残酷描写とR15は、寮監先生の苦行成分でできています。
シャックルボルトと呼ばれた男性は、懐から小さめのポケット付きファイルを取り出した。
「この中に、見覚えがある人物はいるかね?」
写真だ。
集合写真。
カラーだけど色褪せてる。
普通の写真だ。
どこかのオフィス。
笑顔、クリスマスかな。
飾り付けされてる。
飲み物を片手に、笑顔。
ん?
二人、どこか、ひっかかる。
私はそばかすのある青年と壮年の男性を指さした。
「この二人か?」
名前はわからないけど、見たことがあるような気がする。
気の所為かもだけど。
私の十一年は消えてしまっている。
けど、私は私なので、もしかしたら前世に成り代わったというより、記憶が埋まっているだけで、押しやられて残っているのだろうか。
「その二人は?」
「彼女の同僚で片方が付きまとっていた男です。こちらの若い方ですね」
ぎょっとして闇祓いの二人を見る。
「他に見覚えは?」
十人以上いるが、わからない。
「この中に、君の叔母がいる。見覚えはないのか?」
女性は七人、いずれも若くて綺麗だ。
でも覚えは無い。
記憶。
消えてしまった十一歳の私の記憶。
誰もピンとこない。
否定の仕草に、不機嫌そうな金髪が怒鳴るように言った。
「じゃぁどれが叔母だと思う?」
目を閉じる。
想像するに、父の妹だ。
私は似ているはずだ。
鏡の中の私に。
ブロンド系の髪か、ブラウンかブルーアイズ。
華奢な女性だ。
そう思う。
整理した衣服は、どれも小柄で華奢。
フェミニンで華やかだった。
小物も可愛らしい感じだった。
叔母は、きっと女らしい、可愛い人だ。
私とは少し違う。
私は思うよりやんちゃで、ボーイッシュな服が多くて。
彼女と似ているのは...
肌色だけ少しトーンが暗め、ちょっとエキゾチックだった。
可愛くて、明るくて、兄の子を育ててくれた。
優しい、とても優しい人。
そして目をひく女だ。
写真を改めて見る。
でもその規格にあう女はいなかった。
予想?
何も心に浮かばない、予想なんて無意味。
きっといない。
否定の身振り。
で、シャックルボルトと呼ばれた男が大きく息を吐いた。
「合格」
「どういう意味ですか?」
マクゴナガル先生が問う。
それには金髪の方が答えた。
「嘘はついてないってこった。
今の写真には、この娘っ子の叔母はいない。
すくなくとも不確かな事は証言してないのがわかった。
記憶がなくとも、どういった答えをするかは判断できるからな」
「子供に止めていただけますか」
「その子供を狙う輩がいるからだ。
そしてきっと相手は娘の頭の中身が消えてる事を知らん」
室内に沈黙が落ちる。
「マグルの犯行ではないと確証があるのじゃな」
「説明したろう。
魔力の痕跡がある。
それも闇のだ。
未知の魔法陣は解析中だ。
イギリスの魔法族か、他所者か」
「なぜ、彼女と叔母を」
「それが知りたいから、我々は尋ねている」
「単純な理由も考えられますし、マグルの関与も疑われる。
こちらもマグルの捜査機関に人員を入りこませています」
「待ってください、彼女に聞かせても大丈夫なお話ですか?」
言い淀むシャックルボルトを他所に、金髪の方が構わずに続けた。
「銀髪、ブロンドの女が多数、マグルだが行方不明だ。
いずれも妊娠可能年齢の女で五体満足。
変質者の犯行が疑われている。
この娘っ子が暮らしていた部屋に残る泥に犯行声明が残されていた。
孕ませる事が目的と書かれている。
何かを孕ませる。
母体を探していると書かれていた。
スクイブや魔女を狙うのは、特別な母体を探しているともとれよう。
その娘っ子と叔母に似ているなら、狙われたのも頷けよう」
マクゴナガル先生が抗議に口を開く前に、校長先生が制した。
「魔女というのがばれたと?」
「その娘っ子が魔女として魔力を外に出したのを嗅ぎつけた可能性もある。
犯人は、髪色だけでなく容姿の美しさも気にしていた。
職場の人間の聞き込みでは、お前の叔母も美女で通っていた。
特別な女を探している。
お前の瞳の色も対象になるだろう。
光の加減で薄い紫に見えるなんぞ、この国、マグルも含めて1%もいないはずだ」
そう告げられながら、私は穴に落ちていくような感覚がした。
不思議と、恐ろしさはなかった。
納得したともいう。
誕生日。
あの日の景色が見える。
テーブルには、手料理。
私へのプレゼント。
あぁ、私、あの日、とても嬉しくて、マーガレットに抱きついた。
大好き。
大好き。
たぶん、幼い頃、まだ生きていた両親が、かけた。
私の魅了の力、不安定な魔力を危ぶんで、外に漏れないようにしていた。
誕生日。
そもそも叔母はストーカーに狙われていた。
だから警戒はしていた。
でもあの日は別だった。
しつこい男、知っている男じゃない。
標的に、私は含まれてなかった。
私の容姿にも妨害がかかっていた。
茶色の髪に茶色の瞳。
叔母を手に入れる為に、排除対象だったのかもしれない。
でも、特別な日、魔法が、守りが崩れた。
私の枠が一部外れた。
未成年の魔力の痕跡、学ぶ時期がきた。
誕生日だった。
誰かが来た。
あいつじゃないってわかった。
マーガレットの怯えた顔。
瞳を見つめて、私は思った。
あいつなら、私の方が強いわ。
わかってる。
産まれた時から、知ってるの。
私、ずっと強いわ。
負けないもん。
でも違う。
男?
いっぱい、だ。
大きな気配もする。
怖い。
マーガレットの瞳の中が、塗りつぶされていく。
怖いって。
私を心配してくれてる。
私の、ママと同じ。
怖い。
彼女もそう感じてる。
男じゃない。
普通の男じゃない。
銃はどこ?
怖い。
ナニカかが来たのがわかった。
マーガレットも、彼じゃないってわかった。
寒い。
凍りそう。
息が白く、なって。
狙っている、悪意。
魔力の流れ。
粒子。
私は視えた。
叔母の産毛さえ見える。
叔母の、体内にある魔力もだ。
わかる、叔母の恐怖の表情。
わかる、彼じゃない。
わかる、このままだと死ぬより恐ろしい目にあう。
時間、時間を頂戴と願った。
ママ、助けて。
叔母を隠す時間を。
大切な、私の最後の家族、
殺させない。
誰にもだ。
そうね、遠くよ。
彼女が幸せになれる場所よ。
お花がいっぱいね。
おとぎ話みたいに、幸せな。
それから?
昼だ。
今日は誕生日。
叔母さんがいないぞ?
あれ、どうしたんだろう。
外?
迎えに?
バス、いつもの?
あれ、時間、時間だ。
いない?
お家に鍵をかけて、いつものバスに。
お休み?
あれ、今日はいつだった?
大家さんに声をかける。
叔母さん、いなくなっちゃった、探してくる!
きっと、何かを、買いに、あれ、それはいつの話?
いつもの通り、学校からの帰り道に、通るお店の前、バス停は本通りの方。
はやくはやく、行かなきゃ。
怖い、怖い怖いよぅ!
バスは来ない。
振り返ったら駄目。
目印。
私は餌。
だから、しんじゃぇ.しんじゃぇば、追えないでしょ?
バタンと扉が開く。
見慣れた顔を見たら、意識が飛んだ。
天井、暗い、私、ばかね。
何だ、私、自分を殺したんだ。
十一歳の私は、叔母を逃がしたかったから。
マーガレットの顔は見えなかった。
うん、写真はいらないや。
***
崩折れた娘をスネイプは抱きとめた。
首筋に指をあてる。
乱れは少ない。
側の長椅子に横たえる。
「何を?」
「貴方方、子供に開心術をかけましたね、記憶も、魔力も不安定だというのに!」
マクゴナガルの言葉に、スネイプは現状を理解した。
「ちっ、犯人の顔までは見えんかった。この裏切り者は、知っているのか?
闇の輩が噛んでいるかもしれん、側に置くとは正気を疑うぞ」
無言で対する黒衣の男に、闇祓いは忌々しそうに杖を向ける。
「それで、開心術でどこまで探れましたかな?」
ふんっと鼻息で返すと、闇祓いは考え込むように続けた。
「叔母とやらは、この娘が隠したようだ。
隠蔽し、自分の記憶も改ざんしておる。
元々、魔力操作にたけた子供だったのであろう。
未成年の魔力使用の痕跡があるはずだが、そういった記録は手元に来ていない。
これも調べねばならん。
叔母を何処かに隠し、隠蔽した。
これだけでも大した規模の魔術だ」
「その影響で、体内魔力が乱れ、記憶も混乱していると」
「そのようだ。
魔力量も少なくなっているが、本来は、相当の保有量だろう。
両親とやらが、危ぶんで封印に近い抑え込みをしたのも頷ける。
その両親が死んで、スクイブの魔法に疎い叔母が育てた。
危機的状況で発動し、叔母は相当遠くへ飛ばされた可能性がある」
「犯人の狙いは?」
「どのような集団か、目的なんぞを考えなければ単純だ。
美しく特別な女を孕ませて、その子供や血を利用したいのだろう」
それに内心はどう受け取ったかは見せずに、スネイプはダンブルドアを見た。
「ホグワーツで養育し、休暇中もマグル界には、事件が解決せぬ限り戻さぬ。
理事会で保護監督責任も持たせておる。
外出する場合も、こちらで人員を側に置こう。
闇祓いの護衛は学内派遣はお断りじゃ」
「二度と同意無く未成年への開心術の使用もお断りです!
校長、貴方もです!」
マクゴナガルは娘の側により、毛を逆立てる親猫のようになっていた。
「不快極まりない話です。
なんとこの子に言えば」
「言わずともいいでしょう。聡い娘です。
闇の輩だけでなく、マグルも加わっている可能性が高いのでは?」
スネイプの指摘に、シャックルボルトが溜め息を吐いた。
「嫌な動きだ。
ヴォルデモートと関わりがないとも言えん」
「揃いすぎておるのぅ」
そう呟き考え込む校長に、ムーディが当然のように告げた。
「この娘を使うのもよかろう」
「話になりません! 校長、年齢を、外見が成長しているのは、血筋です。
それも恐ろしい目にあっての事でしょう!
急激に子供らしさが抜けているのは、それが原因。
中身は、中身は子供なのですよ」
「ミネルバ、落ち着いておくれ。
わかっておる。
子供を餌にせねば事件を解決できぬような無能は、闇祓いにはおらぬよ」
嫌味ともつかぬ校長の言葉に、ムーディは、嫌そうに口をひき曲げた。
「この娘、少し変わっている。
そもそも闇祓いに相対して、何の反応も示さんとは」
「だが、お前さんの目をとおしても、彼女は問題なかろう?」
「その眼鏡と手袋を取れ」
「魔力が不安定な為に、儂がつけさせておるんじゃ」
「とれ」
それにマクゴナガルは、寝ている娘から眼鏡と手袋をとった。
「変わった魔力だ。薄く広い。こぼれ出ているが」
と、目で追ってから、その行く先を見て、闇祓いは怒鳴った。
「この男、娘に何をした!」
「何もしておりませんが、言いがかりが過ぎますな」
「魔力の流れがこの男と混じっている。それもお互いにだ!」
それに当のスネイプは、心から嫌そうに顔をしかめた。
「...だいたいの想像がつきますが、子供を犯すような趣味は持ち合わせておりません」
と、闇祓いが更に怒鳴りつける前に、校長が間に入った。
「特殊な血の魔法での、ドヴワティーヌ嬢は言葉が不自由な分、魔力を繋いで言葉を直接相手に伝える事ができるんじゃ。
ただ、相性があっての。
教師の中では、セブルスだけが会話できるようなのじゃ。
魔力の繋がりができているが、別段、夫婦のように交わったわけではない」
何故かスネイプは、マクゴナガルに睨まれ、校長の言葉の実の無さに嘆きたくなった。
「寮変えして頂いても、吾輩としては何も問題はありませんが?
未成年に手を出す害虫と同じ扱いをされるのは、不本意です。
他に相性の良い相手がいるか、ホグワーツ中の人間と会わせるのも考慮なさっては如何か?
ただし、不名誉な疑いをかけられる事は先に相手に伝えると良いでしょう」
それに校長は笑い、闇祓いに告げた。
「彼女を起こして、特殊な技能をお披露目しようか。
ミネルバ、彼女を起こしておやり。
それからお茶にして、すこし休もう。
ムーディ、何事も注意し、事実を確かめねばの。
それにしても美しいとは、罪じゃのぅ」
それぞれに動き出し、茶の用意がなされるのを他所に、ダンブルドアは少女を見やると続けた。
「実はの、彼女の父方の血筋を辿ったらの、その殆どが鬼籍になっておった。
母方は極東での、そちらも調べを進めておるが、まずは近場からの」
「フランスのマグルでも貴族家だとか?」
「血筋を辿れるほどは、古い。
それもの、女系で美女と話題になるような家系じゃ。
人の記憶にも残り、記録も多かった。
じゃが、名家としては潰えておった。
不思議じゃろう?
血も古く、遡ればマグルでも名のしれた貴族家じゃ。
そして魔法族としても血が古い。
さぞや広く繁栄し親戚も多かろうと考えておったのじゃが」
ミネルバは起こす手を止めた。
何も余計な話は聞かせたくない。
そしてその予感はあたっていた。
「稀に見る美しい容姿の家系での、嫁ぎ先には困らぬほど。
ならば、血族は広くあろう、そう考えるじゃろ?
ところがの、美しいとは不幸も呼び込むようでの、攫われ、殺され、閉じ込められと、辿ればたどるほど、良い話が出ぬのじゃ」
「そんな馬鹿な話が」
「一族の女性が呪われておると言われ始めたのは、マグルの作家が物語にした頃じゃそうな」
「マグルの物語ですか?」
「国も貴族家の名もぼかし、伝承として本を出したそうじゃ。
300年は前の話じゃの。
彼女の祖先は、マグルの子供に聞かせるおとぎ話になっておる」
「どんな話だ?」
仕立てられた茶の席にて、毒見をシャックルボルトにさせていた相方が興味も無さげに問うた。
「茨の姫、眠る姫の話じゃよ。
お主らも聞いたことがあろう?
美しい姫と、呪いを解く王子の話じゃ。
じゃが元になった話は逆じゃ。
攫いに来る男から守るために、親御達は茨に娘を隠した。
男は茨を焼き払い、止める住人を殺し尽くし、退けようとする親族を、親を焼き殺して娘を手に入れる。
まぁそういう話じゃな。
姫が幸せになるのは、マグルのおとぎ話の中だけじゃ」
気を失っている少女を見る。
目を閉じた少女は、日頃の会話の様子や飛び跳ねるような元気の良さは失せ、血の気の失せた人形のようであった。
急激に成長しているのか手足は細長くバランスが悪いが、すぐに人目をひく美女になるのは疑いようもない。
そしてその周辺は、少女の明るさとは逆に、仄暗く陰鬱だ。
魔法族の三百年など昨日の話である。
美しい一族、つまり先祖は確実に魔法生物のヴィーラであり、狂った男が妻にしたのだろう。
マクゴナガルが乱れた髪を梳くと、少女のまぶたが震える。
眠り姫は程なく目覚め、少し驚いたように周りを見回すと、黒衣の男を認めた。
ニコリっと音がするような明るい笑みだ。
裏表も仄暗い話も、何も知らぬかのような笑顔、子供の笑みだ。
それを自他共に認める、非常によろしくない性格の教師に向けると瞬きを繰り返す。
その様をどこかぼんやりとした思いで、スネイプは眺めた。
あぁなんと良くない。
良くないぞと無表情の下、頭の隅で思う。
探る周りの者の思考。
心のどこかで優越と憂鬱、そして皮肉な笑いが浮かぶ。
すべてが滑稽で悲惨だ。
もう慣れた感触を拒む。
彼女は力を知っている。
だが、理解していない。
男の薄汚さを理解していない。
奴隷になりたがる男がいる。
支配を求める男もいる。
蹂躙し支配したいと、誰もが思っている訳では無い。
そして支配されたいと思う者こそ、力をもっているものだ。
薄暗い闇の者ほど。
注意しろ。
勘違いするな。
まぁ忠告は、無駄であろうな。
と、スネイプもわかっている。
嘗て求めた人は間違いを犯さなかった。
光り輝く人は、間違いを許さなかった。
だからこそ、永遠に輝いている。
同じ少女の輝きであっても、これはまったく似ても似つかない。
これはよくない。
獣はわかってしまうだろう。
獲物はどちらであるのか。
実に愚か、いつでも男は愚かなのだろう。
滲むような紫の瞳を見つめながら、スネイプは心をいつも通り閉じた。
すると、ただただ、彼女の心の言葉が表層を滑っていく。
(また、寝不足だっ! 顔色がもどってるぅ)
彼女は眼鏡をかけていない。
彼は眼鏡をとると、彼女の顔にそっとかけた。
顔つきはしかめっ面であったが、男は注意深く少女を取り扱っているのがわかる。
レースの手袋をつけるまで、奇妙な虫を見るように男は彼女を見つめている。
「なんと言っておるのかの?」
それにスネイプは、ちらりと闇祓いたちを見やり、視線を逸らした。
「言えない話か?」
ムーディの、非常に嫌そうな、犯罪者の戯言は聞きたくないという態度に、男は渋々と告げた。
「今日は外出先で食事をとったかと。
また、食事を抜いてるようなら、水分だけでもとれと言っておりますな。
お前は吾輩の親か」
それに少女はマクゴナガルに笑顔で頷くと、更に男に何かを伝えたようだ。
すると、魔力の微量な流れが、二人の闇祓いたちにもハッキリと見えた。
それは神経質で刺々しい魔力にそっと触れると混じっていく。
「叔母の事で外出するかも知れないと。
付き添う場合、吾輩の都合を優先し、誰か別の人をと言っています。
テスト期間中に教師をつかいたくないと」
「なぜ、彼とだけ会話ができるか、教えてもらえるかね」
シャックルボルトの落ち着いた問いに、彼女は少し考え込んだ。
そしてまた、男に何かを伝えたようだ。
詳細な魔力の流れが見えるよう修練を積んだ者達、二人の闇祓い達は思わずダンブルドアの顔を見た。
「マグルの病院に入院中は、魔力そのものの残量がなかったようじゃ。
周囲への影響、マグルへの影響はでておらん。
引き取りに行ったマクゴナガル先生も彼女の魔力が著しく減っている事を確認しておる。
ホグワーツに到着後、週の後半辺りからかの、怪我が治って以降、自然に放出される量が増えた。
体内魔力とは別の、血そのものが能力を発揮しているようじゃ。
余剰魔力としていたが、体内の保有量が下回っていても、防衛の為か先に放出分へと回しているようじゃ。
つまり、徐々に強まっておるんじゃ。現在は朝晩、魔力過多症の子供と同じく魔石に吸わせておる。
ここまでになったのは、つい最近じゃ。
まぁ他を試さず一人に絞ったのは、これに耐えられる者の心当たりがないからじゃ。
それに今のところ、生徒や職員に対して能力が発揮された様子はない。
相手の抗魔力値かとも思ったが、特にそのような様子もない。
好き嫌いかもしれんし、年齢かもしれん。
儂じゃとリクエストもお断りされるのじゃ。寂しぃのぅ」
「リクエストとは何です?」
「いやなに、セブルスばかりずるいと思ってな。
どんな声なんじゃろうかと、皆も気になるじゃろう?」
そういう問題じゃない。
と、スネイプを含めて男達は思った。
闇祓い二人にしてみれば、これ、大丈夫なんだよな?
という確認である。
顔に出さなかったが、実に頬が赤らむような、魔力による籠絡の囁きが見えたからだ。
これを受け付けない男の自制心に、シャックルボルトも、そして珍しくムーディも感服する。
幻惑の作用から己を切り離し、娘の本意、意志を拾い上げている。
と、言っても切り離せるような代物には見えない。
ブランブルからレモンだけを飲むような具合だ。
舌はジンの痺れを感じる。
だが、脳は酔わずにすっぱいだけだ。
表情を変えずに眺めているが、黒衣の男の魔力操作の巧みさにも闇祓い達は気がついた。
相変わらず、油断がならぬと思う。
しかし、そんな男であろうとも、感覚を戻した後は、急激な刺激で吐くのではないだろうか。
やり取りを眺めての感想だ。
何事も過ぎれば苦痛だ。
脳への拷問であり、色恋に似せた支配とも違う。
麻薬の過剰摂取のようなものだ。
反動を抑える為に、抑制薬でも飲んでいそうだ。
勘弁してほしい。
なんだこれは。
魔力の流れが見えるのは、実は少数だ。
癒者でも全員が見えるわけではないし、皆が微細に見えている訳では無い。
動きや流れは見えても、詳細な動きは見えぬものだ。
わかっていれば、マクゴナガルあたりは発狂する勢いで、筆談にしろと言い出すだろう。
つまりこの魔力の注ぎ方は、愛の囁きに似せた拷問であり、男へと服従を促す能力だ。
会話の特殊な技能、などという可愛らしい力ではない。
堕落させ精神を汚染する、支配能力だ。
魅了保持者と聞いていたが、これは非常に危険だ。
ムーディは、魅了保持者の能力の高さ、幼いうちでこれであるなら、完成された成人ならば、相手を陥落させ情報をいくらでも引き出せる手駒が作り出せるだろうと考えた。
そしてシャックルボルトは、何とも居心地が悪く感じた。
これこそが、きっと彼女の叔母が狙われた原因であろうと。
スクイブであろうと体内に魔力が微量でもあれば、この魅了の力の欠片でも発していたはずだ。
ヴィーラも美しい生き物であるが、人外の者だとわかっていれば耐えられよう。
しかし、人間の女の姿で微笑まれて、抵抗できるのはゲイだけだろう。
「参考事例が少なく、また、検証前なので何とも言えない。
大人の男だからという理由も考えられたが、貴殿ら闇祓いの者も条件は変わらない。
他人であり、大人であり、男であり、魔法族であり、魔力量もある。
相性、好みとしても、その点からも、通じる基準が不明だと言っています。
馬鹿が、検証するといってもろくな事にならんだろう。
魔力コントロールの方が問題ではないのか?...やめろ、言うな!」
焦った様子のスネイプに、マクゴナガルが傍らの少女に手をおいた。
「ドヴワティーヌ嬢、何をいいました?」
それに明後日の方向に彼女は視線をそらした。
「ろくでもない、ふざけた事です」
「なんと言っておるのかの?」
唸るスネイプに、彼女は肩をすくめた。
そしてメモに文字を書いてマクゴナガルに渡した。
読んだ彼女が、力を抜く。
そうしてメモ書きを、校長へと渡した。
「なんと?」
読んだ校長は、ほほっと軽く笑って少女と同じく肩をすくめた。
「彼が夏休み中、恋人との付き合いがあった場合、新学期に念話が通るか検証したいそうじゃ」
スネイプ以外が、笑いに沈んだ。
マクゴナガルは呆れたように頭を振ったが、娘の悪気無さに笑っている。
校長は、足掻く男の様に、何か悪戯を思いついたという感じだ。
だが笑う闇祓い達の内心は違う。
非常にたちの悪い深刻な状況である。そう見て取った。
娘は力をわかっているが、結果をわかっていない。
鉄壁の自制心をもつ相手だから、問題はおきていない。
いや、魔力操作と抗魔力の高い男であるからだ。
そもそも闇にいた男だ、魅了持ちなど今までも相対して来たことだろう。
しかし、その疑わしき過去を持つ男に、異能持ちを預けるのは危険だ。
たとえダンブルドアに考えがあったとしてもだ。
これは早急に魔力のコントロールを覚えさせ、男との繋がりを絶たねばならぬし、他の誰かに試さぬように言い聞かせねばまずい。
しかしだ。
下手に断ち切り、別の自制心の弱い者が獲物になれば、結果はろくでもない騒ぎになるだろう。
だからこそ、この状況か。
闇祓い達は、我関せずと微笑むダンブルドアを見やる。
相変わらず人の悪い校長のやり口に、闇祓いたちはある意味納得した。
「特殊な技能じゃろ。美しい花の棘じゃな。苦行に耐える価値ありじゃ。役得じゃろ?」
「ならばお譲りしよう」
「残念じゃ、儂には子守唄さえ歌ってくれぬ」
スネイプの歯ぎしりを見て、珍しくムーディがニヤリとした。
「つまり小娘は己の能力の方向性を理解しているのだな。実に厄介極まりない、たちの悪さだ」
「だから、眼鏡と手袋をさせているのですよ」
「ともかく、ホグワーツにて一人にならぬように、気を配るようにいたします。
校長、面会や手紙も、本人に渡る前に教師を通すよう、今まで通りで」
マクゴナガルの発言に、シャックルボルトが口を挟んだ。
「現場への同道を今週中にお願いしたい」
「教師の手配がつきません」
「こちらで護衛を出す。女の闇祓いならよかろう」
「現場を見たいのですが」
「貴様がか、裏切り者」
「闇の痕跡があれば、わかりましょう」
「ワシがわからんとでも、経験は貴様より長い」
喧々囂々とやりあう側で、少女はそっと男に飲み物を差し出した。
次に茶菓子、そして椅子へと姿勢を戻させる。
そうなれば拒絶と抵抗に意識を割くはめになり、男は受け取った茶菓子に目を落とした。
相変わらず柔らかな魔力が混じりこみ、攻撃ともつかぬ籠絡の囁きが続いている。
男は防戦一方だ。
ひとつ言えるのは、魔力の質は問題だが、少女が珍しくもこの捻くれた男を思いやり、懐いているのは明白だ。
男もわかっているのだろう。
そんな娘の悪気なさに答えるべく感覚を切り離し、苦行ともいえる魔力抵抗をしながら、律儀に相手をしていた。
大真面目であるが故に、いっそその姿は滑稽なほどだ。
これが命じられたからか、それとも擬態によるものか、闇祓いの男は覚えておくべきことがひとつ増えたと考える。
おまけに、娘は餌に向いているとも。
「どちらが大人かわからんな」
「同じ言葉をお返ししよう」
闇祓い達が予定を決めて退出すると、残された教師たちと娘は、改めて向かい合った。
「開心術という術を使った。
今回は以前のように会話を読むような表層ではなく、深い無意識、奥の方へと探りを入れた。
申し訳なかったと謝ろう。
じゃが、必要なことでもあったと言わせてもらう」
ダンブルドアの言葉に、少女は頷いた。
「当日の記憶らしきものは見せてもらった。
思うよりもずっと危険な状況じゃ。
家に帰るとしても、闇祓いの護衛と教師が一緒でなければならん。
魔法界、闇祓い、闇の魔法、知らぬことばかりじゃろう」
お茶を手に取り、彼は、フムと言葉を切った。
それから二人の教師を見やると、やるせない笑みを浮かべた。
「魔法には闇の魔法というものがある。
これを扱う者の多くが犯罪者だ。
闇の魔法が悪ではないぞ、犯罪に使われる事が多い魔法が闇なのじゃ。
そして近年、闇の魔法を操る集団、死喰い人の集団が現れた。
当初、この集団は思想集団であって犯罪者の集まりではなかった。
しかし頭領とその周辺は徐々に様相を変え、犯罪者ばかりが集まるようになった。
魔法界を二分し、争わせる事にもなった。
闇は悪であり、死喰い人は犯罪者、このような構図ができあがった。
彼らはマグルや魔法の使えない者を認めず、同じ魔法族でも犯罪行為を厭い、抜けようとすると簡単に人を殺した。
マグル世界で言うテロリストじゃな。
彼らの首領を闇の帝王、配下を死喰い人と呼び、魔法界は内乱状態じゃった。
多くの人が死に、苦しみ、様々な犯罪が横行した。
首領とされる人物が姿を消すまで、この争い、恐怖の時代は続いた。
だが、犯罪者の痕跡や仲間は未だにいる。
十数年では、人の記憶から消し去る事は無理じゃからの。
それがドヴワティーヌ嬢の産まれた頃の話じゃ。
最近になり、やっと平和になれてきた所かの。
じゃが親をその争いで亡くした者もいる。
また親族が闇の勢力に参加していた過去があり、今現在もアズカバンに囚人として収監されている者もいる。
そこに君の事件じゃ。
当初はマグルの事件と考えておった。
じゃが、君の家が荒らされ、痕跡に闇の気配があるという。
これは放っておいて良いことではない。
そこで闇祓い、マグルでいう警吏が来たんじゃ。
ここまでは理解できたかの?」
頷く娘は殊勝であるが、何故か、次々と男の手に茶菓子を渡す。
いい加減にしろとスネイプが返すが、食えと促す姿は、話を聞いているのか疑わしい。
「死喰い人はマグルと一緒に犯罪を犯しますか? と言っておりますな。
...いいや、そもそもマグルとは相容れないという立場だ。
なら、別の可能性も考えるべき?
すべてを闇の帝王に結びつける必要はない。
ん?
食事は抜いていない、嘘ではない。
わかった、ひとつだけだ」
押し負けて茶菓子を押し付けられる男を尻目に、ダンブルドアは沈思した。
「残党ではなく、新たな集団。それはそれで厄介な事よ」