おとぎ話の末裔   作:C&Y

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寮監先生&人外生徒の明日はどっちだオーストリア旅行編。
R15は、予防処置と寮監先生の苦行成分でできております。

シリアスなはずなのに、シリアスにならないのは仕様でっす。


閑話 拷問牢獄城塞都市見学ツアー ⑪

魔術的仕掛けで埋め尽くされている。

裁定や尋問の儀式、誓言の強制を強いる魔法陣。

思想の中心地とされていたが、まぁ想像通りの場所だ。

塔の一つに案内されているのだろう、細い螺旋階段を昇る。

 

抱える少女は安穏と眠り、彼はなんとなく思う。

起こせば、この虚しさは消えるだろう。

きっと思い煩う様を笑い飛ばしてくれるだろう。

悲しみも苦しみも知らぬと言わんばかりに。

悲劇など起こらぬと、うそぶいて。

可愛らしい嘘をついてくれるのだ。

だから眠らせておきたい。

いつも愚かなのは男たちだ。

 

踊り場の窓からは、寒々しい景色が見えた。

それでいて薄暗さより、何故か明るさを感じた。

先を進む人形の足音以外、音が無いからだ。

 

多分、呪文を吸収する呪いが仕込まれているのだろう。この通路で魔法を使う事を困難にさせる、威力を落とすためだ。

本来なら警戒すべきことだろうが、何故か静かな事に安らぎを覚えた。

 

彼女を抱え、窓の外を見る。

悍ましい場所であるのに、終わりの気配は安らぎを含んでいるのだと知った。

何もかも終わってしまえば、きっとこんな風に安らげるのだろうか。

ただ、それは生きようとし、恐れをこらえて笑う者には、まだ早い。

彼は、再び階段を登った。

 

虜囚の部屋の前、小さな石板には同じ言葉が刻まれていた。

大いなる善のためなら犠牲は必要であろうという文字が、虜囚を嘲笑っているかのようだ。

見た所、宣誓による虜囚の魔力を弱める効果と精神への負荷が伺える。

大いなる善の為に、犠牲になれ。

 

ダンブルドアの皮肉だろうか。

それとも同じ思想でありながら、破滅へ向かった男を見ての戒めか。

 

「同じく威力減弱の効果が面会者にもございますが、もともとこの塔においては魔術行使を妨げる術式、そして虜囚となられた主の移動ができぬ仕掛けがございます。

また、攻撃などの行動をとられますと、ゲスト資格が失われ放逐となります」

 

木偶人形の言葉に、それが本当にゴーレムであるのか、疑わしいとわかる。

閉心術は常に展開していたが、読まれて良い思考だけにする。

 

「読んでいるのかね?」

「いいえ、読むのではなく、先を見るように作られております。」

「わかりやすくお願いできるかね」

「ワタシめは、主様の耳目にございますれば。」

 

なるほど。

虜囚であるが、自由。

ヌルメンガードは檻であるが、グリンデルバルドは自ら敗北を認め、隠遁しているだけなのだ。

もちろん、それはダンブルドアが生きて、ここを閉じているからでもある。

 

檻というには魔法障壁があるだけだ。

寒々しい部屋には、簡素な机と椅子、それに木の寝台のみ。

見る限りバスルームらしき小部屋は、死角となる奥まった場所にある。

プライバシーはあまり保たれていないが、ここに人は来ない。

ならば、十分だろう。

物は無く、細い窓から雪を纏う峰々が見えるだけだ。

何か寒気を入れぬ魔法が組み込まれているのか、火の気はないが、通路も含めて寒さは無い。

暮らすのに不自由はなさそうだが、ただそれだけという有り様だ。

暗い牢屋を思い浮かべていたが、採光がある納骨堂のようだった。

 

そこに座る人物は、痩せ枯れて見えるが、別段、死者にも見えず、老人と言うには存在感がありすぎた。

灰色のローブに灰色の長い髪。

顔色も白く瞳の色もグレー。

長々と見つめるスネイプを見て、相手は少し面白いという風情で唇を歪める。

半世紀虜囚として腐り果てていたとは、欠片も見えない。

むしろ、こんな場所で発狂もせずに、一日思索に耽り、何をしていたのか。

魔力を日々吸われながら、耳目を閉じられているとも思えない。

つまり、自ら敗北を認め、自ら隠遁し、この場所にて日々、何かをしていた。

ゴーレムどもを手足にして城塞を管理し、外の人間ともやり取りしている。

梟を飛ばし、ドーバー海峡を渡らせるというふざけた事までしてくれた。

これの何処が虜囚と言えよう。

 

「事実、私はここから動くことはできない。イギリスに渡れば、アルバスに殺されるだろうね」

 

ため息。

 

開心術ではない。

注意事項は聞いている。

この詐欺師は、人の思考を読むのだ。

開心術ではなく、己が知能だけで。

 

「君の事は知っているよ、ヘル・プリンス」

「初めまして、ミスター・グリンデルバルド。セブルス・スネイプだ。」

「どうも、ヘル・プリンス」

 

にやっと笑われる。

何も返さずにいると、相手はゴーレムに指を振る。

すると何処からともなく数体の木偶人形が、そこそこ大きな長椅子を運んできた。

それを室内、魔法障壁の前へと置き、わざわざ、小さなクッションまで供えた。

 

「フロイラインをそこへ」

 

躊躇う気持ちもあろうが、それをも読まれてはならぬと、スネイプは彼女を横たえた。

頭の位置を直していると含み笑う声が聞こえた。

 

「可愛らしい子だ。ヴィンダにも似ている。賢く美しい彼女にね」

 

感情の揺れを見せぬように、スネイプはゆっくりと振り向いた。

 

「そう、彼女はヴィンダ・ロジエールの妹の血縁になるね。

彼女も良い子だったよ。

美しくきらきらと輝いていたね、ただ、少し変わっていた。

君は知っているかね?」

 

「いきなり本題ですかな」

 

「帰りたいのだろう?

彼女をここに連れてきた。

顔を見た。

ほら、もう終わりだ。

君は帰りたがっているね。

傷つけたくない。

彼女をね」

 

スネイプはグリンデルバルドの資料を事前に読んでいた為、ロジエールの事は知っていた。

彼の側近、フランス人女性でグリンデルバルドの活動を支えていたが、最後は行方不明となった女性の名だ。

だが妹の名はなかった。

ヴィンダ・ロジエールに近しい誰かがブラックと縁付いた。

グリンデルバルドの言葉を信じればだが、ドヴワティーヌは…

 

そこまで考えて、至る。

マルフォイが彼女に敬意を払えと息子に言い、何故、直接干渉を避けているのか、だ。

妻やベラトリックスと、思うより近しい親類だと気がついただけではない。

 

まずい。

と、スネイプは無表情の下、閉じた心の片隅で呻く。

 

あらゆる可能性が開かれる音を聞いた。

それも厄介ごとの可能性だ。

だから奴らは、己が血に入れることは拒むが、切ることは無い。

できれば縁を持ちたいし、彼女の子を欲しがってもいる。

ダンブルドアは知っていたな。

そしてこの面会の意図は、当初よりも重い。

もしや…

 

「そうだよ、簡単な話だ。彼女には私の血も混じっているんだ。ひ孫かな?」

 

聞かせてくれるな、と咄嗟に思う。

まぁ読まれても良い心の動きだ。

嘘か誠か。

相手はきっと、自分が何を考えるかを計算しているだろう。

そして、ある程度の整合性がある事をこちらが認めるのもわかっている。

 

「ロジエール家にはドヴワティーヌの、魅了の血が入っておりませんが?」

 

足を組み、指を頬に当てるとグリンデルバルドは首を少しかしげた。

 

「アルバスは、そこまで調べなかったのかね?」

 

三通りの事が考えられる。

いつも通りの秘密主義。

本当に洗い出せなかった可能性。

この男のいつもの嘘だ。

 

「ヴィンダの妹は父親違いだ。

どうしてもその血が許せないとロジエールを名乗る事を認めなかったのだよ。

問題が起きた時も、こちらに留めるよりはと、国外の縁を組もうとした。

だが情けない事に、君のような強さをもった男はいなかった。

女一人に腰が引ける有様だ。

日頃名門を謳うブラックにしてもね。

高貴すぎる血はいらぬと。

冗談かと思ったけれど、どうやら彼女の血筋の価値をわかっていなかったようでね。

当時も笑ってしまったよ。ブラック程度の血筋では無理らしい。」

 

齟齬は拾えない。

 

「帰りたいけど、帰れないね」

 

くそっ、全部がきれいに嵌る。

彼女を呼び立てた理由もだ。

何をする気なのか。

何を企んでいる。

疑問はそのままに、閉じる。

 

「まぁ一族の男どもに釘をさしたのもあるのだろう。ヴィンダの妹は縁組から外されて、他のロジエールの子が海を渡ったんだよ。

ヴィンダは、まぁ静かに怒っていたね。

仲は良かったんだよ。

妹の方は顔を潰されたというのに、許していたね。

ヴィンダの方が悲しんでいた。

妹はマグルの男と添い遂げたかったのに、その男が殺されてしまった。だから、せめて家族を作ってやりたかったとね。」

 

そして男は、なんとも言えない笑いを浮かべた。

 

「だがね、その後がいけない。

私のところに連れてきたんだよ。

貴方になら、誰も差し出口をしてこないだろうとね。

当時だって若くはなかったんだよ。

婚姻は無理だねと、これでも欠片の良心はそなえていたんだよ、あの頃もね。

そうしたら怒られたね。

どうもね、子供の父親候補に上がる下僕が殺されてしまうようでね。

婚姻も望めないなら、せめて生きて子種を撒ける男で、生まれた子が殺されない血筋が良いとね。

むしろ私の子だとろくな目にあわないと、まぁ当時も伝えたんだよ。」

 

そこまで言ってから、スネイプの視線に何を読み取ったのか、グリンデルバルドは、笑った。

 

「断ればいい?

じゃぁ聞くよ。

君のお姫様から望まれて、身一つの君は断れるかな?

 

あぁ君は断るだろう。

帰りたいと、彼女を傷つけたくないと思っている君は、断るだろう。

じゃぁ、質問の言葉を変えよう。

 

己が命運が潰える前に、子供を残したいと言われたら?

愛を望まず、特別な、貴方の子供を欲しいのだと願われたら?

厄介事だと分かっていても、君は断らないだろう。

 

違う?

それはご立派だね。

 

でも、私は特別が好きなんだよ。

特別にいじらしい人間がね。

愛は望まないと言いながら、貴方だからだと伝えてくる。

私は、彼女の狡さといじらしさが特別に思えた。」

 

無言の相手に、男は思い出すように続けた。

 

「当の彼女は子が作れるなら、こんな年上の男でもいいと、まぁ無邪気なものだったけどね。

何が気に入ったのかね。

あの性質は、アズカバンにいる子と似ているように思えるね。

まぁあの荒々しさはなかったけれど。

私の子ができると、男を従えて去っていったよ。

実に美しく儚く、まぁ特別だったよ。

その子はどんな子かな?」

 

「名を、その妹の名を。」

 

「ふふっ、怖がっているね。

あぁ、私はもう、傷つけないよ。

私はね。

傷つけるのは、彼女の特別な相手だけさ。」

 

「名を」

 

「フルール・モンパシエ。ブルボン支流の貴族だね。

ドヴワティーヌとは魔法界での通り名、偽りの家名になるね。

今は無い滅んだ村の名だよ。」

 

そこで男は、視線を床に落とした。

苦々しいという感情を見せてくる。

 

「そうだよ。

ドヴワティーヌ、よろしくないね。

非常に、よろしくない。

だから彼女は、本来モンパシエと名乗るべきだ。

彼女の叔母、行方不明だという叔母君は、モンパシエと名乗っている。

スクイブだから、かな。

そこも考え違いさ。

マグル側の戸籍で少し手心が加えられたのかな?

おおもとの家名は、その村とともに消えて、後に嫁いだモンパシエの名になったという経緯さ。

そうだね。

きっと戦争の混乱で、ドヴワティーヌの方が公式に記録されてしまったんだね。

ドヴワティーヌとは今で言う名無し…と同じだ。

本来の名を恐れたという事もあるかな。

闇の帝王とやらと同じさ。

通り名で彼女達を呼ぶのが社交界の話だったのさ。

まぁ魔法族からすれば、ドヴワティーヌという名の方が通っているから、あえて、かもしれぬ」

 

ある意味、娘の才能、血の呪いは当然だったとなる。

真実ならば、だが。

 

「何を考えておられる?」

 

「老人の戯言だよ」

 

老いたならば、外の出来事を把握し、渡りをつけては来ない。

そしてこの城塞を整えて、隠遁を楽しんではいまい。

 

「実に楽しそうですな」

 

「そうだね。実に楽しい。

楽しくなったのは、去年の春だ。」

 

言葉を切ると男は、細い窓の外を見やった。

 

「詐術ではないよ。

春に、啓示を受けた。

それだけだ。

それ以前は、君たちが考える囚人がここにいた。

老いさらばえ、死を見つめ、ひとり耽溺していたよ。

城塞も君が考えるように朽ちていくだけだった。

朽ちねばならぬ多くの物とともにね。

貴重であるが、表にだせない品々、異端の魔法やそれに連なる様々な財物とともにね。

敗残者である事を楽しんでいたんだろうね。」

 

色素の薄い姿を見ていると、スネイプは確かに似ている事に気がついた。

彼女の肌の色、髪の色。

確かに、この眼の前の男に似ていた。

独特の配色は、ここから来ているのかもしれない。

もしかすれば彼女の父親は、もっとこの男に似ていたのかもしれない。

 

「啓示とは」

 

「君たちも、知っている通り。ひとつの予言が消えたのだろう。

それよりも少し前だ。

私は雪に閉ざされた、この場所にて、ゆらぎを知った。

ひとつの未来に進む道が閉ざされて、可能性の道が開かれた事をね。」

 

「凡人にも理解できるようにお願いできますかな?」

 

「予言とは確定未来を指しているのではない。

だからこそ観察が必要だ。

私は、ある意味、確定した過去によってここにいる。

そしてこの先には死という、ゆらがぬ末路が控えていた。

確定未来ではないが、限りなく定めとなっていた答えだね。

だが、そこに揺らぎが生じた。

ありえない横槍だった。

この私でさえ、信じるのにしばらくかかったよ。

信じられずに、城中の自動人形を稼働させ、外に働きかけるぐらいには、だ。」

 

「先視をしたと?」

 

「夢さ。

夢を見たと思った。

現実そっくりでね。

こちらの私が夢で、あちらの私が本当に生きているかと思ったよ。

夢の中の私は、君たちが大切にしていた予言の中で役割を果たし、死んだ。

だが、その夢にて殺された私の時間が巻き戻り、冬に閉ざされたあの日になった。

私は鏡を見、屍のような己の顔を見る。

すると、私は誰かと話していた。

君たちの予言ではない。

違う流れの中で、誰かと話した。

目覚めてみれば、この牢獄で代わり映えの無い朝であった。

奥の鏡、割れぬ鏡に向かって己をうつしてみれば、面白い事に、見えた。

違う死に様がだ。

笑えたね。

酷く笑えた。

私の死の刻限が変わったのが視えたんだよ。」

 

「己の死を見たと?」

 

「君は今、私が虜囚として、この場から逃げる為の詐術を用いていると考えているね。

私はね、敗れ去った時、確定した未来を見た。

私が死ぬ姿をね。

そして世界は変わらぬと知った。

だが、それは消え去った答えの一つとなった。」

 

「消えた答えとは?」

 

「聞いても信じられないだろうね。

私は、トム・リドルに殺される運命だったね。

あぁ闇の帝王とか、そういう言い回しはキライなんだよ」

 

この言葉を吟味すまいと、スネイプは質問を続けた。

 

「今は?」

 

「ふふっ、予言が変化したのはわかった。

では、何故か?

私は気になった。

夢がね。

そうすると、色々、面白い話が集まってきた。

私が欲しかったのは、マグルの新聞と魔法族の社交界の噂話だ。

監視が気にする政治的な話じゃない。

ゴシップさ。」

 

彼はちらりとドヴワティーヌを見やった。

 

「夢の中で、彼女と話したよ。

だから、会ってみようかと思いついた。

アルバスへの書簡は書いてある。

あとで人形から受け取ってくれ。

私が視た、ひとつの確定世界の終わりと、これからの事だね。

まぁ真偽は、アルバスに判断させると良いよ。

 

わかっているよ、君は帰りたい。

彼女と私を結びつけたくない。

君は、とても帰りたがっている。

 

わかるよ、わかる。

 

形は整った、もう、ここには二度と来ないつもりだね。

残念だ。

君の希望は通らないだろう。

さて、彼女が目覚める前に言っておこう。

安心したまえ、私から、血縁だとは名乗らない。

だが、ひとつだけ気にかけてほしい事がある。

彼女のためだよ。

 

彼女の家名は、三つのうちどれを選んでもいいと伝えておくれ。

今ならロジエールも彼女の名乗りを許すよ。

皮肉な話さ。

嫌った特質こそが純血の証だ。

特別な血の集大成だね。

まぁ当たり障りがないのがモンパシエかな。

目立たぬし、障りがない。

ただ、誰も使わない可能性があるね。

そうなるとドヴワティーヌを打ち消す力が弱い。

そして我が名だね。

私も悪名ながら名としては、そこそこ影響力があるだろう。

厄介事が増えるかも知れないけれどね。

ドヴワティーヌと名乗るのはね、あまりおすすめしないよ。

結婚して相手の家名にするのもいいかもね。」

 

「どうしてですかな?」

 

「名無しと名乗るのは、不幸を呼び込むキーワードだからさ。

君ならわかるだろう。

名とは、魔法族においては非常に意味がある。

そして知らず名乗っているが、名無しと名乗るのは、我は死者なりと言っているようなものなのだよ。

我が名は罪人であり忌まわしかろうが、死者とは名乗っておらぬからね」

 

冴え渡る瞳を見返しながら、スネイプは、どこかで納得をする自分を感じた。

 

我は死者也。

 

ドヴワティーヌが失われた村の名であり、死体に仮名をつけるような名だとするなら、それはやめるべきだ。

己を呪うようなものである。

過去の記憶、つまり死者の記憶も原因か。

そして妄執を向けてくる男たちが口にするのは、その名だ。

我は死者であると女たちが名乗ったのは、殺され続けてきた末の皮肉のようなものではなかろうか。

 

「君は教育者だね。若い者に死者の名を名乗らせるなぞ、不健全。と、考えているね。

悪徳に身を置き倫理を尊ぶ。

君も、特別に面白いね。アルバスが手元に置くわけだ。」

 

ほっとけ、死にぞこない。

などと彼が考えていると、彼女が目覚めた。

思わずため息を吐く。

あぁ、これで会談は終わりだ。

手綱を引き絞り、余計な事をさせぬようにせねば。

スネイプは、静かな時間の終わりを惜しんだ。

 

***

 

すっきり目覚めるワイ。

暖かいし、なにやら良き香り。

白檀みたいな香りがするなり。

んで、見上げるとダーリンがワイを覗き込んでいた。

おぉ、いつもどおりのしかめっ面に不景気なお顔。

そいで狩人衣装も麗しいね、ダーリン。

 

『おはよう?』

 

「朝ではない。」

 

およ、えっと何だっけ?

息苦しさから、コルセットを感じる。

あぁ、思い出してきたぞー転移魔法陣でショートカットね。

んじゃ、起きるかぁ。

ここどこ、いまいつ、あれ、あれれぇ?

 

キラキラと透明の硝子じゃない何かの向こうに、上品なお方が座っていらっしゃる。

お若き頃は、さぞや美男子でブイブイ言わせていたであろうゲルマン民族が一人。

もしや?

 

「グリンデルバルド氏だ」

 

おぉ、ご挨拶、お爺ちゃんにご挨拶〜。

 

「ごきげんよう、フロイライン。このような場所まで呼びつけてすまないね」

 

おんやぁ?

何か、思ってたのと違うにゃ〜。

プレッシャーゼロ、ヒゲと会ってる時と同じ、ほんわかな空気。

ねぇねぇ、ダーリン、何か、想像してたのと違うね〜。

 

「言っておくが、思考は読まれている」

 

面倒無くていーじゃーん。

グリンデルバルドおじいちゃん、おみやげあるんだ〜、誰に渡せば届くかなぁ?

 

って聞いたら、指パッチン。

ニコって笑っている。

本当に読まれてるなぁ。さすが黒い魔法使い様だぜ。

 

「自動人形に渡してくれ、監視が検閲してから私に渡すだろう」

 

お手紙もあるんだよね。

校長先生からの。

検閲はやだなぁ。

 

「あぁ、それは彼女に、ゲルダ」

 

おぉ、ちょっと大きめの人形だ。

 

「お嬢さま、私めにお渡しください。」

 

んで、銀のトレイを差し出される。

お手紙はそっちへ、差し入れその他は、他の自動人形に渡した。

もりもりである。

ヒゲがね、そりゃもうど偉い量をよこしてやんの。

でもね、その分、こそこそと拡張軽量といろいろ魔法を付与してくれたのである。

ダーリンに内緒で、こそこそしてたのはそれね。

 

「君の荷物の殆どがそれか」

 

ダーリンの表情が引きつっている。

まぁお土産と言うより、引っ越し荷物ぐらいあったりする。

私の荷物がそもそもマクゴナガル先生が選んでくれた衣装ぐらいだよ。それだってワードローブ的に、とんでも無い量だよ。だからマクゴナガル先生が、最初から拡張した旅行鞄をくれたわけでさ。

そこにヒゲがこそこそ、さらにトンデモ容量をぶっこんでギガマックスな感じにしたんだよ。

お手紙以外の差し入れが貢物レベル。

ふたりってどんな関係なの?って疑問。

 

「読まれていると言っているだろう」

 

読まれても、痛くも痒くもないでしょ。

こんなちっさい会話で、すんげぇ魔法使いのおじいちゃんが憤慨するなんてないよ。

憤慨するなら、器ちっせぇって笑うし。

そいで話は戻るけどさ、だから私の必要な物なんて、全然ないんだよ。

お財布と杖ホルダーだけでイイんじゃね?

殆どが校長からのおみやげに侵略されてるし。

これで帰りにお土産いっぱいいれられるぞー。

 

「アオイ、少しは考えてくれ」

 

およっ?

珍しく名前呼びだね、セウェルス。

 

「筒抜けだと言ってるだろう」

 

あのね。

たぶん、検閲なんて意味がないくらい、普通の嗜好品とかあったか毛布とかだよ。

レモンキャンディーも定番で入ってるしね。

たぶん、お友だちへってだけ。

毒も何も仕込まれてないよ。

んで、貢物を見つめて、ちょっと驚いてる黒い魔法使い様に向き直る。

 

『どう、いった、ごよう、で、よばれたの、ですか?』

 

私の喋る様子に、相手はダーリンを見た。

 

「調べたのでしょう?」

「いや、守護が?」

「方便ばかりでは無い、この場所に長居したくないのは、体内魔力が崩れるだろう事もあるからだ」

「そこまでは考えていなかった。

私の過失だ、詫びよう。

許可が出れば、私でも間に合う。

発言の証拠にもなるだろう。

この事もアルバスに伝えておいてくれ。

もちろん、今もできるが。」

 

何の話?

 

「これが最後だ。檻を開けることは無い。むろんこちらにそんな権限もない」

 

「このままでも、不可能ではないよ。

だが自重しよう。

それまでに街を復活しておこう。

本当に危ういなら、ここは一等安全だ。

それにしても、トム・リドルが消えた後で幸いだったね。」

 

「どういう意味ですかな」

 

「よかったじゃないか、ヘル・プリンス。

耐えられぬ痛みを知った後で、もう一度、痛みを味わうのは地獄じゃないかい?

二度目はない、よかったねぇ」

 

それにダーリンの顔色が悪くなった。

何、何の話?

 

「フロイライン、君の保護者がかけた隠蔽は、実に強固だという話だよ。

ご両親は、君のことを心の底から愛していたんだよって話さ。

きみのご両親は、イギリスに近寄らなかった。

君の叔母さんだったかな、争いごとが終わったから身を寄せたんだよ。

彼の時代は、実につらい時期だった。

君がそんな時期に遭遇しなくてよかったねって話したんだ。」

 

えぇ〜そうじゃないよー

 

「ん、どうしてだい?

闇の何とかなんて、変なやつがいない時代でよかったじゃないか」

 

同じ年代だったらさー、もっと長くセウェルスと一緒にいられたわけじゃん。

子供の頃から一緒だったらさーもっともっと楽しく過ごせたじゃん。

ワイ、プライマリーで一緒だったら、たぶん、彼の幼馴染と友達だったよ。

彼のラブな幼馴染の女の子ともさ、ワイワイできた。

例えホグワーツで別の寮になっても、ワイ、きっと友達になってたし。

そうだよ、ダーリンの邪魔する男も犬にしてやるし。

 

「アオイ」

 

ワイ、スリザリン生だもん、いっしょのクラスでいっしょの授業受けられてたじゃん。

それ、すんごく楽しい!

きっとちびっこの私だったとしても、きっとね。

怖いことあったってさ、そんときは一緒にいればいいんだよー!

子供の頃なら、私の力も抑えられてたし、今みたいに慣らしていけばさ、きっと夏休みだって冬休みだって、一緒にワイワイできたんだよ。

ついでにいえばさ、闇の帝王なんかに友達、とられないもん。

ワイね、強いんだよ。

普通の男には、負けないしぃ。

マーガレットも、パパとママ、彼の大切な人もさ

きっとね、もっときっとさ…

 

まぁ、これから学校にいる間は、ずっと一緒だけどね。

でも子ども同士なら、一緒に勉強したり遊んだり、あれ、そんなに変わらない、かも。

怒られるのも、一緒……の幻がみえるぞぅ

 

ってな思考を巡らせてたら、何故か、ダーリンが私の頭に手を置いた。

無表情で、瞳孔開いてる。

こわいよ、その顔。

ゴンゴンの準備運動?

 

「良い子だね、うん、よいこだ。

お喋りなところも、似ているね。

私はね、つまらない人間だから、だからこそわかるよ。

君は、私の知っているフルールと同じ輝きをもってるね。

君は、実によいこだ。

そんなよいこには、きっといいことがあるよ。

そうだ、何か欲しいものはあるかい?

私があげられるものは少しだけれど、この城の、街の中で好きなものをあげよう。」

 

「冗談ではない!」

 

何故か、シリアスにダーリンが叫んだ。

叫んだよ、この人。

 

「無効だ。

お調子者の君も、そこな虜囚も、いい加減にしたまえ」

 

ひでぇ、相変わらずのワイのアホさ加減への信頼感。

さすがダーリン、わかってるね。

でもね、それ、駄目な奴だよ。

 

「ほぅ」

 

ほら、黒い魔法使い様が、良いこと聞いちゃったーって顔になったよ。

属性がね。

ワイと同じ、イジメっ子ストロングスタイル。

 

大丈夫だよー、私は物欲だけはないんだ。

代わりに貴方の好きなものをお土産にしたらいいよ。

例えば、ウィーンで探すつもりの本とか、貴方の研究に役立つ何かとか。

 

「そうではない。この愚か者め、魔法使いが無償で与えるとは、対価は払いきれぬ難題やも知れぬのだ。」

 

そうなのおじいちゃん?

 

「私は、いい子には優しいつもりだよ」

「いい加減にしていただこう。約束は果たされたようですからな、そろそろお暇を」

「部屋を用意してある。しばらく滞在してはどうかね?」

「虜囚に招かれるだけで十分だと思いますが?」

「恐ろしいのかね?」

「恐ろしいですな」

「ふふっ素晴らしい!」

「書簡をいただき次第、退去する。アオイ、立てるかね」

 

もう、帰っちゃうの?

まだ、何で呼ばれたのか聞いてないよ?

 

「君が眠っている間に、大凡は話した。校長への書簡は人形がもっているそうだ。校長への直接の伝言に使われただけだ」

 

そうなの?

じっと見つめる。

うん、もう、いつもの奴だ。

 

私が笑うと、彼は目を伏せた。

わかりやすいね。

 

私は、黒い魔法使いを見た。

じっと見る。

特に、魔力は出していないよ。

ただ、この人は、私の何を知っているんだろうってね。

なぜ、私を呼び寄せたのだろう。

微笑みは仮面のようで、感情は読めない。

たぶん、私の力では到底、何も影響を与える事はできないだろう。

まぁこの仕切りとか色々仕掛けがあるから、最初から無理なんだけどね。

 

「君の親族を昔知っていた。それも含めて、書簡には書いたよ。

君本人を見たかったんだよ。年寄りは、昔を懐かしむものさ。」

 

まぁきっと、そういうことにしておくんだね。

でもね、ここまで来るの、私は平気だったけど、彼はとても大変だったんだよ。

 

「ほぅ」

「何も言うな」

 

筒抜けでも?

 

「何もだ」

 

わかったよー

 

「お土産の用意をしよう。そんなにあわてて帰る必要もなかろう。せっかく会えたのだからね」

 

それにダーリンが舌打ちをした。

本当に、敵対してないんだよね?

 

「2度目の朝食の時間だね。プレッツェルやフルーツを用意させてある。それをつまむ間に、土産を整えよう。昼前には、迎えも来るだろうしね。」

 

それにセウェルスが顔をしかめた。

 

「ここまで来てもらったんだ、顔を見て、さようならじゃぁ、味気ない。是非にも手土産ぐらいはもらっていっておくれ」

 

「帰るぞ」

 

あっさりと対面は終わり、これで帰れるなんて、妙な気分だ。

肩透かし、というのだろうか。

 

そいで囚人棟から降りるとお城の小部屋に通された。

本当にお茶の用意やら何やら整っていて、暖炉にもちゃんと火が入っている。

ただし、ぜったいに飲食するなとダーリンが言うので、ワイ、我慢。

ヒゲへ渡すお手紙以外にも、何か重要な事が書かれた書類ができあがるって人形ちゃんが言うので待つ事に。

そいでお行儀よく椅子に並んで座る。

静かである。

置き時計の音がするので眠くなるワイ。

んでその間、終始、ダーリンが私の頭を撫でる。

それってやっぱり準備運動?

...

返事がない、今日もツンが極まっていらっしゃる。

そんなやり取りをしつつ、ナデナデがいつお仕置きのゴンゴンになるのか不安でしょーもない待ち時間であった。

 

 

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