招いても、問題ない程度と伝えられている。
だからこそ、ダンブルドアもこの面会を許したのだ。
進む先の黒石のアーチに、ルーンが光る。
「招かれざる客は通ることができません。
誓いのルーンが警告を発し、攻撃を始めます。」
ルーンの古い様式が学べると、スネイプはゲートのルーンに目を凝らす。
脈動する古代ルーンは、反転魔法陣術式と重ねるように複雑な円環が作られていた。
それをくぐり、高いヴォールト天井の前廊に入る。
足音の響きも消え、冷ややかな空気が少し温度を戻した。
Judgmentと名付けられている中央ホールに抜ける。
掃除は行き届き、人の気配は無いが景観は保たれていた。
垣間見える中庭には魔法障壁の井戸が、部屋奥の壁には呪術陣らしきものも見える。
尖塔に続く階段が四方にあり、壁に置かれた絵画や歴史が伺える調度はそのままだ。
争いの後の略奪などは、このヌルメンガードの置かれた場所が特異すぎて、起こらなかったのか。
「復元を行い、我々自動人形が管理をいたしております」
「誰の指示で」
「ここの主は一人にございます」
虜囚であるが、それで黒い魔法使いが不自由をしている訳ではなさそうだ。
「一旦、お休みになられてからご面会といたしますか。
お嬢様の体調も整えられた方がよろしいのでは?」
「要件を先にすませたい。彼女の意識を覚ます事は簡単だ。」
人間の使用人なら、呆れた目を向けてただろうか。
だが生憎と目も鼻も口も無い木偶人形である。
そのままスネイプは、幽閉区域へと向かった。