R15と残酷描写タグは、予防処置と寮監先生の苦行成分でできています。
おじいちゃんがね、お土産くれるってさ〜
それからね、実は、おじいちゃんにそっくりなんだよ。
おじいちゃんもね、口はまわるほうなんだ〜そいでね、人をからかったりね、人を
ちょっと突き回すのもすきなんだよ〜
お行儀よく待ちながら、自分の飴ちゃんを取り出す。
遠足でお菓子持参はデフォの私である。
そいで眉間にシワを寄せて目を閉じているダーリンに差し出す。
「いらん」
ヒエヒエどころか、非常にご機嫌斜めなマイダーリン。
頭はゴンゴンされていないが、ナデナデが終了すると、ガシッと肩を握られている。
傍目には引き寄せられているように見えるが、猿の悪戯防止だったりする。
暇になると悪戯を始める小学生男子の扱いだったりする。
しょうがないので、少し眠いから飴を食べたりしていたわけだ。
今回は、酸っぱい味の奴。
檸檬と言うかライム。
それもマックスで酸っぱいのだ。
イギリスに梅味は無いのである。
しょうがないから、とんでもすっぱさマックスを買った。
小瓶に入ってるやつにお砂糖かかってるのだよ。
きれいなライムグリーンね。
つかんじゃったし、不機嫌そうな唇にぐいぐい。
「何を」
指は綺麗だよ、きちんとナプキンで拭いたし、その後、魔法でクリーンにしたもん。
何で、そんなに馬鹿だろうって顔するねん、じゃぁもう一個、自分で食べるか。
「待て」
指を避けると飴だけを噛んで、睨まれた。
最初から素直に食べればいいのに。
「何も考えていないな、この猿めが」
考えすぎると、ハゲるよ?
「どうせ呪文は阻害されるだろうが、それでも魔法使いの口を塞いでどうするんだ。」
吐き出せばいーじゃん。
小瓶を鞄にしまう。
「私は大丈夫だが、他の人間に、特に男にはするなよ。
いいな、己をどんな時でも暫し顧みてから、行動に移せ」
飴ちゃん、食べただけでしょ?
「これも筒抜けだが、動物の飼育と同じである。その場で適宜指摘をするしかあるまい。」
あ〜ゴンゴンの予感。
「男に物を食わせるな」
ダーリンだけだよ。
「指をしゃぶらせるな」
別に、綺麗にしたし。
「ある意味、確信犯なのは知っている。
ここで仕置のために何か仕掛けてくれれば、暇な時間が潰れると考えているのも理解している。
そして猿の躾のために、今、ここで脳天への仕置をしないだろう事もわかってやっていることもだ。
舐められたものだ。
だが、私も新人教師ではない。
特に、念入りに、我が婚約者殿には、心を込めて指導を行うしかあるまいよ。
まぁ夏休みの後半を、特別な課題で埋め尽くすのもやぶさかではない。
課題とはふざけた意味ではなく、せっかくオーストリアに来たのだ。
この国に自生する薬草についてのレポートを、そうだな、夏休み後半いっぱいかかるだけの量を書かせる事もできよう。
君の言うゴンゴンの代わりに、特別に薬草の品質管理をしてもらう事もできよう。
ちょうど収穫時期にあたる、夏の薬草が三種類ほど乾燥を待っていたな。」
降参しました。
ふざけません。
「理解したようでなにより」
うん、ダーリンだけにしとくよ。
「どうしても課題を出されたいようだ」
ダーリンだけだから良いでしょ。
「帰ったら課題だ。君に自由時間を与えるとろくなことにならん」
へへっ
これで帰れるね。
なんか、ほんとうにあっという間だったね。
先生ごめんね。
どうせ、私の家系とか血とか、そういう話だったんでしょ?
ごめんね。
「違う。
君の話はついでだ。
結局、魔法界の過去の因縁や、パワーバランスの話だ。
情報があり、情報を渡す相手にダンブルドアが最適と考えた。
だから、口実として良い、君が選ばれた。
梟でやりとりできる限界がそれだったのだ」
どういう意味?
「言ったままだ。
虜囚は外界と意思疎通ができるが、その全ては調べられている。
梟を偽名で飛ばしたが、行き先は確かめられただろう。
行き先が何処かを確かめて回収する。
それをしなかったのは、行き先がダンブルドアだったからだ。
この虜囚を捕らえ閉じ込めている本人だ。
君を口実に二人が話し合いをしている。そういう事だ。
さきほど、虜囚が言った言葉も嘘ではない。
君の顔を、昔知っていた者の子を見たかっただけだ。
己が過去に知っていた者のだ。
年を取れば縁を探すのは、誰でもあることだ。
もちろん、アレの嘘でなければだが。
囚人の、それも力ある魔法使いの言葉に真実があるかどうか、凡人には判断できぬ。
今回の事はすべて、ダンブルドアが判断すべきことだ。
この会話も聞かれているだろうし、このヌルメンガードでアレの把握できぬことは無い。
囚われていても、それで十全など欠片もなく、危険な事に変わりは無い。それから……」
何?
「酸っぱい」
でしょ、頭すっきりするよね。
あのさ〜
「却下」
何もまだ言ってないよ〜
「だいたい分かる。」
さすが飼い主だね〜
「間延びした話し方を始めたら、要警戒だと学んだ。
この都市は、君の体内魔力バランスへの影響が考えられる。
滞在するのは、あり得ない。
いいか、檻に鍵がない状態だと思え。
ダンブルドアの抑止力を過信するな。
死に損ないどもの諍いに巻き込まれるなどごめんだ。」
そーいう喧嘩売るスタイルは好きだけどさー
尊敬してるわりに、普通にヒゲを罵倒するよね。
「神と崇めるほど、私は賢くはないのでな。」
わぁ、ひんやりぃ〜
社長に洗脳されてる社畜じゃなくてよかったよ。
信仰しすぎると心中しかねないからね。
でもさ、聞き耳頭巾な感じで聞こえちゃってるんでしょ?
おじいちゃん、喜んじゃうよ?
ヒゲもそうだけど、そういう反応を返すと喜んじゃうよ?
ワイも、いじりがいのあるダーリンが好きだけどなっ!
「そのふざけた言いざまを改めよ。戯言ばかりを……」
急にダーリンが顔を片手で覆った。
目を長い指で覆って、おぉマーリンとでも言いそうな風情である。
微かに頭を振っていた。
「……そうか、この突拍子もない思考、堅実な叔母という親族に育てられたはずが、この」
どったの?
「理解した。……絶望だ。
なんということだ。
ペラペラと口先だけよく回るのも、そうなのか?
こんな事で、話に信憑性が増すだと……」
そういうとダーリンは飴をガリガリと噛み砕いた。
いや、会話してただけで、そんな絶望されてもなーすんげぇ失礼だぞー
なんてことを言い合っていると、ゲルダと呼ばれた人形ちゃんがやって来た。
「ご準備が整いました。こちらへ」
***
簡素な木の長机に、どどんと書類らしきものを収めた葛籠が一つ。
セウェルスが確認し、魔法的にも調べてから蓋を閉めて、私の鞄に。
んで、並ぶ不思議な品々。
「却下!こんなものはいらん!」
お土産か〜
黒い魔法使い様のお土産か〜
オークションにかけたら青天井だねぇ〜売らんけど。
しょっぱなから青筋立ててダーリンがダメ出しをするが、ワイは持って帰る気まんまん。
「では、お品の説明をいたします」
と、人形ちゃんが冷静、というか人形らしく淡々と説明をしてくれた。
「まずは、ヌルメンガードの古代結界の欠片にございます。」
普通の小石だね。
「普通の小石ではない。
城塞都市を構築する大結界の一部だ。
凄まじい量の魔力が圧縮されて練り込まれた品になろう。
子供に持たせてどうする。
誰と戦う想定なのだ、クソ老いぼれめ」
「守りの効果は永続、持ち主の命を救うでしょう。」
人形ちゃんの説明に、唸るダーリン。
「次にございますのが、魔素、それも害悪を吸う砂漠の護符でございます。
ただし、使用者は限定されておりまして、女性であり乙女である事が条件となります。
お子様に与える品となりましょうか。
砂漠と称しておりますのは、砂の海より発掘されしアーティファクト。
貢物としてこちらに運び込まれた逸品にございます。」
わ〜何と言うか、護符となってるけど、素朴な首飾りね。
鎖の先に古代のメダルみたいなのが下がってる。
「触るな、解析不能と出る」
「こちらは、記憶のベルベットと申します。
錬金術からなる魔法具で、大切な記憶を保存する布にございます。
私めの核も、このベルベットにて作られております。」
セウェルス、恐ろしいほど高価な品、だったりする?
「やっとわかったか、こんな物を差し出されて喜べるか。財があっても手にできぬ品だ」
「判断に困るようなら、ダンブルドア様へお渡しになればと。
若い頃は悪趣味だと言っていたが、今となれば、中々に無聊を慰める物であろう。
と、主がおっしゃっておりました。」
人形ちゃんも、おじいちゃんが作ったの?
「ゲルダと申します。
幼い頃の友として、側におりました人形にございます。
もとより、私めは、主様のお身内の方から送られた人形にて側に控えておりました。
故に、もとより記憶は過去の風景にて形つくられております。
意識は主様の幼心と申しましょうか。」
「つまりアレの子供の頃の記憶でできている。
この城、この城塞が魔法都市である意味、閉じられている意味が少しは分かったであろう。
ここは凡人が荒らし、知恵を持ち出してはならぬ禁域なのだ。」
危険を認識しない盗人が来たら怖いものね。
「まぁ、勝手に入り込めば、餌食であろうがな」
「ご説明を続けてもよろしいでしょうか?」
「いらぬのだが」
「次に、こちらが主様監修のアルカナカードにございます。
主様の故郷でも盛んに使われていたドイツ魔法族のアルカナにございます。
こちらは是非にもお嬢様にと、主も申し上げております。
遊びにも、未来視にも存分にお使いいただけるお品にございます。」
「手を触れるなよ。これはまずい」
「不要な力は込められておりませんが、使用者をお嬢様と定めております。
触れる場合は素手はおやめください。」
「勘弁してくれ」
「そして影を一瞬だけ隠すブローチで、ございます。
こちらは必ずや、お嬢様に必要となります。
ヘル・プリンス。
彼女の影を守ってほしい。
との、主様のお言葉です。」
彼は机に置かれた黒曜石のブローチを凝視した。
デザインはオサレなお花型。
なんつーか、怨念がこもってるね。こわっ
「つぎに、こちらが守護獣を模した小像・鷲でございます。
周囲の魔素に変化があると鳴きます。
何か魔法を唱えていただけますか?」
それにダーリンがルーモスを唱える。
この場所も魔法威力減弱と攻撃魔法は使えないようにしてあるそうだけど、灯りの魔法は大丈夫らしい。
んで、ダーリンが使うと、ちっちゃな鷲がバサッと羽ばたきして、ぎゃぎゃーとか可愛くない感じで叫んだ。
まぁ警戒音だろう。
でも、これ、すごいね。
「感度は自由に設定できます。魔力探知の術式も置物の底部にありますので、ご存分に解析をなさるのもよろしいかと。
使われている術式は、非常に古い年代の物ですので、ご興味があればとのお話です。」
呻くダーリン。
わかるよーこういうのに弱いよね、ダーリン。
「次に、こちらもお嬢様がお喜びになるお品かと主様が申しております。
偽りの光りを残すランタン、もしくは、喜びの記憶を灯す物、だそうです。
制作者の言葉、そのままにございます。
これは普通の魔力灯と同じ原理でございますが、その人によって色が変わる品となっております。
親が灯せば、その親の色。
その色を留める事もできましょうし、自分の色を誰かに捧げる事もできましょう。
様々な使い方ができるお品です。
魔力の色を覚えさせておけば、いつでもその方の色の灯りがともるでしょう。」
オシャレランプさんで、形は釣鐘草みたいだった。
私はセウェルスを見た。
彼の判断が優先される。
私は特に、すごいなぁと思うけど、それがぜったいに欲しいとは思わない。
こんな私だって人間らしい部分はあるんだぞ。
可愛いもの、美しいもの、素晴らしいものは好きだ。
手元に置いて眺めたり、使う小物や洋服、目に付くもので欲しいものはある。
ダーリン手作りの化粧品なんてもらえたらワクワクだ。
けど、絶対欲しいか?ってなるとね。
なんだか、躊躇っちゃうんだよ。
ちょこっとだけ、わかるんだよ。
死んだ日本人の女性も、魔女子さんたちもね。
知ってるんだ。
どんなに大切にしても、死んじゃうとね、何も残らないんだ。
残るのはね、大切にしたい気持ちや記憶だけ。
その記憶も消えちゃうんだよ。
だから、物に気持ちをかけたくないっていうかね。
あの大切にしていたぬいぐるみはどうしたんだろうか、香水の瓶は?って思い出すと、虚しくなるんだ。
焼けてしまった事もあったみたいだね。
魔女子さんは、家を無くし、故郷を無くし、いろんな物も人も失ってきた。
だから、こだわるのをちょこっとだけ、躊躇うんだよ。
いつでも、違う場所に流れていけるようにね。
この葵ちゃんはさ、文房具を集めるのが好きだったよ。
けど、今はちょこっと違う。
いろんな知識を貯める事にしてる。
きっとね、叔母さんをみつけたら、とかさ、どこの場所に流れていってもいいように。
物、じゃなくて魔法とか知識を溜めておけば、何度でもやり直せるだろうって考えてる。
財産?
財産はあるよ。
けどね、居場所ってさ、ここなら大丈夫って思える場所ってさ、今のところ無いんだ。
ホグワーツ?
寮の部屋?
いつも思うんだ。
夢に生きてる。
これは本当じゃない。
あのアパルトマンの記憶もちょこっとだけ。
私は何処にいるの?
そんな私が何を欲しがるの?
「一旦、受け取ろう。
これもすべてダンブルドアに判断させる。
何も考える必要はない。
ほら、私を見ろ。
私の目を覗き込め。
お前の艀とやらが、ここにいるぞ」
……
そうだね。
少なくともホグワーツに帰る事ができる。
私を知っている貴方がいる。
記憶を積み重ねれば、また、私も人としてしっかりと立てるだろう。
「十分だ。では、暇をしよう。」
「ご案内いたします」
んで、人形ちゃんの後に続く。
「ご案内がてら、主にもう一度、お会いになりますか?」
「結構だ。外に出る」
「一つご忠告を、ご案内する順路通り辿らぬと、この城塞は無数の罠が仕込まれております。
それにもまして、壊れかけた魔法陣もありますれば、非常に危険。
お嬢様に影響がないように、道を辿らせていただきとうございます」
「何かあれば、ただではすまぬぞ」
「ご随意に。
順路といたしまして上層部から下層へと向かいます。
レセプションホール、展示室、中庭、旧独房、反省室、見張り塔、水牢の地下一層の順です。
地下一層の先が未整備地区となります。
申し訳ございませんが、手入れがまだできておりませぬ、その残骸を通っていただく事に。
主に魔法封印がなされた独房、廃墟の区画、抜けると城塞裏手となり、国際魔法連盟の監視施設の前でございます。」
「どう考えても、不穏なルートだが、理由は何だ?
ここを訪れた時の通路でよかろう。」
「お嬢様の体内魔力に影響がないルートにございます。
最初にご案内した時は、こちらの手落ち。
お嬢様のお体にご負担が残っているのは、その為です。
帰りは魔法省からの者の案内であるなら、更に負担がかかるやも知れません。
ならば、少しでも影響を押さえるのが一番。」
「地下となれば、この城塞の肝であろう。監獄の中を通れと?」
「主様によれば、城塞商業地区方向の魔法陣関連に歪みが生じており、精神にも影響を及ぼす汚染となっているとの事。
先にご案内いたしました通路は、その歪みが滲み出ておりました。
ヘル・プリンスのように、変動のすくない大人、それも抗魔力に優れておられるならいざ知らず。
お嬢様の神経への影響が考えられるとのことにございます。
急性の症状といたしましては、めまいと震え。
貧血の症状があらば、早急に癒者へと連れて行くようにとの事にございます。
行き届かぬ道案内となり、深くお詫び申し上げます。
次回、ご来訪までに、そちらを整備しておきますれば、主ともどもお許し願いたく存じます。」
「二度とは来ぬ。捕縛の罠であれば、ダンブルドアが探しに来るぞ」
「そもそも、ここはダンブルドア様が封じていらっしゃるのでは?」
ダーリンが舌打ち。
そいで、人形ちゃんは、木の指でお口のあるだろう場所を、そっと押さえた。
たぶん、笑ったと思うよ。
人形ちゃん、人形ちゃん、おじいちゃんに、もっと関節駆動系の多機能型にしてもらいなよ。
きっとお客様も、可愛いお人形が出てきたら、喜ぶよ。
もちろん、今のピノキオスタイルでも可愛いけどね。
「主に伝えておきます、お嬢さま」
やっぱり、この子も開心術してるね。
「開心術とは違うが、読まれてはいるな」
「では、参りましょう」
わーい、監獄ツアーだー
「勘弁してくれ、手を放すなよ。何かあって離れ離れになっても動かずに身を隠せ。」
そいでゲルダの後をついて行くと、静謐な石造りの広間に出る。
ん?
良き香りだ。
塔でも嗅いだ白檀みたいな香りである。
「歓迎の間でございます。
来訪者を歓迎する広間ですので、私共のほうでハーブを焚いております。
病よけも兼ねており、ご家庭でもよく使われる物と同じ処方になっております。」
「清浄さと病除け、肺にも良い魔法薬と同じ処方だ。
こちらは燻煙してつかっているようだ」
そんなほんわかした大広間を抜けると、展示室っぽい部屋に。
壁には大型の絵、陳列用のケースには高価そうな宝飾品が並んでいる。
「ここは城塞の歴史や、ここで裁判となった人物たちの記録が置かれております。
古い魔法具や、心象風景を描いた壁画、魔法抑制具なども展示しております。」
いや、ちょっと聞き流しそうになるけど、最後、それ拘束具じゃね?
「ヌルメンガードは、簡単に言えば、裁判をし人を裁き、刑罰を与える場所だった。
ただの古い街ではない。」
そうだった。
オプショナル・ツアーの気分だった。
「来歴や品々の詳細な説明もできますが?」
「教育者として断る。未成年によい話ではあるまい」
「ご尤も」
人形ちゃんも認める、ゴアな歴史なのね。
そんな泥棒が心配な部屋を抜ける。
「いや、ここにある物を手にして無事にこの城から出られるものか。」
「そもそも無断で入ると、
うわぁ。
「言ったろう、ここは監獄だ。
監獄にわざわざ自分から来るような間抜けは、ここが最後の土地になるだけだ」
そんな展示室を抜けると、中庭に結構な大きさの湖。
真っ黒な湖面が下に。
そう、どうも展示室は三階部分だったようだ。
「高魔力結界の橋がございます。
元は囚人監視用の魔力結界でございますが、架かっていた橋が崩落いたしまして、今では結界がその役割をしております。
結界の角度と透過率を調整しておりますので、下からは覗けません、ご安心を」
えっと、何も無いんだけど。
「橋だ。魔力を見るのが苦手な者には何も見えんだろうが、橋がある。
ゴーレムが言う、角度とは、透明だがスカートの中身は下からは見えないので案ずるなという意味だ。」
いや、見える見えないより、怖すぎ。
三階から飛び出せと?
そしたら、ダーリンがわざとらしいため息をついてから、ひょいっと抱えた。
お姫様じゃなくてファイヤーマンズキャリーである。
それ違うでしょー!!
「うるさい、浮遊の魔法は使える。怖いなら目を閉じていろ」
そうじゃねぇ、男子ー!
女の子の扱いちがうっしょー!!
「何だ?」
ワイの虚しい叫びをよそに、ゲルダのというか、人形ちゃんには目が無いのに、視線を感じたダーリンが問う。
「いえ、楽しそうで何よりかと」
それも違うでしょー!!
一体と一人は、猿の叫びを無視してスタスタとロマンチックとは程遠い空中のお散歩を終えた。
フツウさー
かわええ女の子とさー
きゃぁー怖いーダーリン!とかさー
いちゃいちゃするもんじゃねーのー
少しやさぐれるワイ。
それにワイを向かい側の通路に下ろしたダーリンが鼻で笑った。
「馬鹿に付ける薬はないと言うが、研究するのも吝かではないな」
それどーいう意味さー!!
「ここから、独房エリアとなっております。今いる階層は清掃が終了している区画となっております。
魔力痕跡も無い為、不快感も無いかと思います。」
で、言われて見回す。通路に並ぶは一般人が想像する独房そのまんまだった。
でも檻の扉はすべて開いており、中身は無く、通路には淡い魔力灯が点っていた。
アトラクションって感じかな。
「利用時は強力な魔力封じのルーンが、個室ごとに置かれていましたが、清掃と共に撤去しております。
今後の利用状況によっては再設置も可能です。」
再利用。
うん、不穏だね〜。
「また、各種通路がここに集中しておりますが、いまは封印しております。
封印はダンブルドア様も確認済みにございます」
つまり?
「この階層は安全確認が終わっているというぐらいの意味だ。突然、盗人の死体にいき当たる事はない」
あーそういう。
そいで細い螺旋階段へと入り込む。
「反省室、独居房と続きまして、ここからは本格的なヌルメンガード施設となります」
翻訳プリーズ。
「見てはならぬ部分であり、ろくでもない施設が続く。
不要に触らず、気になっても目で追わず、そして聞くな。」
うへぇ。
ちなみに反省室とは?
「ヘル・プリンス、私の語彙が不足し、お嬢様にどうお伝えしたらよいか思考、しましたが、無理そうです」
「これ以上、婉曲な言い回しがないようだな。
まぁ拷問関係の部屋だ。
反省するまで何かをする部屋と、まぁ仕置代わりに、何かをしておく部屋だ」
わー、ホラー。
そんな会話をしつつ、おどろおどろしい扉とか鍵付きの何かとかを見ないふりで通り
過ぎる。
「申し訳ございません。まだ、中身がございまして閲覧は不可となっております」
中身...
「いや、見たくもない」
「たぶん、ヘル・プリンスのお好きな毒薬実験室もあるのですが」
「..見せんで良い」
あれ...
アイアンメイデンとか、現物ががが、だっダーリン、アカン代物がっ!
「ご安心ください。そちらは中世のコレクターズアイテムで、ヌルメンガードにて利用された事はございません」
「演出用装飾品だ。実用品は通路に置かん」
人形ちゃんと魔法族の会話が異次元な件。
「通路は清掃されておりますのでご安心を」
安心できないにょ〜
「ここから地下一階層となります。室温が極端に下がりますので、ご注意ください」
という言葉とともに、セウェルスが保温をかけてくれる。
ありがとう。
「体調が悪くなったら言いなさい」
大丈夫だよーいっしょだもんねー
握った手を揺らす。
これはアトラクションだぞーって言い聞かせてるしね。
そして踏み出した石の通路は、ジメジメと湿気って苔むしていた。
「ヌルメンガードの地下水脈と繋がる水牢にございます。
足首ほどの水が常に溜まっており、冬場は凍結。
音が外に漏れない防音結界が展開されております。
魔法族に対しての効果は低いと考えられますが、精神への負荷は通常の牢より上。
多くが政治犯よりも重罪を犯した矯正不可とした者が入れられておりました。」
「詳細な案内はいらぬのだが?」
「囚人記録はきちんと保管しているという意味合いにございます。」
「不快だ」
「これは失礼を」
そいで水牢の先、お城の東方向に回り込んでいるのかな?下り道を進む。
暗いと思うでしょ?
断崖絶壁方向は開放されているんだよ。
先は地下でもなければ地面もない。
地下の水牢って話だけど、その水が流れ去る方向、少し下り坂の正面から外が見えるんだ。
立地が入口からすれば地下だけど、牢の場所が断崖絶壁側。
もちろん、透明な魔法障壁があるので、その断崖絶壁から外へは出れない。
魔法族、飛べるみたいだしね。
見えるは遠き山々の青い影だ。
絶望的な自然の景色がみえるって訳。
案内されている身としては、夏の山々が美しい絶景だけどね。
「ヌルメンガード城塞は、ズレた場所にございます。
なので、マグルよけをするまでもなく、迷い込めるのは魔法族のみでございます。」
「ここも魔法界としての位置、次元にある。勘違いして彷徨いでるなという意味だ」
なるほど。
「第二層は、少々片付けが進んでおりません。
通路に障害物がございますので、お気をつけください」
トコトコと進むゲルダに続き、こんどはこもった空気の場所に降りた。
通路が極端に狭く石の足場が下へと続いていた。
「呪文の痕跡を消し去る前に、記録をとる事になっているので、いまだ作業の途中となっております。」
壊れた椅子。
何かの鎖。
陶器の破片。
さまざまな残骸が残された部屋が続く。
水牢が妙な明るさにあったので、この薄暗さは雰囲気がマシマシだ。
「壁に食い込んだままだな。そうとう強力な痕跡だ。」
そう言われて通り過ぎる壁を見ると、黒い石壁に赤黒い亀裂が見えた。
なんだか、ドクドク脈打っている。
「主様の政権時代での名残です。
この手の痕跡を魔法連盟に記録して提出後、清掃する事になります。
誰が何をどうしてという、尋問記録と突き合わせる作業を今も続けております」
一般公開したら観光客が来そうだね。
「冗談でも、そんな恐ろしい提案はやめろ。」
ちょっと薬品臭い場所を突き進む。
書類とか色々、そのままだ。
当時、その戦いの後、こんな風に放棄する事になったのに、何も持ち出さずに封印って感じになったんだね。
「主様のお力だけでなく、危険と思われる事は、すべて閉じることとなりました。
時が流れ、こうした危険な事柄が、些事となればと願われたのかもしれません。
魔法族は長命であらせられる。
知恵ある後の者へと後のものへと引き渡すのも策。
当時の誰にも渡してはならぬし、失う事で他の脅威が増える事も考えられたと愚考いたします。」
「つまり面倒事は若い奴らに押し付けただけだ」
身も蓋もねぇ。
そんなツアーガイドを受けながら、私達は更なる地下へと進むのだった。