おとぎ話の末裔   作:C&Y

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人外生徒&寮監先生の明日はどっちだ!!
原作開始前編。
残酷描写とR15は、予防処置と寮監先生の苦行成分でできています。


うろ覚え転生でデッド・オア・アライブ ④

 はからずも寮監先生の精気をすっちゃって、昏倒させてしまった生徒Aのワシ。

 困って校長先生を召喚、ワシの淫魔体質というか人間の精気吸収もできる系血筋を説明される。

 正直、悪魔の烙印で討伐されるかと思ったが、ほぼただの人系で、魅了強めな本能だけなので、目溢しされるらしい。

 つーか、男から精気ちゅうちゅう...いやだっー!! 

 エロ設定はいらんがな。

 

 んで、暫し、校長先生は退出。

 私は寮監先生を見守りつつ、課題をする事となった。

 

 魅了とか吸精気とか、エライ能力っぽいけど、どちらも深刻になるほど強力ではないみたいだ。

 どちらかというと、私自身が身の破滅を齎す系の力っぽい。

 校長の態度からも、勝手に力が漏れている、コントロールできていない事が問題であって、私自身の危険度と言えば...お察し。

 

 倒れた寮監先生の、すや〜な顔を見て思う。

 相手ではなく、叔母のようにナニカに巻き込まれる方を心配してくれているんだろう。

 嫌な話だが、いくら魅了だ精気を吸収だと言ったところで、寮監先生みたいに都合良く昏倒してくれはしない。

 血迷った本能で襲いかかられたら、ぶっ壊れるのはこっちだ。

 先生は徹夜し過ぎてもう、すでに意識が朦朧としていたからこその、失神である。

 私がちょっと小突いたぐらいで、普通は倒れない。

 倒れないし、他の男だったら襲われるだろう。

 

 まぁ先生は大丈夫そうだな。

 襲うどころか、すんげぇ嫌そうな軽蔑した視線を寄越してだ。

 害虫がっ! とか罵られる未来が見えるわ。

 

 まぁそんな例外は滅多になくて、一般論としたら魅了持ちは誘蛾灯である。

 言葉を飾ってもしょうがない。

 容姿の問題じゃなくて、男を集める女郎蜘蛛って訳だ。

 

 種族、分類が違う。

 

 そいで私は女郎蜘蛛じゃなくて、非力な少女だ。

 確定で怖い思いをする未来が見えちゃう。

 相手が私より力が勝る大人、男だったら酷い目にあうのは私。

 

 再三、寮監先生が怒っていたのもそれである。

 加害者の私が被害者になる能力だ。

 

 私は如何に蘇った精神が大人でも、肉体が非力な子供である事はかわらないのである。

 魅了だけが育ってしまえば、答えは見えてる。

 能力も、どうやら中途半端であるし、攻撃力は無い。

 

 それとも精気を吸い尽くせば良いのか? 

 ちなみに生気ではない。

 精気だ。

 生命力のほうである。

 正直、怖い。

 先生の寿命、食ってないよね? 

 

「大丈夫じゃ、表層の生気を吸ったんじゃろ」

 

 で、校長先生が戻ってきた。

 

「手を触れた時も吸ってはおらんかったしの、多分じゃが、視線を一緒に合わせたんじゃないのかの?」

 

 先生を見たかな? 

 覚えてないや。

 

「そこでこれじゃ」

 

 書き取りしてるテーブルに、メガネと手袋が置かれた。

 フレームレスでシルバーなツルの眼鏡。

 黒手袋、レース仕様。

 

「ぎりぎり女の子でも違和感の無いデザインじゃろ?」

 

 デザインよりも機能の説明をお願いします。

 

「まぁもうちょっと力を抜きなさい」

 

 この後、お説教フェーズが待っているので、ちょっとテンション上がらんのです。

 

「セブルスは、怒らんよ」

 

 で、眼鏡は魔眼の能力カット。

 レンズが吸収するタイプ。

 限界で色が変化するので、そこで交換。

 手袋は事故防止。

 力がたまりすぎると解けてしまう。

 定期的に渡して切らさぬようにしてくれるとか。

 ホグワーツ城内の屋敷しもべ妖精に手袋を編んでもらえるらしい。

 

 妖精さんに感謝しなきゃ。

 渡されたそれらを装着。

 少し安心する。

 

 そいで、夕食時間まで寮監先生を寝かせて、私はこのまま自習、校長先生がおやつと飲み物まで用意してくれてから出ていった。

 

「楽しんだ者が勝ちじゃよ。

 苦悩苦痛も人生を彩るものじゃ。

 できることをやる。

 それが活路を開くのじゃよ」

 

 ちょっとそうかなって思ったけど、癪だし声を出して返事をしてやったなりよ。

 

「あいがとう、せんせぇー!!」

 

 ビクッとなってたから、校長先生にも声だと不快感をお届けできるようだ。

 

「やっぱり歌を歌ってほしいのぅ、残念じゃ」

 

 いやぁ、それ実験でしょ? 

 

 ***

 

 呪文をカキカキ。

 

 寮監先生の執務机じゃなくて、暖炉前にある低いテーブルにて自習。

 そこにある筆記具も借りている。

 たぶん、誰かにお仕置きならぬ書き物とかさせる為の奴だと思う。

 

 使い込んだ羽ペンにインク瓶。

 室内の灯りは魔法的な物だと思う。

 熱のない青白い光だ。

 暖炉が焦がし燃える匂い。

 

 書類、インク、書物、羊皮紙、それから薬草、その他、不可思議で微妙に苦い香りがした。

 湿度は適度だけど、どこか全体が温まらない。

 そりゃぁ素材優先なんだろうしね。

 動物の臓物が保存された瓶が緑の光を映している。

 

 寝息。

 ほんとうに、死んでなくてよかったよ。

 

 この世界の魔法界の刑罰、知らんし。

 すこしインクで汚れた右手を休める。

 手袋は外してる。

 予備は寮の部屋に届けてくれるそうだ。

 

 寮の先輩とかにハグしてるのにチュウチュウはしていない。

 どうしてか? 

 もう成人男性特攻? 

 

 でもそれもなぁ、ちょっと腑に落ちないんだよね。

 やっぱり実験、結果の積み重ねが必要だ。

 

 すや〜と寝ている寮監先生は、安らかに寝てるはずなのに、眉間にシワが寄っている。

 寝てる時まで苦悩してんの? どんだけ面白い大人なんだよ。

 と、この自己管理最低でありながら、義務と責任に対して完璧な人物を眺める。

 そう、ちょっと変で癖はあるけど、まぁまぁ先生としてはまともそうじゃん? 

 という人物だ。

 

 で、改めて思うんだよね〜。

 校長は私を魔物系の能力で寮監先生に唾つけてる。とか言うけどさ、なんとなく違う気がするんだ。

 もちろんチュウチュウする能力や、誰かを血迷わせる系の力はあるんだろう。

 

 でも、獲物を彼に固定している? 

 う〜ん。

 獲物ね。

 

 ぶっちゃけ獲物にするなら、もっと食べやすくて美味しそうな男にするんじゃね? 

 食べるなら可愛い女の子でもいいし。

 十一歳の子供の私だったら、本能とか色々こじつける事ができるだろう。

 けれど大人で、ある程度、人間、男の事を知っている前世、記憶の私からすると、寮監先生を獲物や利用できる相手だと認識するとは、間違っても考えづらいのだ。

 

 人間として、まぁこんなに、癖? のありそうな男は久しぶりで、面白い感じがした。

 けど個性的だなぁってぐらいなだけ。

 なんとなくほっとけねぇ隙があるっていうか、隙なんかなさそうなのに、なんだコイツっていうねぇ。

 

 それで捕食したくなるかといえば、違うだろうと突っ込める。

 正直に言えばさ、美味そうかと聞かれると、うむむっとなる。

 私に未知の嗜好が備わったとしてもだ、これをどうにかするとは考えにくい。

 もっと食いやすい相手、関わりが簡単な相手を選ぶだろう。

 誰だって可愛らしくて、ふわふわしてたほうが美味しいと思うじゃん。

 

 食べ物の話? 

 いや性的な話だとしてもだ。

 

 通ぶって苦い味の男は喰わぬということさ。

 それとも女郎蜘蛛なら何でもありなのか? 

 発語の制限が要因だろうか? 

 

 前にも考えたが、このなんとも違うなぁという感覚、別の見方を示唆してるんじゃね。

 先生、の方に私が食べてもいいかなって思う何かがあるんじゃないかってね。

 まぁ答えなんてないんだけどさ。

 

 しみじみと眺める。

 食べたい? 

 いや、食べたくはないなー。

 賞味期限きれてない? 

 

 いやぁお手入れしてないから、老けて見えるんだよ。

 眉間のシワ、顔色悪すぎ、ヒゲは当たってるだろうけど、皮膚のお手入れしてない。

 それに髪の毛、油分多めで、これ手入れすれば美髪だ。

 けど、寝不足&ストレス&不適切なお手入れで、不快度マックスになっている。

 この人、絶対固形石鹸で適当に髪を洗ってるな。

 無精あるある。

 

 寝てない、忙しい、面倒のサイクルで、青年の終わりに差し掛かって不養生を極めると、このような痩せた死体みたいな感じに仕上がるんだよ。

 仕事柄でお薬やら材料の匂いが体からするし、不潔というより、なんだろう、ディスってるけどさ。

 ともかく寝る、食べる、日光あびないと、もうちょっとで出来上がる。

 行き倒れた死体が。

 

 じゃぁ改善策? 

 最初に健康診断。

 肝臓と胃腸、循環器の状態を確認。

 次に長年の不養生を鑑みて、眼科並びに歯科の検診と治療。

 終了後、生活習慣並びに現在の就業契約と時間の見直し。

 

 まぁ無理か。

 睡眠時間だけは確保するべし。さもないと雑魚の私に寝落ちさせられるよってか。

 

 睡眠、食事、生活環境の改善。

 そもそも髪のベタつきって乾燥なんだよね。

 お顔もそうだけど、ベストなシャンプーとリンスを入浴と共に使う事が一番。

 寮監先生、シャワーをさっと浴びて、固形石鹸で終了の予感がする。

 お世話になったし、こんど特に繊細な頭髪の人用シャンプーリンスセットを贈ろうかな。

 きっと面倒くさがりだから、リンスインにするか。

 で、次にお顔の顔色は、睡眠とビタミンとお手入れ。

 

 おヒゲは魔法で省略してたりする? 

 カミソリあたるなら、洗顔剤とシェービングクリーム、お顔につける化粧水とクリームか? 

 そういや頭皮が少ないとすると、お体も乾燥するタイプ? 

 敏感肌用のボディクリームもセットにする? 

 使ってくれる映像が見えない。

 成分の分析とかしそう。

 

 まだ夕食まで時間あるし、さて続きをしよう。

 美しき文字列を均等に羊皮紙に書くって、けっこう力いるんだね〜。

 でも無意識に鼻歌歌ってた。

 

 ヤベってなる。

 そういやぁ歌、あの映画音楽が頭に浮かぶ。

 この時代じゃなかったっけ? 

 

 セリーヌ・ディオンが歌ってた主題歌。

 あの美男な彼は役者として存在してるんか? 

 思わず歌が口から出て、発語は駄目なのに、歌える。

 するっと声が出る。

 寝てる人物を見る。

 

 影響は、なさそげ、すや〜。

 大丈夫かな。

 小声で歌う。

 

 およ、うん、歌える。

 本物ほどじゃないけど、けっこう、私歌える!! 

 えっ、一人きりなら、リサイタルできるんじゃね。

 確か、歌詞は、覚えてる。

 

 小声で歌う。

 楽しいというかストレスが減るなぁ。

 楽しい。

 

 歌、上手いじゃん。

 魅了とか変な能力なかったら、歌手、いけんじゃね? わ〜お。

 

 で、丸々歌い終わったら、こっちをじっと見ている目に気がついた。

 やべぇ、叱られる。

 

 カウントダウンが始まった。

 眉間のシワ、こっちを見て、現状認識をしている様が見ていてわかる。

 原因は、この目の前の害虫なり! 

 そいで無表情の口から言葉がぽいっと投げられる。

 

「何の歌だ?」

 

 マグルの映画、娯楽作品の主題歌っす。

 

「どんな話だ?」

 

 身分違いの恋のお話ですよぅ。

 実際にあった豪華客船沈没事故を題材にした映画ですね。

 その沈没船がトレジャーハントでひき上げられて、過去の思い出も浮かび上がるって感じです。

 駆け落ちするはずの二人が、女性は助かり、青年は海に沈み、まぁ悲劇のお話ですけど。

 歌は、愛は永遠で、恋の思い出は残るって感じでしょうか。

 

 賛否はありますけど、愛の思い出が涙を誘う名作って言われてますね〜。

 この世界ではどうなっているのやら。

 

「どういう状況だ?」

 

 で、正直にお返事。

 我、不用意に寝不足の先生にタッチ→先生失神。

 魔笛でダンブルドア校長召喚→魅了能力以外に、ちゅうちゅう精気吸収の魔眼発動

 能力隠蔽防護アイテム、眼鏡&手袋装着→寮監先生寝てるだけだから、夕飯までここで勉強してなさい。

 

 スマソm(_ _)m

 

 すごい大きな溜め息をつかれた。

 それでも横になってるのは、お疲れマックスのせいだろう。

 何もやりたくねーというオーラが見えますぞ。

 という私の呟きも聞こえているだろうに無反応。

 それでも聞こえてるだろうから、私の血筋の厄介さも報告しておく。

 

「父親がヴィーラの血がまじる一族で、母親は極東の妖魔の血が入っていると? 

 吸血じゃないからまだまし? 

 誰だ、そんな馬鹿な.校長(多分呪詛の言葉かな、ボソボソ言ってる)マシどころか、精気を吸うだと」

 

 ひどい、理不尽、この世に慈悲は無いのか!! 

 多分、こんな言葉が心の中で木霊しているね。

 ジャパンの魔法使いどもは何を考えているんだっ! 

 って声も聞こえた気がする。

 なんでこんなトラブルを引き起こすんだ! 

 過労死ラインはとうに過ぎている!! 

 

 ごめんね、寮監先生。

 一応、手袋と眼鏡、それから魔石ニギニギでいけるよ。

 やっぱり他の男でもチュウチュウするかどうか実証実験が必要。

 

「物言いをどうにかしろ。品位を求める」

 

 じゃぁ先生には、セルフネグレクトをやめるように求めます。

 

「どういう意味だ」

 

 そのまんまです。ご飯食べて寝て、自分の世話を焼いてくださいよ。

 私みたいな雑魚に倒されるのは、十分にご自身を労っていないからですよ。

 んで、反論が投げつけられるかと思いきや、片腕を目の上に乗せて黙る。

 まじで死にかけてるんだろうーなー。

 校長、労働環境どうにかしろよー。

 

 水分とります? 

 校長が置いていったピッチャーから柑橘系のお水をカップに注いで渡す。

 もう、無抵抗で受け取るところを見るに、本当に限界だったようだ。

 じゃぁ課題やってますんで、また寝てくださいよ。

 あぁトイレはどこですか? 

 

 指がすっと示す。

 奥の扉っすね。

 後で借ります、おやすみなさい。

 戻されたカップを受け取って課題をめくる。

 あぁそういやぁ歌に影響はありませんでした? 

 

「あぁ」

 

 じゃぁ鼻歌解禁しようかなって煩いかぁ。

 

「大丈夫だ。誰かがいて無音のほうが眠れない」

 

 あいさ〜。

 90年代のマグルのヒットソングメドレーだぁ。

 

 ***

 

 発語と歌って何が違うんだろう。

 まぁ力をのせようと思えばできそうな気はしてる。

 そう魔力を感じられるようになってきた。

 

 寮監先生が気持ち悪いっていうのもわかってきたよ。

 私の魔力、力の塊が相手のパーソナル空間を侵略する感じ。

 たぶん、純粋な力で押しちゃうから気持ち悪い。

 魔力って自分の身体を免疫みたいに覆っている。

 私が発語するとそれが相手の表面の魔力に波をおこすんだ。

 ぞわぞわってね。

 

 これが歌になると、微量の力はのっていても、粒子が細かい感じで膜を透過するんだ。

 きっと魔力と魔法の違いみたいな感じかなぁ。

 まぁ歌になると、多分、誰かじゃなくて自分に向けているからかな。

 粒子はさらに細かくなって自分に戻るから、聞いている誰かに圧力はかからないみたい。

 ということで、歌は寮監先生の前では解禁。

 これも様々なデータを得ないと危険かもしれないから、他では歌わない。

 それでも久しぶりに歌うのは、ストレスが軽くなる。

 おまけに私、信じられないくらい美声&音域&うまい。

 歌手、マジで目指したいぐらいだ。

 

「やめとけ」

 

 夕食の時間が迫る中、自室に引っ込んで戻ってきた寮監先生。

 メンタルも復活した模様。

 クマが消えてよかったね。

 着替えてシャワーしたのか、爽やかじゃないけど少しは人間らしくなっている。

 

「言っておくが、その垂れ流しの思考は、魔道具では防げていないぞ」

 

 そうなんだ〜。

 

 お茶道具を消すと、寮監先生は出来上がった課題をチェックしてくれている。

 

「定期的に課題を出し、面談。

 魔道具の具合いもチェックする必要がある。

 朝晩の魔石、こちらの空き時間に課題、行き来するエリアは城内だと大広間や図書室、医務室にここか。

 あぁ敷地内の案内は週末だ」

 

 入学式まで時間がありますし、夏季休暇中も寮でお世話になるはずです。

 急いでいないので、本当に先生、人間の生活してください。

 

「新入学生が入り、今の学生が進級しても、忙しさは増えこそすれ減りはしない。

 お前の問題が片付けば、それなりに時間もできよう」

 

 わかってますよぅ。

 で、火の始末をして、ご飯。

 寮監先生の研究室はダンジョンでも冷えてる方である。

 しっかりと着込んでても、ちょっと肌寒い。

 なんて思ったら、ローブの下が暖かくなる。

 ありがとう先生。

 

「温める魔法だ。杖は早めに購入せねばならんな」

 

 先生方の休みを削るのは、アカンですよ。

 

「そうも言っていられまい」

 

 にゃぁ

 ん? 

 研究室から続く階段に、ちょっと個性的な模様の猫様がいらっしゃった。

 こっこれは少し薄い色合いですが、なかなかに良き御猫様とお見受けいたします。

 あぁかわいい、かわゆす、かわちぃのですよ。

 でもお猫様に不用意に触ってはいけません。

 心の中で、ご挨拶です。

 御猫様、今日も素晴らしいお姿ですね。

 あぁ素敵、かわちぃ。

 

「管理人のアーガス・フィルチの猫だ。

 可愛がっているので下手なちょっかいは出すんじゃないぞ」

 

 そうですか、可愛がってもらっているんですね、素晴らしい。

 未練がましく猫を見送っていると、寮監先生が黙る。

 ふっと何か言いたいことがありそうな気がして、顔を見返すと、彼は小声で続けた。

 

「管理人は監視業務も仕事に含んでいる。

 手を煩わせるのは論外だが、彼はスクイブで君の叔母と同じだ。

 だが、マグルの世界に暮らし、魔法使いの姪を過不足なく育てていた者と、魔法界に残り一人生きてきた者とでは、考え方が大きく違う。

 不用意に近寄らないことを心に置いておけ」

 

 意味をしばし考える。

 なるほど、うん、叔母は奇特な人だった? 

 そのまま歩き出すと寮監先生は、思い出すように言った。

 

「マグル出身の魔法使いの家庭は、問題を抱えている事が多い。

 君の叔母は、スクイブで魔法族には慣れていた。

 だが、慣れているからこそ、魔法が使えない時にどう考えるかは、千差万別である。

 姉妹がいて、姉が普通のマグル、妹が魔法が使えた場合、それだけで溝ができ姉妹の仲が壊れる事もある。

 そしてスクイブとなれば、更にその心に暗い感情が宿る事もある」

 

 管理人さんが、それだと? 

 

「ホグワーツは狭い世界だ。しかし魔法界がどういう場所か学ぶことができる。

 学ぼうとする心があるならばだが。

 善き人だけの詰め合わせにしないのは、そうした学びの為である。

 気難しい相手、厄介な相手、口当たりの良い人間ばかりではないのは、失敗が許される学びの場での糧になろうという配慮と考える事もできよう。ただし」

 

 ただし? 

 

「君の場合は違う」

 

 お前から君になってますよ、吾輩氏。

 それにどうでもいいと、手を嫌そうに振る。

 疲れ切ってるし倒れた後だから、どう取り繕うのも面倒のようだ。

 

「トラブルになりそうな相手には最初からかかわるな。

 城の外の案内の時まで、ともかくおとなしくしていろ」

 

 懇願であった。

 

 ***

 

 一ヶ月も過ぎれば、ライフスタイルが出来上がってくる。

 大凡は、午前中は教科書の予習。

 図書室は未だに出向いた事が無い。

 

 勉強に必要な書籍は、寮監先生が借りてくれるからだ。

 そして午後に先生の授業がないと、補講と魔道具の具合の調整で面談。

 地下の寮監先生研究室でのお茶会になる。

 

 まぁ私にとっては、だけどね。

 

 午後の時間何もなければ、お菓子と水分を取りながら、用意されてる課題をする。

 先生が雑談に答えてくれた後、採点とか適当に終えて、ご飯まで仮眠。

 

 仮眠中は、私のストレス解消コンサート。

 前世記憶から、歌だけ完全に思い出せるの。

 相変わらず、無駄な方向だけ覚えてるの。

 

 そいで傾向としてはラブソングとミュージカルが再現度増々。自分でも称賛の嵐。

 魅了は自分でも乗ってないと思う。

 先生にも毎度、魔力漏れはしてないかと確認。

 コントロールの練習でもある。

 んで、仮眠のおかげか、寮監先生の顔色が死人から、酷いぐらいに変化した。

 

 これでも改善したんだぜ。

 

 そんな感じで、テスト期間に突入しちゃったから、ホグワーツ敷地内の案内はしてもらってない。

 教職員室ってのも伺っていない。

 入学前だし、あんまりフライングすると新入生とのいざこざの元になるからって。

 

 もちろん建前。

 余剰魔力の吸収用魔石の馬がぶっ壊れたから。

 さらさら〜って砂になっちゃった。

 眼鏡と手袋は大丈夫。

 

 そこで新しい吸収用魔石に変更。

 

 大きさが倍に。

 

 ちょっと不安だから、杖を買うまで要観察。

 杖を買うと魔力のコントロールがしやすくなるそうな。

 

 勉強? 

 

 実践以外は順調。

 羊皮紙は書き込んでからバインダー式でノート、製本していく感じ。

 教科書にも書き込みして、けっこう楽しい。

 カラフルな挿絵の図鑑とか借りてみてるだけで、時間があっという間に過ぎていく。

 過ぎていくだけだったらね、魔女っ子になるんだー! で、毎日能天気に過ごせるんだけどね。

 

 連絡があった。

 アパルトマンが荒らされたって連絡。

 

 ***

 

 ホグワーツに来て試験期間が始まって、先生方の目が死に始めた頃。

 

 そいで学年末試験、五年生、七年生の特別な試験を受ける先輩たちが発狂し始めていた。

 それは4つの寮全てに言えて、私はひたすら空気となりながら、時々、寮監先生との面談だけは相変わらず続いてて。

 

 変わったことと言えば、先生からリクエストが出るようになったことかな。

 ベタなラブソングが意外に多い。

 そいでまぁどうせ寮監先生専用リクエストだから、記憶でいう未来の歌も過去の出典もわからん歌も歌った。

 

 その中でも、2016年のラブソングが先生のお気に入り、男性歌手の奴。

 音域が人間を越えてる自分、歌えた。すげぇ、やっぱり歌で食えるな。

 どうしよう、アメリカに渡ってショービジネスの世界に行けそう。

 んで、調子にのって歌うわけよ。

 

 愛しすぎて壊れてしまった関係、危険な愛の記憶は手放せない〜っていうバラード。

 歌うとね、先生、すんげぇ落ち込むの。

 リクエストしといて、落ち込んでうつ伏せで寝るとか、犬かよってぐらい、どんより。

 お口直しに軽いポップスでしめなきゃならんという。

 

 歌わせなきゃ良いのにね。

 疲れてるんだね〜。

 そんな中、週末、校長先生に呼ばれた。

 

 寮監先生はテスト採点と何かの買い出しで忙しいからいない日。

 寮で借りてもらった本を読んでた。

 

 花言葉とハイランド魔女の伝統の媚薬。

 題名は不穏だけど、魔法界のお花の常識の本。

 

 マグルで言う恋人に花とか贈るとき、花言葉には気をつけろよっていう内容に近い。

 んで、ハイランド魔女が選ぶ、気分アゲアゲなお花のカクテル、お薬のレシピも載ってる。

 

 寮監先生に、魔女っ子ベストセラーリクエストしたら、図書館司書の魔女先生に渡されたそうな。

 知らぬ間に罰ゲームを寮監先生に与えてた模様。

 先生に、今どき魔女っこ女子のベストセラーヨロって頼んだんだよね。

 そいで渡される、レシピと恋愛系の女性誌みたいな奴。

 何故か彼が探してる風に誤解されたとか。

 

 すまねぇすまねぇ、でも内容がおもろすぎ。

 作家の人にファンレターを送りたい。

 真面目なレシピとか作業過程の説明とか原料の歴史の合間に、振られた相手への呪詛が書いてあるんよ。

 

 お相手のクズい行為が例題として載ってるんだよね。

 まぁなんというか、よっぽど好きだったのに、浮気されたようで。

 何が執筆の原動力になったか分かるというか、作者さんは現役らしいから、今度お手紙書いてみよう。

 そんな楽しい読書を中断すると、今回は同じ寮生に校長室まで送ってもらった。

 

 帰りは誰か先生が寮まで送ってくれるそうだ。

 相変わらず、お世話になってる。

 

 んで、勉強に戻る先輩を見送ってから室内へ。

 校長室には、大柄な男の人二人がいて、マクゴナガル先生が不安そうに私を側に呼びよせた。

 私が事件後、頭部の損傷から言葉に不自由をしていると伝えると、男の人達は険悪な表情のまま頷いた。

 

「君と叔母君の部屋が荒らされたそうだ。

 盗まれた物の確認をと言われたが、金品は置いていないはずじゃったな?」

 

 そう、金品は一切ない。

 家具と最低限の食器やリネン、寝具のみ。

 ストーカーに入られたかもしれないので、叔母の私物と私の品は、すべて貸し倉庫に保管されているのだ。

 残るのは絨毯やカーテンぐらいか? 

 アパルトマンの構造的に最初からあった照明や棚ぐらいだろう。

 特に盗まれるような、持ち出されて困るような物はない。

 だからこそ、夏季休暇に戻るつもりはない。

 叔母の行方がわかったならばだが。

 帰る場所を設定したぐらいのつもりだった。

 

「窓から侵入されたようでな、室内は泥のような物で汚され、何故か白いエルダーフラワーが撒かれていたそうだ」

 

 おぉぅ、ハイランド魔女の本にもあった、ポピュラーなハーブだ。

 匂い消しにまいた? 

 そんな訳ないよね。

 

 アパルトマンは、台所に寝室2つ、居間、バスルームに小さな客室と納戸。

 大した広さではない。

 そして個人的な物品は残してもいない。

 

 そもそも私は弁護士を通して物件を確保しているが、郵便その他は現在の身元保証人であるホグワーツの理事会宛、事務的な事も魔法省と校長先生にすべて預けてしまっている。

 夏季休暇も叔母が発見されない限りは戻る予定もないし、アパルトマンに名も残していない。

 つまりあの部屋は、借りてはいるが誰が借りたかは示していないし、中身もないのだ。

 

 メモ書きを渡すと、大柄な男達は、微妙な表情を浮かべた。

 そのうちの一人、巨漢でスキンヘッドの男性が、言いにくそうに口を開いた。

 

「犯行を為した者は、あの部屋に暮らすだろう者に向けてのメッセージを残している。

 過去、あの部屋を借りたのは君が生まれる以前だ。

 それも老夫婦で田舎に引っ越したとある。

 そして同建物の別のフロアには、今現在入っているのは、やはり女性だが四人ほどでシェアしている。

 今回の事件で、出て行きたがっているそうだが、その、メッセージ内容を見るに、君の叔母か君の事だろう。

 マグルの捜査機関も入っている。

 マグルが犯人の可能性もあるからな」

 

「メッセージとは、いいえ、ドヴワティーヌ嬢が耳にして良い範囲でお願いします」

 

 マクゴナガル先生の言葉に、ちらっと校長先生を見やると、その人は言った。

 

「その異常者の痕跡がすべての部屋にあった。

 おまけに、泥のようなもので壁に言葉も書かれている。

 その泥もな。まぁともかく、ろくでもない人間が入り込んだ」

 

 叔母が訴えていたストーカーは? 

 

「そのストーカーだが、所在は明らかでな。

 犯人から外されているんだ」

 

「どういう事ですか?」

 

「入院中なんですよ、それもマグル隔離病棟、拘束具まで受けている。

 我々も対面しましたが、マグルで魔力の欠片もない。

 接触している人間も調べましたが、魔法族の影響は受けていない。

 どうも男の親が、ストーカーを危ぶんで、先に入院させていたんです。

 隔離中の男の頭も開きました」

 

「マグルの男が犯人じゃないと?」

 

 校長の言葉に、今まで黙っていた男、乱れた金髪の壮年男性が口を開いた。

 

「その娘っ子の借りている部屋を荒らしたぁ奴は、魔法族だ。

 闇の匂いのする奴だ。

 泥には奴の体液が混ぜ込まれていた。

 壁には魔法陣に、見たこともない魔法文字だ。

 どうやら、女を探しているようだ。

 その娘っ子かぁ叔母のどちらかだろう。

 行方知れずというがぁ、もしかしたら逃げ出して隠れているかもしれん。

 手引した魔法族がいるかもしれんというわけだ。

 もし、娘っ子に外から誰か連絡があるようなら、闇祓いの方へ連絡をくれ。

 娘っ子はホグワーツから出すな。

 命の保証はせん」

 

 と、一気に言った。

 荒々しい雰囲気だが、殺人捜査とか暴力絡みの捜査官なら、これが当然なのかも知れない。

 

「とまぁその前にだ。

 その娘っ子が、闇の魔術とかかわりが無いかどうか調べねばならん」

 

「冗談ではありませんよ。この子は入学前の子供なんです!」

 

 とのマクゴナガル先生の強めの叫びに、ギョロッと睨んでいた捜査官のオジサンが嘘やろって感じで校長を見る。

 

「ご両親の血筋で、成長が早いが、まっこと十一歳で今年9月入学予定じゃ。

 殺されかけて言葉が不自由でな、お主らの調査資料にもあるとおり、その他にも障害が残っておる。

 記憶も壊れてしまった。

 そもそも彼女が死にかけたからこそ、事件が表沙汰になったのじゃ。

 彼女の体質も報告しておろう。

 闇祓いの満足が行く方法で取り調べた場合、彼女は今年入学できなくなる事になりかねない。

 このホグワーツでは、そのような意味のない取り調べはさせぬよ」

 

「未成年、ホグワーツ入学前に保護しているのは」

 

「書類通りじゃ、マグルの事故が原因か、魔力のコントロールもよくない。

 幾度かワシの方で意志を交わすのに開心術も例外的に施した。

 十一年の叔母との生活の記憶がない。

 実はの、彼女は、叔母の顔を知らん。

 その住んでいた部屋に写真一枚残っておらなんだ。

 マグルの警察には証明写真のような物が残っておったそうだが、それも顔だけ、写りの悪い物での」

 

 と、校長先生が説明。

 これには不機嫌そうな金髪の闇祓いが、口をひき曲げた。

 

「シャックルボルト」

 

 彼は相方に呼び掛けた。

 

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